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迷ったら紙パンツを履きなさい…和田秀樹「70歳からの不調とご機嫌に付き合うための極意」

プレジデントオンライン / 2023年4月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Toa55

年を重ねても健やかに過ごすにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「老いによる不調が出ても、体力が低下するような手術をして治すよりも、その症状を受け入れることだ。高齢期に排泄コントロールに不安を感じた知り合いのお母さんは、紙パンツを常時履くようにしたことで、排泄の失敗への不安もなくなり精神的にも落ち着きを取り戻した」という――。

※本稿は、和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■無理に不調を探し出さないほうが健康を維持できる

高齢になると、誰しも体のどこかしら「不調」が出てくるものです。長年、肉体を使い倒してきて古びてきたのですから、ほころびが出てくるのは当たり前です。

私は以前、高齢者専門の病院である浴風会病院というところで働いていました。そこで、毎年多くのご高齢の方たちのご遺体を解剖していましたが、いくつものご遺体を見て気づいたことがあります。ご遺体のほとんどに、ご本人が自覚していなかったような病巣があったのです。

亡くなった原因は別にあったのですが、ご本人には自覚症状が最期までなかったけれど、病巣の状態としては、もし見つかっていれば深刻なものとして扱われていたであろうものも少なくありませんでした。

つまり、自覚症状を伴って表に現れている病巣は、実はほんの一部にすぎないということです。普段どおりの生活を送ることができるし、とくに痛みもなければ不都合もない。

当然、自分の内側にそんなものが巣食っているなど気づきようもないけれど、老いた体のあちこちには、無自覚のまま進行している病巣があるのです。

そうした「自覚症状なき病」は、何か問題があるでしょうか。もっと早くに精密な検査を行って、それらの病気の芽を見つけ出して、叩き潰しておくべきだったのでしょうか。そんなことはないでしょう。

自覚もなく、本人になんらの不具合をもたらさないのであれば、わざわざ体にダメージを与えるような手術や投薬などをする必要もないのです。

治療というのは、本人の不調を治し、できる限り心地よく暮らせるようにすることを目的としています。体内の病巣をすべてあぶり出し、本人の生活になんら悪影響を及ぼしていないようなものまで、無理やり根絶する必要はありません。

ところが、日本の正常値絶対主義や、やたら検査にばかり力を入れる風潮は、害のない病理までをあぶり出して、無理やり医療のメスを入れようとしたがる医者と、それをありがたがる患者を生み出します。

しかしそれは一体「誰のため」の医療なのか。製薬会社と病院側にとっては「需要」を掘り起こせるかもしれませんが、患者目線で考えたときに、果たしてそれは必要な治療だったのかという大きな疑問が残るのです。

■高齢になったらがんと闘わない

自覚症状なき病の代表格ともいえるのが、がんでしょう。

85歳以上の方のご遺体を解剖すると、ほとんどすべての方の体内からがんが見つかります。私たちの多くは、がん検診というものに非常に熱心です。少しでも早期に体内のがんを発見することが重要で、早期発見・早期治療しなければ死に至る病だと思い込んでいます。

しかし、本当にそうでしょうか。がんというのは、つまり自分の細胞がコピーミスを起こして異常増殖したものです。どんな人でも長く生きてくると、体内にある数十兆個もの細胞のなかから「バグ」を起こすものが出てきます。

つまり、ある程度の年齢になれば、誰もが体の中にがんを飼っているのだと思ったほうがよいのです。それなのに、「がんが見つかりました」と言われると、余命宣告を受けたかのようにショックを受け、なんとしても取り除かなければいけないと思い込む人のいかに多いことか。

なんの自覚もなくがんを飼い続けて、別の症状によって人生を終えられた多くの先輩たちのご遺体を見てきたからこそ、私は、「闘わなくてよいがん」「生きるうえでなんの支障にもならないがん」が数多くあることを、声を大にして言いたいのです。

そもそも先述のとおり、がんはいきなり降って湧いた異物ではなく、自分の細胞が変性したものであって、自分の体の一部です。それであればなおのこと、「がんと闘う」なんて、不思議な言い回しだと思いませんか。

自分の体の一部と闘おうとすれば、体が弱って当たり前です。闘う相手としてではなく、エラーを起こした自分の細胞とどのように付き合うか、という視点でがん治療を考えてみるとよいでしょう。

とくに、高齢になればなるほど、がんの進行もゆっくりになっていくわけですから、治療せずに様子を見る、という選択肢があって当然です。あるいは、手術する場合でも、がん部分だけを切除するという選択も大いにありえます。

ところが、現代においては転移のリスクを考えて、がん部分だけでなく周囲の細胞を含めて大きめに切除するのが標準治療となっています。

■右肺の下半分を切除で食欲と体力が減退

私の知り合いのお母さんは、82歳で肺がんが見つかった時に「小さながんだから切除しましょう」と言われて、手術を受けました。手術が終わったあとになって、右肺の下半分が切除されたことを知ってビックリしたそうです。

メスを入れてみたところ、予想以上にがんが広がっていたために大きく切除をする、ということはよくある話ですし、転移のリスクを考えると外科医はどうしても大きめに切り取りたくなってしまうものなのです。それが標準治療ですから、この医師がおかしな手術をしたわけではありません。

レントゲン写真を見ながら説明する医師
写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

それでも80歳を超えた体にとって、右肺の半分を失うということはかなり大きなダメージとなりました。さらに、執刀医が平然と「悪い部分は取っておきましたから」と言ったその対応に強い違和感を覚えたそうです。

がんは取れたかもしれないけれど、その結果、どのようなダメージがもたらされるのかということに、まったく頓着しない医師の様子に、怒りすら湧いたといいます。

事実、右肺がいきなり半分の大きさになったことで、胃の位置の収まりが悪くなり、吐き気に悩まされるなど、お母さんの不調は長らく続きました。80歳を超えて食欲がなくなると、体力は一気に低下します。

がんは取れたけれども、果たしてその後の「生活の質」(QOL)から考えると、あの手術をやるべきだったのかどうか……。このお母さんは、3年後の健康診断で再び肺がんが見つかりますが、今度は手術を拒否します。すると医師は「手術をしないなら、私にできる治療はない。ご勝手に」と、投げ出すような発言をしたそうです。

手術をする選択もあれば、しない選択もある。標準治療以外の道を患者さんが選んでも、そのことを尊重して、しかるべき緩和ケアにつなぐといった心ある対応のできる医師が増えてほしいものです。

高齢者になると、必ずしも治療をする必要がない病、治療しないほうがよい晩年を送ることができる病というものが少なくありません。患者さんの立場に立って、よりよいケアを考えてくれるかかりつけ医を見つけておくこと。これにまさる備えはありません。

■専門医よりもかかりつけ医による生きたアドバイスで前向きに

別の知り合いのお母さんの件もご紹介しましょう。専門医よりもかかりつけ医の的確なアドバイスによって安心の生活を整えることができたというケースです。

そのお母さんは、80歳を目前にした頃から、骨盤を下から支えている骨盤底筋の筋力低下によって排泄コントロールが難しくなったといいます。

本人は、自分でなんとかしようとしていたようで、頻繁にトイレに行くようにしたり、尿もれパッドをつけるなどの努力を続けていたのですが、ついに直腸脱を起こして大量に出血するようになってしまいました。

括約筋の筋力がなくなり、直腸が肛門から出てきてしまうのが直腸脱で、こうなるとなおさら排泄のコントロールが難しくなりますし、外出どころではなくなります。

そこで、「肛門科」の専門医としての看板を掲げている地域の病院を見つけ出して受診したところ、「括約筋が全然機能してないから紙パンツ履いて。出血しているので軟膏だけ1週間分出しておく。あとはもう来なくていいから」とだけ言われたそうです。その後どうすべきか、どんな治療ができるのかなど、何の説明もしてもらえなかったと言います。

不安ばかりが募る結果となってしまい、思わず内科のかかりつけ医のところにその足で相談に行きました。

すると、さっさと触診もしてくれて、「出産を経験した人のなかには、こういう症状が出る人もいる。頑張ってきた証拠。貧血にならないように気をつければ、あとは心配いらないから」と言われたそうです。

患者に説明する男性医師
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

手術での治療の可能性を聞いたところ「今の年齢で入院して手術することのリスクを考えると勧めません。それよりは筋力をつけたほうがいいですよ。紙パンツはいいと思います。あとはトイレの度にいきみすぎないようにね」などと、丁寧なアドバイスをもらえました。

実際、週に一度のデイケアで下半身の筋力をつけるような体操を継続したところ、直腸が飛び出す症状も落ち着き、出血もなくなったといいます。紙パンツを常時履くようにしたことで、排泄の失敗への不安もなくなり精神的にも落ち着き、かえってトイレできちんと排泄できることも増えたそうです。

専門医との相性の問題もあったのかもしれませんが、かかりつけ医のほうが、適切に患者さんに寄り添い、症状との向き合い方をきちんと教えてくれたということだと思います。

体力が低下するような余計な手術はしない。自分の今持っている筋力をできるだけ維持する。気にしすぎない。紙パンツなどを積極的に活用してストレスを軽減させる。これらはすべて、老いによるさまざまな不調と上手に付き合うための極意とも言えます。

■早めの紙パンツで「生活の質」は向上する

私は、排泄コントロールに少しでも不安を覚えたら、早めに紙パンツを利用することをお勧めしています。

紙パンツを履くことに抵抗を示す人がいます。自分はまだ紙パンツなんかのお世話にならない! と意地を張りたくなる気持ちもわからなくはありません。でも、履いてしまえば、不安やストレスから解放されて、安心して外出もできるようになるのに、もったいないと思います。

しかも、最近の紙パンツは薄くて性能もよく、外側からはまるで気づかれません。いわゆる、昔ながらの「オムツ」のイメージからは様変わりしています。

和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)
和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)

年齢とともに筋力が衰えるのは、腕力や脚力だけではありません。当然ながらインナーマッスルも衰えていきます。骨盤の底を支える骨盤底筋も加齢とともに衰えていきます。それによって、排泄関係の失敗が起きやすくなるのです。

骨盤底筋を鍛える体操ももちろんやるにこしたことはないですが、一方で、「万が一漏れてしまったら」と怯えてびくびくしながら過ごすのと、紙パンツを履いて「万一のときも安心」という気持ちを手に入れるのと、どちらがより健康的に過ごせそうでしょうか。安心感を手に入れられれば、行動範囲もぐっと広がるでしょうから、健康にはよいことばかりです。

無理をしない。場合によっては、「治そう」としすぎず、その症状を受け入れて、上手な付き合い方を考える。ぜひ、いろいろな「不調」を感じたとき、専門病院に飛び込む前に一歩立ち止まって考えていただきたい視点です。

そして、まずは信頼しているかかりつけ医に相談してみてください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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