1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

これから「子育て世帯」はたったの2割になる…日本社会を待ち受ける「家族崩壊」という現実

プレジデントオンライン / 2023年4月26日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solidcolours

■半数近くを占めていた「夫婦と子」世帯は4分の1に

少子化対策が話題になって、出生や人口の減少ばかりが取りざたされますが、それと同じくらい深刻なのが「家族の減少」です。長らく続く婚姻減や少子化とは、家族が新しく作られないということを意味するからです。それは、日本の世帯構造の大きな変化として顕在化しています。

つい先ごろ上梓した『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)の中でも、メインのテーマとして掲げたコミュニティ構造の変化、とりわけ今回は「家族という居場所の消滅」についてお伝えしたいと思います。

なお、本書の一部は〈日本は2040年には「人口の半分が独身者」になる…これから確実に到来する「超ソロ社会」という現実〉からお読みください。

かつて、「夫婦と子ども二人」からなる核家族のことを標準世帯と言いました。世帯の中心は、この「夫婦と子」世帯であり、その構成比は、1970年代まで全世帯の45%以上を占めました。世帯の半分近くがこの「夫婦と子」世帯だったわけです。しかし、2020年の国勢調査においては、それが25%にまでほぼ半減してしまいました。

■地方でも単身世帯が「夫婦と子」世帯を上回っている

激減した「夫婦と子」世帯の代わりに、大幅に増えているのが一人暮らしの単身世帯(ソロ世帯)です。単身世帯の構成比は、2020年には38%にまで増えていますが、ここが天井ではなく、今後ますます加速していきます。国立社会保障・人口問題研究所の2018年時点の推計によれば、2040年には39%が単身世帯となると推計されていましたが、すでにもはやそのレベルに到達しており、下手すれば2040年を待たずして、40%を超えるかもしれません。

反対に、同推計では「夫婦と子」の家族世帯は23%にまで下がるとされていましたが、そちらも最悪20%を切ることもありえます。世帯の中で、かつて標準だった「家族」が2割になってしまうのです。

【図表1】世帯類型別構成比長期推移

「そうはいっても、そうした現象は東京など都市部の話であって全国的にはまだまだ家族が中心だ」と思うかもしれません。実はそんなことはなく、「夫婦と子」世帯と単身世帯との構成比差分を比較すると、2020年国勢調査時点でついに全都道府県において、単身世帯が「夫婦と子」の家族世帯を上回りました。

■「家族が壊されていく」という深刻な危険

これは当然の帰結で、「夫婦と子」世帯はやがて子が独立し、「夫婦のみ」世帯となり、夫婦のどちらか一方が先に亡くなればソロ世帯へと変わるためです。ソロ世帯とは、若い未婚世帯だけではなく、特に、地方においては、かつて家族だった高齢者によって作られていくからです。

それに加えて、ただでさえ婚姻減で、作られる新しい家族の数が少ない上に、「3組に1組は離婚する」という状態が続いており、「家族は作られず、壊されていく」ばかりです。

このままでは「家族が消滅する」という危機感もあるかもしれませんが、実はもっと深刻なのは、現状存在する家族が家族であるがゆえの呪縛によってその内側から瓦解(がかい)していく危険性のほうなのです。

家族がいることは、幸福度を高める要素であることは間違いありません。事実、未婚より既婚のほうが幸福度は高くなります。家族がいることが心の支えにもなり、生活を充実させる原動力にもなるでしょう。いざという時、家族に頼れるから安心だというのもあります。しかし、「頼れる家族がいるから安心だ」ということだけに縛られるあまり、「頼れるのは家族しかいない」という心理に陥りがちなのも事実です。

■「家族なんだから」という考えは呪いでもある

以前は、地域コミュニティが存在しました。しかし、今や大都市では、隣近所との付き合いはほとんどなくなっています。昭和時代は、職場が疑似的な地域コミュニティ的役割を果たしていましたが、今はその面影はなくなりつつあります。唯一の親密な関係性として残されたのが家族なのです。

「家族なんだから助け合うのが当たり前」という考えは呪いでもあります。助ける余力のある人はいいですが、余力もないのに「助けなきゃいけない」という言葉に縛られて無理をすれば、それはいずれ破綻する。自分だけではなく、助けたかった家族そのものを破壊してしまうことにもなります。

知らない人も多いですが、日本における殺人事件の約半分は親族殺人です。しかも、1997年時点39%だったその構成比は、2010年に52%となって以降、ほぼ平均的に50%前後で推移しています。日本は世界的にみても、殺人事件の少ない国ですが、数少ない発生件数の半分が家族間での殺人なのです。

しかも、残念ながら、今後も増えると予想されるのが、近年増加傾向にもある介護殺人です。親族間の殺人において一番多いのは、配偶者殺しで32%ですが、近年親殺しの比率が31%に上昇しています。

【図表2】日本では親族殺人が多く、親殺しが増加

■大切に思うがゆえに誰にも助けを求められない皮肉

80代の親の介護を50代の子が背負わなければならない事態やヤングケアラー問題、さらに、老老介護といわれる高齢者夫婦のどちらかが介護対象になった場合など、慣れない介護に疲れ果て、介護対象者を殺害してしまう、または、介護対象者から「楽にしてほしい」と乞われて殺害してしまうパターンもあります。相手を殺害した後、自分も自殺する心中事例も多い。

子であるならば親の介護をするのは当然だ、夫婦ならば相手の最期まで看取ってあげるべきだ、それもできずに「疲れたから殺した」というのは無責任だ、などと非難するのは簡単ですが、当事者にしてみれば、これも「選択肢のない袋小路」に追い込まれた挙げ句のやむをえない行動だったのかもしれません。

皮肉にも「家族を大切に思う気持ち」が強いがゆえ、「家族のことは家族がなんとかしなければならない」と自分自身を追い込み、誰かに助けを求めることも逃げることも休むことも許されない。でももうどうにもならない。そのあげくが、一番大切だったはずの家族を手にかけることになるのだとしたらなんと悲しい結末でしょうか。

そして、これは決して対岸の火事ではありません。今後、超高齢社会が進めば、ますますこの家族の介護の問題はよりマジョリティの問題として深刻化していきます。

病気中のサポート
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■「家族」という居場所に依存していないだろうか

だからこそ、行政においては、それを受け止められる仕組みが必要になります。というと、実際に行政に関わる人からは「すでにあります」という声もあがりますが、制度や仕組みがあることと、それを実際に住民が活用できるようにすることとは別です。活用されない制度はないのと同じです。

いざ悲劇が起きた時に「一声、相談してくれれば助けられたのに……」といいますが、身体的にも精神的にもボロボロになってしまった当事者にしてみれば、「そんなものがあるなんて知らなかった」「何をどう助けてくれるのかわからない」という状態かもしれないのです。

同時に、個人の意識としても「家族という居場所への唯一依存」に陥っていないかと考えるべき時にきているでしょう。

一緒に暮らす家族を大事に思うことはもちろん素晴らしいことですが、家族以外に頼れる相手が誰もいないという状況になっていないでしょうか。かつて安心な囲いだったはずの家族のカタチが、いつの間にか家族だけの狭い牢獄に自らを縛り付ける鎖になっています。「家族を頼る」ことと「頼れるのは家族しかいない」というのはまったく違います。

■家族しか頼れない社会は地獄である

アメリカの社会学者タルコット・パーソンズによれば、「家族は子どもの養育とメンバーの精神的安定という2つを本質的機能とする親族集団であり、必ずしも共住を前提としない」と規定されています。

さしずめ、現代においては、必ずしも「子どもの養育」が必須条件とはならないし、血縁関係に限定されるものでもないため、「家族とは、必ずしも血縁や共住を前提とせず、構成するメンバーの経済的生活の成立と精神的安定を機能とする集団」と、新しく定義を拡張することも可能です。

荒川和久『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)
荒川和久『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)

血縁や共住を前提としない……つまり、血のつながりや同居することだけが家族ではないのだ。ここにこそ、家族を消滅させないひとつのヒントが隠されているように思います。

場所としての家が家族なのではなく、血のつながりが家族なのでもなく、いつも一緒に同じメンバーで同じ場所にいることだけに依存するのではなく、必要に応じて、集まったり助け合ったりする関係性、何かをするために考え方や価値観を同じくする者同士が巡り合える「出場所」を用意しておく。そういう視点も必要ではないでしょうか。

そんな「接続する家族」という新たなコミュニティの視点が、今後は求められます。家族が家族しか頼れない社会はむしろ地獄なのです。

----------

荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

----------

(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください