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バットを持っていないのに敬遠された…江川卓が目撃した長嶋茂雄さんの本当にすごいところ

プレジデントオンライン / 2023年5月4日 15時15分

バットを持つ巨人・長嶋茂雄選手=1966年7月(写真=時事通信フォト)

現役時代の長嶋茂雄さんはどんな選手だったのか。巨人軍OBで野球解説者の江川卓さんは「カンで動く人だと思われているが、実際は経験と計算で動く人だった。伝説的なプレーの裏には、長嶋さんなりの読みがあった」という――。

※本稿は、江川卓『巨人論』(SB新書)の第3章「巨人軍列伝」の一部を再編集したものです。

■私が目撃した長嶋茂雄さんの本当にすごいところ

長嶋さんの天才的な読み。

長嶋さんは、相手の動きを読んで打つ人だったと思う。

当時は勘だと言われていたが、僕が思うに正しくは、勘ではなく、読みだ。有名な天覧試合のサヨナラホームランにしても、長嶋さんは絶対に計算している。

阪神のピッチャーは村山実さんで、村山さんはシュートを得意にしていた。そのシュートを、最後の打席で長嶋さんはホームランにした。当時の映像を見るにつけ、長嶋さんはわざと打席のベースに近いところに立ったのだと思う。

そこは、シュートが一番打ちにくい立ち位置だ。これで、村山さんはシュートを投げてくる。長嶋さんはそれがわかっているから、村山さんが投げた瞬間に左足を引いてホームランを打った。

難しいシュートをうまく打ったのではなくて、シュートを投げさせるという計算があったのだろう。だから長嶋さんは勘の人ではなくて、計算と読みの人だ。

監督時代にご一緒させていただいて、長嶋さんはそういう人だとあらためて思った。ある時、長嶋さんは僕にこう言った。

「江川、届くやつは全部打てるぞ」

■記録にも記憶にも残るプレー

ありえない球を打つという意味では、新庄剛志さん(阪神など)やクロマティー(巨人)にもびっくりさせられたが、長嶋さんは異次元だった。

王さんがギリギリを見極めてフォアボールを選ぶのに対し、長嶋さんは全部打ちにいっていた。それでホームランにするのだから、やはり本人なりの計算があったに違いない。

村山さんの例ではシュートが来た瞬間に立ち位置を変えていたが、平松さんのカミソリシュートでは、投げた瞬間に握る位置をずらし、バットを短くして打っていた。

次に来る球を読んでいるのもすごいが、フォームを崩して臨機応変に打てるのがすごい。

技術も高いが、見ているほうを興奮させてくれるプレイングだった。

■バットを持たずに打席に入った結果

長嶋さんは敬遠策をとられた際、バットを持たずに打席に入ったこともある。バットを持っていないのだから、ストライクを決めれば3球でアウトが取れるのに、結局相手ピッチャーはボールを4球投げて歩かせた。

「バットがなくても長嶋なら打ちそう」と、長嶋さんの何をするかわからない感じが恐怖心を与えたのではないかと思っている。

シーズン中にホームスチールを見せたこともある。足が速いのもあるが、脚力プラス読みがあってなせる技だと思う。

そういう意味では、やはり新庄さんも似ていたが、新庄さんの有名なホームスチールがオールスターでの出来事なのに対し、長嶋さんは同じことをシーズン中にやっていたのだからすごい。

恐れ多いことかもしれないが、相手として投げてみたいと思った1人だ。どこまで打たれるのか、とても興味がある。体の後ろに投げたとしても打ってくるんじゃないかと、冗談ではなく本当に思う。

巨人のキャンプでは松井秀喜さんに「松井、頭の上!」なんて言いながらとんでもなく高い球で打撃練習をさせていた。すごい教え方をするなとは思ったが、長嶋さんらしさと、松井さんを心から認めていることが感じられる場面だった。

■野球選手がゴルフから学ぶこと

今では「イップス」(動作に支障をきたし、自分の思い通りの動きができなくなる症状)になりやめてしまったが、現役中からの趣味にゴルフがあった。

僕ははまるととことんはまるほうで、14日連続のゴルフを予定したことがある。うち1日は相手がキャンセルしたので結果的に13日になったが、僕を追っかけていた写真週刊誌の記者が14日目に「まいりました」と言ったのを覚えている。

「14日間のうち13日ゴルフ行く人は初めて見ました」そう言われた。彼らからすれば何かスキャンダルはないかと張っているわけで、それで2週間も毎日飽きずにゴルフを続けられては困っただろう。

ゴルフは、V9時代のセカンドで、僕が入団した時のコーチだった土井正三さんに言われて始めた趣味だ。今はどうなっているかわからないが、当時は、「野球を応援してくださる企業の方はみんなゴルフをしている。シーズンオフは、朝から晩まで一緒にゴルフをさせていただくことでいろんな企業の話が聞ける。いろんな学びがある」ということで、確かに学びになることが多かった。

当時、一番よくゴルフに行かせてもらったのは、長嶋さんかもしれない。長嶋さんとお付き合いのある企業さんたちとのゴルフサークルに、僕も何度も参加させてもらった。

長嶋さんの強さは読みにあると言ったが、それはゴルフでも実感させられた。長嶋さんはまず、びっくりすることにスコアカードも持たない。自分のスコアも相手のスコアもまったくメモを取らないが、お昼を食べていると「江川、あそこのパー3、ダボを打ってたよな」などと言う。

そんな調子で、18ホール終えても当然全部覚えている。緻密な読みと計算の前に、記憶力がものすごいのだ。

■知られざるメークミラクル

長嶋さんとのゴルフで思い出深いのは、箱根カントリー倶楽部の9番ホール、パー4だ。ティーショットを打つところの右に桜並木があり、フェアウェイの左側にはバンカーが3つ並んでいた。

長嶋さんは逆回転で右に打ち出したところ、みごとに桜の木に当たり、花がばらばらと散った。ボールは木の根元にボトッと落ちて、これはものすごく深いラフである。

僕は「今日は珍しく勝てそうだぞ」と思って、フェアウェイを歩いた。そうしたら長嶋さんが「キャディさん、3番アイアン」と言った。

ゴルフクラブ
写真=iStock.com/woraput
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/woraput

ラフで3番アイアンはありえない。引っかかってボールは出ない。下手したら空振りだ。それが上からフッと叩いたボールが、フェアウェイに戻り、さらにコロコロと転がっていき、あわやカップに入るかと思われた。

さすがにカップには入らなかったが、距離はあと10センチ。OKパットとなり、なんと深いラフから一転、バーディーになったのだ。僕は結局、パーで負けて帰った。題して「桜散る散る事件」だ。

今でも桜の木が揺れて花が落ちてくる映像がフラッシュバックする。あのラフも、3番アイアンも、もしかしたら計算だったのだろうか。

■集合時間の1時間30分前にいた車の正体

長嶋さんとのゴルフで思い出されることはまだある。冬のある日、8時にクラブハウス集合ということがあって、まあクラブハウス自体が開くのが8時だったから妥当な待ち合わせ時間だ。

江川卓『巨人論』(SB新書)
江川卓『巨人論』(SB新書)

先輩より前に、時間前に行くというルールが巨人軍の掟だから、僕は7時に着いていた。寒いからさすがに僕より早く来ている人はいないだろうと思っていたが、もう誰かの車がとまっている。多分6時半には来ている。

で、8時になって車から出てこられたのが、長嶋さんだった。

長嶋さんは、僕の顔を見て一言、「遅い!」と叱られた。

「遅い。何時に来たんだお前。さっき見たら7時だろ。遅い」
「すみません、遅れました!」
「もう少し早く来い」
「はい、次からそうします!」

8時にしか開かないのに、7時で遅いって……しかも冬の朝にとは思ったが、巨人軍のルールからすれば長嶋さんの言う通りだ。僕は6時に行かなければいけなかったのだ。

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江川 卓(えがわ・すぐる)
プロ野球解説者
1955年5月25日 福島県いわき市生まれ。栃木県作新学院時代に、ノーヒット・ノーラン12回、145回無失点など数々の記録を達成。高校3年時に春夏甲子園に出場し、同年のドラフトで阪急(現オリックス)に1位指名されるも、法政大学に進学。1977年にはクラウンライター(現西武)に1位指名されたが、アメリカに野球留学。翌年、読売ジャイアンツに入団。在籍9年間で、MVP1回(1981年)、 最多勝2回(1980年、1981年 20勝)、防御率1位1回(1981年)を獲得した。1987年に現役を引退した。

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(プロ野球解説者 江川 卓)

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