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エリザベス女王の愛用品だった…国葬で皇太子妃が「ミキモトパールの4連チョーカー」を首飾りに選んだ理由

プレジデントオンライン / 2023年5月6日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oversnap

2022年に96歳で亡くなったエリザベス英女王は「ミキモトパールの4連チョーカー」を愛用していた。この首飾りは英国王室に受け継がれており、女王の国葬ではキャサリン皇太子妃も身につけていた。いったいどんなストーリーがあるのか。ジャーナリストの多賀幹子さんが解説する――。

※本稿は、多賀幹子『英国女王が伝授する 70歳からの品格』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■明るい色のワントーンコーディネートを好んだ理由

エリザベス2世のワードローブは、多くの人たちの称賛の的だ。特に、鮮やかな赤、オレンジ、黄などを見事に着こなすさまにはため息がもれた。女王のワントーンコーデ(一色つかい)は、ご自分が着飾るのが目的ではなく、国民に見てもらいたい、という気持ちからだった。一目で女王であると認識してほしいのだ。国民の3人に一人が女王を見たことがあるというBBCの調査結果がある。

女王は、国民に見てもらうために洋服を選ぶ。目立つ色なら「女王」とすぐにわかってもらえるし、明るい色なら気持ちも晴れやかになる。前から後ろから横からも、すぐに「女王にお会いした」と思えるように心がけた。

女王を見るために長時間並んで待った人も多いに違いない。そういう人たちに、楽しくうれしい気持ちになって帰ってほしい。鮮やかな色遣いの選択は国民のためだ。これで、もっとも「着ない色」がグレーであるのも説明がつく。グレーもすてきな色合いではあるが、国民と会う時にわざわざ選ぶことはなかった。

■「ハンドバッグに何が入っているか」国民の長年の関心事

「女王スタイル」に欠かせないものがある。それは、左腕に通したハンドバッグだ。女王は、「このバッグを持たないと、きちんと服を着ている気持ちにならない」とまで言い切っている。バッグは英国ブランド、ロウナー(Launer)で、女王はアトリエを訪れ製作過程を見学、職人の優れた技に魅了された。

一つの価格が30万円以上と言われるが、傷めば修理に出すなど大切に扱い、文字通り片時も離さなかった。亡くなる2日前にスコットランドのバルモラル城でトラス首相(当時)を任命したときも、左腕に黒色のロウナーを持っていた。

ハンドバッグの中には、いったい何が入っているのだろうというのが国民の長年の疑問だった。よほど大事なものが収めてあるに違いない。2022年6月プラチナジュビリーでは、クマのパディントンとお茶会をした寸劇が大きな話題になった。

この中で女王はハンドバッグから、マーマレード・サンドイッチを取り出した。パディントンと同じように「私も持っていますよ」と見せたのだ。国民の間に、バッグの中身に関心があると承知してのユーモア劇だった。

『英国女王が伝授する 70歳からの品格』(KADOKAWA)より
イラスト=『英国女王が伝授する 70歳からの品格』より

■床に置いたら「今すぐここから立ち去りたい」の合図

実際は、口紅、手鏡、イニシャルが刺繍されたハンカチーフ、眼鏡、ミントキャンデー、チョコレート、クロスワードパズル帳などが入れてある。日曜日に教会に礼拝に行くときは、きちんと折りたたんだ紙幣も忘れない。

また、側近に合図を送るときにハンドバッグを使用する。バッグを床に置いたときはすぐにこの場から立ち去りたい。バッグを持ち替えたときは、3分以内にこの場から出られるようにしてほしい、などだ。

VIPなどと向かい合っているときは、自分の希望は口に出して伝えにくい。側近がバッグの合図を認めると、「女王陛下、○○様より緊急のお電話が入っております」などと伝えて、その場から引っ張り出してくれる。愛用のバッグはこうした役目も担っていた。

■なぜ女王の傘は常にビニール傘だったのか

女王は小物にこだわりを持つ。まず傘だ。イギリスは日本と比べると季節に関係なく、よく雨が降る。女王のさす傘は、日本でもよく見かける透明なビニール製である。ただ縁取りの色は、身に着ける服とマッチさせている。黄色のコートドレスであれば、縁取りは黄色である。

傘はフルトンというイギリスブランドで、お母様も愛用されていた。しっかりしたつくりで、少々の風ではびくともしない。深いアーチ形が愛らしく、雨から肩まですっぽりと守ってくれる。透明なので、女王のお顔はよく見える。英国王室ご用達の逸品だ。

帽子についてもこだわりがある。着る服と同じ系統の色にしており、あまり高さがないのは、車の乗り降りの際にぶつからないようにするためだ。またたとえ風が強くても飛ばされないように、工夫がされている。女王の帽子が風で舞い上がった話は、確かに一度も聞いていない。

専属ドレッサーのアンジェラ・ケリーさんは衣服のデザインを決めるばかりでなく、帽子についても女王と詳細に話し合っている。

■アクセサリーは外交相手へのリスペクトを示す

スカーフも女王には欠かせない。あごの下で結ぶのが女王スタイル。赤やオレンジの鮮やかな色を選ぶので、顔回りが一気に華やぐ。エルメスのスカーフが多く選ばれているようだが、エルメス社はパリの馬具工房から始まった。馬が大好きな女王は親しみを覚えるのだろうか。

またブローチも100点以上を所有する。いずれも記念日にプレゼントされたり、特別な機会にあつらえたりした貴重な品だ。

カナダを訪れた際には、カナダの国旗に描かれたメープルリーフをかたどったブローチをつけた。これは、プラチナにダイヤモンドがあしらわれていて、父がカナダ訪問前に妻にプレゼントしたもの。母から女王に受け継がれ、キャサリン妃がカナダに行く際にも貸し出された。アクセサリーは相手にリスペクトを示す重要なアイテムだ。

■日本との絆を象徴するミキモトパールの4連チョーカー

女王の国葬ではロイヤルがそれぞれ追悼の気持ちを表した。ひときわ目立ったのがキャサリン皇太子妃だった。喪服にスレンダーな身を包み、大きめの帽子をかぶっていたが、首元にはパールのネックレスが美しい光を放っていた。

この4連のパール・チョーカーこそ、英王室で「ジャパニーズ・パール・チョーカー」と呼ばれている日本製の真珠である。

話は、1975年に女王がフィリップ殿下と共に初来日されたときまでさかのぼる。女王は真珠が大好きで、伊勢神宮を参拝後は、世界で初めて真珠の養殖に成功した三重県鳥羽市のミキモト真珠島を訪問した。御木本幸吉氏の努力が実るまでの苦労話しに耳を傾け、工程を見学、海女の方々の実演も視察した。

『英国女王が伝授する 70歳からの品格』(KADOKAWA)より
イラスト=『英国女王が伝授する 70歳からの品格』より

■ロイヤルレディーに代々受け継がれていく

この折に日本政府が贈った真珠の粒をロンドンに持ち帰り、王室御用達の老舗宝石商ガラードに制作を依頼した。やがて中央にダイヤモンドを配した見事なチョーカーが姿を見せた。女王は数多くの貴重な宝石を所有しているが、特にこのパールを気にいり、1980年代から長く定期的に身に着けている。

その後はカミラ王妃やダイアナ元妃に貸し出された。やがて孫の世代に当たるキャサリン皇太子妃に手渡されるようになった。皇太子妃は、2017年の女王夫妻の結婚70周年記念式典、2021年フィリップ殿下の葬儀時など重要なイベントに選んだ。2022年女王の国葬時に思い出の品として首につけ、深い哀悼の意を表したのだった。

かなりの年月が経っているにもかかわらず、真珠は輝きを失わず、むしろさらに磨きがかかっているのが見て取れる。英王室のメンテナンスの腕は評価が高いが、それを証明しているかのようだ。ロイヤルレディー3代に亘って愛用される様子に、ものを大切にする気持ちが伝わる。日本とイギリスの関係を大切に思う象徴でもあるのだろう。

■逝去の2日前まで公務にあたった健康の秘訣

エリザベス女王は96歳で亡くなったが、亡くなる2日前に、スコットランドのバルモラル城でトラス首相(当時)の任命を行うなど、最後の最後まで公務に励んだ。首相任命は、君主しかできない重要な公務である。

生涯現役を文字通り貫いた女王は、何より健康を大切にした。70年に亘る在位期間中は大きなけがもなく、長期入院するような手術も受けなかった。これまで、70代で膝軟骨の手術、80代でおなかの風邪で一泊入院、90代で白内障の日帰り手術を受けたくらいだ。死亡診断書の死因には、「老衰」と書かれている。

健康法の基本は、規則正しい生活だ。朝は7時半に起きてカーテンを開け、日の光を浴びる。そこにスタッフが紅茶を運んでくる。お気に入りはチャールズ皇太子(当時)が私邸「ハイグローヴ」で手がけたアールグレイだ。それをいただきながら、ラジオのBBCニュースを聞く。イギリス国内ばかりでなく、世界の出来事に耳を澄ませる。

■規則正しい生活は宮殿スタッフのためでもあった

それからお風呂に入る。湯加減はいつもぬるめで、用意された衣服に着替えると朝食をとる。このように時間通りに動くのは、女王の生活リズムを整えるのと同時に、女王のために働く多くの人にとってもありがたいことだろう。彼らや彼女らが働きやすいようにとの配慮もある。

女王の国葬の最後には、バグパイプ奏者が女王が前もって選曲したメロディーを流した。その中には、宮殿などで働いてくれた人たちをねぎらう一曲が混じっていた。

女王は、晩餐会や昼食会での食事は高カロリーのものが含まれることが多いので、普段はできる限り軽めにしている。好き嫌いはなく、なんでも召し上がったが、チキンと新鮮な野菜が中心で、万が一の食中毒を避けるために貝類や生魚は口にしない。

ただ、チョコレートが好きで、おやつにダークチョコを口にいれるところを目撃されている。また最も好きなお酒はジンで、ランチの前にデュボネとレモンのスライスを加えた爽やかなカクテルをたしなんだそうだ。

■犬は女王に気を使わない…コーギーを愛した理由

女王の動物好きはよく知られている。犬に関しては、父ジョージ6世より誕生日に子犬をプレゼントされてから、ずっと飼っている。

多賀幹子『英国女王が伝授する 70歳からの品格』(KADOKAWA)
多賀幹子『英国女王が伝授する 70歳からの品格』(KADOKAWA)

繁殖も続けており、一時は数えきれないほどだったという。2012年のロンドンオリンピック開会式の時は、ヘリコプターで上昇していく女王を2匹のコーギー犬が名残惜しそうに見上げていた。また、女王の国葬では、バッキンガム宮殿の外に愛犬が姿を見せ、女王の棺をいつまでも見送った。

女王はバッキンガム宮殿で月曜から金曜まで仕事に励み、週末は郊外のウィンザー城で休みを取った。訪問客があればそうはいかないが、なるべく忙しい日々から離れたひと時を意識的に持つようにした。その時には、必ずと言ってよいほど動物と触れ合った。

犬は相手が女王とは知らない。それがよかった。女王は気を遣われることなく、女王も気を遣うことなく、心から安らぐことができた。動物との触れ合いは、女王にとってなくてはならない癒しだった。

■90歳を超えてもウィンザー城で乗馬を楽しんだ

馬もまた女王は大好きだった。外遊から帰ると、まっすぐ馬に会いに行ったとのうわさがあるほどだ。3歳から馬に乗るようになり、生涯に亘って馬を愛し、馬と一緒の写真も多く撮られた。90歳を超えてからもウィンザー城の広大な敷地で乗馬を楽しむ姿が目撃されている。

馬好きは、長女アン王女に受け継がれ、その長女のザラさんにも引き継がれている。ザラさんはロンドンオリンピックの馬術競技に出場して、メダルを獲得している。女王は毎年、アスコット競馬場で多くの参加者と共に競馬を楽しみ、競争馬のオーナーとして声援を送っている。賞金も1年で約7千万円以上を獲得した時もあったという。

国葬に参列したシャーロット王女が黒のコートドレスの胸につけていたのが、上品なシルバーの馬蹄形ブローチ。馬好きのひいおばあ様に敬意を表したのだった。

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多賀 幹子(たが・みきこ)
ジャーナリスト
東京都生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業。企業広報誌の編集長を経てフリーのジャーナリストに。元・お茶の水女子大学講師。1995年よりロンドンに6年ほど住む。女性、教育、社会問題、異文化、王室をテーマに取材。著書に、『孤独は社会問題』(光文社新書)、『ソニーな女たち』(柏書房)、『親たちの暴走』『うまくいく婚活、いかない婚活』(以上、朝日新書)などがある。

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(ジャーナリスト 多賀 幹子)

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