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ついに最優秀層の東大離れが始まった…最強私立・開成高校で10人に1人が海外進学を考えるワケ

プレジデントオンライン / 2023年4月26日 10時15分

開成中学校の校舎(写真=CC-BY-SA-3.0-migrated-with-disclaimers/Wikimedia Commons)

海外大学を志望する高校生が増えている。フリーライターの加藤紀子さんは「たとえば東大合格者数日本一で知られる開成高校でも、『東大一択』という状況ではなくなりつつある。高校1年生の時点で1割は海外進学を考えるようになった」という――。

※本稿は、加藤紀子『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■ここ数年間で「留学者数」が急速に増えている

文部科学省の調査によると、日本からの留学者数は、コロナ禍に見舞われた2020年は激減しましたが、2017年から19年にかけては10万人を超え、10年間で約3倍に増えています。ただし、2週間以上1カ月未満、1カ月以上3カ月未満の留学が多く、英語力向上の効果は期待しづらい短期間がメインとなっています。

けれども中には、秋田県の公立大学である国際教養大学、早稲田大学国際教養学部、立教大学グローバル・リベラルアーツ・プログラム、同志社大学グローバル・コミュニケーション学部、関西大学外国語学部、近畿大学国際学部のように、1年間の留学を必修としているところもありますし、必修ではなくても、独自の交換留学制度を使って1年間留学できる大学は国公立、私立問わず数多く存在しています。

留学が外国語運用能力に対してどういったインパクトを与えるかという研究は世界中で数多く行われています。アメリカの大学を対象に行われた大規模な調査で留学期間を1年間と1学期間とで比較したところ、留学期間が長いほど語学能力のテストのスコアが上昇することがわかっています。

また、JASSO(日本学生支援機構)による日本での調査は、自己評価によるものの、語学力は3カ月未満の留学経験者より3カ月以上の留学経験者の方が高い評価となっています。海外の大学への4年間の正規留学者については、明確な数字での裏付けは得られないのですが、これまで取材してきた限り、「増えている」という見方が優勢だと感じています。

アメリカやイギリスの大学を志望する場合、全額自己負担では学費が高額になるため、経済的な理由で実現に至らないケースも実際には多いでしょう。しかし少なくとも、海外の大学という進路がひとつの選択肢になりつつある傾向は、ここ数年間で急速に高まってきているようです。

■海外大学進学が増えてきた3つの要因

現役の海外大生が中心となり、高校生への海外大学進学に関する情報提供や進学支援などを行っている特定非営利活動法人留学フェローシップ(以下留フェロ)で理事長を務め、史上最年少で芦屋市長に当選した髙島(たかしま)崚輔(りょうすけ)さんは、海外大学進学が増えている背景として、次の3つの要因を挙げています。

1つ目は、海外大学に進学している人と触れ合う機会が増えたことです。留フェロをはじめ海外大学進学を応援する団体が、自治体や学校に招かれることが増え、現役の海外大生が長期休暇を利用して全国を巡っています。「自分と年齢が近い海外大生の講師に接すると、『自分も行けるかも』という自信につながるようだ」と髙島氏は語ります。

2つ目は、給付型の奨学金が増えたことです。柳井正財団やJASSOなどに加え、2022年からは笹川平和財団も加わるなど、返済不要の給付型奨学金が増えたことで、経済的なハードルが下がりつつあります。

3つ目は、海外大学出願のノウハウが普及してきたことです。欧米の大学入試では、学校の成績、推薦状や課外活動のほか、その学生の個人的な経験や価値観、意欲などを見るエッセイなど、さまざまな材料から多面的に評価されます。

■海外大学を目指したきっかけは「教育への違和感」

英語の勉強法に加えて、推薦状や課外活動はどうすべきかなどは国によって異なるため、海外大志望者は情報収集の難しさに直面するのですが、留フェロのような団体のイベントや現役海外大生によるSNSでの情報発信などによって、情報の壁が徐々になくなってきているのです。

こうした背景から、最近では都市部の私立難関校に限らず、地方公立校や非進学校でも海外大学が進路の選択肢として加わるようになり、志願者の裾野が広がってきています。

今回取材した4年間の正規留学者に関しては、英語が好きで海外の大学を目指したというよりも、海外の大学を目指すことで英語の勉強に本腰を入れたという人ばかりでした。中には、「実は高校まで英語は苦手だった」という人も少なくありませんでした。そうした人たちが海外の大学を目指したきっかけは、日本の教育に対する違和感もありました。

「高校では先生が教えてくれたことをそのまま理解するというところに違和感があった。先生に質問に行くと『それは大学でやることだから今は考えなくていい』と言われ、そういうスタイルの教育に疑問を感じた」(ノックスカレッジ→イェール大学院の砂山さん)
イェール大学の看板
写真=iStock.com/sshepard
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sshepard

■日本の大学に魅力を感じなくなっている高校生たち

高校生の段階で文系・理系に分かれるという教育体系に対して疑問を感じた人も多かったようです。まだまだ日本の高校では「大学受験ありき」で、どんな学問なのかを詳しく知らないまま早い段階から文理に分けられ、大学も入学前から学部や学科を決めるところが大半です。

ノートと教科書を広げ勉強する学生
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

「日本の大学は、自分がやりたい勉強に対しての柔軟性があまりない。こちらでは認知科学とコンピュータサイエンスの2つを専攻しているが、これらの学問を両方同時に選ぶのは日本の大学だと難しい」(ポモナカレッジの今井さん)

「日本の大学受験の偏差値至上主義的なところや、文理を決めたらもう変えられないという硬直的なところが見えてくると、海外の大学に特段魅力があったというより、日本の大学に行きたいという気持ちがどんどん削がれていった」(ハーバード大学の松野さん)

最近では海外の大学を目指す高校生が率直な思いをSNSで発信しているのをたびたび見かけるのですが、彼らの投稿を見ていても、こうした日本の教育では満たされないという感情が引き金になっているケースが少なくないように感じます。

■「東大一択」から変化しつつある開成学園

ハーバード大学准教授・併任教授、東京大学教授を経て、2011年から2020年まで開成中学校・高等学校の校長を務めた柳沢幸雄氏は、生徒たちの海外進学を支えてきました。開成といえば、東大合格者数日本一で有名な進学校です。優秀な日本の高校生にとって、これまで進路の選択肢はほぼ東大一択でした。

ところがハーバード大学で教鞭をとっていた柳沢氏が開成に校長として招かれたことで、生徒たちは「海外大学」という選択肢の存在に気づいたのです。

「開成は進路指導をしないので、教員は誰も『東大に行け』とも『海外に行け』とも言ってなかったんです。ところがある日、卒業したばかりの生徒が校長室に来て、『どうやったらハーバードに進学できるか教えてほしい』と言ってきたのが始まりでした。そこから、1人、2人と進学していくようになりましたが、進学先は最先端の優れた研究活動を行うハーバードやスタンフォード、イェールといった日本でも有名な研究大学とともに、全米での評価は名門のアイビーリーグに劣らないウィリアムズやポモナ、スワスモアといった、少人数教育が特徴的なリベラルアーツの大学を選ぶ生徒も少なくありません。

日本ではあまり知られていなくても、生徒たちは必ずしも大学の『看板』や『ブランド』ではなく、何を学ぶか、そのためにどこで誰とどう学ぶかの『環境』で選ぶようになってきているのです。

■「東大一択」ではなく海外も視野に入れて欲しい

学費の問題で全員が進学できるわけではありませんが、私が校長を退任する2020年頃には、高校1年生の時点で1割くらいは東大一択ではなく、このように多様な海外の大学も選択肢のひとつとして考えるようになりました。私はこの変化を好意的に受け止めています。現に今、多くの保護者は、子どもに海外も視野に入れた人間になってほしいと考えています。

ただ、これでもまだ少ない。日本の高校生はアメリカの高校生より優秀です。東大の新1年生だって、ハーバードの新1年生より優秀です。しかし残念なのは、日本の学生は大学に入るとたちまち勉強しなくなることです。

ハーバードの学生は学期中は週に60時間以上勉強しています。これは、ハーバードに限った話ではなく、アメリカの大学はどこも勉強しないと卒業できないのでやらざるを得ないのです。課題も山のように出ますから、毎日皆必死です。こうなると、4年後には大きく水をあけられるのは当然です。だからこそ、開成の東大合格者数がトップでなくなるくらいまで海外大を選ぶ生徒が増えてほしい」

■「東大の一人勝ちが日本の弱さにつながっている」

また柳沢氏は「東大が蹴られることなく一人勝ちし続けていることが、日本の弱さにもつながっている」と言います。

加藤紀子『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)
加藤紀子『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)

柳沢氏によると、ハーバードのような難関大学でも合格者の2割ほどが合格を辞退するといいます。他にもトップスクールが複数あり、受験生にとってはハーバードでさえ選択肢のひとつなのです。一方で、蹴られることがない東大は、他のどの大学とも競合になりません。何もしなくても優秀な学生が集まってくるので、自らの教育を改善しなければというモチベーションが生まれません。しかしそれは裏を返せば、大学として成長の機会を自ら手放していることになります。

東京学芸大学附属国際中等教育学校の荻野勉校長は、「最初の海外大進学者を出すまでがきつい。出始めると、指導のポイントが見えてくるし、海外大に進学した卒業生から情報が入ったり、協力が得られる。また、実績のある海外大も情報や相談の機会を与えてくれるようになる」と文部科学省の有識者会議で語っています。

多くの学校にとって、海外大学への進学という選択はまだ黎明期(れいめいき)です。けれども先ほどご紹介したように、志願者の裾野は広がっています。こうやって日本各地の学校で1人、2人と進学者が出てくれば、海外大学に進学するという選択肢がもっと身近になる日はそう遠くないかもしれません。

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加藤 紀子(かとう・のりこ)
フリーランスライター
ライター。子育てが一段落してから教育関係の取材・執筆を本格的に開始。教育専門家に取材したことから得た知見や、国内外の最新研究から得た子育てのコツを盛り込んだ初の著書『子育てベスト100』は現在17万部のベストセラーに。1男1女の母。

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(フリーランスライター 加藤 紀子)

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