スーツ代や腕時計代は基本的にアウト…税金弱者サラリーマンが「節税」を始めるときにおさえるべき基礎知識
プレジデントオンライン / 2023年5月25日 13時15分
※本稿は、田淵宏明、平岡直也『なんで私の給料からイロイロ引かれるの? 税金弱者サラリーマンのお金の取り戻し方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■コロナ禍で変わってきた「お金の稼ぎ方」
【平岡直也(ブランドプロデューサー)】新型コロナで変わったことのひとつに「働き方」がある中、やはり「副業」は外せない。びっくりしたのは、公務員でも副業が解禁されたというニュース! 地方公務員法では原則、副業は禁止だけど、北海道日高振興局では、「地域や社会的課題の解決に関わる活動」を条件に勤務時間外の副業を認める、新たな制度をスタートさせたとか。副業が単に「お金を稼ぐ」という手段にとどまらず、知恵や経験を活かす……という時代になったね。
【ヒロ税理士】まさにその通り! ただ、そもそも法律には「副業」という言葉がなく、労働者が本業以外に収入を得ることを禁止する規律もありません。
【平岡】ということは法律上では副業をすることは「自由」だと。
【ヒロ税理士】そう。ただし、会社の就業規則で独自に制限でき、禁止することもできます。
【平岡さん】そもそも副業ってなんなんだろう。例えば、普段会社の正社員で、週末は株式投資で稼ぐのは果たして「副業」になるのか……。
【ヒロ税理士】改めてだけど、副業とは収入を得るために携わる本業以外の仕事を指し、形態としては、アルバイト等の雇用契約もあれば、「業務委託契約」を締結する場合もあります。
■「不労所得」ではなく「労働」の場合が多い
【平岡】「業務委託契約」といえば、例えばLoino(*1)。「移住・転職をしなくても、リモートで地方に貢献できる時代」がキャッチフレーズで、地方の行政や企業と業務委託契約を結び、解決策を提示していく……というサイトで、利用している友人も増えている。
【ヒロ税理士】やはり副業は、一般的には自分が労働者として働かなくても不動産や株式など何かしらの資産から毎月一定の金額が得られる「不労収入」ではなく、「労働」(アイデア出しなども含む)集約型のものを意味することが多いと思います。副業の目的は、冒頭、平岡君が言ったように「知恵や経験を活かす」も大切なひとつ。
だから、「これなら稼げます!」を盛んにPRしているインターネットやYouTubeの情報は鵜呑みにしたらダメ! 高額な「副業スクール」に通ってボッタクラレて騙されるケースも多発しています。結局稼げるのは副業スクール運営者だけ、というパターンですね。いろいろ冷静に考えて……僕が考える最強の副業は「アルバイト」だと思います。
【平岡】アルバイト?
(*1)(「Loino」サービスサイトは、2023年6月30日(金)をもって提供を終了する予定です。)
■アルバイトだったら誰でも確実に稼げる
【ヒロ税理士】そう。コツコツ働けば収入が増えるし、ほかの業務委託の副業等と違って、赤字になることがほぼない。バイトなら「副業スクール」等で学ぶ必要もないし、何より安定性もある。
こだわりたいのが、「誰でもチャレンジして成功しやすい」という「再現性」が高いこと。インターネットやYouTubeで「○○の副業で1億円稼ぎました」はこの「再現性」が非常に低い。その人だからできたんでしょ、という「再現性」の低さがクリアできない限り、時間の無駄になると思います。その時間にこそ、アルバイトをコツコツと(笑)。
【平岡】確かにアルバイトをめぐる最低賃金も上がってるよね。2022年10月現在、最も高い東京都は1072円。そうそう、先日、京都の某神社を通りかかった時、「週2回 朝3時間 境内のお掃除」という張り紙があって、「心身が清められます」という一言に心を動かされ、応募しようと思ったけど、行くとなると家を朝3時には出ないと間に合わないから断念しました(笑)。でも、そういう副業=アルバイトも素敵だなと。
【ヒロ税理士】副業の種類について表にまとめてみました。僕の考えで〈再現性〉〈稼ぎやすさ〉についても評価してみたから参考にしてみてください。
■「節税のための副業」はあり得るのか
【平岡】そういえば、インターネット情報で、「節税できるから副業しよう」みたいな呼びかけも多々あったけど……この視点はどうだろう?
【ヒロ税理士】それは僕に言わせれば「都市伝説」の域ですね。確かに、節税できる側面もあるんですが、節税って繰り返しになるけど、そもそもそれが目的ではない。そして、副業での節税は少しはできるけれど、副業をして増えた収入分についての節税のお話。副業をしていない会社員よりも税額が「下がる」なんてことは基本あり得ず、もしあるとすれば、それは脱税等の違法行為をしているか、赤字が出るような儲からないビジネスに取り組んでしまったかのいずれか。
こういったタチの悪い情報を、税理士等の専門家でない、ちょっと税金をかじった素人さんが、中途半端な知識だけでブログやYouTubeで発信をしています。副業で「これだけ儲けた」とか、「プライベートのものを経費で落として節税したぜ」みたいな。こういうのは、国税当局もちゃんと見ていて、後から税務調査に入られるケースもあると思います。
副業が当たり前の時代になってきてるんで、今後副業の調査を強化する可能性は高く、伏線もあるので、それは後ほど……。ということで、副業時代、そういう安易な情報に流されないためにも、勉強しておきましょう。
■経費は機械的に判断できるわけではない
副業における税金計算で、非常に重要なポイントになってくるのが必要経費(経費)=売上を得るためにかかった支出のことです。ざっくり言うと、税金は、売上からこの経費を差し引いた残りの利益に対してかかります。ゆえに節税したいなら利益を小さくする必要があり、そのためには経費を大きくする必要があります。
つまり、経費をどんどん使えば確かに節税になります。経費はだいたいこんな科目に分類されます。
ただ、よーく考えてみてください。使いすぎると当然手元のお金が減ります。となると資金繰りも悪化します。さらになんでも経費になるかというとそんな甘いものでもなく、仕事に関係のないものを経費に計上すると当然これは脱税になります。
しかし、この経費の判断は簡単に見えて結構奥が深く、難しい……。税法上のルールが曖昧でとにかくわかりにくい……。○○費なら経費に落ちて、△△費ならば経費に落ちないという機械的なものでもありません。
■スーツ代や腕時計代は基本的にアウト
【平岡】僕も担当の税理士さんから、「経費のストーリーが大切」と言われていて、例えば「沖縄で会合費5000円」だけだと「旅行に行って個人的に食べたんやろ」ってなるけど、「沖縄に出張に行って、その時、○○社長と打ち合わせで食べました。飛行機代はこれで、その時にプレゼンした資料のコピー代が、この那覇市のローソンのレシートです」……みたいなストーリー。このストーリーをわかってもらえるよう、いつもメモをして提出しています。
【ヒロ税理士】素晴らしい! やはり、ポイントは「事業との関連性があるかどうか」。表にまとめてみると……。
まず①のスーツや鞄、腕時計代等は、基本アウト! その理由はプライベートでも普通に使えるから。もしこれが取引先への贈答用なら「接待交際費」として経費に落とせます。そして②の自宅家賃、車代。これらも基本プライベート用なのでアウトだが、もし仕事用に使っているのであれば、その使用比率(1カ月のうち、どれくらいプライベートに使っているか等)を根拠を持って説明できるかどうか。
できるのであれば、そのうちの一部は経費になります。ちなみに⑦の「生活費・医療費・生保」については、経費としては計上できないけど、その支払額のうちの一部が扶養控除や医療費控除、生命保険料控除という「所得控除」という形で節税効果があります。
■YouTuberはどこまで経費で落とせるのか
【平岡】ちなみに「小学生のなりたい職業」でいまや上位に来る「YouTuber」。衣装やカメラ代、パソコンなどは「仕事のためにマスト」だけど、このあたりは経費で認められる?
【ヒロ税理士】まだまだ新しい職業である「YouTuber」。税務調査事例はまだ少ないのですが、「YouTuber」であろうが、基本的な考え方は同じ! 動画を収録するためのカメラや照明、マイク等は当然経費に落とせるし、編集ソフトや編集・サムネ作成のための外注費等も経費になります。
例えば食事代については、単に動画内で食べている様子を一瞬だけ映すだけじゃあダメだろうけど、グルメ企画等、特定の動画のメインの企画となっているのであれば、経費に落とせる可能性は非常に高くなります。よくあるのが、洋服や腕時計等について「動画で紹介するために購入したので経費で落としたい」というご依頼なのですが……さきほど言ったようにプライベートでも普通に使えるものなので「経費性はなし」「アウト!」となります。
でも、実は経費に落とせる方法がある……それは「プレゼント企画」ね!(笑) 視聴者さんにプレゼントすること! そうすれば「広告宣伝費」として経費に落とせて節税できますが、平岡君の会社でもいかがでしょうか?
【平岡】遠慮します……。
■税制上のメリットを受けられるのか
【平岡】あと副業をするとなると、乗り越えないといけないのが税の問題。
【ヒロ税理士】そう。まずは申告なんだけど、方法には2つあって、白色申告と青色申告があります。ざくっと言うと「白色申告=税制上の優遇措置なし:青色申告=税制上の優遇措置あり」です。この差が生まれるのは、会計の帳簿をしっかり作れるかどうか。
「青色申告」は会計の帳簿をしっかり作ることによってさまざまな税金計算上のメリットを受けられます。従って、頑張って「青色申告」した人は報われて、所得税と住民税の節税ができる流れです。具体的には。こちら。
●赤字が出た時に最長3年間の繰越、つまり未来の節税ができる「純損失の繰越控除」
●家族従業員への給与支給による節税ができる「青色事業専従者給与」
●普通は数年かけて少しずつ経費に落とすことがルール化されている設備や車等について一発で経費に落とせる「減価償却の特例」
【平岡】となれば、副業をすると「青色申告」を目指さなければならない。
【ヒロ税理士】……と言いたいところだけど、「青色申告」ができるのは、
●不動産所得(不動産賃貸業)
●山林所得
だけ。
副業は基本ほぼ雑所得となるので「白色申告」しかできません。なのに「事業所得」として「青色申告」をしている人が本当に多い! これは勘違いなんです。
■定義があいまいだった「事業所得」
【ヒロ税理士】ただ、これは無理もない、と思うのは、税法ってものすごくわかりにくく、この両者の判断基準は非常に曖昧なんです。これについては、われわれ税理士の間では、1981年(昭和56年)4月24日の最高裁判決事例を見ます。
どういうことか、わかりやすく解釈すると、「真面目に、片手間じゃなくて本気で副業に取り組んでおり、収入金額も本業の給与と匹敵するレベルならば事業所得でOK」というこんなイメージかな。しかし、昨今副業ブームが過熱している中で、この判断基準はあまりに曖昧すぎて理解できていない人も多い。そこでこうした混乱を防ぐために、国は「所得税基本通達」という、現場で活動している税務調査官向けの実務指針を、実は最近以下のように改正した!
II Iで判断がつかない場合は、形式基準として「帳簿書類」を備え付けていれば概ね事業所得となる。(※下記の場合は例外)
①収入金額が僅少と認められる場合(概ね3年程度の期間、副業収入が本業収入の10%未満しかない等)
②営利性が認められない場合(営業努力等もせずに3年間赤字を放置している等)
■「帳簿書類」を備えていれば節税できるが…
【ヒロ税理士】これでもわかりにくいかもしれないね。この「通達」は法律ではないため絶対的な拘束力はないものの、今後はこの指針に沿って税務行政も運営されるものと予想している。要は「帳簿書類」をしっかり備え付けていれば事業所得として認められることが多くなった!そのように考えてもいいだろう。
一番まずい例は、事業所得として「損益通算」をして節税してしまっている例です。副業でわざと赤字を作り節税を狙うやり方は、すでに“摘発”されています。どういうことかというと、生活費等の通常経費として認められないようなものを計上して、副業の収入より副業の経費をたくさん作って赤字にします。そしてその赤字を、本業の給与と相殺する「損益通算」をして、その給与から源泉徴収された所得税の還付を受けるという脱税スキームです。
10年ほど前の話ですが、あるコンサルが副業会社員にこのスキームをアドバイスして、不当に税金の還付を受けさせて、その中から報酬を得ていました。もちろん、業績悪化によって発生した赤字を「損益通算」するのは問題ないけど、今回の場合はほぼ架空のビジネスであることから、雑所得扱いとなるため、損益通算ができないのです!
損益通算できるのは事業所得や不動産所得等の赤字に限られるので、もし「損益通算」をしている方がいたらご注意ください。
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税理士
1976年生まれ。大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。税理士法人Five Starパートナーズ 代表税理士。2017年から「税理士 YouTuber ヒロ☆税理士」として活動開始。登録者数は35万人(2023年5月現在)。著書に『日本一わかりやすい ひとり社長の節税 税理士YouTuberが“本音”で教える』(ぱる出版)、『YouTube副業で月10万円を稼ぐ 知識ゼロから最短で「好き」をお金に変える方法』(SBクリエイティブ)、『なんで私の給料からイロイロ引かれるの? 税金弱者サラリーマンのお金の取り戻し方』(KADOKAWA)がある。
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ブランドプロデューサー
テレビ大阪 東京営業部時代、担当していたサントリー「金麦」関西オリジナルCMを制作するなど、数々の企業と協働する中、「独立して、本格的にやってみたら」という声に触発され、“ひとり企業”として2020年に出発。テレビ東京系列・テレビ大阪で鍛えられた「予算がなくても人員がいなくても〈発想〉で勝負」を武器にナショナルクライアントや地方の自治体のブランディングやPR、経営計画などに携わる。
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(税理士 田淵 宏明、ブランドプロデューサー 平岡 直也)
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