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日本独自規格「軽自動車」はガラパゴスのままで良いのか…世界で戦える"日本の超小型車"という生き残り策

プレジデントオンライン / 2023年4月30日 9時15分

道の駅・伊豆月ケ瀬で撮ったホンダN-ONEのフロント - 写真提供=筆者

軽自動車の値上がりが続いている。小型車との比較で価格面、税制面の優位性がなくなりつつあり、このままいけば日本独自規格の「軽」は廃れゆく運命なのか。自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明氏は「サイズや排気量で規定するのではなく、燃費で規定するように変えれば、軽をはじめとする“超小型車”にまったくちがう未来の可能性が生まれる」という──。

■15年前の軽自動車を乗り換えるには何がベストか

わが家には妻がメインに使っている軽自動車が1台ある。2008年式の三菱アイで、三菱がダイムラー傘下の時代に開発されたからか、リアにエンジンを搭載するというスマートと同じユニークなレイアウトを採用しており、デザインも欧州車に通じる雰囲気があって非常に気に入っている。

すでに15年が経過しており、あちこちに劣化を感じるようになってきた。私も妻もほかにデザイン的に納得できる軽自動車がなく、今まで使い続けてきたわけだが、しかし15年となるとそろそろ買い換えを検討しなければならない。そこで候補車を考えることにした。

有力候補は、昨年4日間試乗して感銘を受けた日産サクラ(「『日産サクラを4日間実生活で使ってみた』プロが指摘する買ってもいい人、やめたほうがいい人の条件」参照)だが、電気自動車はまだまだ実用上の問題点も多く、スタイリングも妻の好みに合わないため、ガソリン車も検討することにした。

■評判の良いホンダN-ONEを試してみる

現状新車で買える車種のうち、デザイン的になんとか妥協でき、車としての仕上がりが評判の良いホンダN-ONEを、ホンダのご厚意で4日間借りて使ってみることにしたのである。

ホンダN-ONEのリア(手前)
写真提供=筆者
三菱アイ(奥)の代替車になるだろうか。ホンダN-ONEのリア(手前) - 写真提供=筆者

軽自動車にはNA(自然吸気)とターボがあるが、NAは平地の一般道では良いものの、上り坂や高速道路では明確にパワー不足であり、現在のアイもターボモデルを選んでいる。そのためN-ONEのターボ車をリクエストしたところ、RSというトップグレードを借りることになった。

トランスミッションはCVT(無段変速機)である。私はCVTが苦手で、今までアイを買い換えなかった理由の1つでもある(アイは4速オートマチックトランスミッション)。

現在の軽のほとんどがCVTで、車検時に代車で何度か乗ったことがあったのだが、CVTは車速の変化とエンジン回転数の変化がリニアではなく、車速がコントロールしにくく感じられて避けていたのである。

■想像以上の満足感

ところが、青山一丁目のホンダ本社でN-ONEを借りて乗り出した瞬間、衝撃を受けることになる。なんとも素晴らしい乗り味なのである。

まず発進加速がスムーズでパワーも十分、音もさほどうるさくなく、軽に乗っているという感覚が希薄なのだ。この感覚は、電気自動車の日産サクラにちょっと通じるものがある。もちろんサクラのほうがさらに加速が良く(電気自動車は発進加速が得意なのである)、静かではあるのだが。

CVT特有の癖はあるものの、今まで乗った軽のCVTの中では最良に感じられ、これなら十分我慢できる仕上がりである。

N-ONEの美点はそれだけでなく、乗り心地も良いのである。RSというスポーティグレードにもかかわらず直接的な突き上げがほとんどなく、非常に快適だ。

室内も十分に広く、車高もそれほど高くないのでコーナリングも軽自動車としては安定感があり、全体的に非常に満足できる車だった。

■しかし、「軽」にしては高すぎないか…

ではN-ONEに買い換えるのか……というと、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)する要素がある。それは価格だ。

N-ONEのターボ車を買おうとするとプレミアムツアラーかRSということになるが、安いほうのプレミアムツアラーでも188万9800円もするのだ。ナビやETCなどを付けると、総額で220万円ほどになる。

現在、軽自動車はどれもかなり高価になっていて、N-ONEだけが突出して高いわけではない。NAモデルでも150万円程度が当たり前になっており、ターボモデルでは170万~200万円となる。

ここで1つ疑問が生じてしまう。200万円も出すのなら、ほかにも選択肢があるのではないかと。

■小型車のハイブリッドと重なってくる価格帯

たとえば同じホンダでも、フィットという小型車がある。フィットは159万2800円から買うことができ、e:HEV(ハイブリッド)でも199万7600円で買えるのである。

ハイブリッドなら123馬力の電動モーターを装備しているので、軽ターボの64馬力とは走りのゆとりがまったく異なる。また燃費も、N-ONEターボの21.8km/L(WLTCモード、以下同)に対し、フィットe:HEVは30.2km/Lと圧倒的に良い。

システム出力116馬力のトヨタ・ヤリス・ハイブリッドも201万3000円から購入でき、燃費はなんと36.0km/Lである。

フィットe:HEV HOME
写真提供=Honda
N-ONE以外に小型ハイブリッド車も有力な選択肢になる。写真はフィットe:HEV HOME - 写真提供=Honda

■維持費を考えても小型車ハイブリッドに軍配

軽自動車のベネフィットは維持費の安さである。

軽自動車税は1万800円。それに対しフィット/ヤリスのハイブリッド車は1500ccなので、自動車税は3万500円で1万9700円の差がある。重量税は500kgあたり軽が3300円に対し普通車は4100円(年額)で、N-ONEは1t以下だがフィット/ヤリスは1tを超えるので、6600円対1万2300円と5700円の差となる。

自賠責保険は12カ月で1万1500円と1万1440円でほとんど差がない。合計すると1年あたりの軽の経済的ベネフィットは年2万4760円となる。

しかし燃費ではハイブリッド車のほうが圧倒的に良いので、WLTCモードの数値をそのまま使うと、年間1万km走るとして、ヤリスハイブリッドなら277.8Lのガソリン消費だが、N-ONEターボは458.7Lを消費する。その差は181L。

ガソリン1Lを155円と仮定すると、その差は2万8055円だ。つまり、軽自動車の税金のベネフィットは燃料代で消し飛んでしまうのだ。

フィットハイブリッドの場合はガソリン消費が331.1Lで、ガソリン代の差は1万9778円。トータルコストの差は5000円程度にすぎない。しかも地球環境的に考えると、ハイブリッドのほうがはるかに貢献する。

■軽自動車は日本だけの独自規格

ではなぜ軽自動車はこんなに高いのか。

ハイブリッド車はより大きな車体により大きなエンジンを備え、モーター・バッテリーも備えているのに200万円程度で売ることができるのに、軽ターボ車は200万円近くしてしまう。その主たる理由は、「軽自動車」という規格そのものにあると思われる。

日本人にとって軽自動車というのは当たり前の存在であるため、海外にあまり行ったことのない人が海外に行くと、「海外では軽はあまり走ってないですね」などという感想を聞くことがある。そもそも軽自動車というのは日本独自の規格であり、海外で採用している国は1つもない。

軽自動車は終戦直後の通産省による「国民車構想」からスタートし、1949年に成立した規格で、本格的に販売が始まったのは1955年発売のスズライト(スズキ自動車)からである。

しかし軽自動車は、当初から価格面のメリットに乏しかった。手持ちの資料で最も古い1968年の価格表を見ると、スバル360の31万9000円に対し、700ccのトヨタ・パブリカは35万6000円と大きな差はなかった。

ハイブリッドなど存在しなかった当時、それでも軽自動車の燃費は相対的に良く、税制の経済的ベネフィットは現在以上に大きかったので、軽自動車はその価格でも売れたのである。

■インド進出時は「パワー不足」でNG

軽自動車が安くならないのは、日本独自の規格のため海外での競争力がまったくないからである。

軽自動車の規格は徐々に大きくなっていて、現在では排気量660cc、全幅1480mm以下、全長3400mm以下、全高2000mm以下となっている。多くの軽自動車が前後左右に“見えない壁”で押しつぶされたようなデザインになっているのはこの規格のせいである。

このサイズは、世界的に見るとあまりに特殊で、とくに排気量が小さすぎ、横幅も狭すぎる。

スズキが1981年にインドに進出したとき、最初に作り始めた車種はアルトだったが、エンジンは800ccに拡大していた。当時高速道路が存在しなかったインドの交通環境でも、550cc(当時の軽規格)では「パワー不足」と判断されたからである。

全幅の狭さは狭い道路では有効だが、速度が増すと視覚的にも運転感覚的にも不安定感が出てしまう。また、必然的にドアが薄くなり、側面衝突時の不安を感じさせる。インドで売られている最新のワゴンRは日本で売られているものとはまったく異なり、全幅は1620mmと軽規格より140mm幅広い。

■「日本市場限定」が軽自動車の成長阻害要因

このようなことから、日本の軽自動車は事実上「日本市場専用車」なのである。つまり日本で売られている台数がすべて。その割には車種が多いので1車種当たりの生産台数は限られる。

一方、フィットやヤリスは世界的に売られている国際商品で、生産台数も圧倒的に多い。これが結果として1500ccのハイブリッド車と軽ターボ車がほとんど同じ価格、ということにつながっているのだ。

そもそも軽であっても、車体が小さいだけで必要な部品数はあまり変わらず、その部品のコストは生産台数で変わってくるはずである。そしておそらくそれが理由で、軽のハイブリッドが存在しないのだ(マイルドハイブリッドはあるが)。

本格的なハイブリッドを軽で作ろうとすると、スペースの制約もあるため専用設計となり、相当高価なものになってしまい採算が合わないのだろう。そのため、現在最も燃費の優れる軽自動車であるスズキ・アルト・マイルドハイブリッドでも、燃費は27.7km/Lに留まっている。

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写真=iStock.com/GAPred
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GAPred

■軽自動車に秘められた意外なポテンシャル

しかしこれは非常にもったいないことである。

ヤリスやフィットよりも小さく燃費の良い車の需要は世界的にあると思われる。にもかかわらず欧米メーカーはガソリンエンジン搭載のAセグメント、Bセグメントといった小型で安価なモデルは将来性・採算性が悪いという判断で、生産停止したり、モデルチェンジを中止したりしている。

その需要を埋めるポテンシャルがありながら、あまりにいびつな規格のために軽自動車は国際商品とはなり得ないのだ。

もう少し排気量を上げればもっと燃費が良くなる可能性があり、それにハイブリッドを組み合わせればヤリスを上回る燃費が達成できるのは間違いないだろう。

■「軽規格」を撤廃し、燃費で規定しよう

そのためには軽規格をどのようにすれば良いか。私は排気量やサイズで規定するのは時代に即さないと思う。これからの軽規格は、燃費で規定すれば良いと思う。たとえばWLTCモードで40km/L以上とか。

さらに言うと、軽という規格は廃止して、純粋に燃費水準だけで税額が決まるようなシステムにすべきだ。また電気自動車でも、電費に基づく税制や補助金にするべきだろう。

現在は、登録車でも排気量のみで税額が決まるため(燃費ではグリーン化税制による1年限りの優遇策のみ)、車重が重く空気抵抗も大きい(=燃費が悪くなる)SUVやミニバンが売れているが、もっと燃費の良い車に需要を誘導するような税制にすべきと思う。

好燃費を達成するためにはハイブリッドが必須だろうし、軽量化も必要、空力にも配慮する必要があり、サイズもそれほど大きくできないだろう。サイズが適切で超低燃費であれば国際的に通用するモデルになる可能性が高く、そうなれば生産台数も増えて価格も安く抑えられるだろう。

■EVと超小型ハイブリッド車が並存する未来

将来的には電気自動車化が話題になっているが、現状ではバッテリー価格が上昇し、小型の電気自動車を安く作るのは難しいことが明確になりつつある。

電気自動車は普及していくだろうが、インフラの整備等も必要になるので、世界中のすべての車が電気自動車に置き換わるのは当分先になるだろう。

しかし、このような超低燃費の小型ハイブリッドならば現状でも問題なくリーズナブルな価格で大量生産できるはず(ハイブリッド車に必要なバッテリーはBEVの80分の1で済む)で、地球環境問題を考えても世界的に普及させるべきと考える。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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