「気づけば独身中年になっていた」という人が抜け出せない、家と職場の往復、動画見ながら夜食という深い沼
プレジデントオンライン / 2023年4月27日 11時15分
■職場と自宅の往復で、いつのまにやら中年に
朝起きて、身支度を済ませて、出勤して、仕事をして退勤。仕事帰りにスーパーに立ち寄り、総菜コーナーで適当なおつまみとお酒を購入して帰宅。NetflixやYouTubeを観ながら晩酌して就寝。
こんな生活を繰り返しているうちに、あっという間に何年も過ぎて、気づけば中年にさしかかっていた――という人は、プレジデントオンラインの読者の方にもそれなりにいるのではないだろうか。
ああ、自分はどうしてこんな無駄に時間を使ってしまったのかと後悔で胸が苦しくなる。だらだらとした時間を過ごさずに、自己研鑽に充てていれば、婚活に充てていれば、キャリアチェンジに充てていれば、もっと違う人生が待っていたかもしれないのにと、自責の念に駆られて憂鬱になることもある。けれども、また仕事が始まると、同じような生活を繰り返す方向に、自然と体が流れて行ってしまうのだ。
本当はよくないとわかっているけど、それでもやめられないだらだらとした生活のループからなかなか抜け出せないのは、その人の性格や資質になにか決定的な問題点や落ち度があったから――というわけでは必ずしもない。そうではなくて、「自宅と職場の往復だけの毎日で、仕事終わりにスーパーの総菜を買い、晩酌しながら動画を観る」という営みをルーチンにしてしまったことにこそ原因があるだろう。
ようするに「自宅と職場の往復だけの毎日で、仕事終わりにスーパーの総菜を買い、晩酌しながら動画を観る」という営為は、一見すると「無味乾燥な繰り返しの日常」の比喩のように見えるが、しかし実際にやってみると、これがそれなりに楽しかったりするのだ。
……そう、最大の問題は「この日々が虚しいどころか、そこそこ充実して楽しい」ことだ。
人生をとっとと終わらせてしまうほどにはつらくも苦しくもないが、かといって現状を大きく変えなければと動機づけられるほどの焦りも感じない、熱くもなければ冷たくもない、身体を長く浸けていられる、まさしく「ぬるま湯」なのである。
自宅と職場の往復生活を続け、仕事帰りにはいつものおつまみといつもの発泡酒を買い、それを家でチビチビやりながらYouTubeやNetflixを見る――たしかに停滞した日々であるが、だが本当の意味で「自分にはもう何もない」と言ってしまえるほど完全なる虚無ではない。新着の娯楽コンテンツを家にいながらにして届けてもらえる快適な環境にいると、そういう暮らしも案外悪くないと思えるようになってくる。“本気”を出して社会活動や人間関係にコミットする道を選ばないことがますます「賢い選択」になっていく。
私自身YouTubeでショート動画を観ることに最近ハマっている。数十秒、長くても1分以内にまとめられた動画を次々に観ていくと、あっという間に時間が経ってしまう。ランダムにサジェストされるショート動画は、ひとつとして同じものはない。毎日つねに新しい動画と一期一会を楽しむことができる。外に出た方が楽しいかもしれないが、なんとなく面倒くさいときに、YouTubeを立ち上げてしまったら、もう動けない。
■美味しくて楽しい停滞
牛丼チェーン店を訪れてたかだか数百円を支払えば、その価格からは信じられないほど美味しい牛丼をお腹いっぱいに食べられてしまう。この事実は、この国で苦しい日々を送る生活困窮者の「こんな国(社会)なんかぶっ壊してやる」という絶望からくる破壊的・暴力的衝動の発生を大いに抑制しているだろう。
![吉野家 新大久保駅前店](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/1200wm/img_0b834b22ba6531be1041d8aee1bcd92f483736.jpg)
それと同じように、安価もしくは無料の動画コンテンツが家にいながらにして毎日提供され、自分の好きなタイミングでそれを楽しめるサービスやデバイスがあることは、この国の妙齢男女から「外に出て街に繰りだし、本気で人間関係(≒交友、人脈拡張、自己研鑽、恋愛、結婚に向けた活動)をやって、不満のある寂しい現状を変える」という動機や活力を奪ってしまってもいるだろう。
美味しい食事や楽しいコンテンツが安く簡単に手に入れられてしまう状況がこの社会にはある程度システムとして完成されている。ゆえに人生に強い不満や虚無感を抱えている人であっても、ただちに人生を終わらせたり、ぶっ壊してしまいたくなるほど「クソな世の中」とは感じなくなってしまうのだ。
この国は高齢者以外への福祉や社会支援はきわめて手薄であるが、しかし資本主義(営利企業)によって提供される安価で高品質なモノやサービスが、実質的にその穴埋め的な役割を担っている。なおかつそうしたモノやサービスは、不満や不遇を抱える人にとってそれでも状況を変えずに「なあなあ」の日々を送らせる、いわば“ガス抜き”のようなツールにもなっている。
■「遊び」の内向きな進化
ひと昔前の人びとは、YouTubeやNetflixなどもちろんない。家でじっとしていたらそれこそ本当に「何もない」からこそ、仕事終わりで疲れた体でも街に繰りだしていた。いまほど日々の暮らしに「娯楽」がなかったからこそ、相対的に「外」が楽しかったのだ。
だが、今の若年世代からすれば、仕事で疲れているならもうそのまま家に帰って、ゆっくりお風呂に入りながらスマホを観たり、ご飯を食べながらPrime Videoを観たりしていた方がよほど合理的だ。あるいはツイッターだってそうかもしれない。いずれにしても、家にいる時間をいくらでも楽しく消費できるコンテンツで遊び、そうこうしているうちにあっという間に時間は過ぎ、気づけば中年になって「まさかこんなはずでは」と愕然とする。
「いつのまにか独身中年になってしまった」と悲嘆に暮れている人は、いま世の中に大勢いるだろう。しかし私は必ずしもそのすべてが本人に帰責されるとは考えていない。というのも、この半世紀をみても「外」での遊び方や楽しみ方が昔とそれほど変わっていないのに対し、「内」での遊び方や楽しみ方の進歩は目まぐるしい進化があったからだ。
かつては暇で暇でしょうがなかった「内(おうち時間)」の世界も、いまではそれなりに楽しいことが目白押しだ。それによって味わえる主観的な楽しさは個人差はあれど、それこそ「外」に勝るとも劣らないくらいにまで伸びてしまっているだろう。さらにスマートフォンや携帯ゲームの進化によって、街にいるときですら「内」の延長のような過ごし方が送れるようになってしまった。
![数々のオンラインストリーミングサービス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/1/1200wm/img_1185190a21649653ee71af6abd0fc17f500961.jpg)
いうなれば、ここ数十年間にわたって先鋭化してきた「『遊び』の内向き方向の進化」が、「何も人生に変化を起こせないまま年だけとってしまった人」「自宅と仕事の往復をしているうちに中年になってしまった人」を大量につくりだしてしまった。
現代人は「内」で過ごす時間が楽しすぎる。本当はこのままじゃマズいと思っているのに、しかし能動的に活動するのはコスパが悪いし、なんだか割に合わない気がする……そんなどっちつかずの思いでズルズルと変わらない日々を過ごしてしまう。
■ネットゲームやネット動画を「アヘン」と呼ぶ中国政府
中国共産党政府がいま、ソーシャルゲームやネット動画コンテンツなど若者層に好まれる娯楽コンテンツを「アヘン」と指弾しながら、規制を苛烈化させているのは偶然ではない。
これはまさに「外」ではなく「内」にこもったまま貴重な若い時間を空費してしまう若者が続出していることへの危機感の表れである。中国は日本以上の少子化に悩まされており、若者たちが街に繰りだして「出会う」機会をつくることに必死なのである。そう、街より家で過ごす時間の方が楽しいのでは元も子もないのだ。
もっとも、日本には表現の自由があるため、中国のように「多産政策」の一環として「内向きの娯楽コンテンツ」を規制することなど不可能だろう。ゆえに、YouTubeにしてもNetflixにしてもツイッターにしても、各自がこれらを楽しむさいに「私たちはいま、現状を変えるための活力を奪う麻薬を摂取している」と頭の片隅でつねに自覚し、深みにはまりこまないよう自衛していくほかない。
私たちは、つまらない時間を楽しく快適にしすぎたせいで、この場所から動けなくなってしまった。
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文筆家・ラジオパーソナリティー
会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら。
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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)
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