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史上2人目のグランドスラム達成の背景に「N高」あり…女流囲碁棋士・上野愛咲美21歳「私が成長できた秘密」

プレジデントオンライン / 2023年4月23日 11時15分

囲碁棋士四段の上野愛咲美(うえの・あさみ)さん。2001年生まれ。「ハンマー」の異名を持ち、22年には日本勢初の囲碁女性世界一に輝く。妹の梨紗さんも囲碁棋士。 - 撮影=小松士郎

囲碁棋士の上野愛咲美さん(21)が4月17日、女流名人戦を制し、女流5タイトル(女流本因坊、女流名人、女流立葵杯、女流棋聖、扇興杯)すべてを一度は獲得した“グランドスラム”を達成した(史上2人目)。プロ囲碁棋士には高校進学しないケースも多いが、上野さんは角川ドワンゴ学園N高校(通信制)を卒業。今冬、「プレジデントFamily」編集部のインタビューに答えた、高校生活と進学の決断とは――。

※本稿は、『プレジデントFamily2023春号』の一部を再編集したものです。

■グランドスラム達成の女流囲碁棋士の10代

私が囲碁を始めたのは4歳のとき。祖父から「頭の体操にいい」「歳をとったときに認知症予防になる」と勧められたことがきっかけです。

小1で師匠(藤澤一就八段)の囲碁教室へ通うようになり、小2で日本棋院の院生(囲碁のプロ棋士を養成する機関)に入りました。小5になる頃にはプロ入りを考えていて、中3で囲碁棋士となりました(女流棋士では当時3人目)。

中学時代は毎日のように囲碁教室に通うなど囲碁中心の生活。プロになる前は、運動会は半分だけ出て、院生の対局に行ったりしていました。プロになったのだから囲碁に集中したいと、高校進学については前向きに考えていませんでした。若くしてプロ入りした棋士には高校へ通わなかった人も珍しくありません。

ただ、両親から「勉強のためだけでなく、人間関係を学ぶうえでも高校に進学したほうがいい」と強く言われて迷っていたときに、ちょうど師匠から角川ドワンゴ学園N高等学校のことを聞きました。

N高は私が中3のときに開校し、師匠が囲碁部の名誉顧問に就任していたのです。通信制と通学制があり、通信制を選べば高校生活と囲碁を両立できると師匠からアドバイスされ、進学を決めました。N高の制服がかわいかったというのも理由の一つです。

けれど制服は必ず買わないといけないものではないので、うちは買ってもらえず。私はいまだに、買ってほしかったと思っているんですけど(笑)。

■ネットコースだからこそ対面授業の日が待ち遠しい

高校当時の1日のタイムスケジュールは、このような感じです。

午前8時、起床。朝食。
午前9時、ネットでN高の授業を視聴。
午前10時〜午後6時、日本棋院での研究会。その後夕食を食べるなどする。
午後8時、自由時間。気が向いたらN高の授業を視聴。
午後10時半、就寝。

N高のネットコースは、私に合っていました。自分で自由に勉強時間を決められるからです。授業はネットで視聴します。私は毎日ちょっとずつ授業を受けていましたが、例えば月曜日に集中して授業を受け、ほかの日はまったく視聴しないという人もいます。

囲碁棋士四段の上野愛咲さん
囲碁棋士四段の上野愛咲美さん(撮影=小松士郎)

苦手な数学の授業になかなか手が伸びず、ときには未視聴の授業をためてしまうこともありました。そうなっても、どこかのタイミングで時間をつくり、まとめて視聴していました。また対局で負けた日は授業を受けることが気分転換にもなっていました。

囲碁棋士にはN高生が多く、同じ門下で同級生の関くん(関航太郎天元)や広瀬くん(広瀬優一七段)もN高ネットコースです。授業の進み具合を確認したり、わからないところを教え合ったりしていました。二人とは囲碁部でチームを組み、強豪校の灘高等学校囲碁部との「NN戦」に挑んで、その対局はネットで生中継されました。

人間関係も広がりました。「スクーリング」の日にはキャンパスへ登校し、対面で授業を受けるのです。初めて登校した日は知らない人ばかりでしたが、すぐに同年代の友達ができました。友達と予定を合わせて登校し、授業を終えてからみんなでパンケーキを食べに行ったことも。

先生のリアルな授業もおもしろくて、2進法の授業で、先生が謎解きのかたちで進めてくれたことは印象に残っています。スクーリングは年に5日しかないのが残念でしたが、そのおかげで高校生らしい時間を過ごせました。

■タイトルを獲得したのは時間を管理できたから

高1の冬に初タイトルの女流棋聖を取ったことを皮切りに高校3年間で三つのタイトルを獲得できたのは、N高に通っていたからだと思います。

囲碁は研究を積み重ねないと勝てません。ある局面で迷ったとき、しっかり研究していれば良いほうに手が動くけれど、そうでないと悪手を選んでしまう。そうしたある種の“運”を引き寄せるためにも、多くの時間を研究に割くことが欠かせないのです。

またAI(人工知能)を研究に使い始めたのも高校時代でした。実力が上がったのは、高校生活も楽しみつつ、囲碁の研究に集中する時間もしっかりとれたからこそだと思います。

囲碁を打つ人の手元
写真=iStock.com/zilli
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zilli

囲碁に限らず、スポーツや芸術など、自分が集中したい何かを持っている人はN高を選択肢の一つとして考えてみるのもいいのではないでしょうか。また受講も自由なので授業を好きなだけ受けられるというのもいい点。数学を究めたいなど何かに特化した勉強をしたいという人にも向いていると思います。

『プレジデントFamily2023年春号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023年春号』(プレジデント社)

オンラインで開催された卒業式には制服を借りて出席し、卒業生代表の一人として挨拶をしました。挨拶の内容はまったく覚えていないんですけれど(笑)、制服を着られてうれしかったです。

囲碁は奥深く、とてもおもしろいです。対局を通して集中力を養えるだけでなく、上達の仕方やメンタルの整え方も身に付けることができます。ある有利な局面で「このまま勝てそう」と思ったときほど不用意な手を打ってしまうものですが、それはまるで「うまくいっているときも調子に乗ってはだめ」という戒めのように感じます。

囲碁はそんなふうに、人生で役立つこともたくさん教えてくれます。何歳になっても楽しめるので、子供も大人もぜひ始めてほしいですね。

(プレジデントFamily編集部 構成=尾関友詩)

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