若くて見た目がよければ知事になれる…政策などほとんど議論されない「日本の地方自治」という深すぎる闇
プレジデントオンライン / 2023年4月22日 9時15分
■知事選も道府県議選も投票率は過去最低
第20回統一地方選挙の前半戦である、9道府県と6政令指定都市の首長、それから41都道府県議会、17政令市議会の投票が4月9日に行われた。
知事と市長については、なんと前代未聞の、15選挙すべてが「ゼロ打ち」、つまりNHKが投票締め切りと同時に、開票率ゼロパーセントで「当確」を出すという一方的な選挙となった。
〈都道府県のトップは実は「よそもの」が多い…知事47人中27人が「東大出身のエリート」である本当の理由〉(2023年4月4日)で指摘したように、現職が圧倒的に有利なので多選が多く、また、東京大学出身者、それも官僚が半数以上であるのも偏りすぎだ。
知事選は、保守分裂となった奈良・徳島と、新人2人の一騎打ちとなった大分では前回よりも投票率が上がったものの、9道府県全体では46.78%で過去最低を更新。41道府県議選も41.85%と、過去最低だった前回の44.02%からさらに落ち込んだ。
最近では、地方議会では、なり手不足が深刻な問題になっている。こうした問題をどうしたら解決できるかというのが、本稿の主題だが、まずは、今回の知事選挙の結果についてみてみよう。
■神奈川はスキャンダルでも再選、大阪は維新圧勝
神奈川、福井、鳥取、島根の知事選は、現職に対する有力候補がおらず、いわゆる無風選挙だった。神奈川は選挙戦の最中に黒岩祐治知事の過去のスキャンダルが出たが、相手が共産党と政治家女子48党がそれぞれ推薦する候補などしかいないので、しらけた。無効投票率が2.9%から6.9%に上がったのが少し目立った結果だ。
北海道知事選は、野党統一候補として池田真紀元代議士(比例復活もできず落選中)が出馬したが、人気のある現職の鈴木直道が得票率トリプルスコアで圧勝。
大阪知事選では人気の吉村洋文知事(大阪維新の会)に対して、自民・立民が実質支援する谷口真由美、共産党推薦の辰巳孝太郎らが出馬したが、得票率は吉村が73.7%に対し、谷口は13.2%、辰巳に至っては8%で法定得票数にも達しなかった。
大阪市長選のほうが、横山英幸(大阪維新維新の会、元府議)と北野妙子(無所属、元市議)の新人同士の一騎打ちで、非維新にチャンスありとみられたが、府知事選での反政府色の強い谷口の擁立はかえって北野の足を引っ張った印象で、得票率は64.6%対26.4%と横山の圧勝。維新念願の市議会での単独過半数確保を助けただけだった。
■保守分裂した徳島、奈良は意外な大差に
残りの奈良、徳島、大分は、告示前は接戦を予想されたが、意外な大差となった。奈良の荒井正吾知事は4選、徳島の飯泉嘉門知事は5選されており、前回の知事選挙の時に、対立候補になかなか善戦されたりして、これが最後ではないかと受け取る人が多かった。
飯泉は総務官僚らしく手堅かったものの経済政策などで物足りないといわれたし、荒井は国際的な観光都市として奈良を進化させるのに大功績があった一方で、政策でも人的関係でも大衆や実力者にこびるのが嫌いで、反発もあった。
だが、後任の知事候補を見つけるのに現職が消極的だったうえ、徳島にはまとめ役となるリーダーがおらず、奈良では高市早苗県連会長が強引すぎた。それどころか、徳島はまとめ役になるべき、後藤田正純衆議院議員と三木亨参議院議員が自ら立候補して混乱に輪をかけ、後藤田氏が初当選を果たした。
奈良では、維新が知名度もある山下真元生駒市長を擁立したのに対して、荒井知事で勝てるか不安があり、総務官僚で岐阜県副知事などを務めた平木省が出馬した。
平木はもともと高市総務相の秘書官でもあり、高市大臣が立候補に関与していないといっても説得力がなく、荒井知事が参議院議員時代のつながりの深い森山裕選挙対策委員長や二階俊博元幹事長の支持を得ていただけに、中央突破は難しかった。保守分裂の結果、大阪府以外で初めて維新の公認知事が誕生することとなった。
■若くて見た目がよければ、政策は問われない
結局、北海道・大阪・奈良・徳島で勝ったのは①若い、②端正なルックス、③姿勢だけでも改革指向という面々で、それほどの政策論争があったわけでない。直接選挙でも米国の選挙では、予備選挙などを通じて、候補者をしっかり品定めするプロセスがあるが、日本ではそういうものもないから、断片的な印象での勝負になるのだ。
一方、大分では、「一村一品」で知られる平松守彦、全国の知事の中で唯一の事務次官経験者である広瀬貞夫という大物のあと、大分市長の佐藤樹一郎が後継として出馬した。市長としてコロナ対策などで優れた手腕を発揮して評価も高かったが、3人連続経済産業官僚というのを不安に思う人もいた。
対立候補として立候補したのが、野党系の参議院議員の安達澄で、まさに上記の三つの条件を備えた候補だった。しかし、4年前に獲得した議席を任期途中で投げだしたので野党系はまとまらず、政策らしきものもなかったので、佐藤との一騎打ちで57.3%対42.7%と差をつけられた。
それでも安達がそこそこの票を集めたのは、安達の辞職に伴う参議院議員補選を同時にするように安達が辞職時期を選んだためで、野党系が自民・公明との共闘を嫌ったが故だが、さすがに限界があった。
■知事は選挙でなく議会で選ぶほうがいい
都道府県議会選挙では、維新の躍進と共産の凋落が対照的だった。共産の敗因は、代表公選を提案した京都の有力党員を除名して、古典的な共産党から脱皮してないことが露呈してしまったことだろう。
共産党について、私はG7で日本だけが唯一、共産党がそれなりの勢力をもっていることがおかしいので、名前を変え、過去を反省し、日米同盟を認めるのが再生に不可欠と主張してきた。くわしくは『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)を参照してほしい。
さて、それでは、どうしたら首長多選を減少させ、官僚に偏った出自を多様化させ、議会を活性化させられるかについて、提案をしたい。ただし、これには、憲法を改正することを前提にするかどうかで話が変わってくる。
私は都道府県知事も首相と同じように議会で選ぶ議院内閣制のほうがいいと思う。ヨーロッパでしているように、各政党が首長候補を明示して議会選挙をするのだから、現在の県会議長のような地方のボスタイプの人が首長になるわけでないし、魅力的な首長候補を立てないと地方議会で議席を取れない。
![街頭演説を行う候補者](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/b/1200wm/img_2b6b6b641f127549228944194302c78e415553.jpg)
■「立候補=失職」ルールを変えるメリット
しかし、こうした憲法改正を必要とする話をすぐに実現させることはむずかしいだろう。そこでまず、現在は、首長や議員などが他の公職に立候補する段階で職を失うが、これを、当選したら失うようにすればいい。首長が国会議員に出馬したり、逆に国会や地方議会の議員が首長に立候補したりできれば、無風選挙は少なくなる。場合によっては、兼職を認めてもよい。
かつて、フランスでは首相が市長を兼ねたりするのも普通だった。これは、野党の国会議員に行政経験を積ませるのにも役立つ。フランスやドイツなどで野党が首相や大臣になってすぐに通用するのは、州首相などの経験がある人が多いこともひとつの理由だ。
現在は、多くの首長選挙や地方議会選挙が統一地方選挙と違う時期に行われているが、これは、統一すべきだ。政治的思惑で時期をずらすのもよくないし、地域によって同じ時期に複数の選挙する地域とそうでない地域があるのは、複数の選挙が同時にある地域だけ投票率を上げることになり、不公平な影響を選挙に与える。
■「副知事を5人」「次点の人に議席を」…
具体的には、例えば、統一地方選挙まで残存任期が1年未満なら、一度だけ数カ月任期が長くなって良いし、1年以上あれば統一地方選挙までの任期の選挙を一度だけすれば時期は統一できる。
また、現在の都道府県会議員は、国会で議員が大臣になるような可能性を封じられている。大臣をやったことのない国会議員が首相になるのは無理があるのと同じで、県会議員から知事になっても経験不足ということになる。たとえば、副知事を5人くらいに増員して、そのうち何人かは、都道府県議会議員と兼任でもいいのではないか。
![投票所入場整理券](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/1200wm/img_72cf7a034c15073d5601e2175934c644387348.jpg)
また、知事選挙などで落選すると、次点でも公的な立場は何もないことになる。だから、地方自治体には、野党党首がいないのである。これも、たとえば、知事選挙などで次点になったら、議会に議席を与えるようにしてはどうか。
こうした制度改革は、いずれも憲法とは関係なく、公職選挙法などを改正すれば可能なのである。
■もっと多様な人に開けた議会にする方法もある
地方選挙の投票率が低迷しているひとつの理由は、地方議員のなり手不足で、候補者の質が低下しているのも原因だという指摘もある。議員年金廃止はとくに影響が大きかった。とくに、維新や公明党は特権剝奪に熱心である。私はこの2党を割に評価しているのだが、この点については主張が少し行きすぎだと思う。
行きすぎた歳費引き下げにも反対だが、たとえば、議会の夜間開催などで、他の職業と両立可能の範囲を広げるべきだ。あるいは、議長・副議長、委員会の委員長、監査役など役職とその他の議員の待遇を明確に分けるのも一案だ。
議員の数を減らすという意見もあるが、幅広い意見の反映から行きすぎてはならないと思う。議員の政務調査費も、不正使用が後を絶たないが、少し使いにくくしすぎではないか。
現在は、会社員や公務員などが政治の道を志した場合、まず職場を辞めてから出馬するケースが多い。このような政治参加のハードルを上げている「現行ルール」を一つずつでも改善することで、よりユニークな人材が選挙に挑戦できるようにすべきだろう。
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徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。
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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)
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