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子育てに一生を捧げ2人の息子を医者に育て上げた62歳女性はなぜ生活保護に追い込まれたのか【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月9日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chameleonseye

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年12月15日)
離婚を機に生活設計が大きく狂ってしまう女性は少なくない。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「妻や母として家族のために尽くすのは立派なことですが、自分自身のキャリアや人脈、お金を育てておくことも重要です」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

■息子2人を医学部に進学させた母親に何が起こったか

収入面や社会的地位の高さから「医師」は憧れの仕事であり、昔から結婚相談所でも人気の職業だといいます。海老沢楓さん(62歳/仮名)は大学卒業後、医者一族の息子と結婚。開業医の妻として子育てに奮闘し、見事2人の息子も医師となりました。しかし、いま彼女自身は独り身で、生活保護を受けることになりそうな状況です。彼女に一体何があったのでしょうか。

楓さんは大学のサークルで後に夫となる海老沢智也さん(仮名)と出会い、交際に発展。先祖代々医者の家系で、実家は開業医。親戚も医療関係者ばかりという智也さんは、いわゆる“ボンボン”でした。サラリーマン家庭で育った楓さんは、資産家でやんごとなき家柄の海老沢さんに「憧れた」と言います。実際、海老沢さんは学内でも人気だったそうで、そんな彼と交際している自分を誇らしく感じたそうです。

■元夫と交際中から感じていた“医者の家系”のプレッシャー

一方、智也さんからは交際中から度々、「自分の子どもも必ず医者にしたい」「妻には家庭を守ってほしい」と聞かされたと言います。「彼と一緒になれたら一生、生活に困ることはないだろう。でも、“医者の家系”というプレッシャーとプライドを感じた」――。楓さんが大学時代に感じた“海老沢家”の重圧は、結婚後に現実のものとなります。

楓さんはメーカーの事務職を3年で退職し、智也さんと結婚。彼からは生活費として毎月30万円をぽんっと手渡され、「足りなかったらいつでも言って」と言われました。住居としてあてがわれたのは、都内一等地の高級マンション。そこは義父が所有する不動産でした。家計や資産は夫が管理していたため、いったいこの家にどれほどの経済力があるのか、妻である楓さんにはまったくわからなかったと言います。

■義父母は医者の家系ではない嫁を一段低く見る

お金の心配をしなくていい一方、楓さんには重いミッションがありました。「教育」です。めでたく2人の男の子に恵まれましたが、3歳差の兄弟の両方を、何が何でも医者に育て上げなければなりません。特に義父母は孫の将来を心配しており、医者の家柄ではない楓さんを一段低く見ているようなところがありました。それが、ますます楓さんの心に火を点けます。

楓さんは子どもたちが小さい頃からいくつもの習い事を掛け持ちさせ、教育に奔走。教育のためなら時間とお金に糸目をつけず、塾の人気講師を引き抜いて兄弟の専属家庭教師にしてしまったほど、“教育ママ”まっしぐらに。そんな楓さんの苦労が報われて2人の息子は見事、医学部に合格。数年前から医師として活躍しています。

レントゲン写真を確認する医師
写真=iStock.com/utah778
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/utah778

■妻の子育て奮闘中に夫は浮気、マンションまで買い与える

しかし一方で、大きな問題が起きていました。夫婦関係の悪化と家計の崩壊です。

夫の智也さんは結婚してから数年後、義父の跡を継いで開業医として独立。経営は順調でしたが、教育費が重くのしかかりました。

誰もが知る有名私大医学部に入学した息子たちの学費は、6年間で一人2500万円程度。3歳差の兄弟のため2人同時に大学に在学している期間もあり、裕福な海老沢家も一気に火の車に。実家からの援助もそうとう受けたものの、楓さんたちも住まいを小さくするなど、資金繰りに奔走しました。

加えて、楓さんが息子二人の子育てに血眼になっている最中、智也さんは浮気をしていました。相手女性にマンションを買い与えていたりしたそうなので、家計の悪化は浮気も一因かもしれません……。しかも息子二人が医師になった途端、夫は浮気相手の元に走り、家を出ていってしまったのです。

■離婚して住む場所もなくなり姉夫婦の家に身を寄せたが…

楓さんが私の元にやってきたのは、夫と離婚をして少し経ったタイミングでした。智也さんは年齢のことも考えて開業医を引退し、勤務医に転身。余生は浮気相手の女性と一緒に暮らしたい、と言われたそうです。

実はその数年前から離婚の相談をされていましたが、楓さんはすでに60代。数年しか社会人経験もなく、手に職があるわけでもありません。さらに家の所有権は海老沢家にあり、離婚してしまえば住む場所すらなくなってしまう。

そこでなんとか思いとどまってもらうよう夫を説得していたと言いますが、いよいよそれも難しくなってきたので離婚届に判をした、ということでした。智也さんの浮気が原因の離婚のため慰謝料の請求はできたかもしれませんが、彼女にその気力は残っていないようでした。

その後、楓さんは姉夫婦の元に身を寄せ、彼女が経営する喫茶店でパートをさせてもらっていました。その喫茶店もコロナ禍で営業不振が続き、年内には閉店を予定しています。楓さんの食い扶持はいよいよ年金7万円のみとなる上、いつまでも姉夫婦の家に居候をするわけにもいかず、どうしようもなくなって私の元に来たのです。

■医者になった息子からも見放され生活保護に頼る可能性も

ここで疑問に思われる方もいるでしょう。楓さんには手塩にかけて育て上げた立派な医者の息子が2人もいるじゃないか、と。結論から言えば、親子関係は断絶状態で、子どもたちが彼女を助けてくれることはないと言います。

聞けば、あまりに“教育ママ”の度が過ぎたのか、昔から子どもたちとも折り合いが悪かったそうです。夫の智也さんいわく、「あなたのためを思って言ってるの」という楓さんの声かけに、子どもたちはずっと辟易していたとか……。

海老沢家を守るために楓さんが髪を振り乱して取り組んできたことが、子どもたちには大きな負担だったのかもしれません。私も子どもを育てる親として、いろいろ考えさせられます。もしお子さんたちとの関係が良好で、ひとり数万円ずつでも援助をしてもらえたら生活を立て直すことも十分考えられただけに、厳しい現実と言わざるを得ません。

■最後に頼れるのは自分自身。キャリアやお金を育てておくのが大事

海老沢家も、2人の息子の教育費と夫の浮気で資産はほとんどなくなってしまい、楓さんがもらえたのは200万円ほどの現金だけ。まだ62歳で、この先の収入の目処もありません。現在、司法書士の方にも入っていただき、子どもたちから本当に援助が受けられないと認定されれば、生活保護を受ける可能性が高くなりそうです。

彼女の例から学べることは、自分自身の人生をきちんと持っておくことだと思いました。楓さんは「妻」や「母」として一生懸命、努力してきた方でしょう(結果、一家離散にはなってしまいましたが……)。しかし、「海老沢楓」さん個人のキャリアや人脈、お金を育てないままきてしまったことが問題だったのではないでしょうか。

楓さんを知る共通の知人がいるのですが、お金もあって地元の名士でもあった海老沢家の奥様ということで、周囲からはちやほやされる環境だったようです。そういったときにビジネスチャンスを掴んでおいたり、ネットワークを広げることで、家庭とは違う世界を持てたかもしれません。また、他の目線を持つことで子どもとも適度な距離を保てたのでは……とも思いました。

資産家と結婚して子どもを持ったところで、最終的に頼るべきは自分自身。楓さんの例を反面教師に、いつ一人になったとしても食べていけるだけのスキルやキャリア、人脈を身につけておくこと。自分自身が自立している方がパートナーとの関係がうまくいくケースが多いような気がします。そして専業主婦であっても最低半年分の生活費くらいは貯金しておくことをぜひ、心に留めておいていただけたらと思います。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 聞き手・構成=小泉なつみ)

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