1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

入場料6000円の大阪カジノより、問題なのはパチンコ依存のはず…ギャンブル依存で本当に議論すべきこと

プレジデントオンライン / 2023年5月10日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andresr

カジノを含む統合型リゾート(IR)について、政府は2029年の開業を目指す大阪府・市の整備計画を認定した。ロンドン在住ジャーナリストの木村正人さんは「何でも賭け事の対象にするイギリスでは、ギャンブルスポットの数は減っている。代わりに猛威を振るっているのはオンラインカジノだ」という――。

■日本初のカジノは大阪観光の目玉になるか

カジノを含む統合型リゾート(IR)について、斉藤鉄夫国土交通相は14日、「IR整備法に基づき外部有識者の審査委員会で約1年に及ぶ審査が重ねられ、認定し得る計画との審査結果が得られた」と大阪府・市の整備計画を認定し、「IRが日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることを期待する」と強調した。2029年に日本初のカジノ開業を目指す。

「日本最大規模の国際会議場施設の整備が計画されている点や経済波及効果について肯定的な評価が得られている。今後、大阪のIRは開業に向け、計画の実施状況評価で進捗状況を確認していく。カジノについてはカジノ事業の免許を受ける必要がある。その際、カジノ管理委員会で十分な依存防止対策が措置されるかが確認される」と斉藤氏は説明した。

世界経済フォーラムが昨年5月に発表した「旅行・観光競争力レポート」で日本は堂々の1位(21年ランキング)に輝いた。コロナ前の19年、大阪を訪れた訪日外国人は東京の1410万人に次ぐ1152万人。経済の地盤沈下が著しい大阪にとってIRを観光の目玉にという声は大きい。しかし、かつて「暴力団とお笑いの街」と揶揄された大阪にカジノは必要なのか。

■大阪の有権者の中ではカジノ賛成派が多数派

4月9日の大阪府知事・大阪市長ダブル選ではIRを推進する大阪維新の会が圧勝。朝日新聞が同日行った出口調査でもIR誘致賛成が知事選で53%、市長選で55%といずれも反対を上回った。民意の追い風を受け、岸田文雄首相も14日「大阪のIRについては25年の大阪・関西万博開催後の関西圏の発展やわが国の成長に寄与する」と期待を寄せた。

■日本は既に「ギャンブル大国」

日本のギャンブル産業の規模はどれくらいか。

2022年のパチンコ・パチスロの売り上げは14兆6000億円。公営競技では、同年度の中央競馬で3兆2500億円、地方競馬1兆700億円、競艇2兆4100億円、競輪1兆900億円、オートレース1000億円――。すべて合わせると計22兆円超にも上る。

筆者が暮らす英国の街角にはスポーツ、政治、英王室まで賭けの対象にしてしまうブックメーカー(賭け屋)や小さなカジノがある。日本と単純に比較はできないものの、ギャンブルから犯罪を排除し、弱者を保護することを目的とした英「ギャンブル委員会」によると、宝くじを除くギャンブル収益(21年4月~22年3月)は総額99億ポンド(1兆6800億円)で前年より16.5%も拡大した。

日本では18年にギャンブル等依存症対策基本法が施行されているが、パチンコ・パチスロや公営競技にカジノも加われば日本は押しも押されもせぬ「ギャンブル大国」になる。

パチンコ
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

■依存症対策で入場制限などが実施される予定

大阪のIRは、大阪・関西万博の会場となる人工島・夢洲(ゆめしま)の約49万平方メートルに、電子ゲーム機約6400台が設置されるカジノ(約6.5万平方メートル)や3つのホテル(計約2500室)、国際会議場をつくる。初期投資額は約1兆800億円。年間約2000万人の来場と開業3年目で売上高約5200億円を見込み、収益の約8割をカジノが占めるとそろばんを弾く。

日本人のカジノ入場については、マイナンバーカードなどによる本人確認のほか、入場回数を7日間で3回、28日間で10回までと制限し、1回につき入場料を6000円徴収する予定。ほかにも、本人・家族の申請による利用制限や、未成年者や暴力団員の入場禁止の措置を講じる。場内のATM設置は禁止され、100万円超の取引はすべてカジノ管理委員会に報告され、チップの譲渡・持ち出しは禁止される。

大阪のIRを巡っては、依存症のほかに夢洲の地盤沈下による公費負担の懸念もある。大阪出身の筆者はカジノ推進派ではないが、日本の左派メディアは改憲派の維新が進める政策にはことごとく反対のように映る。海外のカジノで106億円を使い果たした大王製紙元会長、井川意高氏の例はあるものの、規制が行き届き、従業員が目を光らせるカジノは実は「最悪の賭博場」ではない。

■イギリスでは既に主流はオンラインへ

話を筆者の暮らす英国のカジノに戻す。

北アイルランドを除くグレートブリテン島のギャンブル施設数は8408カ所(前年比2.5%減)。うちベッティングショップは6219店だが、8年連続で減っている。オンラインのベッティング、ビンゴ、カジノは64億ポンド(約1兆880億円)と実際の店舗における35億ポンド(約5950億円)を凌駕する。

英国のギャンブルの主流は既に実店舗からオンラインへと移行している。中でも人気なのはスロットゲームだという。

英上院ギャンブル産業の社会的・経済的影響に関する特別委員会は20年7月に報告書「ギャンブルの害 行動を起こす時」を発表している。問題を抱えるギャンブラーは約33万人で、平均して毎日1人が自殺している。少年少女が最も危険にさらされ、11~16歳の問題ギャンブラーが5万5000人もいた。少年は成人男性の3倍も問題を抱えていた。

1人の問題ギャンブラーが周辺の6人に不幸を広げ、計200万人が家庭崩壊、犯罪、失業、ホームレス、ひいては死亡や自殺などの被害に遭っていた。方や、ギャンブル産業は年間15億ポンド(約2550億円)を広告に費やし、ギャンブル収益の60%は問題ギャンブラーかリスクを抱える5%の人々からもたらされていた。

■新法制定とスマホの普及でギャンブルが自由化した

英国議会はギャンブルの禁止も促進も望まない中立スタンスを歴史的にとってきたが、2001年の「バッド報告書」がギャンブル自由化の青写真を示し、ネオリベラリズム(新自由主義)を推進したトニー・ブレア首相時代の05年に「ギャンブル法」が制定された。これで無防備な消費者は競争原理を強化したギャンブル市場の荒波に放り込まれることになる。

この法律を制定した労働党の担当大臣テッサ・ジョウェル氏(故人)は後に「最大の後悔の一つ」と語っている。ルーレットを含むさまざまなゲームを搭載した賭博電子ゲーム機の賭け金は1回100ポンド(1万7000円)に固定され、「ギャンブルのクラック・コカイン」と呼ばれるようになる。巨万の富を築いたギャンブル業界の経営者は少なくない。

ギャンブル広告の数も激増。13年、規制当局はテレビ広告の数が過去6年間で7倍になったことを明らかにした。最近、サッカーのイングランド・プレミアリーグのクラブはユニフォームの前面からギャンブルのスポンサーシップを26-27年シーズン以降に撤回することで合意した。

第二の激変はスマートフォンやその他の端末の普及だ。24時間365日いつでもどこでも監視されることなくギャンブルにのめり込めるようになった。ギャンブルが自由化されて以来、規制は完全に後手に回った。特別委員会は今こそ政府は行動を起こすべきだとして、3年ごとの賭け金の上限と賞金の見直し、罰則強化など50以上の提言を行った。

■スロットが止められず自宅を担保に…

英国でギャンブル被害防止に取り組むアダム・ブラッドフォードさん(30)の父デービッドさん(66)は、ひどいギャンブル依存症だった。「今から9年前のことです。会計士として周囲からも信頼されていた父が帰宅して『明日、裁判所に行く』と告白しました。翌日、父は裁判所から戻らず、弁護士から自宅に電話がかかってきました」と振り返る。

アダム・ブラッドフォードさん(右)
本人提供
アダム・ブラッドフォードさん(右) - 本人提供
アダム・ブラッドフォードさん
本人提供

父はオンラインのスロットマシンにのめり込み、こっそり自宅を担保に入れて50万ポンド(8500万円)の借金をつくっていた。勤め先から5万ポンド(850万円)を盗み、罪に問われた。アダムさんは父と一緒にギャンブル依存症の恐ろしさを訴え、19年に賭博電子ゲーム機の賭け金の上限を1回100ポンドから2ポンド(340円)に引き下げることに成功した。

「05年のギャンブル規制緩和の見直しが長い間行われず、被害を広げてしまいました。ギャンブル産業と政界のつながりが背景にあります。約50万人がギャンブル依存症とされ、潜在的なリスクはさらに数百万人に広がるとみられています。英国政府は現在、ギャンブル法をデジタル時代に対応させるために見直しています」(アダムさん)

■イギリスはオンラインカジノの法整備に取り組んでいる

アダムさんは続ける。

「ギャンブルには中毒性があり、ゲームのデザインや大量の広告によって、弱い人が自分の賭けをコントロールし続けることが難しくなっています。企業は問題ギャンブルの発生を防ごうとスマートリミット(賭け金の上限)やアフォーダビリティ(支払い能力)チェック、行動分析を使うなど、対策はより洗練されてきています」

11歳の時に自閉症と診断されたアダムさんは父と英領ジブラルタルにあるゲーミングコンプライアンスとテクノロジーの専門会社と共同で、デジタルセラピーツールとして「ベットプロテクト」を開発した。ギャンブラーに小休止と安全な空間を提供し、自分の賭け事をコントロールできるようにするツールだ。ベットプロテクトは現在、ギャンブル業界全体に展開されている。

■「テクノロジーを活用すればカジノは問題にならない」

日本のカジノ解禁について、アダムさんの同僚で、ギャンブル業界のエキスパート、ポール・フォスター氏は「規制は、運営の枠組みやルールを作るため、プレイヤー保護の重要な基礎となるものです。これにより、ブラックマーケットのギャンブルを減らし、完全な課税とライセンスによる規制が可能になります」と指摘する。

オーストラリアはマネーロンダリングや依存症対策として「キャッシュレスカジノ」を目指している。「すべてのプレイヤーがサインアップからプレイまで監視されます。カジノ内の安全なギャンブルエリアが確保され、プレイヤーはギャンブルをエンターテイメントとして利用することができ、危険ゾーンから遠ざかることができます」(フォスター氏)

「立法者はプレイヤー保護を確実に実行するためにあらゆる選択肢を検討し、ゴールドスタンダード(絶対基準)を設定するためにテクノロジーを活用することが重要です。これが実行されれば、新しい統合型リゾートの創造は社会にとって有益なものとなり、ギャンブルの歴史的な問題を引き起こすことはないでしょう」とフォスター氏は提言する。

■日本でも違法なオンラインカジノ利用者は増えている

日本のギャンブル依存症患者の現状はどうなのか。

国立病院機構久里浜医療センターが2021年に発表した「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」(注)によると、回答者の50%がパチンコ、23%がパチスロ、29%が競馬、7.8%が競艇、5.5%が競輪、2.4%がオートレースを経験。海外のカジノ経験者は7.2%。1カ月当たりギャンブルに使う金額は男性で1万~5万円、女性で2000~5000円が最も多かった。

(注)松下幸生、新田千枝、遠山朋海: 令和2年度 依存症に関する調査研究事業「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」2021年

過去1年にギャンブル等依存が疑われた者は2.2%で、男性3.7%、女性0.7%。これを日本人の人口(18~74歳)に当てはめると全体で187万6000人、男性158万1500人、女性29万7800人と推定される。ギャンブル等に使った金額は男性では1カ月当たり5万円(中央値)で、パチスロやパチンコの割合が高かった。

■日本では継続的なギャンブル依存症調査と対策が不可欠

17年時点の中間まとめでは、

(1)生涯でギャンブル依存症経験が疑われる人は推計3.6%、国勢調査のデータから推計すると約320万人
(2)最近1年間にギャンブル依存症状態だったと疑われるのは推計0.8%で約70万人
(3)ギャンブルへの賭け金は平均月5.8万円
(4)患者数は外来2929人、入院261人(16年)

という数値を発表している。

14年にはギャンブル依存が疑われる人は全国の20歳以上の男女の約5%に当たる536万人(男性9%、女性2%)という調査結果が公表されている。

日本でもスマートフォンの普及に伴って、国内では違法とされるオンラインカジノにアクセスし、賭博を行う人が増えている。デジタル分析支援会社の調査によると、オンラインカジノへの日本からのアクセス数は18年12月に月約70万回だったが、コロナ危機の巣ごもり需要で21年9月には約8300万回と約118倍に膨らんだ。事態を重く見た警察庁は消費者庁とともに22年10月、「オンラインカジノに接続して賭博を行うことは犯罪です!」と警告を出した。

スマートフォン
写真=iStock.com/SolStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SolStock

カジノ解禁を云々する前に、日本では継続的なギャンブル依存調査と総合的な対策が不可欠だ。カジノが必ずしも「最悪の賭博場」とは限らない。オンラインカジノにも目を光らせる必要がある。

----------

木村 正人(きむら・まさと)
在ロンドン国際ジャーナリスト
京都大学法学部卒。元産経新聞ロンドン支局長。元慶應大学法科大学院非常勤講師。大阪府警担当キャップ、東京の政治部・外信部デスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

----------

(在ロンドン国際ジャーナリスト 木村 正人)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください