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「トヨタはBEVで遅れている」に新社長はどう答えたか…トヨタ「bZシリーズ」の世界展開で本当に必要なこと

プレジデントオンライン / 2023年4月24日 9時15分

2022年5月に発表されたBEV、bZ4X - 写真提供=トヨタ自動車

4月7日、トヨタの佐藤恒治新社長が会見し、「2026年までに新たに10モデル年間150万台」というBEVの販売目標を掲げた。自動車評論家の小沢コージさんは「トヨタがBEVで生き残るためには、車両の値下げをするしかないのではないか。良品廉価なBEVを作るやり方も考えられる」という――。

■「トヨタはBEVで遅れている」に対する新社長の答え

4月7日、ついに佐藤恒治トヨタ新社長の初プレゼンが行われました。その名も「新体制方針説明会」。

数々の名発言で知られた名物トップ、豊田章男社長の後任だけに、当然次世代の発言力であり、ヴィジョンに注目が集まるわけですが、小沢も会場となった都内ホテルで直接見聞きして驚いたことがあります。

それはなによりも当のプレゼン内容。一般的に目を引いたのは「2026年までに新たに10モデル年間150万台」の新しいバッテリーEV販売目標設定でしょう。具体的な車名やサイズや価格感への言及がなかったのは残念ですが、質疑応答を含め1時間以上に及んだ説明会のほぼ冒頭に登場。

いまだにしつこく「トヨタはBEVで遅れている」と言われる中、その実態を正しくメディアに説明したい佐藤新社長の思惑が透けて見えます。

案の定、翌日のテレビ新聞大手メディアには「トヨタ2026年までにEV10モデル投入 年間150万台販売目標に」という見出しが続々と躍り、ある意味予想通りの展開なのでしょう。

今までは2021年末に「2030年までに(BEVや燃料電池車を合わせて)350万台」という目標を掲げていただけだったので、中間目標として非常に意欲的。これだけ作れれば周りを黙らせることができるはずです。

新体制方針説明会に登壇した(左から)宮崎洋一副社長、佐藤恒治新社長、中嶋裕樹副社長
筆者撮影
新体制方針説明会に登壇した(左から)宮崎洋一副社長、佐藤恒治新社長、中嶋裕樹副社長 - 筆者撮影

■販売台数が減っているのに利益アップ

ただし小沢的に実は驚いたのは分かりやすくグラフ化した稼ぐ力の強化です。

今までも豊田章男社長時代から「意志ある踊り場」「損益分岐台数の引き下げ」などがキーワードになっていました。これらは、表面的には生産や販売台数が減っていても、それまで手が付けられなかった地道な原価低減や人材育成などに取り組み、強い基盤作りが進んでいることを表します。

損益分岐台数は、いわば何台以上作ると利益が出るかの指針で、低ければ低いほど高収益体質であることを示します。具体的にはトヨタはここ十数年で指針を30~40%下げたといいます。かの大谷翔平選手が見えないオフの間に充実した地味なトレーニングを積み、基礎体力を上げているようなお話です。

中でもグラフ化されたのは「未来への投資をしながら稼げる体質へと進化」の画面ですが、08年3月期には891万台を売って2兆2703億円(営業利益)を稼いでいたのが、14年後の22年3月期には(販売はコロナ禍から回復しつつあるとはいえ)823万台に減っているのに対し利益は3兆円弱まで増加。稼ぐ力が露骨にアップしているわけです。

会見スライド
筆者撮影
この「未来への投資」は具体的にどこに行われるのか - 筆者撮影

■次世代戦略TNGAのすごい効果

具体的には2015年の4代目プリウスから投入した現骨格のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームが効いているのでしょう。

TNGAとは、企画・調達・生産まで一貫して連携することを中心に、パーツの共用化、生産現場での連携、商品力の向上を図ることで、グローバルに通用するクルマ作りを行う次世代戦略です。これにより商品力アップと同時に原価低減の効果が得られるのです。

具体的には、プラットフォームやパワーユニットを複数のモデルで共有し、一体的に開発することで、トヨタラインアップ全体の基本性能を向上させようという狙いがあります。

まずプリウスに初投入されたコンパクト用のGA-CプラットフォームがC-HR、カローラ、カローラクロスなどに使われました。

また、カムリに初投入されたGA-Kプラットフォームが今のRAV4やクラウンなどに使われ、さらに小さいGA-Bプラットフォームがヤリスやヤリスクロスやアクアに使われています。

今やTNGAはラダーフレーム構造を持つランドクルーザーやレクサスLXにも使われています。ほぼ全面展開されているわけです。

■CO2削減効果ではテスラに負けていない

小沢的に面白かったのが今回ハイブリッドの原価が明らかになったことです。

現在、カローラやプリウスに積まれている1.8Lハイブリッドは去年出たノア&ヴォクシーに採用されたものが第5世代といわれます。これが、なんと1997年に出た初代プリウスの1.5Lハイブリッドの約6分の1の価格だとか。

初代プリウスは215万円と当時のカローラの約1.4倍の値付けがなされましたが、それでも利益が出てないと囁かれてました。それが今や純粋エンジン単体価格と遜色ないようです。

かつてエンジン原価は40万円などと言われてましたが、それを単純に当てはめると、昔240万円だったハイブリッドは今や40万円前後で作れるのかもしれません。正確には分かりませんが、とにかくハイブリッドは儲かる商品なのです。

会見では、トヨタが売ったハイブリッド車の合計が2250万台に至ることを改めて示し、それがCO2削減効果ではピュアなバッテリーEVに換算すると約750万台分に当たると言っています。

会見スライド
筆者撮影
トヨタのお家芸ハイブリッド車のCO2削減についても言及 - 筆者撮影

確かにテスラは昨年グローバルで131万台を売り、21年も93万台売りましたが、トータルではトヨタを恐らく超えてないことになります。

もちろん今後の伸び次第では分かりませんが、現状トヨタはCO2削減効果で、暗にテスラに負けてないということを言っているわけです。

■bZシリーズの値下げは待ったなし

さらに驚いたのは、一連の体質強化で生まれた利益を「未来に投資する」と明言したことです。それはもちろん今まで散々言ってきたマルチパスウェイ=全方位戦略なわけで、主力のハイブリッドからPHEVからBEVから燃料電池からカーボンニュートラル燃料まで全方位に投資するのでしょうが、具体的にはやはりBEVが興味深い。

差し当たって資料には3年後の2026年までの地域別取り組みとして、先進国ではbZシリーズの性能強化とラインアップ拡充、米国では25年の3列SUVのBEV、中国では現地開発モデル、新興国ではピックアップトラックや小型車BEVとあります。

上海国際モーターショーにて世界初披露したbZシリーズの最新モデル
写真提供=トヨタ自動車
上海国際モーターショーにて世界初披露したbZシリーズの最新モデル - 写真提供=トヨタ自動車

具体的には中国では一汽トヨタや広汽トヨタの自主ブランドのBEV、ASEANではハイラックスシリーズのBEVなどを出すのでしょう。

そしてここからは全くの小沢の希望的観測ですが、現行のbZ4Xや今後出るbZ3の実質値下げに踏み切るかもしれません。なぜなら現在年販約2万4000台に過ぎないトヨタのBEVをわずか3年で150万台に増やすには、今後出るはずの完全新戦略オールニューEVを待ってはいられないからです。

まずは現行BEV専用ブランドであるbZシリーズへのテコ入れが不可欠であり、出来る手はコスパ戦略ぐらいしかないのでは。現在日本で発売されているbZ4Xは世界的に安心して乗れるEVとして大変よく出来ていますが、イマドキのデジタルインパクトや電費的インパクトが足りません。

価格的は欧州で600万円台スタートで、日本では月々定額のサブスクリプションで10年間トータル1000万円弱というけっこうな値付け。値下げ抜きで、テスラやヒョンデはもちろん中国EVに対抗できるとは思えません。

トヨタとスバル共同開発の安心安全のバッテリーEVを、競合に負けない価格でリーズナブルに売る。今回のグループの稼ぐ力アピールはもしやそこに帰結するのでは? と思いました。

■世界から求められているのは「カローラ的EV」

さらに今後グローバル最適部品を調達し、EV開発の工程を2分の1にして作るのは「カローラ的EV」です。名前は違うかもしれませんが、結局のところ日本車最大の根源的魅力は「良品廉価」。もちろんそうではない高付加価値戦略もあるのでしょうが、現状そこしか勝ち目はないと思います。

もしくは「クルマ屋の創るBEV」という新しいヴィジョンには、別の新しい魔法があるのでしょうか? だとしたらソイツを早く知りたいものです。

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
バラエティ自動車評論家
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。

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(バラエティ自動車評論家 小沢 コージ)

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