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50代でカバン持ちができるか…定年後に新しい仕事に就き90歳になっても活躍する人が50歳で始めた"準備"

プレジデントオンライン / 2023年4月28日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Image Source

高齢者になっても人生を豊かに楽しむコツは何か。定年後に産業カウンセラーへと転身した90歳の男性はSNSにみずみずしい文章を綴りながらイキイキとした毎日を過ごしている。人生後半は時間を忘れ、食事も忘れて打ち込める何かを見つけておくことが重要だという。明治大学文学部教授の諸富祥彦さんが書いた『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)より紹介しよう――。

※本稿は、諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■人生後半を生きるコツは「時間を忘れて打ち込める何か」を見出すこと

今、私が人生後半をどう生きるかということを考えたときに、一番理想だと思える方の1人が定年後に産業カウンセラーへと転身されて活躍されている青木羊耳さんです。90歳の今も各所で講演し、著作を書き続けています。

私の父は、67歳で死にました。大学院の指導教官は63歳で亡くなりました。職場の隣の研究室の先生も同じ63歳で亡くなりました。青木さんは、私の指導教官や隣の研究室の先生よりもすでに、27年も長く生きていることになります。

青木さんは、Facebookもよく書かれているんですけれど、90歳で実にみずみずしい文章を書かれる。場面がありありと思い浮かぶような描写をなさる。これが90歳の方が書く文章なのかなと思うような文章なんです。

ご本人も「90歳になって、前よりも深く考えることができるようになった」と、そうおっしゃっています。

90歳になった青木さんの日課は、お散歩とカフェで原稿を推敲することだそうです。健康のために歩いているのではありません。歩いていると、脳が活性化してきて、いい文章が思い浮かぶんだというんです。そしてカフェで、原稿の推敲をして過ごす。

そんな青木さんに、人生後半を生きるコツをたずねると、一番重要なのは、「時間を忘れ、食事も忘れて打ち込める何かを見つけておくこと」。

そうすると、健康もお金も自然とついてくる、と言います。

「時間を忘れ、食事も忘れて打ち込める何か」を見つけておくと、自然とそれが仕事にもつながるし、だからお金も入ってくる。そうして活動していることが、精神的な健康にも肉体的な健康にもつながると言うんです。

これは、真理をついていると思いますね。

■打ち込めることを見つける3つのポイント

これは若くても、年を取っても、そうなんじゃないでしょうか。

大正時代に、哲学者の阿部次郎が著した『三太郎の日記』という、若者のバイブルになった本があります。この中でも「魂を打ち込める何か」を見つけて、それを仕事にすることができるならば、人生の幸福の8割は手に入れたようなものだと言われています。

つまり、楽しいこと、ワクワクしながら打ち込めることを仕事にすることが「幸福の一番の秘訣」だというんです。

これは、本当にそう思います。

では、どうやって時間を忘れ、打ち込めるものを見つけられるのか。青木さんにたずねると次の3つだと言います。

①子どもの頃の興味・関心を探してみる

今、何をやったらいいかわからない人は、小学生や中学生の時になりたかったものを思い出してみましょう。そして、その中で、今の自分に活かせるものを探すのです。

②どんな本や映画に関心があるか

どんな本に惹かれたか。どんな映画に惹かれたか。自分が何に関心があるかは、読んでいる本や映画を思い起こすと、わかるかもしれません。

③出たとこ勝負である

これが、3番目のコツ。あまり人生を計画的に決めつけすぎないということです。これをキャリア心理学では「プランド・ハップンスタンス」と言います。プランド・ハップンスタンスというのは、「計画された偶然性」という意味です。プランドは「計画された」、ハップンスタンスは「偶然性」という意味です。

「計画された偶然性」の理論というわけなんです。

では、偶然を計画するというのは、どういうことか。「計画的に偶然を大事にする」ということです。

大まかに言えば、あえて長期的な計画を立てずに「出たとこ勝負」でいくのです。

青木さんはもう90歳なんですけれど、とりあえず明日やることだけメモして寝ると言います。明日になって、朝起きた時に、「今日は何をするんだっけ?」とならないようにしている。

今を大切に生きる。悔いのない時間を少しずつ刻んでいくことが、いい人生を生きていくコツだというわけです。

■健康とお金の話ばかりの人はダメになる

青木さんはこういうふうにおっしゃっていました。

65歳以降の人で話題が健康やお金のことばかりの人は、ダメになる。

健康やお金の話題ばかりをしている人が、中身が空虚な人生を生きている人の特徴であるというわけです。

日本の1万円札の山を持つ男。
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

65歳以降の人生をどう生きるかを考えていない人が多すぎる。できれば、50歳の早い時期から、遅くても55歳から準備を始めることが大事である。それから数年準備をして、60歳になり、65歳になることが重要だというわけです。

青木さんは40代のとき、金融機関に勤めていた。当時は高度経済成長の真っただ中で、定期預金に貯金をするだけで1年で6%、7%という利率が付いていた。7年とか10年とか、定期預金に置いておくだけでお金が倍になった時代です。

その中で、とにかくお金を集めろ、少しでも集めろというのが、金融機関に勤務されていた青木さんにとってのミッションだった。ひたすら接待漬けの毎日を送る中で、45歳の青木さんは、

「これは、何か違うんじゃないか?」

私はこんな人生を送るつもりだったのだろうか、早く抜け出したほうがいいんじゃないかと、疑問を抱き始めた。

■「モデルになる人」を選んでカバン持ちをすること

今の人生に疑問を持ち始めて、いったい自分は「子どもの頃、何をしたかったのか」を考えた。そして、小学校の先生になりたかったことを思い出した。

しかし、50歳から、小学校の教員は無理だろう。じゃあ、小学校の先生にはなれないけれど、先生みたいなことは今からできないか? それに近い仕事は何かなと考えていると、「講師業ならできる」と思いついたのです。

50歳の時、東京の本店に戻ったのをきっかけに、土曜、日曜に講師業の講座に通い始めました。

コミュニティカレッジまたはコミュニティセンターの成人学生を含むシニア教育者
写真=iStock.com/tdub303
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

デビュー戦は53歳で訪れます。小田原市民会館で、50代の人に向けて「定年後の備え」というテーマで仕事が舞い込んできた。それでやってみたら、実際に来た人は、70代、80代の人ばかり。暇つぶしで集まっている。

もうとっくに定年を過ぎている人ばかり。そこで、アドリブをきかせて、「良寛さまは……」と、江戸時代の曹洞宗の僧侶である良寛の話にしたら食いついてきた。

「予定外のことに即座に対応する能力」、この柔軟な姿勢が必要なんだろうと思います。アクシデントに対応できるというのが脳の若さの証しだと思います。

講師業をやっているうちに、講師業も想像以上に競争がきびしいと気付いた。そこで「モデルになる人」を選んでカバン持ちをした。これが人生後半の成功のヒントです。

「モデル」を持つことが、人生後半をうまく生きるためのコツなのです。手弁当でどこにでも出かけていって話を聞いた。

■モデルになる人を選んだらその人をマネる

逆に、得てして無駄で終わるのが「資格」です。資格があればいいだろうということで、さまざまな資格を取る方がいます。けれど、往々にして資格を取るだけで終わって、満足して終わってしまいます。

資格はあくまでも入り口。成功のためには「モデル」を選ぶ。モデルをどうやって選ぶかというと、「この人みたいになりたい」と思える人をモデルにする。たんになりたいだけで、なりたくてもなれない人をモデルにしても仕方ない。

「この人みたいになりたい」、それから「この人にならなれるかもしれない」。この2つの要素を兼ね備えた人を選んで、その人をモデルにするのが成功のコツです。

「モデルになる人」を選んだら、とにかくその人に付いて回る。まずは「マネする」ことです。だんだん話し方もそぶりも似てきます。モノマネでいいんです。モデルになる人を選んでその人をマネることが、仕事を覚えるうえで最良の方法だと思います。すると、いつの間にか実力も上がってくるということです。

青木さんの向上心はここで止まりません。どうやったらいい講師になれるか? そう考えた青木さんは、それは受講生の気持ちがわかる講師になることだと思った。では、受講生の気持ちがわかるようになるには、どうしたらいいか。

そこで青木さんはカウンセリングを学ぼうと思い立ったわけです。なぜかというと、受講生もカウンセラーも、じっと黙って話を聴いているなと。

受講生とカウンセラーを重ねて考えるというのは、なかなかできないことです。

■講師は「前振り」が大事

カウンセリングは、悩んでいる人の話を聴く仕事。受講生は、勉強したくてためになる話を聞く。同じ話を聞くのでも全然違うのですから、2つをリンクさせることはできないと考えるのがふつうです。

けれども、話を聞くという点では同じだ。

だから、いい講師になるためにはカウンセリングを勉強すればいいのではないかと思って、カウンセラー養成講座を受講したのです。これが後の大きな転機となります。

青木さんは思い付いたことをすぐに実行に移す。「素直に実行に移す素直さ」が人生の成功の大きな秘訣だと思います。

講義もグループ・カウンセリングだと青木さんは言います。予定している内容を話すだけで精いっぱいになってしまう講師が多すぎる。レジュメを読むことにあけくれたり、パワーポイントの説明にあけくれたり。これではつくってきたレジュメやパワーポイントに縛られる。

パソコンの画面だけを見ている医者と変わらない。講座は、受講者中心で、受講者の理解と納得のスピードに合わせて、ゆったりと進めばいい。講師というのは、やり取りが大事なんだということです。

特に「前振り」が大事なんだと青木さんは言います。

■フットワークの良さが、人生を好転させるポイント

「青木でございます」と言った後に、何を言うかはあらかじめ準備はせず、受講生の顔を見てはじめて決める。同じ会社でも、その都度、どんな人がいるか、どんな人と目が合うかによって前振りの話はアドリブで変えていく。ベテランの女性社員が集まっている研修会では、それに気付いた瞬間に、宝塚の話をし始めた。これで、つかみはOKです。

講師の仕事を重ねているうちに、よい講義は次のようなものだと思い立った。①ラポール。受講生との気持ちのつながりが大事。②声の張りが大事。③語りかけるように話すことが大事。④話と話のあいだの間が取れることが大事。

⑤顔の表情が大事。⑥目配りが大事。⑦体の動きが大事。体を動かして、こぶしを握ったり、手のひらを相手に向けたりする。表情、笑顔も大事。⑧「え~と」「あの~」はNG。

講師をしていると、「著書は何かありませんか?」と主催者の方に聞かれることがあった。これをきっかけに、出版社の出版相談会に行ったそうです。やっぱりフットワークがいいです。フットワークの良さが、人生を好転させるポイントです。

そして、72歳でデビュー作を出した。その後、90歳の今までに25冊の単書を書いておられます。

■60歳で新しい自分に生まれ直す

60歳で「新しい自分」に生まれ直すことにした青木さんは、60歳の誕生日に名前を変えました。本名から「羊耳」と名前を変えた。「新しい自分に生まれ直す」という決意をしたわけです。

「60歳からが私の人生の本番でした」と青木さんは、言います。

「新しいもの」を食わず嫌いで避けないことも人生が好転する秘訣です。

ある日のFacebookにはこう書いていました。

JAICO(日本カウンセラー協会)神奈川支部でリモート研修の手ほどきを受けた。

リモート会議に参加したことはあったが、講師として、リモートのホストとして連続講座をおこなったことはまだない。

手ほどきを受けて思うことは、リモート研修はコロナ禍が終わるまでの一過性のものではない。グーテンベルグの印刷機の発見や、産業革命による資本と経営の分離ほどに、革命的なものと感じた。

リモート研修によって、受講者は距離・交通費の制約から解放され、日本中どこの講師の講座でも受講できるようになる。その一方で、講師の力量は県や地方区の垣根を越えて全国区で評価されるから、講師にとっては試練の時を迎えることになる。その結果、講師の力量の平均レベルが上がるとすれば、素晴らしい革命だ。

対面研修に比べて、リモート研修のもどかしさはあっても、総体として「リモート研修」という革命的な方法が出現したことによって、プラスマイナスして、結果はプラスのほうが大きいとも考えられる。毛嫌いしていると、時流からも、カウンセリング・講師業界からも、仲間からも「取り残されて」しまうかもしれない。

90歳の方が書いた文章です。

90歳にして、時流から「乗り遅れない」ようにされているんです。脳が若い証拠だと思います。自分はまだ現役だという意識なんですね。

■絶対に使わない2つの言葉

青木さんは「もう」と「どうせ」の2つの言葉を禁句にしています。

これもある日のFacebookの文章です。

高齢者の多くが二言目には「もう」「どうせ」を連発する。「もう○歳だから」「どうせ死ぬんだから」と言って、自分で自分をディスカウントする。

健康段階と介護段階の中間にフレイル段階がある。血圧が高い、足腰が痛い、動作が鈍くなったなど、フレイルを理由に、消極的でマイナス思考を表明する(フレイルというのは、高齢者が身体が脆弱になっていることです)。筋力が衰えて、立てなくなったりすることです。

高齢者よ、ちょっと待った。早まってはいけない。

WHOの健康の定義に倣えば、フレイルにも3つある。フィジカルフレイル、メンタルフレイル、ソーシャルフレイルだ。

この3つのうち、努力しても、なかなか思い通りにならないのはフィジカルフレイルだけだ。本人の努力次第では、メンタルフレイルとソーシャルフレイルは、ひきつづきウェルビーイング(well being)状態をキープし、フレイル段階に進行させないですむ。

高齢になればフィジカルフレイルは当たり前だと思おう。血圧が高くなったのも、足腰が痛くなったのも、動作が鈍くなったのも、高齢になれば当たり前と思えば、メンタルをフレイルしなくてすむ。ソーシャル(人間関係)がそれをカバーしてくれる。

90歳の女性がとてもイキイキ活躍している姿は時々目にしますが、90歳の男性でこれほど活躍している方はなかなかいません。

■はるかに、深くものを考えられる

「90歳まで生きてきてよかったことは何ですか」とたずねると、60歳の時よりも「はるかに、深くものを考えられるようになった。だから、こうやっていい文章が書けるようになった」とおっしゃいます。これは凄いことです。今58歳の私には、よい目標になります。

「代表作は何ですか?」と聞いたら、「次に書く本です」とおっしゃる。

90歳で、まだまだ書く気でおられるんです。

タイマーで、「原稿は90分」「日記は30分」「風呂に30分」と時間配分をしている。

諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)
諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)

無理はしないようにしている。もっと書きたいことがあっても、もう寝るようにしている。忘れないようにするために、見出しだけ書いて忘れないようにしておく。

こんなふうにおっしゃっていました。

お話をうかがって改めて、青木羊耳さんは私たち中高年のよき「人生のモデル」だと思いました。

90歳になって60歳の時よりも、いい文章が書けるようになっている。60歳の時よりも深くものを考えることができるようになっている。全国で講演活動を続け、人間関係を楽しんでいる。

本当に理想的な「人生後半」の生き方です。

そしてその核となるのは、青木さんの言う「寝るのも食べるのも忘れて打ち込むことのできる何か」と出合い、それを天職として生きることなのです。

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諸富 祥彦(もろとみ・よしひこ)
明治大学文学部教授
1963年福岡県生まれ。教育学博士。臨床心理士。公認心理師。教育カウンセラー。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、30年以上、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、具体的な解決法をアドバイスしている。教育・心理関係の著書が100冊を超える。

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(明治大学文学部教授 諸富 祥彦)

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