数えきれないほどの老化原因物質を無毒化する…ビタミンCより優れた抗酸化作用を発揮する植物成分の正体
プレジデントオンライン / 2023年5月20日 9時15分
※本稿は、マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「一時的なストレス」は細胞を活性化する
時を戻して、子どもの頃に発揮していた回復力を取り戻せるとしたら?
私は、できるかもしれないと思っている。長らく一般常識や医学書が危険視してきたもの――つまりストレスを利用して、停滞に対抗するのだ。
さて、あなたが面食らうあまり、もうついていけないと言いだす前に、説明させてほしい。
ストレスには2種類ある。1つは慢性的なストレスだ。これは、たとえば仕事の問題、人間関係の悪化、長引く経済的困窮、そして私の友人でフィットネス作家、そして類いまれなるアスリートでもあるマーク・シソンが言うところの「常習的な有酸素運動」などで生じるストレスだ。この種のストレスは、エントロピーと衰退を加速させる。つまりコルチゾール値の上昇が長引き、結果的に筋力が奪われ、体脂肪がお腹に再分配され、脳の大切な部位が萎縮し、果ては老化が加速する。
もう1つのストレスは、一時的な(短期間の)ストレスだ。これはストレスの意味合いがまったく違う。このストレスはエントロピーと闘うための、とびきり威力のある武器になるかもしれない。このタイプのストレスには、たくさんの形がある。たとえば楽器を練習するとき、難易度の高いリアルなゲームをプレイするとき、難しい講義をじっと座って聴講しているときなどの、忍耐力を要する精神的ストレスかもしれない。または運動や短期的なファスティング、過酷な気温、ある種の「ストレスフル」な食べ物による肉体的ストレスかもしれない。
私のお気に入りの言葉の1つに「ホルミシス」がある。これは短期的なストレス、たとえば激しいトレーニングをしたり、サウナでいい汗を流したり、一時的にカロリー制限(断続的なファスティング)をしたりすることで細胞が活性化し、それが長期的な健康を促すメカニズムだ。大きなストレスにどっと襲われたらダメージをこうむりかねないが、小さなストレスの場合は、細胞がそれに適応して強くなる。
では、このホルミシスの力をどうやって活用すれば認知能力が最大化し、強く長く生きられるのかを探っていこう。
■植物の「有毒物質」が薬になる
えっ、ストレスフルな食品? 確かに、聞いたかぎりでは、あまりいいものには思えない。だが、あなたが毎日食べている身体にいい食品のほとんどは、「細胞の」レベルではストレスフルだ。
あらゆる生物が考えるのと同じように、植物だって食べられたくはない。ところが植物は、ちょっと不利な立場にある。彼らは捕食者から走って逃げることも、噛みついたり武器を振りかざしたりして闘うこともできないからだ。代わりに植物は、昆虫や菌類、細菌にとって有毒な物質を合成し、化学的な力で身を守っている。つまり自然界の植物の多くは、化学物質で身を守っているのだ。
たとえば、オリーブオイルに含まれる「オレオカンタール」、赤ワインの原料となるブドウに含まれる「レスベラトロール」、ウコンに含まれる「クルクミン」などだ。実をいうと、私たちは野菜をたくさん食べることで、このような化学物質をふんだんに身体に取り入れている。そして、これらの物質が身体に与える影響は少しずつわかってきてはいるものの、そのほとんどは、まだ名前さえついていないのだ!
■抗酸化物質の産生を促す「ポリフェノール」
こうした化学物質の1つに、ポリフェノールがある。
これは、身体にいいことで有名な植物成分の総称だ。近年の研究によると、ポリフェノールには幅広い抗酸化作用があり、加齢に関わる炎症、ガンや心血管疾患、認知症などの慢性疾患から守ってくれる働きが注目されている。ポリフェノールが人体におよぼすはっきりしたメカニズムはわかっていないものの、ホルミシスがそれを説明するものとして浮上している。
代表的ないくつかのポリフェノールと、それが豊富な食品を挙げよう(図表1)。
こうした成分が身体にいいのは、細胞レベルでわずかなストレスが生じるためでもある。ポリフェノールを摂ると、抗酸化物質の産生を促す遺伝子の活動スイッチが入り、細胞が防御態勢をとる。ポリフェノールに誘発された抗酸化物質は、フリーラジカル(※)に対しても、有名なビタミンEやCのように優れた除去作用を発揮する。
こうした抗酸化物質は「1対1」で作用する。たとえば、ビタミンCの1つの分子が、1つのフリーラジカルを無毒化する。ところがポリフェノールに誘発されてつくられるグルタチオンのような抗酸化物質は、数えきれないほどのフリーラジカルを無毒化できるという。
※フリーラジカル(不対電子)……電子は一般的に対の状態で存在しているが、対をなさずに単独で存在する分子、または原子。フリーラジカルは、周りの分子から電子を1つ奪って安定しようとするため、細胞を変性させる。老化現象を引き起こす原因と言われている。
■幅広いポリフェノールの効果
要するに、ポリフェノールが豊富な食品を摂ることは、細胞に対してストレスを解毒し、適応し、抵抗力を高めるトレーニングをさせるようなものだ(ブロッコリー、ニンニク、タマネギ、ポロネギ、卵、ホウレンソウ、ケール、グラスフェッドビーフ、魚、ナッツ類など、硫黄が豊富な食品をたくさん食べることによって、「あらゆる抗酸化物質の母」と言われるグルタチオンのさらなる産生が期待できる)。
ポリフェノールにはそれぞれ固有の利点があるが、科学はとりわけ有益なものを明らかにしている。たとえばエクストラバージンオリーブオイルに含まれるオレオカンタールは、体内の老廃物の処理システムであるオートファジーによる自浄プロセスを促進し、脳が自らプラークを掃除するのを助けることがわかっている。
またパセリやセージ、ローズマリー、タイムに豊富な「アピゲニン」というフェノール類は、神経発生を促し、シナプスの結合を強化する。たぶん、サイモン&ガーファンクルのあの名曲は、アピゲニンが霊感を与えてくれたおかげで生まれたのだ!
ほかにも、よく知られているポリフェノールと、それぞれの利点を図表2に挙げておこう。
■認知機能が改善するブルーベリー
先ほど紹介したポリフェノールを豊富に含む食品の中から、ブルーベリーをピックアップしよう。
一般的に食べられている果物や野菜のなかでも特にブルーベリーの抗酸化作用が高いのは、「フラボノイド」が豊富に含まれているからだ。フラボノイドは、ジーニアス・フードに多い多価(ポリ)フェノールの仲間だ(エクストラバージンオリーブオイルに含まれるオレオカンタールもフェノールの仲間だ)。
ブルーベリーに含まれるフラボノイドのうち、最も多いのはアントシアニンだ。これは血液脳関門を越えて脳に入り、記憶を処理する部位のシグナル伝達を強化するという。驚いたことに、このアントシアニンは海馬に蓄積するらしい。
私の友人で、シンシナティ大学医学部コグニティブ・エイジング・プログラムのディレクターを務めるロバート・クリコリアンは、ブルーベリーの記憶機能の効果を研究する分野の第一人者だ。クリコリアン博士は、ブルーベリーを摂ると認知機能が改善することを証明する論文を発表している。その一部を紹介しよう。認知症を発症するリスクのある高齢の被験者が、ブルーベリーのサプリメントを12週間摂ると記憶機能が改善し、抑うつ症状が軽くなり、空腹時の血糖も減ったという。
観察研究でも、説得力のある結果が出ている。1万6010人の高齢者を対象にした6年にわたる調査では、ブルーベリー(とイチゴ)を摂取した場合に、認知機能の老化が最大で2.5年遅れたという。また最近のレビューでは、人間が一般的な果物を摂ることと認知症のリスクとには何の関係性も見られなかったが、ベリーには見られたという。つまり、ベリーが認知機能の低下を抑制していたのだ。
●買うときの注意と食べるときのヒント●
新鮮なブルーベリーが望ましいが、冷凍のブルーベリーでもかまわない。冷凍ものは、たいていは生のものよりずっと低価格だ(置いてある店も多い)。だが必ずオーガニックのものを選ぼう。ブルーベリーは、スムージーやサラダ、おやつとして食べるにも最適だ。
ベリー類は、それぞれに固有の有益な成分が含まれ、どれも脳のためになるようだ。ブルーベリーの代用になるものにはブラックベリー、ビルベリー、ラズベリー、イチゴがある。
■抗がん剤となる植物の防御物質もある
植物の防御物質としてよく知られるもう1つの成分は、グルコシノレートだ。
グルコシノレートはブロッコリーやキャベツ、ケールなどアブラナ科の野菜に豊富に含まれている。そのなかでもトップクラスと言われるのがブロッコリーの新芽で、成長したブロッコリーのつぼみに含まれる量の20~100倍も含まれている。ブロッコリーやその新芽を咀嚼すると、そのなかの酵素がグルコシノレートと混ざり合って、口のなかで「スルフォラファン」という新たな成分が生まれる。
あなたが昆虫ではないことをダーウィンに感謝しよう。なぜかというと、もし昆虫だったら、スルフォラファンは毒になるからだ!
だが人間の場合、スルフォラファンは抗がん剤になる。また、抗酸化作用の経路であるNrf2を活性化し、グルタチオンの量産も促してくれる。
動物実験では、炎症性の強い毒素の影響を受けていても、スルフォラファンが脳の炎症を直接抑えてくれることが、繰り返し証明されている。そのためスルフォラファンは、脳の過度の酸化や炎症とつながりのあるパーキンソン病やアルツハイマー病、外傷性の脳の損傷、統合失調症、うつ病の治療薬や予防薬としての効果を見込まれて、研究が行われている。若者を対象にした興味深い研究では、スルフォラファン(ブロッコリースプラウトから抽出した)が、中等度から重度の自閉症の症状を大幅に軽減することがわかった。だがスルフォラファンによる治療が終わると、この効果は弱まった。
さて、適切なストレスは、あなたの友だちだということが、これでわかってもらえたと思う。こういったポジティブなストレッサーは、頑健な脳と身体をつくるためには欠かせない働きをもたらしてくれる。だが、このようなストレスにリスクがないわけではない。
何を試すにしても、身体に聞くことを忘れないでほしい。それでも、ゆっくり慎重に身体に抵抗力をつけていけば、いくらもしないうちに、あなたは自分がどれだけすばらしい人間かを知るだろう。
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映画製作者。「メドスケープ」「ヴァイス」「ファスト・カンパニー」「デイリー・ビースト」などのメディアに寄稿し、「NBCナイトリーニュース」や「ドクター・オズ・ショー」「ザ・ドクターズ」などのテレビ番組に出演、「ウォールストリートジャーナル」紙で紹介されるなど幅広く活動している。講演者としても人気を博し、ニューヨーク科学アカデミーや、ワイルコーネル医療センターなど権威ある学術機関に講師として招かれた。また、スウェーデンのストックホルムで開催されたバイオハッカーサミットでも講演を行った。2005年から2011年まで、アル・ゴアの「カレントTV」のジャーナリストを務める。主にニューヨークとロサンゼルスを拠点に活動を続けている。
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食生活とライフスタイルという視点から減量や代謝機能、不老長寿のための医療を実践し、講演も行っている内科医。彼自身45キロ近い減量に成功し、その体重を維持している。大きな誇りと情熱を持ちながら、患者が健康に生きるために楽しく続けられる、万人に適用できる療法を探る。ジョンズ・ホプキンズ大学で細胞・分子神経科学の学士号を取得。ラトガース大学メディカル・スクールで医学を学び、ノース・ショア・ロング・アイランド・ジューイッシュ・ホスピタルで研修課程を修了。MyMDメディカルグループを創設し、ニューヨークシティで開業、金融会社や健康管理会社のメディカルアドバイザーを務めている。
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(健康・科学専門ジャーナリスト マックス・ルガヴェア、内科医 ポール・グレワル)
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