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世帯年収1000万円でも家計は崩壊寸前「お受験激戦区」にマイホームを購入した夫婦の末路

プレジデントオンライン / 2023年4月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

マイホームをどこに購入するか、その判断は難しい。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「通勤のしやすさなどを考慮する人は少なくありませんが、子どもの教育環境も重要です。4大進学塾が集結している地域はお受験に熱心な家庭が多く、教育費が家計を圧迫する可能性があります」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

「“教育”は泥棒に盗まれない唯一の財産」と聞いたことがあります。子どもの教育にお金をかけることはブランド品にお金を使うより、なんとなく「善い使い道」な気がしますよね。しかし、その教育費によって世帯年収1000万円の家庭が崩壊寸前になっていたのです……。

■引っ越し先で「マズい」と感じた教育事情

同級生同士で結婚した松原さん夫妻は33歳の時、長男の小学校入学前にマイホームを購入しました。横浜駅から数駅いったところにあり、夫婦ともに通勤のしやすさから選んだ場所です。

購入価格は5500万円。頭金として1500万円をおさめ、残りの4000万円を35年ローンで返済していく計画です。

修繕積立金含め、家にかかるお金は毎月13万円。メーカー勤務の夫は当時年収600万円、インターネット関連会社に勤める妻は年収400万円だったので、世帯年収1000万円家庭の返済金額としては妥当なラインです。

そんな堅実な返済計画を進めていた松原夫妻が私の元にやってきたのはそれから4年後のこと。「うち、このままだとマズい気がして……」と切り出した妻・麻子さん(仮名)が語ったのは、引越し後にわかった地域の「教育事情」でした。

■長男が友達に誘われて塾通いを開始

先ほど申し上げたように、松原さん一家が横浜駅近辺に家を持ったのは通勤の便を考えてのことで、それ以外にこれといった理由はありませんでした。しかし、実は彼らが家を持ったその一帯は、非常に教育熱心な家庭が集まる「お受験激戦区」だったのです。

長男が小学校4年生になるとこれまで学童などで放課後を一緒に過ごしていた同級生たちが一斉に塾通いを始め、松原さんの息子さんも「塾に一緒においでよ」と声をかけられるように。そこで、たまたま友達について行った塾で先生に進められるがまま受けたテストでハイスコアを叩き出したところから、お子さんのやる気にも火がつきます。

松原さんは夫婦ともに地方の公立中学校・高校の出身ということもあり、中学受験を考えたことはありませんでした。しかし、思いがけず子どもが成績優秀だったことや、本人もやる気になっていることから塾通いを始めたのです。

■長女の習い事と長男の塾代を合わせると月10万円の出費に

ここで少し話を巻き戻すと、長男の下には3歳下の長女がいるのですが、横浜市に引っ越してからというもの、周囲の教育熱心なママ友に影響されて娘さんのお稽古事が増え、今では英会話、プログラミング、学習塾、ピアノと、彼女の習い事だけで5万円を超える出費になっていました。

そこへ長男の塾通いがプラスされたことで、松原家は一気に10万円もの教育費が毎月出ていくようになったのです。

マンションが立ち並ぶ通りから青い空が見える
写真=iStock.com/Orthosie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Orthosie

私自身、お受験激戦区に住んでいますので、その“沼”っぷりは骨身にしみてわかります。まず、小学校4年生から6年生までの3年間、名の知れた中学受験塾に通わせた場合、塾代だけで250万円かかると言われています。さらに私立の場合、受験料は1校あたり2万円、平均6、7校は受験するケースが多いそうなので、そのお金も考えておく必要があるでしょう。

もし、下のお子さんも中学受験をするとなると、かかる金額は2倍になるわけです。

■私立中学の学費は年間平均140万円に達する

晴れて合格した後も、もちろん教育費がかかります。文科省によると、私立中学の学費は年間平均140万円。高校の場合、私立の教育費無償化も進んでいますが、中学は義務教育ということもあり、公的助成がほとんどありません。そのため、ここに定期代やお弁当代などが加算されると考えれば、やはり私立中学入学後も毎月10万円以上かかることがわかります。

一般的に、子どもが小さい頃は“貯金どき”とされていますが、松原家のようにすでに毎月10万円を超える教育費がかかっていると、大幅な賃金上昇が見込めない現状、世帯年収1000万円でもかなり厳しいものがあります。

もともと麻子さんは海外旅行が好きで、コロナが落ち着いたタイミングを見計らって家族でハワイに行きたいと思っていましたが、今でも教育費にお金がかかっているのに、今後もっと教育費がかかるかと思うと、海外旅行どころか、外食も行けなくなってしまった様子。「日々の暮らしに楽しみがないんです」と力なく話していました。

■余暇のお金を捻出できずストレスがたまる

松原さん夫妻はマンション購入の頭金で貯金の大半を使ってしまったので、手元にあるのは現金300万円ほど。4人家族の場合だと、これくらいが最低限、現金で持っておきたい金額ですので、やはり余裕がありません。

大学までの教育費や老後資金といった将来的な問題ももちろんですが、余暇のお金がまったく捻出できないというのは、ストレスがたまります。よって、その状態を長く続けるのは不可能だと私は思うのです。

ですので、松原さん一家のようにならないためにまずできることは、移住先の「学習塾」を調べることです。

■4大進学塾が集結している地域への引っ越しは要注意

なぜ塾を? と思うかもしれませんね。お受験激戦区というのは、業界トップクラスの進学塾が軒並み集結しています。具体的に言うと、「SAPIX」「四谷大塚」「早稲田アカデミー」「日能研」がすべてそろっている地域は、教育熱心な方が多いエリアだと思ってまず間違いないでしょう。逆を言えば、お子さんの教育を第一に考えるなら、そういった学習塾が多いエリアを移住先として選択されることをおすすめします。

そして先ほど“沼”と申し上げましたが、教育にかけるお金というのは天井知らずです。私が住むエリアでもSAPIXと家庭教師を掛け持ちしている家庭も多くあり、こうなってくると、毎月15万〜20万円が吹き飛ぶような世界です。

また、やればやるだけお子さんの成績が上がる、やる気も出てくるとなると、悪いことではない分、引き際が難しいのもよくわかります。

■受験を始める前に親子で「できること/できないこと」を共有

ですので、やはり受験を始める前から、「うちの家計だと塾には週3回までだよ」といったかたちで親がきちんとラインを示し、話し合うのがいい気がします。家の資産状況を明かすことが目的ではなく、淡々と、「できること/できないこと」を親子で共有し合い、その中で本当にそれでも受験したいのか、じっくり考えてみればいいのではないでしょうか。それに、今はアプリや動画配信の中にも良質な教材があり、選択肢は増えています(ゆえに探すのも大変ではあるのですが)。

松原さん夫妻にも、貯金と余暇の余裕を持てるくらいの教育費のラインを改めて設定してもらいました。お子さん2人がいるご家庭です。2人の希望によっては、勉強の時代が長く続く可能性もあるでしょう。そういった場合にも備えて、家族の豊かな暮らしも諦めない、持続可能な教育と、居住エリアの選び方をしていきたいですね。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)

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