1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

5月下旬からロシアの爆撃機が大量飛来か…米国政府の機密文書が予想する「プーチンの戦争」の悲劇的結末

プレジデントオンライン / 2023年4月26日 8時15分

2023年4月16日、ロシア・モスクワの救世主ハリストス大聖堂でイースター(復活祭)の礼拝に参加するウラジーミル・プーチン大統領 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■アメリカの支援でも持ちこたえられない恐れ

アメリカ国防総省(ペンタゴン)から流出したとされる機密文書によって、ウクライナ戦争のショッキングな見通しが明らかになった。

SNSで拡散された一連の文書にはウクライナ軍の弱点が記され、ウクライナの防空網が5月下旬にも破綻し、ロシア機の侵入を許すおそれがあるという。ニューヨーク・タイムズ紙は4月9日、流出文書の詳細を報じた。

同紙によると文書は、NATOの支援状況やロシアのプーチン大統領による戦力投入の状況次第では、たとえアメリカが支援を継続しようともウクライナが持ちこたえられないおそれがあると予測している。

機密文書の真贋については、一部改竄(かいざん)が行われている可能性が指摘されているものの、アメリカ防総省は翌10日、資料に機密性の高い文書が含まれる可能性を認めた。NATOの支援を受け善戦しているかに見えるウクライナだが、予想を超えた厳しい状況が明らかになった。

■制空権を守れなければ、国を守れない

ロシアはこれまでウクライナの制空権を掌握しておらず、これが、ウクライナが国土防衛に成功している理由の大きな要因となっていた。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は昨年10月、「ウクライナの空の支配に失敗したことは、ロシアの戦争戦略の重大な欠陥である」と分析している。

記事は、士気の低下や連携不足などロシア軍が多くの問題を抱えていると指摘しながらも、「しかしながら、それにも増してすべてを悪化へ導いたのは、開戦初期に致命的な大失策があったためだと西側当局者たちは語る。すなわち、ウクライナの制空権を獲得することに失敗したのだ」と論じる。

ロシアはミサイルやドローンを投入した戦術で一定の成果を上げているが、欧米の軍事アナリストたちは、こうした兵器に頼ること自体が失策の表れであると指摘しているという。制空権を掌握できず、戦闘機が撃墜されるリスクが大きいからこそ、遠隔地からの攻撃に頼らざるを得なくなっていた。

ウクライナ国立戦略研究所のミコラ・ビエリスコフ氏は、同紙に対し、ロシア空軍が防空網を制圧する訓練を積んでいなかったこともウクライナに幸いしたと振り返る。防空網の制圧には通常、電子戦と物理攻撃機、そしてミサイル攻撃を用いた複合的かつ慎重な連携が求められると氏は指摘する。

■防空システムの89%がソ連製

だが、状況は今後数週間のうちに大きく転換するおそれがある。ペンタゴンの流出文書は、ウクライナが防空能力をそう長く維持できないとの見通しを物語る。

ニューヨーク・タイムズ紙は、「ウクライナの防空は増援なしには危機的状況にあると流出文書が示唆した」と報じている。記事によるとペンタゴンは現在、ロシアが激しい遠距離攻撃を重ねたことで、ウクライナ側で防空に必要なミサイルの備蓄が枯渇する事態を懸念しているという。

ウクライナは戦闘機と対爆撃を迎撃する防空システムとして、ソ連時代のS-300長距離地対空ミサイルシステムおよび9K37「ブーク」中・低高度防空ミサイルシステムを多く配備している。流出文書によるとこれらは、ウクライナ防空システムの89%を占める。

ウクライナ軍の地対空ミサイルシステム「S-300」
ウクライナ軍の地対空ミサイルシステム「S-300」(写真=General Staff of the Armed Forces of Ukraine/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
2008年、ウクライナのキエフで行われた独立記念日のパレードに参加した9K37「ブーク」中・低高度防空ミサイルシステム
2008年、ウクライナのキエフで行われた独立記念日のパレードに参加した9K37「ブーク」中・低高度防空ミサイルシステム(写真=Віталій/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

これら2種のシステムに用いられるミサイルの備蓄が、文書によればそれぞれ5月3日および4月中旬までに「完全に枯渇」するおそれがあるという。文書は2月28日に発行されたものだ。その後の節減などにより、払底までの時間が多少延びている可能性があるものの、いずれにせよ差し迫った状況にあることをうかがわせる。

■5月23日までに「完全に制圧される」

さらに、ニューヨーク・タイムズ紙は同文書を基に、前線部隊の防護を目的に展開しているウクライナの防空システムの一部が、5月23日までに「完全に制圧される」おそれがあるとも報じた。

防空ミサイル枯渇の懸念は、昨年10月以降に激化したロシアのミサイル攻撃を受けて生じた。米タイム誌は、ロシアが同時期以降、ウクライナの電力網をターゲットに数百発の巡航ミサイルを発射し、無人偵察機(UAV)についても数百機を放ったと報じている。

ウクライナはこれを効果的に迎撃し、電力網をほぼ維持することに成功した。しかし同誌は、「その過程において、ウクライナの防空能力は甚大な損耗を生じた」と指摘している。

これにより、ウクライナの地上戦に大きなインパクトを与える事態が予想される。西側の当局者はニューヨーク・タイムズ紙に対し、ロシアは戦闘機や爆撃機を安全にウクライナ領空へ侵入させることができるようになり、ウクライナ地上軍は甚大な打撃を受ける展開が懸念されると語る。

空を飛んでいく爆撃機
写真=iStock.com/davemantel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/davemantel

■ロシアから膨大な数の爆撃機が解き放たれる

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)でミサイル防衛プロジェクト担当副所長を務めるイアン・ウィリアムズ氏も、同様の見方だ。タイム誌に対し、「ウクライナの防空能力が徐々に失われ、交戦能力がない水準にまで落ちこめば、ウクライナ領空にロシアの航空機が戻ってくるおそれがあります」と語る。

「ウクライナの戦果はこれまでのところ、その防空能力によってもたらされてきました。……ですから、これは危険なのです」

英シンクタンクの王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシッダールタ・コーシャル研究員は、タイム誌に対し、「備蓄が致命的に減少したならば、(ロシアの飛行機は)前線を越え、現在よりも大幅に自由に活動する余地が生まれます」と指摘する。

CSISのウィリアムズ氏は同誌に対し、「もし突如として、航空機の損失率が許容範囲内に収まるようになったのならば、それは大きな変化をもたらし、ロシアが保有する膨大な数の爆撃機が解き放たれるでしょう」との予測を示した。

こうした流出文書は、ウクライナの厳しい戦況を明らかにするものだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、「同国政府が公に認めている以上に、ウクライナ軍が悲惨な状況にあることを示唆」するものだと指摘している。

■西側の最新兵器は一部で取り入れているだけ

米FOXニュースは4月13日、ウクライナ防空隊を「空の守護神」として活躍を報じながらも、その厳しい現実を取り上げている。同局が戦場で同行したある23歳男性の兵士は、ミサイルやドローンの飛来警報を受けて配置に就き、ソ連時代の牽引式の対空機関砲であるZU-23を放つという。

部隊ではアメリカ製対戦車ミサイルのジャベリンやスティンガーなど、西側の兵器も取り入れている。しかし、多くは旧ソ連時代の兵器に頼っているようだ。ZU-23については、この兵士自身の年齢よりも3倍も古いという。

兵士はFOXニュースの取材に対し、自爆ドローンなどを撃墜するうえでZU-23が効果を発揮している一方、射程が短いことから、一定距離を置いたロシアのヘリや航空機に対しては無力だとも語った。

「これらは時代遅れの兵器ですので、もっと近代的で技術的に発達したものが必要なのです」

■ソ連製だから予備のパーツがない

ミサイルシステムに修復が利かない点も問題となっている。同局によると、ウクライナ航空司令部のユーリー・イグナット報道官は、「結局のところ、(仮に)こうしたシステムが破壊されたり故障したりした際、われわれには予備のパーツがないのです」と述べている。

「なぜならこれらの装備は、ミサイルと同様、すべてロシアで生産されているからです」

米ニュースメディアのニュージーも、同報道官による説明を取り上げている。それによるとロシアは、イラン製のドローンを大量に放つことで、ウクライナのミサイル在庫の枯渇を図っているという。

さらに報道官は、兵器の多くは旧ソ連やロシア製であり、「旧ソ連製の装備は壊れるのです」と課題を挙げた。在庫が枯渇するだけでなく、故障した際にスペアパーツの調達先が存在しないことが問題になっているようだ。

■ウクライナは「防空システムの動物園」になっている

兵器在庫の枯渇を避け防空網を維持すべく、ウクライナは西側システムへの切り替えを図っている。だが、現状は旧ソ連時代の装備と混在しており、むしろ混乱の原因となっている。

米技術解説サイトのポピュラー・メカニクスは、ウクライナに西側諸国から寄贈された兵器が集まり、「防空システムの『動物園』」になっていると指摘する。スティンガーなど携行型の兵器を除いても、防空システムだけでこれまでに12種類が西側から供与された。

同記事は、「ロシアによるウクライナの都市への長距離ミサイル攻撃は、ウクライナの防空システム在庫をめぐる消耗戦の様相を呈している」と述べ、西側による武器供与の意義を認めている。検知から射出までを5秒で完了できるフランス製クロタルNG対空ミサイルシステムなど、幾分近代的な装置が供与されている。

しかし、多種多様な機材がウクライナに寄せられることで、ウクライナ軍は「持続性、相互運用性、人材育成の観点から課題に直面している」とも指摘する。

ウクライナ東部の最前線
写真=iStock.com/Jakub Laichter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jakub Laichter

タイム誌も同様に、ノルウェーとアメリカが開発したNASAMS対空ミサイルシステムやドイツのIRIS-T短距離防空システム、そしてアメリカのパトリオット地対空ミサイルシステムなど、多様な防空システムがウクライナに集いつつあると報じている。

だが、RUSIのコーシャル研究員は同誌に対し、各システムの供与の数が限定的であることが課題になっていると述べる。氏はさらに、「訓練面での相当な負担」が生じているとも述べ、防空システムの供与によって新たな問題が持ち上がっていると指摘した。

■欧米のシンクタンクの見解も「機密文書」と一致

ロシアによる侵略戦争は許されるものではなく、ウクライナとしては当然ながら自国の領土を護る権利がある。軍事国家の増長を許せば国際平和への悪影響は明らかであり、アメリカはじめNATO加盟各国はプーチン氏の策謀の阻止に動いている。

ところが、これまでロシアの想定を超えて良好に機能してきたかに見えるウクライナの防空網は、極めて危ういところにまで追い詰められているようだ。ペンタゴンから流出文書した文書は、そのすべてが真正であると確認されていない点に注意が必要ではあるものの、欧米のシンクタンクは防空網崩壊のおそれを認める見解でおおむね一致している。

今後の状況のいかんによっては、ロシアの巡航ミサイルにより効果的に対処すべく、NATOが戦闘機の供与を本格化する展開も考えられよう。ポーランドとスロバキアは3月、ウクライナに対してMiG-29戦闘機を供与すると表明した。

同機は2004年、ドイツからポーランドに22機が引き渡されており、第三国への提供にはドイツの承認が必要となっていた。ロイターは4月14日、ウクライナへの5機の供与をドイツが承認したと報じている。

■供与される戦闘機にもロシアの罠が仕掛けられていた

一方、スロバキアからのMiG-29はすでにウクライナに到着しているものの、戦闘に投入できる状態ではないようだ。英テレグラフ紙は、スロバキアのヤロスラフ・ナド国防相による国会での答弁を取り上げている。

それによるとナド氏は、飛行はできるが戦闘に堪えない状態であると述べた。昨年までスロバキアの空軍基地に勤務していたロシアの技術者が、損傷した部品を意図的に同機に取り付けていた疑いがあるという。

ウクライナはアメリカに対し、F-16の供与を切望しているが、バイデン大統領は現時点で否定的だ。費用に加え、実戦配備までに1年以上を要する点を考慮すると、現実的でないとの立場だ。

5月にも崩壊が懸念される防空網の維持に向け、当面綱渡りが続きそうだ。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください