「学生時代と今では、どちらが幸せか」残念な思い出も"昔はよかった"と美化してしまう人の深層心理
プレジデントオンライン / 2023年5月3日 9時15分
※本稿は、『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■あなたの記憶はバイアスだらけ
あなたは記憶力がいいほうでしょうか? それとも物覚えが悪いほうでしょうか?
なかには、細かなことまでよく覚えているという人もいるかもしれませんが、どんなに記憶力に自信があっても、すべての事実を正確に覚えている人はいないでしょう。というのも、記憶にはさまざまな「認知バイアス」が潜んでいるからです。
認知バイアスというのは、誰もが無意識のうちに囚われている思い込みや直感、経験、先入観、願望といった思考の偏りのことです。認知バイアスに縛られた結果、われわれは知らず知らずのうちに合理的でない選択や判断を下してまい、「あのとき、他の方法を選べばよかった」「なぜ判断を間違えてしまったのか」と後悔したりします。
認知バイアスは日常生活のあらゆる場面に潜んでいて、科学的に実証されているものは200種類以上あるとされます。記憶や選択、信念、因果、真偽などに関連する場合に認知バイアスは生じやすいのですが、なかでも誰もが陥っているのが、記憶に関するバイアスです。
じつは記憶というのは、自分の都合や結果に合わせて書き換えたり、過去を美化したりなど、さまざまなバイアスによって歪められています。
本稿では、そんな記憶に関する認知バイアスを、心理実験にちなんだ3つの質問からひも解きます。
■バラ色の眼鏡で過去を見ている?
最初の質問です。
あなたは学生時代と、社会人になった現在の自分の姿、どちらの状況を幸せに感じるでしょうか?
![出典=『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/2/1200wm/img_82e0d8abeb39a2ea1091475e2381ccba79394.jpg)
この問いに対して、「学生時代のほうが幸せ」と考えた人が多いのではないでしょうか?
英語に「バラ色の眼鏡を通して見る(look at ~through rose-colored glasses)」という表現があります。
「昔はよかった」と感じるのは、まさにバラ色の眼鏡を通して過去を見ているようなもの。そのように過去を美化するバイアスは「バラ色の回顧」と呼ばれています。
過ぎ去った時代を懐かしむ「ノスタルジア」も、部分的にはこの認知バイアスによるものと考えられています。
■ガッカリした感情は薄れやすい
ある研究では、「ヨーロッパへの旅行」「感謝祭の休暇」「カリフォルニアでの3週間の自転車旅行」という異なる休暇を取った人たちに、休暇前/休暇中/休暇後にアンケートを行い、事前、最中、事後それぞれにおいて、どのような気分かを評価・記述してもらいました。
すると、休暇前は楽しいだろうと期待していた人は、休暇中にガッカリするような出来事があっても、休暇のあとで思い出してもらうと、「いい休暇だった」と評価しました。
バラ色の回顧は、期待と現実との間に不一致が生じても、ガッカリした感情は薄れやすくなるという「情動減衰バイアス」が働くことで起きるとされます。
バラ色の回顧という心理現象が起こるのは、それが人間にとって必要なことだからです。ネガティブな出来事によって生じる感情は、ポジティブな出来事によって生じる感情に比べて薄れやすいことがわかっており、これを「情動減衰バイアス」と言います。
そうしたつらい過去の経験による心の負担を軽減する防衛システムがなければ、イヤな思い出がいつまでも消えずに残ってしまうことになります。まさに、バラ色の回顧はそうした「心の仕組み」によって生じるものなのです。
■フロントガラスは割れていたか?
記憶に関する2つめの質問です。
最初に、下のイラストを10秒ほど見てください。
![出典=『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/8/1200wm/img_f83645eddaf331c1c561ed6b4c00004b66889.jpg)
次に、上のイラストを見ずに以下の問いに答えてください。
ガードレールに激突した車は、時速何kmくらいで走っていたと思いますか?
心理学者エリザベス・ロフタスの実験では、参加者に自動車事故の映像を見せたあと、同じように速度に関する質問をしました。
このとき、参加者を複数のグループに分け、「激突した」をさまざまな言葉に換えて質問をしたところ、時速を最も速く見積もったのは、「激突した」という言葉で尋ねられた参加者でした。
その後は「衝突した」「当たった」「ぶつかった」「接触した」の順に、見積もる速度が遅くなっていったのです。
この実験の1週間後、同じ参加者に今度は「フロントガラスは割れていましたか?」と尋ねました。
すると、「割れていた」と答えた率は、1週間前に「ぶつかった」という言葉で尋ねられたグループでは14%だったのに対して、「激突した」という言葉で尋ねられたグループでは32%に上りました。
■目撃証言は正しいとは限らない
ある出来事を実際に目撃したとしても、あとからその出来事に関連したほかの情報に接すると、その情報に影響されてオリジナルの記憶が変わってしまうことがあります。
上記の実験のように、「激突した」という言葉で尋ねられたことで、「きっとフロントガラスも割れていたに違いない」と思ってしまうような現象を「事後情報効果」と言います。
無実の罪で収監されることになった原因の中でも多いのが「誤った目撃証言」だとされています。その中には事件とは関係ないところで見た顔を、確かに事件現場で見たように思い込んでいたケースがあり、これは「ソース・モニタリング・エラー」が関係しています。
ソース・モニタリング・エラーというのは、その記憶がいつどこでどのように得られたかという情報源(ニュースソース)を特定できなかったり、誤って特定したりすることを言います。
たとえば、「どこかで会ったことがある人だ」と思って挨拶したけれど、「どこで会ったかは、すぐには思い出せなかった」という経験は誰にでもあるでしょう。裁判の証拠となる目撃証言には、「どこでそれを見たのか」という情報源に関するエラーが少なからずあることがわかっています。
■経験した気がするニセの記憶
3つめは、記憶の真偽に関する問題です。
以下の単語を10秒以内で覚えてください。
![出典=『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/1200wm/img_3579441f23e68dd5232c2d2138286d9b77492.jpg)
さて、上の単語の中に「礼儀」という言葉はあったでしょうか?
実は「礼儀」という単語は上にはないのですが、「あった気がする」と思った人もいるのではないでしょうか。
じつは、上に提示された単語はどれも「礼儀」に関連するものです。そのため、自分では気づかないうちにすでに持っている知識と結びついて、「礼儀」という単語があったように感じてしまうことがあります。
私たちは「見たこと」「聞いたこと」をそのまま記憶しているわけではなく、実際には経験していない出来事を、あたかも経験したかのように思い込んでいることがあります。
これを「虚記憶(フォールスメモリ)」と言います。
■記憶は書き換えられる
心理学者エリザベス・ロフタスの実験では、まず参加者の家族から、参加者が子どもの頃に体験したエピソードを聞き取りました。のちに、それらのエピソードの中に「ショッピングモールで迷子になったことがある」という、実際にはなかったウソ(架空)のエピソードも混ぜて参加者に提示しました。
その後、参加者に子どもの頃の体験を思い出してもらったところ、何人かはあたかも実際に体験したことのように、そのウソのエピソードについても語り出したのです。
![池田まさみ他監修『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/0/1200wm/img_607d7f1d3511479799fc7d115a5305be132872.jpg)
人は誘導されることによって、実際に起きていないことを、まるで体験したことのように思い出すことがあります。
誘導されるだけではなく、ある出来事をくり返しイメージしているうちに、その出来事と実体験を区別できなくなってしまうこともあります。この現象は「イマジネーション膨張」と呼ばれます。
(プレジデント社書籍編集部)
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