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妻が先立つと夫の余命は5年縮まり、夫が先立つと妻の余命は延びる…妻の死後、夫に一番多い"死因"とは

プレジデントオンライン / 2023年4月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

人生後半を楽しく生きるコツは何か。明治大学文学部教授の諸富祥彦さんは「中高年はフロイト『断念の術』を知るといい。熟年離婚や配偶者との死別など大切な何かを失うことが増えたときに涙も枯れ果てるほど悲しみつくすと、また若々しく生命の力が湧いてくる」という――。

※本稿は、諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■フロイト「断念の術」を心得ることが人生後半の秘訣

中高年にとってカウンセリングは大きな意味を持っています。中高年になると、いろいろなものを「失っていく」からです。

まずは体力が衰える。視力も衰える。歯も弱くなる。体力もなくなる。夜、熟睡できなくなる。記憶が低下する。健康が失われていく。

自分の人生の残り時間が失われていく。

自分にとって「大切な何か」を次々と失っていきます。

これを「対象喪失」といいます。

「大切な何か」は健康であったり、お金であったり、「大切な人」であったりします。

自分がずっとしていた「仕事」とか「夢」とか「願望」とか、「絶対にこれは成し遂げる」と思っていて、あきらめがつかない「何か」かもしれません。

会社員であれば、「自分の社会的立場」や「役職」を失う。役職定年がまずあって、そして本当の定年が来る。これは、会社人間にとっては大きな喪失感です。

しかし、さまざまな「対象喪失」の中でも、何といっても大きいのは「自分にとって大切な人」を失うことです。たとえば配偶者です。死別もあれば離別の場合もあるでしょう。

後者の場合、熟年離婚を突き付けられることもあります。65歳の定年と同時に熟年離婚を突き付けられることもあるでしょう。これは相当に大きな心のダメージになります。

精神分析ではこの「対象喪失」を最も重要な概念の1つに位置付けます。自分にとって「大切な何か」を失ったら当然、大きなショックを受けます。この「失い方」が、その後の人生や人格に大きな影響を与えるのです。

フロイトは言います。

「断念の術さえ心得れば、人生もけっこう楽しい」

これはとりわけ、中高年の生き方の極意を示していると思います。

「大切な何か」をあきらめる。

断念する。

その「断念した自分」を受け入れる。これは、中高年のカウンセリングで大きな役割を占めます。

心から断念することができれば、そして断念した自分を受け入れることができれば、人生は何とかなるものです。これは中高年にとっては、とても大きな課題です。

■近親者の死といかに向き合っていくか

特に大切な人との死別は大きな心のダメージになります。

フロイトは41~42歳の時に父親を亡くして、大きなショックを受けます。この心の「喪の作業」は「モーニング(mourning)」、「喪のプロセス」と言います。これをフロイトは、2年くらいかけて行なっていった。

精神分析では、回想の中で死んだ人との関係について扱っていきます。回想や、空想の中で、その人のことを「対象」と呼ぶのですが、「対象関係」を扱っていきます。つまり「心の中での他者との関係」を理解していく。これが精神分析の本質です。

その際、近親者の死が、大きな課題になります。この死別による喪失を「ビリーブメント(bereavement)」と言います。妻が夫を亡くしたり、夫が妻を亡くしたり、子どもが親を失ったり、親が子どもを失ったりと、さまざまなケースがあります。

夫、妻、どちらが先に死んだ場合でも、残されたほうがその後1年間に死ぬ死亡率は、夫婦が共に健在な場合に比べて2倍くらいになるといいます。

また一般に夫が先に死んだ場合、妻が抑うつ状態になるのは1年くらい。妻が先に死んだ場合は夫がうつ状態になるのは5年くらいというふうにいわれています。

夫が先に死んだ場合、妻の余命は長くなります。逆に、妻が先に死んだ場合、夫の余命は5年ほど縮まると言われています。

■妻が先に亡くなると、夫は酒やたばこの量が増える

なぜ、こんなに差があるのか。夫の妻への依存の割合が高いからです。

多くの場合、65歳を過ぎたあたりから、夫にとっては妻だけが大きな心の支えになっていく。だからこそ妻のほうが先に死ぬと、夫はガタッとくる。ガタッときて、何に対しても、興味も持てなくなり、好奇心もなくなる。欲望もなくなるのです。

とりわけ死因の中では、心臓病が一番多い。なぜかというと、妻が先に亡くなると、酒やたばこの量が増えたり、甘い物を食べ過ぎたりなど、アディクション(依存性)の状態になりやすいからです。それが血液の凝固性を高めて、心筋梗塞が起きやすくなる。まさにブロークン・ハートです。

手にタバコ
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun

がんになった場合も同様で、がんになったら、最初の2カ月はガタガタッとくる。ガタガタッと心が壊れて急性のうつ状態になっていく。これも対象喪失です。自分の命はもう長くないんだ。そういう対象喪失状態に陥っていきます。

「対象喪失」というのはこのように、命を失う、健康を失う、妻を失う、大事な人を失う、といったように「大事な何かを失うという体験」そのものです。

中高年の人生の中核的な出来事です。この時、しっかりと悲しむことができるのが、「心の能力」の証しであり、またその後の人生に大きな影響をもたらすのです。

■悲しんで、悲しんで、悲しみ尽くすと、生命の力が湧いてくる

対象喪失できる人、そういう反応を示すことができる人は、心の水準が高い人です。うつ病になれる人のほうが、うつ病になれない人よりも、心の水準は高いところにあることが多いです。

精神分析はもともとフロイトが、自分の父親が死んだ時にそのことを悲しんで悲しみ尽くした体験をきっかけに考えられたという歴史的な経緯があります。このように精神分析では「断念するということ」「あきらめるということ」が大きな「目標」になるのです。

あきらめるとは、もともと「明らかに見る」という意味です。あきらめる。断念する。これを体得することが精神分析の大きな目標になっている。だから「断念の術さえ心得れば、人生もけっこう楽しい」というわけです。

フロイトは言います。

「喪の悲しみはそれがどれだけ痛ましいものであっても、自ずと尽きてしまう。失われたものを何もかもあきらめた暁には、悲しみそれ自体も尽きはててしまう。そうなれば私たちのリビードも再び自由になり、私たちがなお若々しく生命の活力を持っている限り、できるだけ同じくらい貴重なもの、あるいは、より貴重なものによって失われた対象を代替することができる」(本間直樹訳「無常」 村田純一責任編集『フロイト全集14』岩波書店332-333ページ)

つまり、悲しみそれ自体が尽き果ててしまうくらいに悲しみ尽くすこと。そうしたら、その後に、なお若々しく生命の活力が戻ってくる。あるいは、同じくらい大事なものがまた見つかるとフロイトは言うのです。

■現実を見ないポジティブ・シンキングは心が未成熟な証し

人生は、自力ではどうしようもない出来事の連続です。人生の根本的な苦しみは、仏教では「生老病死」といいますが、フロイトは「体の衰え」「自然も含めた外界」「他者との関係」の3つを重要視し、中でもとりわけ「他者との関係」が大きいと言います。では、どうすればいいか。

フロイトは、悲しみそれ自体も尽き果ててしまうほどに失われたものを何もかもあきらめることが大切だといいます。「悲しみ抜く」ということが、大事なのです。

諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)
諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)

失ったものを悲しんで、悲しんで、悲しみ尽くせ。涙も枯れ果てるほどに。

そう言うのです。

フロイトの精神分析が「断念の心理学」と呼ばれる所以ですね。

ここには、人生の重要な真実が記されていると私は思います。

何かを心から断念し、あきらめることで、はじめて私たちの心は解放され、自由になれます。何かを失ったときに、泣いて、泣いて、泣き尽くす。悲しんで、悲しんで、悲しみ尽くす。そうして大切な何かを断念するという心の術、「断念の術」を体得する。これが中高年にとっては、とても大きなことなのだというのです。

変にポジティブ・シンキングをして、「大丈夫だ。私は何も失っていない。まだイケる。大丈夫だ。私はまだ若い」と考えるのは、ただのごまかし。心が未成熟な証しです。

この「断念の術」を中高年が心得れば、人生もそれほど悪くないというのがフロイトの考えです。

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諸富 祥彦(もろとみ・よしひこ)
明治大学文学部教授
1963年福岡県生まれ。教育学博士。臨床心理士。公認心理師。教育カウンセラー。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、30年以上、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、具体的な解決法をアドバイスしている。教育・心理関係の著書が100冊を超える。

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(明治大学文学部教授 諸富 祥彦)

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