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「ディーラー下取り220万円、2年落ちの国産車」を4社で相見積もりした結果から見えた中古車相場暴落の内実

プレジデントオンライン / 2023年4月25日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

いま中古車を売却すると、どれぐらいの価格がつくのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんが、ディーラーから「下取り価格220万円」と言われた親族の国産車の売却を手伝った。中古車買取業者4社に相見積もりした結果は、驚くべきものだった――。

■100万円単位で中古車価格が下がり始めた

テレビ東京の「WBS(ワールドビジネスサテライト)」で報道された「暴落開始⁉ 中古車価格 “逆転現象”から一転」というニュースが話題です。昨年来の半導体不足でこれまで新車の納入スケジュールが遅れに遅れてきたため、一部の人気車種に関して新車よりも中古車のほうが高いという逆転現象が起きていました。

最近、その中古車価格に異変が起きているというのです。このニュースはネットでも見ることができますが、報道によれば昨年夏のような高値では中古車は売れず、高級車種の販売の現場では100万円レベルで人気車種の販売価格を下げ始めているというのです。

車の中古価格が下がり始めた理由は、半導体不足が解消されつつあるからです。昨年7月から新車販売の受注を停止していたレクサスの人気SUV「NX」も今年3月には受注を再開しました。レクサスのホームページでは納期情報を公開していますが、車種によっては契約後3カ月の納期で手に入るものも出ています。そうなると中古車よりも新車のほうが人気になるわけです。

■「2年落ち5000キロの国産車」はいくらで売れるか

そんな中で、親族に頼まれて車を中古車買取業者に売る手伝いをしました。身内の個人情報でもあるので具体的な車種名はお伝えできませんが、カー・オブ・ザ・イヤーも受賞した国産の人気車種で、2年前に460万円で購入、走行距離も5000km程度で、極めていい状態の車です。それを事情があって別のメーカーの車に買い替えようというのです。

その際にディーラーから下取りの見積もりが220万円だと言われたのですが、それが妥当な価格かどうかわからない。中古車買取会社のカーネクストが野球のWBCで大量にコマーシャルを流しているぐらいなので、今、中古車会社は景気がいいんじゃないかという発想から「たぶん250万円くらいはいけるんじゃないか」と期待したそうです。

面白そうなので私もお手伝いすることにしました。一般的に買取会社のほうがメーカー系のディーラーよりも高く中古車を買い取ってくれるものです。でもどれくらい違うのか? 私も経済評論家として興味があったのです。

どうせだったら価格がピークだった去年の夏にやってみたらより面白かったと思いますが、売り手には売り手の事情があるので今回のタイミングになりました。果たして高く買ってくれるのか、それとも今はタイミングが悪いのか? 知りたいですよね。

■ネットの一括査定サイトで申し込み

それではどうなったのか。以前、私自身も買取会社を使って高く車を買ってもらった経験があります。6年ぐらい前の話で、一般論でいえばそれくらい時間がたつとその当時と今では高く買ってくれる会社は違う会社に入れ替わっている可能性も高い。そのような考えから複数社に一括査定をしてもらえるサービスを通じて見積もりを取ることにしました。

そこで比較的有名なサイトで「たった90秒! 一括査定を申し込む」と表示されたボタンを押しました。これ業界あるあるなのですけど、結論から言えば90秒では見積もりはもらえません。査定の申し込みに必要な情報を入力する時間がほぼ90秒というだけです。

実際は夜中に査定申し込みフォームに入力すると翌朝8時に一斉にスマホに着信が入ります。一応、サービスの申し込みの際に大手を4社選ばせていただいたうえで、「電話ではなくメールでの連絡を希望」と入力しておいたのですが、各社とも先を急いで電話でコンタクトを取ってきます。

■電話口の職員に買取価格を尋ねても教えてくれない

仕方がないので電話に出て「だいたいいくらぐらいで買い取れそうか教えていただけませんか?」と聞くのですが「実車を見ないと価格は出せません」と各社とも口をそろえます。「でもだいたいの相場はご存じでしょう?」と聞いたのですが、わからない、ないしは言えないという返事が戻ってきます。

今回のことでわかったことを順番にお話しします。まず買取会社は3種類の担当者に分かれています。電話のアポイントを取る人、実際に来訪して車の状態を査定する人、そして営業所にいて買取価格を決める人、という3種類です。朝8時に私に電話をしてくるのはこのうちの最初の人で、おそらくコールセンターの社員です。ですからだいたいの価格についても口には出せない様子です。

ちなみに後から買取会社の社員の方に教えていただいたのですが、一斉見積もりサービスのうち「MOTA」というサービスだけは暫定的な価格を先に提示してくれるそうです。仕組みとしては予選のような形でたくさんの買取店が査定額を提出して、そのうちの高額の3社が見積もりボタンを押した顧客に電話連絡をする権利がもらえるということです。

なのでMOTAの場合、買取会社としても予選に通るために買い取れる範囲内で高めの金額を提示するそうです。ただ実際に車を見て欠陥が見つかれば修正するのでそこから低くなることはよくあるともおっしゃっていました。あくまで車の買取会社の側の意見です。

■相見積もりの業者は3~4社に絞るほうがいい

さて、それで翌々日に有給休暇を取って1日かけて、車の査定に立ち会うことになりました。実は朝の9時半から1時間半おきに4社のアポイントを設定したのですが、別の買取会社の方から後で教えていただいたのは、4社だったら4社同時にアポイントを取る顧客が多いそうです。

つまり同じ時間帯に4社の営業マンに来てもらって査定をしてもらって、一斉に価格を出してもらい、それで一番高かったところに買ってもらうやり方で、買取会社の側も別にそれで構わないというお考えのようです。

あと高く売るコツとしては相見積もりは今回私がそうしたように「3~4社に絞るほうがいい」というアドバイスもいただきました。売り手によっては10社呼ぶ人がいらっしゃるそうですが、営業の方から見ると「買い取れる確率が10分の1」なのでそれほど真剣に値段を入れてくれないのだそうです。

今回お呼びしたのはオートバックス、ビッグモーター、ユーポス、ネクステージの4社でした。読者の皆さんはどこが高く買ってくれるのか興味津々だと思いますが、この記事ではそこはわからないように書きます。理由は、お読みいただくとわかるのですが、高く買ってくれる会社はタイミング次第で変わるからです。

■1社目、2社目ともディーラー価格超えを提示

査定が始まりました。車の保管場所に案内してエンジンをかけて、査定の担当者が30分ぐらいかけて細かいところまでチェックをします。先ほども書きましたが、実際の車を見に来てくれる人はこの取引に関しては私の代理人のような役割になります。私から車のセールスポイントをきっちりとヒアリングして、営業所の買い取る立場の人に売り込んでくれる役割です。この現場担当者は基本的に私の車をできるだけ高く買ってもらえるように知恵を絞ります。

車のエンジンをチェックしている人
写真=iStock.com/Pattanaphong Khuankaew
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pattanaphong Khuankaew

最初の買取会社から出た金額は290万円でした。この段階で親族はかなり大喜びです。いきなりディーラーの下取り価格を70万円上回ってきたからです。現場に来ていただいた方によると売れ筋の車種なので会社としてはぜひ欲しい商品で、それで競合がいることがわかっているので精いっぱいの金額を提示させていただいたという話でした。

次の2社目は、実は私が下調べをした際には「ひょっとしたらここが一番高い値段を提示してくれるんじゃないかな?」と考えていた会社でしたが、提示額は280万円でした。それで親族も「もう1社目で決めちゃってもいいんじゃない?」と言い出したのですが、そこはビジネスマナーとして「きちんと4社とも話を聞こう」と諭して査定を続けました。

■業界内オークションの落札割合が悪化

実は最終的に3社目に決まるのですが、ひとつ飛ばして4社目の話を先にします。最後の会社は他の会社と違ってひたすら売却する車の状態を時間をかけて細かくチェックしていきました。他の3社の営業の方と私はかなり話し込んで短い時間の中で仲良くなったりもしたのですが、ここはとにかく売り物である車の状態だけを冷徹にチェックしつつ本部と連絡を取り合っていたのが印象的でした。査定額は305万円。いよいよ大台を超えましたね。

この一連の査定のやり取りの中で、各社からいろいろと情報をいただいたのでその話を先にします。冒頭で「中古車価格の暴落開始」という話をしましたが、実際、この車の買取価格はもし昨年夏だったらもっと高い価格になっていたようです。

買い取った車の流通は、買取業者が業界のオークションで売却してもうけを確定する(つまり買取専業会社と販売専業業者が業界の中で分かれている)というやり方が一番多いのだそうです。去年の夏は買い取った車の8~9割がオークションで落札されたので、買い取った段階でほぼほぼ会社としても利益が読めていたようです。

ところがこのところは異変が起きて、オークションで落札されるのが2~3割という状況すら起きているということです。背景としては販売会社の店頭に昨年夏に高値で仕入れた車が在庫としてダブついているせいで、新しいものを仕入れる体力が減っているのだというのです。

■同じような車を抱えている業者の提示価格は低い

査定の話し合いの過程である会社の人が、私が売ろうとしている車とまったく同じ車種・色・グレードの車が中古車小売りの現場でいくらで販売しているのかを調べてくれました。走行距離5000kmでまったく同じグレード、同じ色の車が410万円、走行距離1万kmの車が405万円で販売されていました。

これが半年前だったら「もっと新車の価格に近かったはずだ」と言います。つまり半年前だったら460万円近くで売られていた中古車が、今は410万円ぐらいまで値下がりしてきたということです。

そしてこれは私が気づいたことですが、そのサイトは実は280万円という最安値を提示した会社の販売サイトだったのです。確かに販売部門ですでに2台の在庫を持っていたら、3台目はそれほど本気で取りにくることはないなと、今回の提示価格が低かった理由に納得したものです。

■販売現場に直接売却できたことで売値がアップ

一番高い値段をつけてくれた3社目の会社についてお話しします。最初に営業所の上司に連絡して数字を出してもらった様子でしたが、営業マン本人が気に入る数字ではなかったようなのです。それで彼はグループ会社の販売専門店の店長に電話をかけました。知り合いだそうです。

そしてちょうどその店長はこの車が欲しかったそうです。これがおそらく最高値になった理由で、最終提示額は321万円。オークションではなく直で販売現場に売却できたことで提示価格は高くなり、ディーラーの下取り価格を100万円超えました。親族も大満足です。

車の見積もりをする人
写真=iStock.com/BartCo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BartCo

体験記はここまでですが、わかったことをまとめましょう。やはり昨年起きた「新車よりも中古車のほうが価格が高い」というのは一時的な現象だったようです。業界全体で半導体の調達努力をした結果、状況としてはだんだん正常化に向かっています。

■新車よりも「いい中古車」を求める客は多い

一方でいい中古車を買いたいという顧客の数は以前よりも増えている様子です。背景理由としては車の価格がこの20年間で着実に値上がりしてきていることがひとつ、そして車の大型化が進んできたことがもうひとつの理由です。この2つの要素が掛け合わさると以前の手持ち予算では欲しい車は新車では購入できないので、一定数の消費者は「いい中古車」へと向かうようになってきたわけです。

今、一時的に中古車の販売現場で価格が下落傾向になっているとはいえ、このような事情から今でも良い車は高く買ってくれますし、未来予測すると中長期的に見れば中古車価格は高値で安定しそうです。

そうなると私の親族のように2年ぐらいしか乗っていないきれいな状態の車を、複数社の査定にかけて高値で売却するというのは経済的には合理的な行動だったと思います。何しろ結果を見ると460万円もする高級車を2年間140万円だけで乗ることができたことになるからです。皆さんもクルマを手放すときには、さまざまな選択肢をご検討ください。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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