1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

日本にしかない"商機"を見出している…伝説の投資家バフェットが今、「5大商社」の株を買い増す本当の狙い

プレジデントオンライン / 2023年4月24日 9時15分

2019年5月3日、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏(アメリカ・ネブラスカ州オマハ) - 写真=AFP/時事通信フォト

■5大商社の保有比率を7.4%に高めた

4月11日、米国の著名投資家であり“オマハの賢人”と称されるウォーレン・バフェット氏は、日本経済新聞社のインタビューに応じた。バフェット氏は、保有してきたわが国の“5大商社”の保有比率を7.4%に高めたことを明らかにした。バフェット氏にとって米国株以外で最大の投資だ。

加えて同氏は、日本株への追加投資に関しても積極的な考えを示した。その後、バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイは円建て社債の発行を発表した。なお2020年8月、バフェット氏がわが国の総合商社株を保有していることが明らかになって以降、同氏は総合商社株の保有を増やしている。

今回、バフェット氏が5大商社の株を買い増した背景にはいくつかの要因がある。その中で注目したい点は大きく3つある。各社の株価の割安さ、ビジネスモデルの優位性、さらに景気の谷越えで利得を得る。そうしたポイントをバフェット氏は重視しているのではないか。同氏の投資手法は、わが国の個人投資家だけでなく、企業の経営者などが今後の世界経済の展開を予想しリスク管理などに生かすためにも示唆に富む。

■経済、社会、地政学リスクなどが抑制されている

バフェット氏にとって、足許の日本株、その中でも三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、住友商事、丸紅の5大商社は、かなり割安に映っているだろう。日本株の割安さを確認するためには、主要先進国の予想ベースの“株価収益率(PER)”の水準を確認するとよい。PERは、株価が一株当たりの予想利益の何倍になっているかを示す。

伝統的な経済学の理論では、長期的にみて米国株式などのPERは14~17倍であればおおむね公正な価格水準と考えられてきた。2023年4月中旬の時点で米国のニューヨークダウ工業株30種平均株価とS&P500インデックスのPERは18倍台だ。IT先端銘柄が多く上場するナスダック市場の主要100銘柄から構成される“ナスダック100インデックス”は26倍だ。いずれも割安とは言いづらい。

一方、日経平均株価のPERは13倍台、東証プライム全銘柄のPERは14倍台前半だ。わが国の株式市場の流動性は安定している。世界的に名の知れた企業も多い。なおかつ、経済、社会、地政学リスクなどが抑制されているという点も踏まえると、世界的にみてわが国の株価は全体として割安な水準にあると評価できる。

■バフェット氏が得意とするバリュー株投資

中でも、5大商社のPERは低位に安定してきた。加えて、三菱商事の場合、株価を一株当たりの純資産で割った数値〔株価純資産倍率(PBR)〕は1.00を下回っている。つまり、株価は、今すぐに企業が解散した場合に株主が受け取ることができると考えられる価値を下回っている。個別企業ごとに差はあるが、PBRから見ても総合商社株には割安感がある。

過去、バフェット氏はこうした割安感の高い株を購入し、長期にわたって保有して莫大な富を手に入れた。そうした投資のスタイルをバリュー株投資という。なおかつ、バフェット氏は強いブランド競争力を持つなど事業運営面の優位性も重視する。

バフェット氏が保有する銘柄の代表の一つに、米国のコカ・コーラがある。コカ・コーラは世界でおなじみの清涼飲料水だ。老若男女、先進国、新興国を問わず、人気は高い。高い競争力は潤沢なキャッシュフローの創出を支える。IT先端企業のような派手さはないものの、ビジネスモデルは堅実、かつシンプルでわかりやすい。そうした銘柄をバフェット氏は選好してきた。

■世界にはない「総合商社」の優位性を評価している

総合商社という事業運営の形態(ビジネスモデル)は他の国には見当たらない、わが国独自のものだ。総合商社のビジネスモデルは世界経済の変化に迅速に対応する機動力を持つ。ある意味では、世界経済の環境変化にしなやかに対応し、いち早く収益を得る。それは、わが国総合商社の大きな特徴だ。そうした優位性に着目し、バフェット氏は各社の株式を積み増した。バフェット氏は各社との連携にも前向きな考えを示している。

総合商社の事業領域は非常に広い。繊維やアパレル関連などから石油、鉄鉱石、航空機や半導体、医療機器、さらには食料など、第1次産業から第3次産業までを幅広くカバーしている。各社は世界に情報網を張り巡らし、内外の経済、社会の変化などを機敏にとらえる。その上で、成長期待が高く、自社の強みが発揮できる分野に迅速に“ヒト、モノ、カネ”を再配分して収益を得る。

■総合商社が果たす役割はいっそう増える

例えば、近年、総合商社は脱炭素関連の事業に商機を見出している。その一つとして、洋上風力発電など再生可能エネルギーを用いた発電プロジェクトへの投資が積み増されている。一方、石炭採掘関連のプロジェクトなどは縮小され始めた。天然ガス関連の分野では採掘などから排出される二酸化炭素を地中に貯留したり、ガス田に貯留したガスを注入して生産性を高めたりする技術への投資も行われている。

ソーラーパネル
写真=iStock.com/hrui
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hrui

中長期的に世界経済における総合商社の優位性は高まる可能性が高い。特に、足許の世界経済では、台湾問題の緊迫感の高まりなどを背景に、サプライチェーンの再編が加速している。一方、IT先端分野ではSNSなどソフトウェア開発が牽引したビジネスモデルの優位性が行き詰まり始めた。

スマートフォンなどデジタル化を支えたデバイスの需要も減少している。脱炭素、人工知能(AI)利用など世界経済の成長には、新しいハードウェア(最終製品)の創造が欠かせない。その分野で、わが国には素材や精密な工作機械など、高度な製造技術を持つ企業が多い。そうした技術と海外の潜在的ニーズをつなげるという点でも、総合商社が果たす役割は増えるだろう。

■バフェット氏が狙っているタイミングとは

バフェット氏は、中期的な景気回復による総合商社が発揮する需要創出、それに伴う業績回復、そして株価の上昇を狙っているだろう。短期的に世界経済のさらなる減速や後退の懸念は高まりやすい。

3月、米国では2つの中堅銀行が破綻した。欧州ではクレディスイスが救済買収された。また、世界的に原油価格は上昇し始め、米国では消費者のインフレ予想が再度上昇し始めた。中国経済は徐々に持ち直してはいるものの、コロナ禍が発生する以前のような成長の勢いは見られない。連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は慎重に金融引き締めを継続し、インフレ鎮静化に取り組むだろう。

米国などでは商業用不動産の価格が下落し、資金繰りに窮する投資ファンドも出始めた。世界経済は景気の谷に向かい、幾分か総合商社の業績が下押しされる可能性はある。ただ、中期的には、どこかのタイミングで景気は底を打ち、徐々に回復するはずだ。その過程で総合商社の業績は回復、拡大するだろう。

■今こそ日本の製造技術を磨くチャンスだ

その際、いつ、相場の底が訪れるか、ピンポイントで予想することは至難の業だ。相場の格言にある通り、“頭と尻尾はくれてやれ”だ。世界の株式相場の底が近いと考えられる場合には、金額とタイミングを分けて投資を積み増す。安く買えたら、時間の経過とともに景気が好転するのを待つ。その発想に加えてバフェット氏は総合商社の割安感、事業運営体制の優位性を評価し、日本株の保有比率を高めた。

バフェット氏は追加の対日投資も検討している。4月14日、バークシャー・ハサウェイは新たに円建てで発行する社債の条件を決めた。債務の借り換えに加え、バフェット氏は、総合商社への追加投資や他の分野の本邦企業への投資も検討している。同氏の脳裏には、中長期的な世界経済の環境変化が進む中でわが国企業が強みを発揮できる分野が増えるイメージが出来上がっているだろう。

見方を変えれば、わが国の企業や個人にとって、世界的に重要度の高まるデジタル関連分野などで製造技術や自己研鑽に励む意義は増している。

----------

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

----------

(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください