1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

自分と家族の暗殺がとにかく怖い…プーチン大統領がすべての執務室を「同じ間取り、同じ内装」にする理由

プレジデントオンライン / 2023年5月4日 10時15分

モスクワ郊外のノヴォ・オガリョヴォでビデオ会議に参加するプーチン大統領=2023年4月20日 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■プロパガンダ報道は限界にきている

ウクライナ戦争長期化の中で、ロシア各地で謎めいた爆発事件や火災が頻発し、今年に入って20件を超えた模様だ。

ロシア側はウクライナの特殊部隊によるテロを警戒するが、反プーチンを標榜する正体不明の組織が犯行を名乗り出たケースもある。

ロシアでは昨年以降、オリガルヒらエリート約15人の怪死事件も続く。昨年は凶悪犯罪発生率やアルコール消費量も増加した。

プーチン政権は愛国教育やプロパガンダ報道を徹底し、国民の洗脳に躍起だが、ウクライナ侵略戦争が次第に社会をむしばみ、世相が悪化してきた。

■「ブロガー爆殺」はウ軍か反政府組織か、それとも…

社会に衝撃を与えたのが、4月2日にサンクトペテルブルクのカフェで起きた右派ブロガーの爆殺事件だ。愛国勢力による討論会の開催中、軍事ブロガーで「戦争特派員」を名乗るマクシム・フォミン氏が若い女性から贈り物を渡された直後にこれが爆発し、同氏は即死、30人以上が負傷した。

連邦保安庁(FSB)はウクライナ人の男がロシア人女性に爆発物を届けたとして、トルコに出国した男を指名手配し、「ウクライナ特殊部隊のテロ」と非難した。

しかし、「国民共和国軍」と名乗る反プーチンの地下組織が2日後、SNSで犯行声明を出し、単独で実行したと発表した。

一方、別の線も浮上している。ペテルブルクのカフェは、民間軍事会社「ワグネル」の創始者でオリガルヒのエフゲニー・プリゴジン氏が経営する。殺害されたフォミン氏はプリゴジン氏と組んで、激烈な正規軍批判を展開しており、政権側による警告では、とする臆測も出た。

■ショッピングセンターやインフラ施設も標的に

ロシアの独立系メディア「Verstka」(2022年12月29日)によれば、プーチン政権が昨年2月にウクライナ侵攻を開始した後、昨年末までにロシア各地の軍事施設の少なくとも72カ所で爆発があった。徴兵事務所で44件、軍事基地で28件という。徴兵事務所の爆破は、プーチン政権が昨年9月に導入した部分的動員令への反発といわれる。

ショッピングセンターやインフラ施設でも、20件以上の爆発が起きたとされる。

今年に入っても謎の爆発が続発している。4月1日、ウクライナに近いベルゴロドの変電所が爆発、炎上した。4月15日には、中部カザンの戦車訓練施設で大爆発と火災が起きた。当局は詳細を公表していないが、地元住民らがSNSで爆発の動画を伝えた。

3月5日にはウクライナに近いブリャンスク州で監視塔2カ所がドローンで破壊され、航空機や燃料タンクが損傷した。反プーチン組織「ロシア義勇軍団」が犯行声明を出し、隊員40人が作戦を実行したと伝えた。

ウクライナ侵攻を進める南部軍管区の拠点、ロストフナドヌーでは3月16日、FSBの建物が爆破され、4人が死傷した。この事件では、「黒い橋」と名乗る正体不明の組織が犯行声明を出した。

このほか、「自由ロシア軍団」もロシア国内で放火などの破壊活動を組織したとしている。

■ウクライナに投降し、反プーチンに転向したロシア兵も

プーチン政権は一連の爆破事件をウクライナ側によるテロだとしている。プーチン大統領は2月28日、FSB本部で演説し、「キエフの政権はテロの手法でロシアの弱体化を図っており、テロリストが国境を越えて潜入している」とし、国境警備や治安対策の強化を指示した。

しかし、犯行を名乗り出た「国民共和国軍」、「ロシア義勇軍団」、「自由ロシア軍団」などはロシア人中心の組織のようだ。

「国民共和国軍」は昨年8月にモスクワ郊外で起きた右派思想家ドゥーギン氏の娘の爆殺事件でも関与を主張したが、その正体は不明だ。

「ロシア義勇軍団」の創始者はドイツ育ちのロシア人で、格闘技イベントを主催してきたデニス・カプースチンとドイツのメディアが報じた。極右思想を標榜し、プーチン政権打倒を掲げているという。

「ニューズウィーク日本版」(3月22日)によると、「黒い橋」は「反戦を掲げるロシアのレジスタンス運動」で、「暴力的な抵抗によるプーチン政権の破壊」を最終目標に掲げるという。

「自由ロシア軍団」は、ウクライナ軍に投降し、反プーチンに転向したロシア軍将兵ら約500人で結成。ウクライナ軍と共にロシア軍と戦い、一部がロシア領内で破壊活動を行っているとされる。ロシア最高裁は今年3月、軍団をテロ組織に認定した。

■テロを警戒し、クリミア併合9周年集会は中止に

これらの組織の実体など詳細は不明ながら、プーチン政権はテロ活動に神経を尖らせているようだ。

政権が3月18日にモスクワで予定していたクリミア併合9周年集会を突然中止したのは、テロ警報があったためとされる。

5月9日の対独戦勝記念日に全国で行われる予定だった「不滅の連隊」という市民の行進も「安全上の懸念」から中止し、ネット上で実施することを決めた。

第2次世界大戦に従軍した親族の写真を持って練り歩く「不滅の連隊」では、ウクライナ戦線で戦死した家族の写真が掲げられ、反戦につながることを恐れたとの見方もあるが、政権が狙った愛国心の高揚が阻害された形だ。

ロシアではSNS上で真偽不明のテロ警報が飛び交っているといわれ、社会に治安への不安が広がっているようだ。

ロシア内務省が1月に発表した2022年の殺人と殺人未遂事件は、前年比で4%増加し、2万1200人が殺害された。殺人事件が前年比で増加したのは20年ぶりという。武器を使用した犯罪も約30%増加し、3万2600人が重傷を負った。

■ウオッカの消費量とともに暴力犯罪も増えている

「コメルサント」紙(3月28日)によれば、2022年のアルコール消費量は前年比で6.8%増加し、うちウオッカは同5.9%増加した。ロシアの弁護士は、殺人事件の70~80%はアルコールの影響で行われ、暴力犯罪の拡大はアルコール消費量の増加が原因と指摘している。

複数並んだ酒のボトルと、酒を飲む男性
写真=iStock.com/axelbueckert
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/axelbueckert

ロシア人は戦時下の閉塞(へいそく)感を、飲酒でまぎらわせようとしているようだ。

西側諸国の対露経済制裁は大きな打撃を与えていないが、原油価格の下落で昨年12月から財政赤字が急拡大した。通貨ルーブルの下落も進み、インフレにつながる恐れがある。

今年の予算は国防費と国内治安対策費で全体の約3分の1を占め、教育費や医療費の減少が目立つ。来年3月の大統領選を控え、政権はバラマキ政策を行う余裕はなさそうだ。

野党第一党、共産党のジュガーノフ委員長は3月に下院で演説し、「ロシアの労働者の半数は月収2万ルーブル(約3万5000円)以下で生活している」とし、富裕層への税額を引き上げるよう求めた。

モスクワなど都市部の所得は高いが、地方はまだまだ貧しい。生活苦が広がると、世相や治安の悪化につながる。

■プーチン氏は「刺客」を偏執狂的に警戒している

暴力の拡大や治安の悪化で政権幹部が最も懸念するのは、要人へのテロだろう。

昨年秋に亡命したロシア連邦警護局(FSO)のグレブ・カラクロフ元情報将校は4月、プーチン大統領はコロナ禍で偏執狂的になり、自らと家族の安全を極度に警戒していると暴露した。

モスクワやサンクトペテルブルク、ソチなど公邸のすべての執務室を同じ形態に整え、どこにいるか特定できないようにしているという。海外に行く時は、秘密保持のため高さ約2.5メートルの電話ブースを持参するらしい。

一方、プーチン大統領は3月26日、国営テレビとのインタビューで、「最近はクレムリンの住居で昼夜過ごしており、中国の習近平国家主席もクレムリンの自宅に招いた」ことを明かした。

治安対策の整うクレムリンが最も安全とみなしているかもしれない。反政府組織やウクライナ軍の「刺客」を最も警戒している可能性がある。

----------

名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学特任教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。2022年4月から現職(非常勤)。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミア新書)などがある。

----------

(拓殖大学特任教授 名越 健郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください