「タバコは体に悪い」という常識は疑った方がいい…和田秀樹「自分にピッタリの治療を見つける納得の方法」
プレジデントオンライン / 2023年4月20日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■タバコを吸っても100歳まで生きる人とそうでない人
患者本人の言い分にきちんと耳を傾けることと同じくらい、いい医師を見分けるうえで大切なポイントが、人間には個人差というものがあるということを理解しているかどうかという点です。
個人差があるなんて当たり前じゃないかと思うかもしれません。ところが、日本の大学病院の教授たちの多くは、エビデンスを軽視するとともに、人間には個人差がないということを信じている特殊な人たちなのです。
タバコは健康によくない、炭水化物の多い食事は血糖値を上げてしまう、といったことが常識のように言われていますが、当然ながら個人差があります。タバコを吸っても100歳まで生きる人もいれば、酒もタバコもやらないのに、働き盛りの時に肺がんで亡くなる人もいます。
当たり前のことですが、統計によっていかなるデータが出たとしても、個人にそれがそのまま当てはまるわけではありません。個人差があるからです。
たとえば、教育心理学などでは、褒めて育てたほうがいいか、叱って育てたほうがいいか、ということが永遠のテーマのようにして繰り返し論じられています。
そして実験してみた結果、たとえば、褒めたほうが伸びたという子が7割いて、叱ったほうが点数が上がったという子が3割いたとします。そうなると、統計的には褒めたほうがいい、という話になります。
■「血圧は高すぎないほうがいい」は誰にもわからない
ところが、自分の子どもをいくら褒めてみても、いい気になって増長しただけでちっとも勉強しなかった。そこでビシッと厳しく叱ってみたら勉強するようになった、という人がいたとします。
つまり、その子は少数派である3割のほうに入っていたということであって、「褒めたのにダメだったじゃないか! この実験結果はウソだ!」とはならないでしょう。
究極のことを言えば、いくら統計的なデータがあったとしても、最終的には個人差があるために、その個人にとっての正解かどうかというのは、今の医学ではわからないのです。
今後、ゲノム解析が進んで20年、30年経ったら、自分という個体は血圧が高くても大丈夫な個体なのか、血圧が高いと心筋梗塞になりやすい個体なのか、どちらのタイプに当てはまるのかといったことが明確に見えてくるかもしれませんが、現段階ではわかりません。そこが今の医学の限界なのです。
つまり、今は血圧が高すぎないほうがいいということで治療しているけれども、血圧を下げたほうが長生きする人もいれば、血圧を下げるとフラフラになって長生きできない人もいる。
それが、フィンランド症候群などの大規模調査が示していることであって、必ずしも今の治療の指針で正しいとされていることが、誰にでも当てはまるわけではないですし、そういった定説もいつかは覆されていく可能性もあるのだということを、大学病院の医師たちはもっと謙虚に受け止めるべきだと思います。
■高齢になればなるほど治療の個人差は大きくなる
実際、たとえばマーガリンは植物由来の脂肪だからバターよりも体にいいと言われていた時代があったわけです。ですが、そのうちにマーガリンに多く含まれるトランス脂肪酸がどうやら悪玉コレステロールを増やすのではないかということで、植物由来だからといって体にいいとは言えないんじゃないか、と言われるようになった。
つまり、今、正しいとされていることが、この先、正しくなくなるかもしれないということはいくらでもあります。ところが、「これからも、これがずっと正しい真理」であるかのように今の医学の常識を信じて疑わない医師があまりにも多いのです。
そのうえ、高齢になればなるほど個人差が大きくなります。同じ薬でも、よく効く人もいれば、眠気が強く出てしまう、ふらつきが出てしまうといった副作用のほうが深刻な人もいます。
あるいは、さまざまな数値異常があったとしても、高血圧に強い体質、高い血糖値に強い体質であって、なんら問題がないという人もいるでしょう。
だからこそ医者というものは、目の前の患者の「今」の体調、どんなふうに不調を感じているのか、あるいは数値は異常だけれども不調を感じていないのかなどをきちんと見極めて、その患者の体にとってトータルによいと思われる治療、もしくは治療をすべきでないという可能性も含めて患者と一緒になって真摯(しんし)に考えていくべきなのです。
■「往診」とは患者の生活を見ること
ところで、往診をしてくれるかどうかというのも、高齢者にとってのいい医者を見分ける重要なポイントです。
往診をすると、病院の椅子の上に座っているだけでは見えてこない患者の状況が、よくわかります。むしろ、往診もしたことがないような医師は、高齢者医療を語るべきではありません。
近年こそ、「訪問診療」を掲げて開業する医師が増えましたが、少し前までは往診など一度もしたことがない、という医師が大勢いました。
そういう医師は、患者さんがどんな暮らしぶりをしているのかといったことを何も知らずに、目の前の検査結果の数値だけを見て治療を行いますので、患者にはとても管理しきれないような量の薬を出したりする場合もあります。
その結果、本人はきちんと指示どおりに服用できず、いつまでたっても薬の効果が現れない。そこで、別の薬を試してみるけれども結果は同じ……などと治療が迷走しかねません。
一度でもその患者の家に足を運んでみれば、部屋の中はぐちゃぐちゃでゴミだらけ、机の上には飲んでいない薬が山積み……といったような惨状が一目でわかったはずなのに、病院の椅子から動こうとしないから、肝心の情報にたどり着けないのです。
このような患者さんの場合は、地域包括支援センターなどにつなぎ、そこを通じて要介護認定を受けるなどしてケアマネジャーさんに介入してもらい、日常生活の介助や服薬の管理などの体制を整えていく、といったことが、投薬よりもまず喫緊に対処すべきことであったりするのです。
■一日4回のインスリン注射が逆効果になるケースも
あるいは、糖尿病の治療として一日4回のインスリン注射が必要だったとしても、高齢になってくるとどうしても打ち忘れが増えてきます。
打ち忘れるならばまだマシで、危ないのはすでに打ったことすら忘れて、何度も続けざまに打ってしまうことです。インスリンの過剰投与は急激な低血糖を招くなど、大きな危険を伴います。
本来であればヘルパーさんなどに注射の見守りをお願いしたいところですが、一日に何度も注射の見守りに来てもらうのは難しい。そうであれば、本来は一日に4回の注射が理想だとしても、一日1回の注射で済むように調整したほうが、打ちすぎや打ち忘れを防ぐことができて、まだマシでしょう。
ところが、往診して家での様子を目にしない限りは、本人が困っているという状況になかなか気づいてあげられません。結果として、ガイドラインどおりの一日4回の注射という処方が続き、本人はきちんと実行もできず、かえって体調の悪化を招きかねないということになってしまいます。
現実的にインスリン注射が難しいのであれば、糖分の吸収を阻害する薬に切り替えるという方法もあります。
そもそも、膵臓(すいぞう)の機能障害によってインスリンが分泌されなくなるI型糖尿病と異なり、高齢者の糖尿病のなかには、注射や薬などに頼らずとも生活習慣で改善するものが少なくありません。適切な生活指導をするためにも、ぜひ往診して患者さんの食生活を含めた日常の様子を見ておきたいものです。
■ガイドラインに沿った、医師の責任逃れではないか
実際、糖尿病に関していえば、入院させるとすぐに改善し、退院して家に帰すとまたすぐに数値が悪くなる、といったループを繰り返す患者さんが少なくありません。
そのような患者さんには、日頃の食生活の管理が何よりも効果を発揮するはずで、だからこそ、家での暮らしぶりをきちんと把握することが治療のうえでは重要なのであり、そのための往診なのです。
まして認知症の患者さんであれば、自分が何に困難を抱えているのか、どんな暮らしぶりをしているのかなど、言葉で的確に説明するのが難しい場合もあります。
いくらガイドラインだからといって、一日4回の注射や、一日3回の飲み薬などを処方したところで、きちんと用法用量が守れていなければどうしようもありません。認知症の患者さんの困難を知るには往診が一番なのです。
ですが、往診が面倒だと考えるような医師は、『今日の治療指針』のガイドラインに沿った治療さえしていれば、少なくとも自分の責任を追及されることはないのだから、実際にそれが功を奏しようが奏しなかろうが知ったことではないということでしょうか。
ぜひ、そんな医師をかかりつけ医に持つことのないよう、しっかりと見極めてください。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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