「年上の男性と結婚するメリットが消えつつある…」若い男性と結婚する方が女性の結婚満足度が高くなるワケ
プレジデントオンライン / 2023年4月25日 13時15分
■年の差夫婦は幸せなのか
結婚は人生の一大イベントであり、できれば幸せな結婚生活を送りたいと思うのは人情です。
心理学、社会学、経済学といった分野で、「どのような夫婦が幸せになるのか」という疑問に答えるためにさまざまな研究が進められてきました。
相手の年収や職種、学歴、家族構成(長男であるかどうか)と、さまざまな切り口で分析されてきましたが、「夫婦間の年齢差」の視点でも分析されています。
ここでの主な疑問は、「同じ年齢の夫婦と年の差夫婦ではどちらが幸せな結婚生活を送れるのか」という点です。
いわゆる「年の差夫婦」は世間でも見かけることがあります。中でも芸能界で目立つ傾向があるでしょう。幸せな年の差夫婦の例もあれば、残念ながら離婚してしまう年の差夫婦の例もあり、はたして「年の差夫婦が幸せなのか」という点はイマイチはっきりしません。
そこで、今回はアンケート調査を分析し、夫婦の年齢差と結婚生活の満足度の関係を検証した研究成果について紹介していきたいと思います。分析に使用したデータはオーストラリアなのですが、日本のわれわれにも参考になる興味深い結果となっています。
■男性は若い女性と結婚すると満足感が高い
夫婦の年齢差と結婚生活の満足度の関係を検証したのはモナッシュ大学のワンシェン・リー准教授とコロラド大学ボルダー校のテラ・マッキニッシュ教授の研究です(*1)。彼らの研究では合計で約1万8000組の夫婦を対象に、夫婦間の年齢差によって結婚相手に対する満足度がどのように変化するのかを検証しています。なお、分析対象となる夫婦は、20~55歳です。
彼らがまず分析したのは、「同じ年齢の夫婦と年の差夫婦ではどちらの夫婦関係満足度が高いのか」という点です。
男女別に分析した結果、男性は若い女性と結婚した方が夫婦関係満足度が高くなり、逆に自分よりも年上の女性と結婚すると夫婦関係満足度が低くなることが明らかになりました(*2)。
男性の場合、やはり結婚相手に「若さ」を求めている側面があり、自分よりも若い女性と結婚できると結婚生活の満足度が高くなっていました。おそらくこの傾向は日本でも同じではないかと思います。
■女性も若い男性と結婚すると満足感が高い
次に女性の分析結果を見ると、非常に興味深い結果が得られています。
女性も若い男性と結婚した方が夫婦関係満足度が高まり、逆に自分よりも年上の男性と結婚すると夫婦関係満足度が低くなっていたのです(*3)。
この結果はやや驚きです。というのも、これまで多くの国で女性が若干年上の男性と結婚する傾向が見られており、この背景には年上の男性は相対的に経済力が高く、結婚するメリットが大きいと考えられていたためです。しかし、この組み合わせの場合、女性の結婚生活に対する満足度が相対的に低くなっていました。
これにはさまざまな理由が考えられますが、その一つに、女性の社会進出によって年上男性との結婚のメリットが低下した可能性が考えられます。
女性の社会進出が進み、男女間賃金格差が縮小した場合、経済力を求めて年上男性と結婚する理由は無くなります。それよりも若さを含んだ自分の好みの相手と結婚した方が夫婦生活に満足できると考えられるわけです。
■自分よりも若い相手と結婚することのメリットは10年で消失
男女とも自分よりも年下と結婚した方が夫婦関係満足度が高くなるわけですが、これは結婚期間が長くなっても維持できるのでしょうか。
この点に関する分析結果を見ると、その答えは「NO」です。
男女とも年下との結婚によって得られる満足度のメリットが徐々に消失することがわかっています。結婚から10年も過ぎると、初期の高い夫婦関係満足度のメリットはほぼ無くなってしまうのです。
この背景に関して、ワンシェン・リー准教授とテラ・マッキニッシュ教授は踏み込んだ分析を行っていませんが、おそらく結婚期間が延びるにつれて相手に求めていた「若さ」が徐々に失われていき、結婚生活に対する満足度も低下していく可能性があります。
結婚期間が延びるにつれて夫婦関係満足が低下するのは日本でも見られる現象ですが(*4)、若い相手と結婚するとその減少幅が大きくなるという傾向は、非常に興味深い結果です。
■日本では年上男性との結婚が減り、年齢の近い夫婦が増加
これまで見てきたとおり、オーストラリアでは自分よりも若い相手と結婚すると、結婚時点の夫婦関係満足度が高い傾向にあります。しかし、結婚期間が延びるとともに徐々に夫婦関係満足度が低下し、10年で初期の満足度のメリットは消えてしまいます。年の差夫婦が特に幸せなのは、初めの10年といったところでしょう。
残念ながらこの点に関して日本の研究はないのですが、日本の夫婦の年齢差の推移を見ると興味深い傾向が見えてきます。
図表1は1980年、2000年、2021年の初婚夫婦の年齢差を示しているのですが、この図から次の2点が読み取れます。
まず、夫が年上の割合は、持続的な減少傾向にあります。2つ目は、同年齢夫婦と妻が年上の割合は持続的に増えており、2021年では妻が年上夫婦の方が同年齢夫婦よりも多くなっています。今では妻の方が年上であるケースは、珍しいものではありません。
次の図表2はより詳細に初婚夫婦の年齢差の構成比をみています。2021年の値を見ると、最も大きいのは夫婦が同年齢の場合であり、2番目に大きいのは夫が1歳年上の場合、そして、3番目に大きいのは妻が1歳年上の場合でした。これら上位3つを合計すると、46.6%となり、約半分を占めています。
この結果と図表1の結果を総合すると、年上男性との結婚が減り、そのぶん年齢層の近い男女で結婚が発生しやすくなっていると言えます。
■年齢の近い夫婦の増加は性別役割分業意識の変化の表れか
日本では趨勢的に年齢層の近い夫婦が増加しているわけですが、これは興味深い動きです。というのも、夫婦の年齢差に性別役割分業に対する考えが反映されている可能性があるためです。
ワンシェン・リー准教授とテラ・マッキニッシュ教授の研究では、夫婦の年齢差によって性別役割分業に対する考えがどう異なっているのかという点も検証しています。この結果を見ると、夫の年齢が妻よりも4歳以上高い夫婦ほど、「男性は仕事、女性は家事・育児」という考えを持つ割合が高く、同じ年齢の夫婦ほど、その割合が低くなっていました。
ワンシェン・リー准教授らの分析を考慮すれば、日本における年上男性との結婚減少および年齢層の近い夫婦の増加は、「男性は仕事、女性は家事・育児」という性別役割分業意識の変化を示唆している可能性があります。
ただし、諸外国と比較して日本の性別役割分業意識は依然として強く、女性の就業や出産・子育ての阻害要因になっていると指摘されています。このため、今後さらなる性別役割分業意識の解消が求められます。この解消の度合いを測る指標の一つとして、夫婦の年齢差が活用できるかもしれません。
(*1)Lee, WS., McKinnish, T. The marital satisfaction of differently aged couples. J Popul Econ 31, 337–362(2018).
(*2)0~10の11段階で夫婦関係満足度を計測しており、夫婦が同年齢の場合と比較して、1歳年下の妻を持つと0.03ポイントほど夫婦関係満足度が上昇していました。また、1歳年上の妻を持つと0.04ポイントほど夫婦関係満足度が低下していました。
(*3)妻の場合、1歳年下の夫を持つと0.04ポイントほど夫婦関係満足度が上昇し、1歳年上の夫を持つと0.03ポイントほど夫婦関係満足度が低下していました。
(*4)永井暁子(2005)「結婚生活の経過による妻の夫婦関係満足度の変化」『季刊家計経済研究』 66, 76-81.
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拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。
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(拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨)
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