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「英検1級小6がバタバタ落ちる…」最難関帰国生中学入試"渋ズ"は大人も太刀打ちできない無理ゲー

プレジデントオンライン / 2023年4月19日 11時15分

画像=渋谷中学高等学校「INFORMATION BROCHURE 2023」(Web用簡易版)より

受験者数が過去最高を更新した2023年度の首都圏中学入試で、とりわけ熾烈を極めたのは帰国生中学入試だ。英語を必須受験科目とし、文法や読解問題、リスニングのほかに記述のエッセイ(小論文)で高得点を出さないと合格は遠のく。今回も英検1級ホルダーの小6でさえもバタバタ落ちる現象が見られた。その実態を子育て・教育ライターの恩田和さんがリポートする――。

■帰国生入試の最難関「渋ズ」「渋谷系」をご存じか

2023年度の首都圏中学入試は受験者数が過去最高を更新する6万6500人(日能研調べ)で、例年以上の激戦だった。昨今は国語、算数、理科、社会の4科目受験の他に国算1~2科目受験や、思考力や表現力を競う特色入試など、個性的な受験方式が増えている。

そうした中で「帰国生中学入試」の人気が過熱している。

帰国生入試といえば、文字通り、「帰国生」すなわち、保護者の海外赴任に伴って海外生活を経験し、日本に帰国してきた子女のための入試制度というのが従来の常識だった。実際に、帰国生枠を設けているほとんどの学校が、募集要項に「保護者の海外転勤または海外在留により継続して海外在留1年以上かつ帰国から3年以内」などの出願資格を明記していた。

ところが、2023年度のトップ校合格者で目立ったのは、国内のインターナショナルスクールなどに在籍している日本の小6相当の受験生だ。それも、両親共日本人で、一度も海外生活を経験したことのない、いわゆる「純ジャパ」と呼ばれる子どもたちが多い。

一般の中学受験において成績最上位層の子が受けるのは、開成・麻布、桜蔭・女子学院といった「御三家」を筆頭とする名門だが、帰国生や国内インターの最上位層が合格を夢見ているのはどんな学校なのか。

それは「渋ズ」「渋谷系」だ。

渋谷教育学園渋谷(渋渋:渋谷区)と渋谷教育学園幕張(渋幕:千葉市)は、一般の中学受験とは別に帰国生入試を以前から実施している。受験者やその保護者から渋ズ、渋谷系と呼ばれるなど、帰国生中学入試業界ではずぬけた存在だ。

「渋幕、渋渋ともに、一般受験でも最難関校です。そこにグローバル教育の先駆者としての先進的なイメージが加わり、帰国受験界では無双状態です。帰国で渋ズに受かるのは、一般受験で開成、桜蔭に受かるレベルと言ってよいでしょう」(塾関係者)

「東京大も海外トップ校もどちらも狙えるというのが魅力」(受験生の保護者)

1月に実施された2023年度の渋渋の英語入試は倍率4.9倍、渋幕は4.0倍と、入試難易度・倍率ともに高く、今年も相当な狭き門だった。

何より驚くのは、その出題内容の難易度だ。

■英検1級ホルダーでもバタバタ落ちる渋ズの難問

渋幕は、東大の入試を意識したオーソドックスながら質・レベルの高い総合問題、渋渋は恋愛小説の書き方を問う文学的問題が出題されるなど、いずれもほぼ例年通りの出題傾向だった。共通するのは、エッセイ(小論文)で高得点を出さないと、文法や読解問題、リスニングで合格点に達していても足切りされるという点。これが、「英検1級ホルダーがバタバタ落ちる」ゆえんである。

しかも、このエッセイに求められる内容がすさまじい。

例えば、「世界は今後20年間でどのような変化を経験すると思いますか」というお題があったとする。英検1級のライティング問題であれば、テクノロジーの発達、気候変動、人口問題などの一般論を文法やスペルのミスなく書けば、満点が取れるだろう。

しかし、情報網羅的な生成AIが書くような内容では、渋ズの入試では足切り点とされている7割の得点すら見込めないと言われる。わずか12年しか人生経験のない小6には酷な話ではあるが、自身のそれまでの国内外経験、そこから何を学んだか、そしてそれを自分の将来にどう活かし、社会に還元していくのか。

つまり、自分はこれほど魅力的な人物で、入学したら学校やクラスメートにこんな貢献ができますよ、ということを、ネーティブでも使わないような難しい単語や文学的表現を散りばめた完璧な英語で書けた子だけが合格できるのだ。

これほどまでに、渋ズ、渋谷系の帰国入試は難しい。渋渋の帰国生入試では、英語を使わず、算数・国語・日本語作文の3科目で受験できる枠も設けられている。帰国生入試の受験資格は有していながら早々に英語は捨ててSAPIXなどで一般受験対策に励んできた御三家受験者の「前受け」的な場になっており、「隠れ帰国」と呼ばれている。こちらも劇的に狭き門となっていて、両校とも「帰国枠で落ちて一般で合格した」という受験生が毎年存在するのもそのためだ。

もはや「無理ゲー」とすら言われる渋ズ、渋谷系以上に、近年の帰国生の人気を集めているのが、「広尾系」と呼ばれる同じグループの広尾学園(港区)と広尾学園小石川(文京区)だ。

画像=広尾学園中学校「2023年度生徒募集要項」より
画像=広尾学園中学校「2023年度生徒募集要項」より

広尾小石川は一般の中学入試は2月頭だが、帰国生入試の第1回は11月3日。渋ズや広尾学園を本命とする最上位層が肩慣らしにこぞって受験したが、ふたを開けてみると英検1級ホルダーがバタバタ落ちる展開に、塾関係者らが驚愕(きょうがく)の声を上げた。

「倍率こそ3.4倍と渋ズや広尾より入りやすいように見えますが、受験生の英語レベルが非常に高かった印象。特に今年度は、後に帰国生入試の国算英3教科型受験のトップ校とされる神奈川の聖光や慶應湘南藤沢(SFC)に合格した受験生も、最初の広尾小石川の入試は落としていたケースも多かった」(塾関係者)と打ち明ける。

同じように広尾学園も300人近い受験生が挑戦したが、合格者は72人で、倍率4倍を超えるハイレベルな戦いとなった。同学園は、ハーバード大学など世界のトップ大学を含め過去累計で数百人単位の海外大学合格者を輩出している。

■超人気「広尾系」はもはや渋ズのすべり止めではない

海外大進学希望者への訴求力は日本一との呼び声も高い。東京大をはじめとする難関国立大学への進学者実績も着実に積み重ねていて、広尾の偏差値は右肩上がりだ。合わせて広尾小石川の人気も上がる一方(偏(2/1午後女子ISGの四谷大塚Aライン80偏差値:2021年開校初年度53→2023年度60)で、「広尾系」はもはや渋谷系のすべり止めとは言えないポジションを獲得した感がある。広尾系の英語は選択問題が一切出ず、記述問題のみ。さらに渋谷系同様、エッセイと面接を重視しており、こちらも英検1級の英語力だけでは簡単に合格できない内容となっている。

「今年度の広尾は、渋ズ・渋谷系の合格圏にいたトップ層しか受かっていない。逆に言うと、広尾を第一志望にしていた層の受験生では歯が立たなかったのではないか」(塾関係者)

渋谷系、広尾系とも、現在のところ、高い英語力さえあれば帰国生に限らず国内インター生にも受験の門戸を開いているため、国内外の英語優秀者がこれら4校に集中することになる。そして、一般受験と大きく異なるのが、御三家の入試日程が2月1日に限定されているのに対して、帰国受験では最難関校を全て受験可能な入試スケジュールが組まれていることだ。結果として、全帰国受験生の上位5%以内に入るような最上位層が、4校全ての合格をかっさらっていく図式だ。

■芝国際の炎上の一因は年末の帰国生入試

ところで、帰国生入試を含む2023年度の中学入試で台風の目となったのは、芝国際(旧東京女子学園:港区芝)だった。渋渋と広尾が先鞭(せんべん)をつけた近年の「国際+共学化」新興校人気に続けと、2023年4月に開校した同校だが、初年度入試で大混乱を招いてしまった。

画像=芝国際中学校・高等学校公式サイトより
画像=芝国際中学校・高等学校公式サイトより

一般受験の定員120人に対して延べ4681人が殺到し、SNS上で「芝国際難民」などのハッシュタグが乱立した2月の一般入試の大炎上の一因は、11月、12月に行われた帰国生入試にあると筆者は考えている。

帰国生を対象にした説明会で学校側は「初年度はほぼ全入と考えていただいて構わない」といった趣旨の発言で、帰国受験の中〜下位層に猛アピールしていたという情報がある。さらに、充実した特待制度を用意して、渋谷系、広尾系を本命と考えているような上位層にもアピールした結果、受験生全体のレベルが想定以上に上がってしまったと考えられる。

結果、帰国生入試は全入どころか、「アドバンストコース」の合格者は受験者の半数以下という予想外の展開になってしまった。一方で、成績上位者には特待合格を乱発もしている。こうして、年内の帰国生入試で学校側の想定以上のレベルの合格者を確保できたことが、2月の一般入試の合格者数抑制につながったと見られる。

■帰国生入試の小学生が通う塾の実態

なお、こうした帰国生入試の受験生の多くが通う塾がある。前述した帰国生入試の最高峰渋ズ両校の帰国生入試合格者のほぼ100%を専有してきたという専門塾「帰国子女アカデミー(KA)」だ。同塾サイトによると、今回、渋渋は総合格者数21人のうち同塾生の合格者数は19人、同じく渋幕は34人中29人という結果だった。

例年、特に渋渋に強い印象のKAだが、それもそのはず、渋渋の帰国生英語入試問題は、KAの創設者であるチャーリー・カヌーセン氏が同校の英語教師時代に作成したものなのだ。渋渋の英語問題に高い文学的素養が要求されているのは、小説家としての顔も持つ同氏らしさが存分に発揮されている。

画像=帰国子女アカデミーオフィシャルサイトより
画像=帰国子女アカデミーオフィシャルサイトより

「海外現地校と同じ環境」をうたい文句にするKAだが、実際は海外現地校より数段レベルの高い授業を展開していると言われる。帰国トップ校受験を意識して、特に力を入れているのが前述したエッセイだ。小5から、アメリカのハイスクールレベルのエッセイ指導を行う。そのため、渋谷系や広尾系に合格するためには、「受験直前まで海外現地校にいたのではかえって不利になってしまう。小6になるまでに帰国してKAに通わないと無理」というのが、帰国受験生のセオリーになっている。海外在住の受験生も、現地校に通いながらKAのオンラインコースを受講することがマストである。

ここまで主に渋谷系、広尾系をフィーチャーしてきたが、今年度も78人の東京大学合格者を出した聖光(横浜市)や、22人の東大合格者を出した洗足学園(川崎市)など、男女別学の難関中高一貫校も帰国生入試を実施しており、毎年多くの帰国生が受験・入学している。

しかし、幼少期から海外で過ごし、当たり前のように英語を話す環境にいた帰国生にとっては、やはり渋谷系、広尾系といった、グローバル教育を掲げる共学進学校と親和性が高いのは間違いない。今後も、帰国上位層は渋谷系、広尾系、中堅層は三田国際、芝国際、サレジアン国際など都内の新興共学校を目指す図式に大きな変化は起こらないだろう。

そんな国際系を目指す際に注意すべきは、英語教育の早期化に伴い、国内生の英語レベルが年々底上げされてきている点だ。これらの学校の多くは、国内インターナショナルスクール生にも帰国生入試の門戸を開いている。そして、渋谷系、広尾系を目指す国内インター生は、SAPIXや早稲田アカデミーなどの一般受験塾で4教科(算国理社)あるいは2教科(算国)を学びながら、KAで英語の受験テクニックを磨いているのだ。

しばしば「課金ゲーム」に例えられる中学受験だが、年間300万円強の学費のかかるインターに通いながら塾にも重課金している国内インター生の家庭の経済力はおそらく国内最高、一般家庭では太刀打ちできないレベルではないだろうか。

そういう意味では、英語を組み込んだ帰国生入試は、塾業界にとっては大きな金脈とも言える。帰国受験のパイオニアとも言えるena国際部やJOBAが以前から帰国生を対象に国語、算数、英語の受験指導を展開してきたが、ここ10年ほどの間にSAPIXや早稲田アカデミーも海外への進出を加速するなど、帰国入試に力を入れ始めた。

さらに早稲田アカデミーは今年度、単純な英語指導の枠を超えて高度な思考力を養成するための帰国生専門塾「ロゴス」(小4以上対象)を御茶ノ水駅前に開校。渋谷系を狙える英語力と御三家を狙える国語、算数の指導を提供する。KAと早稲アカ型熱血指導のハイブリッド型で、帰国受験生の保護者から熱い注目を集めている。

もはや帰国生入試は、海外からの帰国生という限定された母集団の中での戦いにとどまらない。帰国枠でも英語を課さない学校も多数あるので、どこまで英語の勉強に時間とお金を注ぎ込むのか早めの判断と、志望校に沿った受験戦略が重要になってくる。

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恩田 和(おんだ・なごみ)
子育て・教育ライター
1977年生まれ。東京大学文学部英語英米文学専攻課程卒業。読売新聞記者を経て、カリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズム修士号取得。配偶者の海外赴任に伴い、アメリカ合衆国(カリフォルニア、テキサス)と南アフリカ共和国に10年近く滞在。2人の帰国子女を育てながら、子育て・教育ライターとして活動中。

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(子育て・教育ライター 恩田 和)

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