空気が読めない、皮肉に気づかない、約束が守れない…「大人の発達障害」の典型例と対策を精神科医が解説する
プレジデントオンライン / 2023年5月6日 9時15分
※本稿は、岩瀬利郎『発達障害の人が見ている世界』(アスコム)に一部を再編集したものです。
■悪気はないのになぜか人を怒らせてしまう
自分なりの強固な世界観を持っていて、相手の気持ちを想像することが苦手だったり、相手の言葉を字義通り受け止めがちだったりするASDの人。多動傾向があるため、人の話を黙って聞いていられなかったり、注意力散漫で約束をすっぽかしたりすることがあるADHDの人。
発達障害の人は相手との関係性や反応を読むのが苦手なことが多く、周囲の人が「エッ」と驚くようなその場にそぐわないことを口にしてしまうこともあります。
周囲の人を困惑させるそんな言動をしてしまう発達障害の人たちは、常にトラブルの火種を抱えて生きているようなもので、それは本人にとってもつらいことであるのは間違いありません。
特に、日本が育んできた和を重んじる文化では、いわゆる“あうんの呼吸”で、みなまで言わずともお互いに理解し合えることを美徳とする側面がありますが、ASDの人もADHDの人も、「空気を読む」ことが非常に苦手、あるいはまったくできなかったりすることがあります。
私は30年以上、入院・外来を問わず、これまで1万人以上の発達障害の方やその他の精神疾患の方、それらの特性に戸惑って悩んでいる人たちと接してきました。その経験からいくつかの事例を紹介します。発達障害の人たちの言動の「なんで?」が理解できれば、イライラせずに受け止めることができるはずです。
■皮肉を言われても気づかない
発達障害の人は、相手の言葉を字義通りに受け取ってしまう傾向があります。締め切りに間に合いそうもなかった仕事を、先輩に手伝ってもらったASDのKさん(26歳・女性)。
やっと終わったとき、「今回は私も色々と勉強になったわ。仕事が遅い同僚のおかげね。ありがとう」と言われたそうです。
他の人なら、皮肉を言われたと落ち込むところですが、Kさんは言葉通り“自分は何かいいことをしたんだ”と受け取り、「本当ですか? 良かったです」と返したのです。相手はすっかり機嫌を悪くしてしまったのですが、その理由がKさんにはわかりません。
普通なら相手の表情や声のトーンなどから「これは本当の意味ではないな」と察するところを、そのまま受け取ってしまうKさん。人の気持ちを想像するのが苦手なため、言葉の意味と本当の気持ちが異なる言い回しは、真意を理解しづらいのです。
そのため、社交辞令やリップサービスを真に受けたりすることもありますし、会話を切り上げたいときに無言で時計を見たりする“暗黙のルール”などもわかりません。
■言葉の裏を読むことができない
特性の程度によりますが、本人は、人の言葉の裏が読めていないと自覚していないことがあります。「それは普通、こういう意味でしょ」と説明しても、そもそも“普通”がどういうものか、わかっていないこともすくなくありません。
ですから、ですから、発達障害の人に対しては、言いたいことや伝えたいことは、意味通りの言葉でストレートに伝えることが大切。もし、イラッとしてしまうようなら、発達障害の人は一般の人とは感覚が違う、ということを意識してみてください。
たとえば、日本では「粗茶ですがどうぞ」と言ったりしますが、文化的な背景が異なる外国の方には、自然とそうした表現を控えるのではないでしょうか。このように、“違う文化の人なんだ”と考えて接するのも、発達障害の人と付き合うひとつの手です。
“普通はわかる”は通用しない! ストレートに、意味通りの言葉で伝えよう
・皮肉や嫌味、社交辞令は伝わらない
・本人も自覚していないことが多い
➡一般の人とは感覚が違うことを理解しよう
<自分かも!? と思ったあなたへ 生き方のヒント>
あえて逆を言うのは人間関係の知恵です。Kさんが先輩から言われた皮肉のように、遠回しな表現で気づきを促したり、本心ではないお世辞や社交辞令を言ったりすることで、私たちは人間関係を維持しています。それは生きるための知恵だと理解しましょう。
でもあまりに苦しければ、「できるだけストレートに言って」と周囲の人に頼んでみてください。環境が許せば「自分は発達障害の傾向があるかもしれないから」と添えてもよいでしょう。
■優先順位がつけられず、約束を守れない
発達障害の人は、大人も子どもも“約束を守れない”という症状が非常によく見られます。重要な約束もしばしばすっぽかします。理由は明確にはなっていませんが、物事の優先順位をつけることが苦手という特性と関係しているのかもしれません。
定型発達の人であれば「まずはこれが最優先で、次にこれを」と当たり前にできる判断が難しく、つい簡単な案件から手をつけているうちに、重要課題が抜け落ちてしまうことがあるのです。
ADHDの会社員Tさん(30歳・女性)は、大事な資料作りや得意先への訪問、会議などの約束を忘れてしまうことが重なり、ついに上司から注意を受けたそうです。
また発達障害の人の中には、約束は覚えているけれど故意に守らないということもあります。
これは、約束ごとより、自分の気持ちを優先してしまう結果。約束の重要度がわからないため、自分の中の“行きたくない・やりたくない”という気持ちが、“約束を守らなければ”という気持ちを上回ってしまうのです。
■自分の気持ちを優先してしまう
すっぽかし厳禁の重要な約束や予定は、すべてスマートフォンに登録してもらいましょう。充実した機能を使いこなすことで、トラブルを減らすことができたという患者さんがたくさんいます。超重要な予定は色を変えるとか、前日にリマインドするなどの仕組みをつくるのです。
特に大事な約束は、本人がスマートフォンに入力するのを確認するとともに、「これは特に重要な約束だから」と、メモを手渡しておくのも有効。本人だけではなかなか自覚できない約束の重要性が伝わるでしょう。
さらに周囲の人が情報を共有し、時間が近づいたら声をかけるなど、それとなく意識してあげると安心です。お子さんの場合もスマートフォンや腕時計のアラーム機能などを活用するとよいですね。
・メモを渡すと同時にスマートフォンに登録してもらう
・リマインド機能をフル活用
➡自動的に認識できる仕組みをつくろう
■意識するだけでは改善しない
<自分カモ!? と思ったあなたへ 生き方のヒント>
大切な約束だったはずなのに、他のことをやっているうちについついほったらかしてしまうことは、定型発達の人でもあることです。
しかし、それが“特性”である場合、意識“だけ”で改善するのは難しいでしょう。「全部忘れず、全部守る!」と無理せず、スマートフォンを使って重要な約束を思い出す仕組みをつくりましょう。クラウド機能を使えば、万が一なくしても別の機器で対応できます。
■事実を口にして周囲を怒らせてしまう
会社の部内飲み会に参加したTさん(28歳・男性)。翌日の朝、みんなの前でいきなり部長にこう言い放ちました。「昨日の飲み会、部長の自慢話長かったですね! いや~、みんな引いてましたよ」。
本人はまったく悪気はないようですが、部内に一瞬、緊張が走ります。あとで同僚から、「相手は部長だぞ。もう少し空気読めよ」と言われ、困惑したとのこと。
周りに遠慮することなく、いつも事実を口にするTさんは、ASDです。
ASDの人は人と会話をするとき、“自分が見ている事実そのもの”を重視し、人間関係などには無頓着なことがあります。相手や周りの人の表情や声の調子、仕草といった反応を読むことも苦手です。上下関係で発言を変えたりはせず、愛想やお世辞も使わないので、どうしても“空気が読めない人”と思われがちなのです。
そのため、たとえば会議の終わり際、みんなが片付けをはじめていても一人で話し続けたりして、やっぱり“空気が読めない人”と思われてしまうこともあります。
■相手との関係性や反応を読めない
事実を言っているのになぜ問題になるのか、理由が理解できていないASDの患者さんに、私はよくこんな話をします。
「正直で率直なことは、悪いことではありません。でも世の中は、ときに真実を言わないことで、相手が不快な気持ちになるのを防いでいます。たとえば、人が新しい服を着てきたとき、いきなり『似合わないね』と言ったらどう? 仮にそれが事実だとしても、言われたほうはうれしくはないですよね。言っても良いかどうか判断がつかないときは、発言を控えるというのもひとつの手だと思うよ」
もし、あなたの周りに同じような特性を持つ人がいたら、一度真正面から論理的に、そして心を込めて話してみてはいかがでしょうか。特性の程度にもよりますが、理解してくれることもあるはずです。
・人間関係や人の感情より、事実を優先しがち
・相手を不快にする意思はない
➡論理的に、心を込めて話し、理解を促そう
■コントロールさえできれば長所になる
<自分カモ!? と思ったあなたへ 生き方のヒント>
何でも正直に発言すると、ときに人を傷つけてしまうことがあります。
でも、人の顔色を気にせず、思った通りの発言がいつでもできるというのは、周囲に流されずにはっきり意見を言えるというあなたの長所でもあります。
何か発言しようと思ったら、ひと呼吸おいて相手の気持ちを想像してみましょう。それさえできるなら、いつも正直でいることは、決して悪いことではありません。
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精神科医
博士(医学)。東京国際大学医療健康学部准教授、日本医療科学大学兼任教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。著書に『発達障害の人が見ている世界』(アスコム)がある。
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(精神科医 岩瀬 利郎)
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