1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

電話で「××さんはいますか?」と聞かれて「います」と即答する…「大人の発達障害」を疑うべき8つの兆候

プレジデントオンライン / 2023年4月22日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Laikwunfai

「発達障害」にはどんな特性があるのか。東京大学の加藤進昌名誉教授は「発達障害の人の多くは、人との関わり方の困難さ、変化への適応のしにくさがあり、他人からどう見えるかには無頓着で、ソーシャルスキルのつたなさがある。ただし、周囲の理解があれば、知能や学力の高さを活かすこともできる」という――。

※本稿は、加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■そういえばこんな人どこかで見たかも…

発達障害の人の多くは、人との関わり方の困難さ、変化への適応のしにくさがあり、他人からどう見えるかには無頓着で、ソーシャルスキルのつたなさがあるものの、知能や学力は高く、真面目で実直な性格が見て取れます。

もしかしたら、「学校にこういうタイプの子がいた」「会社の新入社員に似たような人がいる」と思い当たる人もいるかもしれません。ASDの人、あるいは診断がつかないとしてもその傾向のある人は、社会に少なからず存在しています。

ここでは、(ASDの当事者ではない)私たちから見た、ASDの代表的な特性を紹介します。ASDの人たちが、どのような場面でどんなつまずきを生じやすいのかという理解につなげてほしいと思います。

■ASDには8つの特性がある

特性①他人への関心が薄い

子どもがASDかどうかを見極めるときに、医師が親によく尋ねる質問が「お子さんと目が合いますか?」「お母さんに愛着を示しますか?」というものです。ASDの子どもは、赤ちゃんのときから親と目を合わせなかったり、名前を呼ばれても振り向かなかったり、親に甘えなかったりといった特徴がみられます。その基本的な特性は、大人になっても変わりません。大人のASDの人のなかには、人と目が合うと、すぐに目をそらしてしまう人もいます。

ただし、それは「人嫌い」というのとは少し違います。“他人(自分以外の人)への関心が薄い”という言い方が合っているかもしれません。他人に無関心で、自分から積極的にコミュニケーションをとろうとしないのです。他人と親しくなるつもりがないわけですから、コミュニケーションをとる必要性も感じていないということでしょう。

■信頼関係が築けないわけではない

たとえば、わが子に愛情をいっぱい注いで接しているのに、子どもの反応は鈍く、そっぽを向かれてしまうので、悩んだり、むなしい気持ちになったりする親の話をよく聞きます。最も身近な母親にですら、そうした関わり方しかしないのですから、赤の他人との距離感はさらに遠くならざるを得ません。人と人とが知り合ってだんだん親しくなり、愛着や信頼関係を築いていくといった、ごく自然な人間関係のプロセスを期待することは難しいのです。

しかし、ASDの人がまったく他人に関心を示さないのかといえば、そうではありません。定型発達の子どもと同じように親にべったり甘えはしませんが、親が信頼のおける存在であることはある程度認識しますし、愛着も彼らなりに感じているようです。また、自分の理解者や一緒にいて安心できる人に対しては、一定の親愛の情も抱きます。

他人への関心が薄いのは確かですが、他人を完全に拒絶しているわけではないということを周りの人は理解すべきです。

■相手の気持ちに寄り添うことができない

特性②相手の表情や気持ちが読めない

ある私の患者さんは、妻が身内を亡くして悲しみに暮れているときに、その横で、好きなテレビ番組を見ながら大声を上げて笑っていました。非難されてもおかしくない状況といえますが、まさに、ASDの人にはこうした事態が起こります。

人の表情から喜んでいるのか、悲しんでいるのかが読み取れないのかもしれませんし、あるいは、経験上読み取れるようになっていたとしても、相手の気持ちに寄り添って「つらかったね」と声掛けをするといった行動に至らないということです。

身内を亡くした当事者である妻の悲しみとまったく同じ感情を、Bさんがもつことは不可能ですから、彼が妻と同じ気持ちになって、その悲しみを慰めるような行動をとることが難しいのは、ある意味、当然といえるかもしれません。一般の人であれば、まったく同じ気持ちにはなれないとしても、できるだけ相手の感情を想像して、その思いを受け止めようとしますが、ASDの人は、自分以外の人に成り代わった状態を想像することができません。

■“暗黙の了解”が理解できない

ですから、目の前で誰かが失敗したときに、周りで見ていた人は「残念だったね」「ドンマイ!」といった励ましの言葉を掛けるものですが、ASDの人は、「致命的な失敗をしてしまいましたね」というようなことを“素直に”言ってしまうのです。本人には何ら悪気はありません。目の前の失敗した人の感情を汲み取ることはできず、ただ客観的事実をありのまま口にするのです。

しかし、一般的に、こういう状況で失敗した人にどういう言葉を掛ければいいかということは“暗黙の了解”で、みんなわかっています。その“暗黙の了解”が、ASDの人には理解できません。そういう声掛けをすることで、相手が傷つくということも想像できないのです。私たちが、他人との関係性を良好に保つために使う、“方便の嘘”をつくこともありません。

ASDの人にとって重要なことは、何のフィルターも通さない、純粋な客観的事実だけなのです。私たちは、ある出来事が目の前で起きたとき、その事実を何の感情ももたずに受け止めることはできません。タイミングや周りの状況、関わった人の思いなどを汲んで、事実を“色眼鏡”を掛けて見てしまうものです。そこで感情が湧き起こり、言葉をついつい選んでしまう。それはごく当たり前の対応だといえるでしょう。

グループ活動に参加していない人のイメージ
写真=iStock.com/timsa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/timsa

■相手によって態度や言葉遣いを変えることはない

しかし、ASDの人は“色眼鏡”を掛けません。意志をもって掛けないようにしているのではなく、“色眼鏡”をもっていないのです。ですから、状況に応じたり、人の気持ちを察したりして、相手を傷つけないような言い回しをするという発想がないのです。

しかし、このことは裏を返すと、変な思い込みや偏見をもっていないということにもなります。誰とでもフラットな関係を保ち、相手によって態度や言葉づかいを変えることもありません。ある意味、誠実だといえるのではないでしょうか。

確かに、思ったまま、見たままを口にしてしまうことで、相手に不快な思いをさせてしまうこともあるでしょう。しかし、どういうときに相手を不快にさせてしまうかを本人に説明し、覚えてもらうことで、不快にさせてしまう言動のいくつかは回避させることができます。

■文脈を理解するのが苦手

特性③言葉を字義通りに受け取ってしまう

ASDの人は、私たちが普通に使っている言い回しに戸惑っている場合があります。

たとえば、会社に掛かってきた電話をとったとき、先方から「○○さんいらっしゃいますか?」と聞かれることがあります。通常の応対は、「はい、少しお待ちください」と言って、○○さんに電話を替わるというものですが、ASDの人の場合、それがうまくできません。

多くのASDの人なら、「○○さんいらっしゃいますか?」と尋ねられたら、即座に「はい、いらっしゃいます」と答えるのではないでしょうか。ASDの人の特徴のひとつに、相手が言った言葉をそのまま繰り返す「オウム返し」があります。

そして、オウム返しをしたあとに、黙り込んでしまうに違いありません。少なくとも、○○さんに電話を替わるという行動はとりません。電話を掛けてきた相手の意図が、○○さんが“いる”か“いない”かを知りたいということではなく、○○さんと電話で話したいということなのだと、理解することができないからです。

電話をする女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

■「ちょっと早め」と言われても…

私の患者さんは、職場で、上司が「鉛筆がない!」と声を上げたときに、「鉛筆がなくなった」という状況を表現したに過ぎないと受け取り、聞き流していました。しかし、周りの社員が慌てて上司に鉛筆を手渡した光景を見て、「不思議に思った」と言います。上司のその言葉に、「鉛筆を取ってくれ」という意図が含まれていることを、あとで同僚から聞き、驚いたそうです。ASDが「想像力の障害」といわれる所以です。

また、字義に忠実であろうとしすぎるために、逆に、曖昧な表現に突き当たると、ASDの人は混乱します。「これ」「あれ」といった指示語は、具体的に何を指しているのかがわかりづらく、「これとはどれですか」といちいち聞き返さなければなりません。普通なら話の流れからわかるのですが、ASDの人は文脈を理解することも苦手です。

「ちょっと早めにお願いできるかな」と頼まれたときも、相手の言う「ちょっと早め」が、どれくらいなのかが想像できません。「5分早く」なのか、「30分早く」なのかがわからずに戸惑い、無駄に神経をすり減らしてしまうのです。ASDの人に話し掛けたり、指示を出したりするときには、そのつど具体的な対象物の名前を示し、時刻や時間の長さ、分量なども具体的な数字で伝えることが有効です。

■“変わらない”ことが最大の安心材料

特性④こだわりが強く、変化を嫌う

ASDの代表的な特性のひとつに、こだわりの強さがあげられます。自分で決めたルールやルーティンへのこだわりが強く、それを臨機応変に変えることができません。仕事では、手順通りにやることに神経をつかいすぎ、作業のほうがおろそかになってしまう場合もあります。また、場所や物の配置などにもこだわるため、作業机の位置がいつもと違ったり、道具の置き方が整然としていなかったりしただけで、仕事に集中できなくなります。

ASDの人にとっては、ルーティンが決まっているほうが安心して過ごせるので、毎日判で押したように同じ仕事を繰り返し続ける環境が理想的です。毎日違った仕事場に行かなければならなかったり、作業内容がコロコロ変わったりする状況は、ASDの人にはストレスになります。“変わらない”ということが最大の安心材料なのです。

しかし、職場においても学校においても、予定変更はつきものです。突然のスケジュール変更や作業の中断、担当の変更、配置換えなどは、ASDの人を極度に緊張させます。冷静になれなくなり、時にはパニックになってしまうこともあります。ASDの人には変更や変化の少ない仕事を担当してもらうようにし、それでも変更が生じてしまう場合は、前もって変更が生じることを知らせることで、緊張を少し抑制させることができます。

■ASDの人には「鉄道好き」が多い

ASDの人のこだわりは「常同性への固執」といわれますが、なぜ、そういう特性があるのかはよくわかっていません。当人に尋ねてみても、はっきりした返答は得られません。おそらく、それが彼らにとって“当たり前”だからなのではないでしょうか。

理由を推測すると、ASDの人は外界(自分の外側の世界)の変化についていくために、定型発達の人と比べ、はるかに多大な努力を要しており、日々の生活を送るだけでも疲れてしまうことが考えられます。もし、外界が“固定”されている状況であれば、彼らは安心できるのでしょう。

ASDの人のなかに、いつも同じ鉄路を同じ時刻に走る鉄道が好きな人が多いのはそのためです。また、カラオケで歌うのは昭和歌謡に限るという人もいます。過去の歴史は絶対に変わることがないので、流行がめまぐるしく変わる現代の音楽よりも、昭和歌謡のほうが安心感を与えてくれるということではないでしょうか。

駅で撮影する人
写真=iStock.com/tuaindeed
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tuaindeed

■関心事になると途端におしゃべりになる

特性⑤専門的な話を一方的にしゃべり続ける

ふだんは他人とあまりコミュニケーションをとらないASDの人が、突然別人のようにべらべらしゃべり出すことがあり、周りの人が驚いたという話を耳にすることがあります。ASDの人の興味の対象は非常に狭いのですが、関心をもったことはとことん調べ、納得のいくまで研究して、誰よりも詳しくなります。こうした“専門分野”に話を振られると、突然スイッチが入ったように、もてる知識をすべてさらけ出そうとするのです。

傍からは、自分が博学であることをひけらかしているようにも見えるのですが、本人にそのつもりはまったくありません。自分が知っている情報をアウトプットしようという純粋な気持ちだけで話しているのであって、自慢ではないのです。

たとえば、先述のようにASDの人のなかには鉄道好きの人が少なくありませんが、鉄道の話題になると、その場にいる人が鉄道にまったく興味のない人であっても、お構いなしに自分の鉄道知識を披露し始めます。聞いている人たちが、ちょっと困った顔をしていても、表情から相手の気持ちを読み取ることができないので、迷惑がられていることに一向に気づきません。彼らは、“話すこと”をコミュニケーションの手段とは考えていません。

■同じ趣味を持つ仲間の存在が大事

私も診察室でよく経験しますが、ASDの人と面談すると、会話が噛み合いません。私が尋ねた質問から微妙にズレた内容の話を一方的にしゃべり続けたりします。

しかし、他人と積極的に関わることが少ないASDの人に、「この話題については話したい」と思えるようなテーマがあるのは好ましいことだといえます。せっかく自分の好奇心を刺激する興味の対象が見つかったのですから、その趣味を大切にし、趣味に関わる時間を充実させることが望まれます。そして、自ら調べて身につけた膨大な知識を、披露し合える仲間がつくれるともっとよいでしょう。デイケアやショートケアに参加することで、同じ趣味をもつ仲間が見つかり、仲間と会話を弾ませる経験ができるとよいと思います。

ASDの人の場合、大学で留年してしまうこともめずらしくないのですが、そうしたときでも、サークル活動で「鉄道研究会」などに籍を置くことが、しばしば救いになります。そこでは、同じASDの仲間がいて意気投合できるうえ、大学生活で必須となる情報を入手することも可能になるからです。

■「マルチタスク」がこなせない

特性⑥複数のことを同時にできない

一度に2つ以上の動作・活動を同時進行させることを「マルチタスク」といいます。仕事でも、複数の案件を抱えたり、いくつかの作業を一緒に行ったりすることはあるでしょう。ASDの人は、ひとつのことに集中するのは得意なのですが、マルチタスクをこなすことが困難です。たとえば、簡単な例でいうと、電話をしながらメモをとる、資料を読みながら書類を作成するといったことができない場合があります。

このような人は、おそらく子どものときも、授業中に先生の話を聞きながらノートをとったり、板書をノートに書き写したりすることが苦手だったに違いありません。先生の話に耳を傾けるとノートを書く手が止まり、書くほうに集中すると先生の話が頭に入ってこなくなるのです。

複数のタスクを持つ女性の頭
写真=iStock.com/Firn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Firn

もっともASDの人は、特に小児期には卓越した記憶力を示し、カメラで写真を撮るように、瞬時に板書を頭のなかにコピーしてしまう能力をもつこともあります。そうした人のなかには、板書は頭のなかに記録されているので、ノートは取る必要がなかったという人もいます。

ASDの人に作業や課題をやってもらうときには、複数のものを一度に渡すのではなく、ひとつを渡して、それが終わったら次を渡す、というふうにするといいでしょう。

■物事の優先順位がつけられない

ASDの人がマルチタスクをうまくこなせない背景には、それぞれの作業や課題に優先順位をつけられないこともあげられます。複数の仕事のうち、どれが急ぎの案件なのか、どれが重要なのかがわかっていれば、おのずと優先順位はつけられます。しかし、それがわからないために、どこから手を着けてよいかわからなくなってしまうのです。ASDの人には、優先順位を明確に示した形で仕事を渡すことが解決策になります。

また、複数の動作を伴う作業の場合などは、マニュアルを示すことも有効です。

たとえば、4つの動作を伴う作業があるとして、本来は4つをどの順番にやってもよいのだとしても、ASDの人には、順番を決めた形でマニュアル化して示すのです。あらかじめ順番が決められていれば、ASDの人は戸惑うことなく、順番通りに作業を進めることができます。

■手順通りにスピーディーにこなすことができる

ASDの人はルールやマニュアルに忠実に従って、黙々と物事に取り組むことは得意なので、そうした配慮があれば、ミスなくスピーディに仕事をこなしてくれるに違いありません。世の中にはそういう作業が苦手な人もいますから、適材適所でASDの人を配置すれば、高い成果を期待することができます。

こうした点は、ASDの人にとって理想的な教科書は“取扱説明書”だといえます。商品を製造したメーカーは、消費者が間違った使い方をしてしまうことで事故やトラブルにならないように、煩雑になることは承知のうえで、味も素っ気もない文章で、すべての手順を図解入りで事細かに示した取扱説明書を添付します。定型発達の人からすると、全部読み通すのはかなり億劫なものですが、ASDの人は最初から最後まで苦もなく読み通し、手順を正しく理解することができるので、間違った使用方法をする心配がありません。

このように、世の中の多数の人が苦手なことを、逆に得意としているのですから、そうした能力を社会で生かさない手はないと思います。

■聴覚よりも視覚優位の傾向がある

特性⑦口頭で言うよりも文字情報のほうが伝わりやすい

ASDの人は、聴覚よりも視覚優位の傾向があるといわれています。音で聞いた情報のキャッチは苦手ですが、文字で示された情報を獲得し、記憶する能力は非常にすぐれています。

ASDの人の場合、電話など口頭で約束したことは忘れてしまいやすいので、大事な用件はメールでやりとりしたほうがよいといえます。メールは保存しておけば、いつでも内容を確認できるので、ASDの人には好都合です。さらに、リマインダーなどに紐づけて、約束の時刻が近づいたらアラームで知らせるツールも活用するとよいでしょう。

伝言なども、口頭で伝えるのではなく、メモに書いて渡すほうが、確実に情報が伝わります。指示や伝達事項も口頭ではなく、紙に書いたり、印字したりしたものを手渡すことが有効だといえます。

なぜ、耳で聞き取る情報に比べて、目で見て得る情報のほうがキャッチ力が高いのか、そのしくみは明らかにはなっていませんが、ASDの人が視覚情報を獲得する方法は、大雑把に全体をつかみ取るのではなく、隅から隅まで細部に至るまで網羅的に把握するのが特徴的です。ですから、見落としはあり得ませんし、忘れることもめったにありません。

■点検やチェックなどの仕事は非常に向いている

ASDの人のなかには、一瞬にして細部にわたる視覚情報を確実に獲得できる能力をもっている人もおり、点検やチェックなどの仕事は非常に向いているといえます。細かいピースのジグソーパズルをあっという間に完成させてしまう能力を持ち合わせている人もいます。それだけ、空間認知能力もすぐれているということでしょう。

ASDの特性のひとつとして、絵画や美術の能力が秀でていることがあげられ、実際にアーティストとして活躍している人も少なくありません。人並み外れた視覚能力を生かして、一般の人では発想し得ないような世界観を創りあげ、独自の芸術活動を展開することができる人もいます。

なお、ASDの人のなかには、音楽的才能が並外れている人もいます。私の患者さんの一人は、大きな音楽コンクールのピアノ部門で、いきなり優勝してしまいました。彼らがもつ認知能力は、凡人である私たちには未知の領域といえるのかもしれません。

■ざわついた環境が耐えられない

特性⑧理解されづらい感覚過敏がある

ASDの代表的な特性のひとつに感覚過敏があります。感覚過敏とは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚などが過度に敏感であるために、日常生活に支障をきたすような状態をいいます。たとえば、人混みで聞こえるざわざわした話し声が耐えられないという人がいます。

感覚過敏のなかでも特に、突然鳴る大きな音を嫌う人が多いことが知られています。救急車のサイレンや犬の吠える声、赤ちゃんの泣き声、雷や花火も苦手です。こうした音が突然聞こえてくると、子どもではパニックになってしまうケースもあります。

耳をふさぐ少年
写真=iStock.com/Jatuporn Tansirimas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jatuporn Tansirimas

感覚過敏があり、苦手な音を避けるために耳栓をして生活している人もいます。職場などでも、仕事上の支障があまりないのであれば、そうした対応を許容することも適切な配慮になります。

また、音に敏感なASDの人に注意や指導をする際には、大きな声で怒鳴ったり、感情的に怒りをぶつけたりしないように気をつける必要があります。注意をするときには、冷静な口調で言うほうが無難です。

■内臓感覚はむしろ鈍感

このほか、声を掛ける際に、後ろからいきなり声を発したり、肩や腕などを軽く叩いて注意を引くような行動をとったりすることが、本人を極度に驚かせたり、痛みや不安を感じさせたりする可能性もあり、周囲の人が留意する必要があります。苦手な音などがないかどうか、確認しておくことが大切だといえるでしょう。

加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)
加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)

感覚過敏については、「幼い頃に、子どもを抱っこしようとすると嫌がって体を反り返らせるので困った」といった話を母親から聞くことがよくあります。しかし、子どものほうから抱きついてくるときは、そうした過敏さをまったく示さないそうです。ASDの感覚過敏の本態は、謎というほかありません。

一方、ASDの人は、内臓感覚はむしろ鈍感なことが多く、過敏とは逆の、鈍麻がみられる場合もあります。満腹がわからなくて際限なく食べ続け、倒れてしまった例や、腕にケガをして出血しているのに、痛みを感じないのか平気で過ごしてしまう例、高熱が出ていても、「だるい」とか「つらい」といった感覚がなく、普通に活動を続けてしまう例などがあります。感覚過敏と感覚鈍麻の両方が混在している人もいるのですから、まったくもって不思議です。

----------

加藤 進昌(かとう・のぶまさ)
東京大学名誉教授、医師
1947年、愛知県に生まれる。東京大学医学部卒業。帝京大学精神科、国立精神衛生研究所、カナダ・マニトバ大学生理学教室留学、国立精神・神経センター神経研究所室長、滋賀医科大学教授などを経て、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野教授、東京大学医学部附属病院長、昭和大学医学部精神医学教室主任教授、昭和大学附属烏山病院長を歴任する。東京大学名誉教授、昭和大学名誉教授、公益財団法人神経研究所理事長。医師、医学博士。専門は精神医学、発達障害。2008年、昭和大学附属烏山病院に大人の発達障害専門外来を開設し、併せてASDを対象としたデイケアを開始。2013年からは神経研究所附属晴和病院(現在は新築中につき小石川東京病院で診療中)でもリワークプログラムと組み合わせた発達障害デイケアを開設した。2014年には昭和大学発達障害医療研究所を開設し、初代所長に。脳科学研究戦略推進プログラムに参画するなど、一貫して発達障害の科学的理解と治療、研究に取り組んでいる。2023年より東京都発達障害者支援センター成人部門(おとなTOSCA)が神経研究所(小石川東京病院)に開設され、成人発達障害の相談を広く受け付けている。

----------

(東京大学名誉教授、医師 加藤 進昌)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください