1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

寿命を延ばすのにもっとも効果的…東大名誉教授が毎日欠かさず食べている「健康食材」の最新エビデンス

プレジデントオンライン / 2023年4月24日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuuji

健康寿命を延ばすためにはなにを食べればいいのか。東京大学大学院農学生命科学研究科の佐藤隆一郎特任教授は「2022年にPLOS Medicine誌に掲載された論文によると、寿命を延伸する最も効果的な食材は豆類だと報告されている。私も毎夕食に納豆1パックを食べることを習慣にしている」という――。(第4回)

※本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■運動能力を助ける食品成分が増えている

身体ロコモーション機能維持のため、骨格筋量を増進する働きが期待される食品成分を含む製品はすでに販売されており、分岐鎖アミノ酸を豊富に含有した製品やタンパク質消化・吸収を上昇させる処理をした乳タンパク質を主成分とした製品などが挙げられます。

また、高濃度の多価不飽和脂肪酸(EPA/DHA)摂取、ビタミンD摂取、唐辛子成分のカプサイシン摂取が筋量増強に結びつくと報告されており、これらの成分を含む機能性食品の登場も予想されます。

私たちが発見した柑橘成分のリモノイド類(ノミリン、オバキュノン)、あるいは複数のトリテルペン類(オレアノール酸、ベツリン酸等)には骨格筋において筋タンパク質合成を促進する効果があります。加齢に伴い十分な運動を継続できなくなったときに、筋量維持のために「運動をする」のではなく、種々の機能性食品を摂り、「運動を食べる」ことが現実化しつつあります。

■筋タンパク質合成を上昇させる成分を発見

筆者は2014年度から2018年度まで、内閣府が府省連携による分野横断的な取組を推進する目的で開始した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第1期でプロジェクトチームを組み、次世代農林水産業創造技術に関する研究を行いました。

次世代農林水産業創造技術推進委員会のプロジェクトディレクターは北海道大学大学院農学研究院・野口伸教授が務められ、私たちが所属するサブグループのディレクターは東京大学名誉教授の阿部啓子先生が務められました。

このサブグループの中の一つである「機能性農林水産物・食品による身体ロコモーション機能維持に着目した科学的エビデンスの獲得及び次世代機能性農林水産物・食品の開発」という課題のグループの代表を私が務め、十数カ所の大学、研究所に所属する研究者と研究チームを形成し、食品企業とも共同研究を進めて食品の開発・社会実装を行いました。

私たちグループは企業との共同研究で、オリーブの搾りかすに含まれる主要なトリテルペンであるマスリン酸の機能の解析を行いました。シャーレ上で培養した骨格筋細胞あるいはマウスへの投与実験で、骨格筋細胞内で筋タンパク質合成が上昇することを実証しました。

■運動効果を増強させる機能を確認

また兵庫県立大学・永井成美教授の行ったヒトへの投与実験では、大変興味深い結果が得られています。

地域在住の高齢者に中強度のレジスタンス運動(弾性バンドトレーニング、スクワットなど)を行っていただき、朝食後に12週間、オリーブ果実エキスゼリーを摂取していただいたところ、オリーブ果実エキスを含まないゼリーを摂取したプラセボ群との比較で体幹、上腕、左腕の筋量がいずれも有意に上昇していました。

オリーブオイル
写真=iStock.com/Marat Musabirov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marat Musabirov

ここで大事なのは、運動との組み合わせで効果が得られているということで、マスリン酸は運動の効果をより増強させるという効果が確かめられています。このゼリーは現在、機能性表示食品として市販されています。

一方、持久力向上を目指した機能性食品としては、すでに市場に出回っているカテキンを豊富に含む飲料などを挙げることができます。フラボノイド類、レスベラトロール、ヌートカトンなどもAMPキナーゼを活性化し、持久力向上を導く機能性食品の商品化が期待されます。

これら運動の効能を模倣した作用を発揮する食品成分(リモノイド類、レスベラトロール、カテキンなど)を含む製品を私たちは「運動機能性食品」と命名しました。今後は信頼度の高い科学的エビデンスを明確に提示し、その実効性について信用を高めることが何より大事となります。

■食品から運動効果を得られる可能性がある

また、抗老化作用を持つ食品成分、ケルセチン、フィセチンの活用も現実化する可能性を秘めています。今世紀半ばには高齢者が人口の40%を占めることから、健康寿命の延伸に資する食品が活用されることは国民のQOLを向上させるという観点からも大きな意味を持ちます。

医薬の力で健康寿命を延ばそうとするのは必ずしも賢明ではありません。医薬の介入は医療費増大に結びつき、その結果として平均寿命が延びればさらに医療費は増大します。食の力を活用し、加齢とともに徐々に忍び寄る身体機能の低下を防ぐことは医療費の増大を招かず、賢明な試みと言えます。

ひざ痛、腰痛などで2000~3000歩程度しか歩行できない高齢者が、運動機能性食品の力を借りて骨格筋に5000歩程度歩いたかのような履歴を刻めれば、身体ロコモーション機能を維持し、健康寿命を延伸することが期待できます。やがて「運動をする」から「運動を食べる」という時代が来るかもしれません。

■もっとも寿命を延ばす食材は「豆類」

老化を遅らせることが一義的に健康寿命を延ばすとは言えませんが、高い相関があることはたしかです。70歳になっても早歩きできる人は余命が長いことを示しましたが、どのような食材を摂ることが長寿へとつながるのでしょうか。

(1)豆類50g(納豆1パック)、玄米茶碗1杯、手のひら半分のナッツ類などを摂取し、畜肉消費を抑えましょう。

2022年、そのような疑問に答える論文が発表されました(*1)。さまざまな食材が寿命におよぼす影響を評価すると、寿命を延伸する最も効果的な食材は豆類(200gまたは100g/日)、その次が全粒穀物(225gまたは137.5g/日)、ナッツ類(25gまたは12.5g/日)と続きます。全粒穀物は精米していない玄米、オートミールなどを指します。

また、畜肉を摂らないこと(0gまたは50g/日)が寿命延伸につながると示されています。毎夕食に納豆1パックを食べることを習慣にしている筆者にとって、豆類がトップにランクインしていることは心強い限りです。

納豆
写真=iStock.com/KPS
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KPS

豆類は1日の推奨値の半分の100gでも十分に効果が期待できるとされています。日本人は1日およそ5~60gの豆類を摂取しており、その90%以上は大豆です。納豆1パックはおよそ50gですので、納豆、豆腐などを今まで以上に積極的に摂取して100gに近づけることは可能です。

(*1)https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1003889

■腸内環境を整えるサツマイモ

茶碗1杯の玄米はおよそ150gですので、玄米への切り替えは効果が期待できます。ナッツ類は手のひら1杯で25g程度ですので、間食の際にアーモンド、栗、クルミ類を摂ることも良いでしょう。お肉は全く口にしないのは苦しいので、50g以下を目指しましょう。

(2)現在の食事に、小さめのサツマイモ1本ほど余分に摂ることで食物繊維を増やしましょう。動物性脂肪を減らし、ヨーグルト1カップを摂りましょう。

長寿者における腸内細菌の重要性を述べ、細菌叢の多様性を維持することの大切さについて解説しました。そのためには偏った食生活を避け、食物繊維(イモ類、豆類、海藻類)を理想値の24gに近づけるべく、あと6g程度多く摂ることが必要です。6gの食物繊維は200g程度のサツマイモから得ることができます。

焼き芋
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

また、母乳に含まれるオリゴ糖がビフィズス菌の生育を促すことが知られています。腸内環境を整え、腸内フローラを健康に保つためにも、腸内細菌を腸内で飼育しているという気持ちを持つことは大事でしょう。

高脂肪含有食を実験動物に投与すると悪玉菌が増え、老化を早めることが指摘されており、脂肪摂取量を控えめにすることには意味があります。乳酸菌、ビフィズス菌などのプロバイオティクスを含むヨーグルト製品などを100~200g積極的に摂ることも腸内環境を整え、免疫活性の維持に役立つことも示されています。

■肉よりも大豆や魚を摂取したほうがいい

(3)筋量を維持するために、良質なタンパク質を含む、大豆製品、乳・卵製品、魚介類を積極的に摂りましょう。

大豆はタンパク質を豊富に含み、脂質代謝改善、抗肥満効果があります。加齢に伴い、骨格筋でのタンパク質合成能は低下して筋量低下を招きます。歳をとるにつれて食事量は減少しますが、必要とされるタンパク質量は成人のそれと同じレベルです。

食事由来のタンパク質の消化・吸収効率も加齢とともに低下しますので、良質のタンパク質を積極的に摂ることが必要となります。良質タンパク質を供給する食材として、大豆、大豆製品、卵、乳製品、魚介類が考えられます。畜肉も良質タンパク質を含みますが、50g以下と前述しているのでここでは割愛します。

分岐鎖アミノ酸が骨格筋におけるタンパク質合成を促す作用を持つことからも、後期高齢者の方はサプリメントなどで補給することも有効でしょう。大豆製品は和食に欠かせない主要な食材でもあります。伝統的な日本型食生活を継承するという意味でも摂取を心がけましょう。

■ブドウの皮には抗老化作用が含まれている

(4)色のついた野菜(さらに70g)や果物(さらに100g)を摂る習慣をつけましょう。同時にコーヒー(5杯程度まで)、緑茶を習慣的に適量摂りましょう。

ポリフェノール類にさまざまな機能があることが知られています。食品の3次機能の多くは、食品中の微量非栄養素であるポリフェノール類に起因しています。老化を抑制するセノリティクスとして見出されたケルセチン(玉ねぎなど)、フィセチン(イチゴなど)、抗老化作用が話題となったレスベラトロール(ブドウ果皮)もポリフェノール類です。

ブドウ
写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi

食材の色素成分の多くはポリフェノール類であり、色のついた野菜や果物を十分量摂ることは重要です。野菜類の1日の摂取目標は350g程度とされていますが、平均摂取量は280g程度です。今より70g程度多く摂取することを心がけましょう。

また果物の1日摂取目標量は200gとされていますが、実際の摂取量は半分程度で100g程今より余分に摂ることが望まれます。さらに大豆に含まれるイソフラボンは閉経後の女性にとって女性ホルモンの代わりとなり、骨粗鬆症、虚血性心疾患などの発症を遅らせることが期待されます。また、高齢男性で増加が懸念される前立腺がんの発症の予防にも貢献します。

■コーヒーは「1日5杯」までを目安に

緑茶に含まれるカテキン類も多様な健康機能を持つフラボノイド類ポリフェノールです。日本人の日常的な食生活の中で主要なポリフェノール供給源となっているのはコーヒー、緑茶という調査結果があり、これらの飲料を習慣的に適量摂取することも大事です。コーヒーは1日5杯程度を上限に楽しむことが推奨されています。

(5)高齢期からは、筋量維持のために乳清タンパク質、分岐鎖アミノ酸等を含む機能性食品、サプリメント等を利用し、運動を食べましょう。

自立活動期間を少しでも長くするには老化スピードを遅らせ、介護原因の上位に位置する脳血管疾患を中年期に発症させないことが必要です。また、高齢に達してからも習慣的な運動と健全な食生活を心がけることが重要です。

しかし加齢により食が細くなり、栄養素の吸収率も全般的に低下することから、高齢者にとって食生活の改善だけでは不十分となることも考えられます。そのような状況下では機能性食品成分を含む食品、サプリメントを活用することも一助となるでしょう。

そこでは私たちが見出した各種トリテルペン類(柑橘成分のノミリン、オリーブ由来のマスリン酸等)を活用することも考えられますし、タンパク質合成を促す分岐鎖アミノ酸等をサプリメントとして補給し、「運動を食べる」ことも賢い選択となるでしょう。さらにカロリー制限食により老化速度が遅くなり、寿命の延伸につながることが古くより知られています。

■高齢になってからのカロリー制限は無意味

ただし高齢になってカロリー制限をすることに意味はありません。この機構を説明する分子として、サーチュインという長寿遺伝子に注目が集まっています。

サーチュイン活性化にはNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が必要ですがNADの吸収率は低く、その前駆物質であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の投与によりサーチュインが活性化されることが確認されています。

現時点ではNMNは大変高価ですが、調製法の改良により安価で供給されるようになれば、カロリー制限することなく老化速度を抑えることが可能になるでしょう。健康寿命延伸に結びつく食品成分・化合物の研究・開発は日々発展を遂げています。特に後期高齢者(75歳以上)においては、食が細り通常の食生活では健康維持が難しくなることから、これらのサプリメントを活用してでも、自立活動が可能な時期を1日でも延ばすことが大事です。

(6)ウォーキングは2000歩ごとに死亡リスクを下げます。数千歩を時速3.5km程度で歩く習慣をつけましょう。「歩こう♪ 歩こう♪ 私は元気♪」と心の中で歌いつつ。

本稿では食生活と並行して大事な運動習慣についてはほとんど語ってきませんでした。最後に、ウォーキングの歩数と健康に関する2022年の興味深い論文を紹介したいと思います。

■1万歩までは歩けば歩くほど健康になる

イギリスにおいて40歳から79歳の成人約8万人の1日の歩行数と死亡リスクの関係を解析しています。7年間の追跡調査の過程で1325人が癌で、664人が心臓血管疾患で死亡しています。この調査の結果、1日1万歩までは歩数が多いほど、癌死亡、心臓血管疾患死亡、全死亡のリスクが低いことがわかりました(*2)

佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)
佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)

また、2000歩多いごとに、癌死亡リスクは11%、心臓血管疾患死亡リスクは10%、全死亡リスクは8%低下するという結果で、少ない歩数でもそれなりの効果が認められました。一方、1万歩を超えて歩いても効果はほとんど上がりませんでした。

さらにどの死亡リスクも、毎分80歩程度の歩行速度がもっとも効果的な速度でした。1歩を70cmとすると時速3.4km、80cmとすると時速3.8kmに相当します。これら数字から計算すると、可能であれば1万歩を目標に、2時間程度で歩く習慣が理想です。この習慣を毎日行うのが厳しい時には、2000歩ごとに効果が認められることを心の支えに、少ない歩数でもウォーキングを続けることは健康維持、健康寿命の延伸に繫がることが期待されます。

(*2)https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2796058

----------

佐藤 隆一郎(さとう・りゅういちろう)
東京大学大学院 農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
1956年生まれ。放送大学客員教授。日本薬科大学非常勤講師。東京大学大学院農学系研究科修了。農学博士。専門は食品生化学、脂質生化学。2019年紫綬褒章。著書に『食と健康』(共著、放送大学教育振興会)、『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)など。

----------

(東京大学大学院 農学生命科学研究科特任教授・名誉教授 佐藤 隆一郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください