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「ネットがあればリアル店舗は不要」はウソである…店舗スタッフが「1投稿=8100万円」の新記録を出せたワケ

プレジデントオンライン / 2023年4月28日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

ECサイトがあれば、リアル店舗は不要なのだろうか。オンライン接客アプリを展開するバニッシュ・スタンダードの小野里寧晃CEOは「リアル店舗で買い物する時のワクワク感や温度感は、売り上げを伸ばすうえで重要な要素になる。個性豊かな店舗スタッフをもっと活用したほうがいい」という――。

※本稿は、小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■店舗スタッフとECサイトの不幸な対立関係

店舗スタッフがECサイトでも接客できるアプリ「スタッフスタート」。

構想のきっかけは、アパレルの店舗スタッフだった友人の「お前たちがやっているECサイトなんて大っ嫌いだ」という一言だった。

僕は元ギャル男で、若い頃にアルバイトをしていた有名日焼けサロンには、渋谷109のカリスマ店員などたくさんの店舗スタッフが来てくれていて友人が多くいた。僕自身ファッションが好きだったし、彼女ら彼らの愚痴や悩みをたくさん聞く中で、友人たちを救いたいと思ってECサイトの制作や支援などを手掛けてきた。

でも、本来は企業や店舗スタッフの救世主になるはずのECが、逆に店舗スタッフを苦しめているという現実にショックを受けた。なぜそんな不幸なことが起こるのか。当事者たちへ徹底的に話を聞くと、店舗スタッフと企業の課題や、その対立構造が見えてきた。

【図表1】相対する店舗スタッフと企業の立場
図版=小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)より

店舗スタッフが抱えていた最大の問題は、「ECが原因で店舗にお客さまが来なくなった」と考えている人が多いことだった。

ECはお客さまにとっては便利なもので、企業やブランドとしては売り上げが伸ばせるし、うまくいけば収益性も高まる。しかし、店舗スタッフから見れば、「店舗の売り上げがECに奪われる」としか感じられないし、会社がECにリソースを振り向けることで「店舗の人員が削減される」と不安を抱いたり、実際にそれを目の当たりにしたりもしていた。当然、「給与も上がらない」という負の連鎖が起こっていた。

逆に当時、企業が直面していたのは、業績を上げるために、あるいは生き残るために「ECを強化せねばならない」という危機感だった。

ECを強化する一方で、「店舗の売り上げが下がっている(=店舗のリソースに余裕が出てきているはずだから、人を削減しよう)」「店舗の売り上げが下がっているから、給与は上げようがない」「採算性の低い店や将来性が見込めない店舗は閉鎖せざるを得ない」と、諦めを超えて開き直っているようにさえ感じた。

そんな、真逆の方向性を持っていた店舗スタッフと企業の課題を一気に解決し、双方の要望を満たすコンセプトを掲げたのが、スタッフスタートだった。

■店舗スタッフがECを運営すれば問題は解決

まず、店舗スタッフ側の「店舗にお客さまが来なくなった」、企業側の「ECを強化せねば」という課題を解決するには、「店舗スタッフがECに立てばいい!」とひらめいた。

お客さまがリアル店舗に来ないのであれば、店舗スタッフがECでも接客できるようにすればいい。ただ商品画像が並んでいるだけのECではなく、接客の概念を入れればECの強化にもつながる。

また、店舗スタッフ側の「店舗の人員が削減される」、企業側の「店舗スタッフのリソースに余剰がある」という課題に対しては、「店舗スタッフの空いている時間をオンライン接客に使えばいい」と考えた。これなら店舗の人を減らす必要はない。むしろ、リアル店舗ならせいぜい1日数十人から数百人が精いっぱいだが、オンラインでは24時間365日、たった1人で何千人、何万人ものお客さまに接客できる。店舗スタッフの接客能力をネットの世界に開放し、拡張できるということだ。

【図表2】スタッフスタートの仕組み
図版=小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)より

■ECの売り上げを店舗に還流させる

店舗スタッフ側の「給与が上がらない」という悩みに対して、企業の多くが「(お客さまが来ないのだから)給与は上がらなくても仕方ない」と考えている問題は根深いものだ。

でも、ここを解決しないと店舗スタッフにとっては「ECの仕事が増えるだけ」で、何の得もない。そこで、僕は「店舗スタッフがオンライン接客をし、それをきっかけにECでモノが売れたら、売った『個人』の評価にすればいい」と考えた。リアル店舗とECを比べると、ECのほうが利益率は高いことが多い。その分を店舗スタッフに還元する仕組みをつくれば、店舗スタッフは潤うし、企業側も損することはない。

この個人評価をベースにして、オンライン接客経由のECでの売り上げを「店舗評価」に使うことも可能だ。

そうすれば、店舗スタッフ側の「店舗売り上げがECに奪われる」という懸念はなくなる。お題目ではなく、「店舗とECどちらで買ってもらってもいい」と店舗スタッフの気持ちが切り替わることが、OMOの成功には不可欠だ。同時に、「不採算店舗を閉店させなければならない」という企業側の課題に対しても、EC売り上げを加味すれば多くの店舗を採算ベースに乗せることができる。

■ECに店舗スタッフの温度感を載せる

こうしてスタッフスタートは、店舗スタッフと企業の双方の目線をそろえて、それぞれにメリットを提供できるよう設計してきた。ただ、何も難しいことばかりを考えているわけではない。やっていることは常にシンプルで、「リアル店舗で求められていることを、そのままオンラインに置き換える」ことだ。

基本的に、インターネットやIT化とは時間や距離、場所の制限をなくして、人々の生活を便利にしていくものだ。リアルにおける「手紙」や「店舗でのショッピング体験」「現金」「切符」は、それぞれオンラインの「メール、メッセージ」「EC」「クレジットカード、電子マネー」「スイカやパスモ」に置き換わった。

ただし、利便性が向上する一方で、オンラインはリアルのワクワク感や温度感、情緒といったものを失いがちだ。象徴的なのがECだろう。ともすれば、ECはいきなり自動販売機のように殺風景になってしまって、何が面白いのか分からなくなってしまう。

だから、スタッフスタートでは、リアルでの「不」、不便や不満をオンラインで解決しつつ、利便性や効率化だけではない世界を目指してきた。具体的には、令和の時代ならではのリアルの面白さや素敵さ、温度感などをITに載せること。そのカギが、個性あふれる店舗スタッフの方々なのだ。

古着屋で働く女性
写真=iStock.com/yoshiurara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yoshiurara

■「疑似試着」ができるコーディネート投稿

象徴的なのが、スタッフスタートのメイン機能である「コーディネート機能」。

これは、まさに店舗スタッフの接客ノウハウをオンラインで生かそうとして最初に生まれたサービスだ。僕としては、単に素敵なスナップ写真をECに並べたいわけではなく、信頼できる店舗スタッフならではのコメントをしっかりと見せていくことで、店舗スタッフの「センスをDX(デジタルトランスフォーメーション)したい」という発想が強かった。

ECに対してリアル店舗の優位性は、試着室の存在が大きい。店舗スタッフが商品や着こなしを提案し、試着してもらう。それが似合えば買ってもらえるし、さらにコーディネートを提案してセット購買につながったりもする。

一方で、ECでは試着できないのが購買を阻害する大きな要因になっていた。それを変えたのが、店舗スタッフによるコーディネート投稿だ。自分に体形やセンスが似通った店舗スタッフを探せて、その店舗スタッフがEC上で「疑似試着」してくれている。そんな状態をつくり出せたことが、ECでの買い物をより楽しいものに変えたのだと思う。

このように僕は、リアルとオンラインを比較しながら、リアル店舗での接客要素を分解し、その中からECやオンラインでお客さまが求める要素をピックアップしてスタッフスタートをつくってきた。では、スタッフスタートが店舗スタッフの在り方にどのような変化をもたらすのか、詳しく見ていこう。

■店舗スタッフがオンライン接客するメリット

スタッフスタートが企業・ブランドに提供する最大の価値は、店舗スタッフのモチベーションを高めながら、「店舗スタッフ起点のOMO」を実現し、売り上げを拡大していくことだ。店舗スタッフがオンライン接客をするメリットを分解すると、次の大きく3つの要素に分かれる。

①オンライン上でも店舗スタッフへの共感が生まれる
②お気に入りの店舗スタッフからECで買う「指名購入」が発生する
③店舗スタッフにリアルで会うための「指名来店」が生まれる

この3つのサイクルを回してオンライン上でも店舗スタッフのファンを増やしていくことで、ECの購買体験はがらりと変わり、リアル店舗での集客にもつなげられる。

■共感は購買につながる

まずは「①店舗スタッフへの共感」がなぜ必要なのか。

従来のECは商品画像とその説明を掲載するのが一般的だったが、店舗スタッフのコーディネート投稿がお客さまの共感を呼ぶことで、ぐっと購入につながりやすくなる。

その理由の1つが、「リアリティー」があるということだ。ブランディングを重視するといいながら、モデル、特に高身長の外国人モデルなどに着用させた写真は素敵に見えるけど、お客さま自身が着たときのイメージとは乖離(かいり)しがちだ。それよりも店舗スタッフが着用することで、お客さまは身近さを感じて共感を生むことになる。

2つ目が「バラエティーの豊富さ」だ。1つの商品でも、その商品を着用してコーディネート投稿している店舗スタッフの数だけお客さまへの提案がある。そのため、「自分もこんな着方をしてみよう」といった共感ポイントが必ず見つかる。

そして3つ目が「マッチング」だ。お客さま自身の身長や体形、ファッションやメイクのタイプ、カラー診断などの条件に応じて、お客さまのニーズに合った店舗スタッフ、コーディネート投稿に出会える

■店舗スタッフがインフルエンサー化する

こうして生まれた店舗スタッフへの共感をベースにして、次に起こる重要なポイントが、「②指名購入」だ。

店舗スタッフのタイプやコーディネートなどを気に入ったら、お客さまは次も同じ店舗スタッフの投稿を見てくれるようになる。EC上でも店舗スタッフ個人にお客さまが付く状態だ。

インスタグラムから自社ECに飛んでくることもあるし、逆に自社ECのスタッフページに掲載したインスタグラムのアカウントをフォローしてもらうケースもある。単なるファッションの着こなしだけではなく、SNSからそのスタッフの人柄やライフスタイルを知ることで、よりファンになってもらえる。そして、お客さまは「この人から買いたい」と、指名買いをすることになるわけだ。

実際、スタッフスタートを利用する店舗スタッフの3人に1人が指名購入するお客さまを持っている。こうしてファンが付き、スタッフがインフルエンサー化し、発信した情報に対してアクションを起こしてくれるファンが増えていくことになる。

■最高記録は「1投稿=8100万円」

そうしてオンライン上でも強固なファンのベースを築くと、お客さまはSNSにコメントをくれたり、ECで購入したりするだけではなく、店舗スタッフに会いに来てくれるようになる。「③指名来店」だ。

小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)
小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)

すでに多くの店舗スタッフは、インスタグラムで出勤簿を提示したり、ヘルプで行く店舗を告知したりと、ファンが来店しやすいよう工夫している。実際、人気の店舗スタッフがヘルプに入った店舗で1日の最高売り上げを更新した例もある。

つまり、オンライン上でつくったファンとのつながりは、必ずリアル店舗にも還元されるのだ。

特にwithコロナの時代には、ウインドーショッピングをしたり、何店舗もふらりと入って商品を探したりするよりも、事前に行く店を決めて訪問することが多くなっている。指名来店はリアル店舗への集客という意味でも、ファン化という意味でも、より重要さを増している。こうして店舗スタッフのインフルエンサー化を進めることが、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)を成功させる近道となる。

実際、ここまで説明してきた3つのサイクルのインパクトは絶大だ。

【図表3】店舗売り上げの100倍売れるスタッフも誕生
図版=小野里寧晃『リアル店舗を救うのは誰か』(日経BP)より

すでにスタッフスタート経由のEC売り上げで1スタッフの最高記録は月間1億3000万円に達している。これは店頭の約100倍もの実績だ。ここまでいかなくても、月間500万円以上のスタッフは731人、月間1000万円以上は235人もいる。店頭に立つだけでは絶対に達成できない売り上げを多くのスタッフがたたき出している。ちなみに、1回のコーディネート投稿経由のEC売り上げは約8100万円が最高記録となっている。

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小野里 寧晃(おのざと・やすあき)
バニッシュ・スタンダードCEO
1982年10月24日、群馬県前橋市生まれ。2004年、大手Web制作会社に入社、EC事業部長として主にアパレル企業などのECサイト制作に従事。11年、バニッシュ・スタンダードを設立。EC構築から運営の全てを請け負うフルフィルメント事業を提供する中で「店舗を存続するEC」を目指し、16年に店舗スタッフをDX化させる“スタッフテック”サービスの「STAFF START(スタッフスタート)」を立ち上げる。

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(バニッシュ・スタンダードCEO 小野里 寧晃)

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