1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

孤独のどん底に落ちる人の共通点…家族にも見放される「ダメ老人」になる人の3つの特徴【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月6日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hartmut Kosig

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年7月10日)
老後に孤独で苦しむ人にはどんな共通点があるのか。明治大学の齋藤孝教授は「シェイクスピアの『リア王』には、孤独のどん底に落ちた老人の嘆きが描かれている。そこからわかることは、リア王は『ダメ老人』になる3つの特徴を持っていたことだ」という――。

※本稿は、齋藤孝『孤独を生きる』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■抗いようのない“老い”という現実

残念なことに、40歳を過ぎると、とくに男性は総じてモテなくなります。容色の衰えもあるし、気持ち的にも若々しくエネルギッシュな魅力が減退するのでしょう。

最近流行りの『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお)というマンガでも、おじさんはどうにもならない存在に描かれています。このマンガには、“レンタル彼女”やパパ活をする女子大生、美容整形に大枚はたくアラフォー女性、ホスト通いする女性などが登場し、さまざまな男たちと“ほろ苦ラブストーリー”を展開します。

なのでおじさんだけを槍玉にあげているわけではないのですが、たとえば“レンタル彼女”の女性がおじさんと食事をしながら、ぼんやり「おじさんって、やっぱり肌が汚いんだ」などと思っている場面を読むと、溜息とともに「そうだよねぇ」と妙に納得してしまいます。

中高年の域に達した男にとっては、こればかりはもう抗いようもない現実と言っていいでしょう。程度の差こそあれ、誰もが老いの兆しを実感しているはずです。男性だけではなく、女性だって多少はありますよね。認めたくないかもしれませんが、「若いときほどは肌にハリがない」のが現実でしょう。

■40代後半から60歳前後までは「人生の解放期」

しかし、そう悲観することはありません。

同年代のみんなが同じように衰えていくのです。それはつまり、若いころにあれほど大騒ぎしていた「モテる・モテない」問題から解放される、ということです。

「もはや、モテようが、モテなかろうが、どうでもいい」

そう達観した瞬間、思うように異性に相手にされないことにより生じる孤独問題からも解放されます。そういう意味では、40代後半から60歳前後までは、人生のなかでも孤独感に苦しめられることの少ない「解放期」という見方ができます。

もっとも、若いときに大変モテた方は、モテないことの孤独を初めて味わうかもしれません。とくに男性の場合、かつて容姿に恵まれていても、お金がなければまったく相手にされない、という状況に陥ることもありますからね。

その種のショックを受けずにすむよう、“過去の栄光”は引きずらず、常に「年齢なりの自分」を直視することを心がけましょう。

■還暦は人生の再出発地点

干支(えと)が5回回ると「還暦」になります。イメージとしては、まだ3、40年続く人生を生きる「再出発地点」に立つ、という感じでしょうか。

仕事を続けるにせよ、リタイアするにせよ、現役時代と違って、もう競争社会で神経をすり減らすことはなくなります。資産や年金収入など、格差は依然として残るものの、若いときほど、「もっとがんばらなきゃ」「もっと上を目指さなくちゃ」と焦燥感のようなものに縛られることもなくなります。

そこで大事になってくるのが、「自分の好きなことをして、いかに自分らしく充実した日々を重ねていくか」ということです。

ピクニックでワインを飲むシニアカップル
写真=iStock.com/Daniel Allan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daniel Allan

■幕末の歌人から学ぶ「人生の楽しみ方」

基本は「清貧」がいい。幕末・福井の歌人、橘曙覧が家督を弟に譲って後、隠棲して歌と学問に打ち込んだように、何か好きなことをして暮らすのが理想でしょう。曙覧が引退したのは20代とも、30代とも言われますが、いずれにせよ57歳で亡くなるまでの約20年間は、いまを生きる私たちのシニア・ライフと重なります。

曙覧の歌で特徴的なのは、日常生活に題材を取り、身近な言葉で詠んだこと。焼き魚や豆腐を食べる楽しみや、紙漉(す)き、銀山採掘などの労働風景、住まいの様子などを歌にしました。

とりわけ「独楽吟」という、「たのしみは」で始まって「……とき」で終わる形式で詠んだ和歌は、何でもない日常の風景に楽しさや喜び、幸福を見出すうえで、とても参考になります。七首ほど、紹介しましょう。

たのしみは 珍しき書 人にかり 始め一ひら ひろげたる時
たのしみは 空暖かに うち晴れし 春秋の日に 出でありく時
たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の 咲ける見る時
たのしみは まれに魚烹て 児等皆が うましうましと いひて食ふ時
たのしみは 心をおかぬ 友どちと 笑ひかたりて 腹をよるとき
たのしみは 好き筆をえて 先づ水に ひたしねぶりて 試みるとき
たのしみは ほしかりし物 銭ぶくろ うちかたぶけて かひえたるとき

こんなふうに楽しみを数え上げながら暮らしていけたら、中高年以降の毎日を満ち足りて過ごせそう。一日一吟、独楽吟を詠むことを楽しみにするのもいいですね。

■リタイア後に大切なのは「自分のミッション」を見つけること

定年退職をするなどして、やるべき仕事がなくなると、再び孤独感が忍び寄ってきます。とくに仕事一途で来た人は、会社という居場所を失ううえに、地域のコミュニティに知り合いがいるわけでもなく、一日中家でゴロゴロしているのも退屈で……となり、ひとりぼっちであることに不安や寂しさを感じてしまうのです。

そんな状況を放置しておくと、やがて何をするにも億劫になり、無気力になり、最悪の場合、老人性鬱になってしまうこともあります。けれども「だから仕事をしなさい」とは言いません。趣味でも他の活動でも何でもいいから、ひとりで少しずつ作業を進めていく、そんな楽しみのあるものに取り組むのがおすすめです。

以前、テレビの「ポツンと一軒家」という番組で、まさに石をひとつずつ積み上げて石垣を造っているおじいさんを見て、すばらしいと思いました。子も孫もいらっしゃるけど、自分で建てたログハウスの一軒家でひとり暮らしをし、その周りに石垣を造っているのです。

石垣は大変かもしれませんが、たとえば「図書館の本を週に4冊、年間約200冊借りて読む」とか、「週5日、好きな料理番組で紹介される料理すべてに挑戦し、家族にふるまう」「日々の散歩で発見したことを写真付きのエッセイにして、自費出版を目指す」など、やれることはいくらでもありそうです。目標を立ててひとつずつ積み上げていく、その先で達成感を得られることがポイントです。

図書館でくつろぐシニアカップル
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

加えて欲を言えば、「これが自分のミッションだ」と思える何かが欲しいですよね。使命感を持って事に臨み、少しずつ進めていくことは楽しくやりがいがあるし、社会やどこかのコミュニティとつながっていると実感できます。

■懺悔として断崖にトンネルを掘り始めたが…

それで思い出すのは、高校生のときに読んだ、菊池寛の『恩讐の彼方に』という作品です。物語は、旗本に仕える主人公の市九郎が主人の妾と恋に落ち、主人に斬られそうになって逆に殺してしまうところから始まります。以下、あらすじは次の通り。

逃げ出した市九郎は、やがて出家して全国を行脚する。途中、豊前(大分県)の鎖渡しという山越えの難所で人が毎年死ぬことを知った。そこで人を殺めたことの懺悔として、断崖にトンネルを掘り始めた。

21年の歳月が流れ、完成を目前にしたとき、主人の息子が「父の仇」と仇討ちにやって来る。しかし、いつしか市九郎に協力するようになった石工たちが「完成までもう少し待ってくれ」と嘆願。市九郎も「これをやり遂げたら死んでもいい」という気持ちだったのだろう。実際、完成すると「さぁ、殺してくれ」と首を差し出したのである。

なんと潔い男だと、私はとても感動しました。市九郎はノミと槌だけで少しずつ土を掘り進めるうちに、トンネルを完成させることが生涯を賭した強烈なミッションになったのでしょう。その過程で同時に、「もう死んでもいい」くらいの思いが醸成されていったのだと思われます。

リタイアした後も、市九郎のように使命感を持って取り組める何かがあると、孤独感のつけ入る隙もないでしょう。そんな心意気に通じる石川啄木の歌を一首。

こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ

■定年後に仕事の人間関係は切れてしまうが…

リタイアすると、たいていの場合、仕事を通してつき合ってきた人たちとの縁は切れます。仕事上の人間関係なんて、そんなものです。それで一気に寂しくなるかもしれませんが、そう気に病むこともないでしょう。なぜなら60歳くらいから不思議と、学生時代の友だちとのつき合いが復活するからです。

仕事や子育てなどで肉体的にも精神的にも忙しかった時代を過ぎ、ほっとひと息ついたとき、何だかとても会いたくなるのです。無邪気にじゃれ合ったり、熱く語り合ったり、力を合わせて何かを成し遂げたり……自分たちがまだ何者でもなく、互いの間に何の利害関係もなかった青少年のころの友だちって、社会人になってからはなかなか得難い存在ですからね。

たとえ何十年も会っていなくとも、同窓会やクラス会の案内が舞い込むと、「久しぶりに行ってみようかな」という気にもなるでしょう。うちの親などは70歳、80歳を超えてからも、「小学校の友だちに会うんだ」と、楽しそうに出かけていました。

自撮りをするシニアカップル
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

■「年をとったら孤独になる」と思い過ぎないほうがいい

あるいは仲の良かったグループで、誰からともなく「会おうか」と声をかけ合って再会が実現するケースもあります。最近なら、Facebookで見つけて連絡してくれる友だちもいるかもしれません。

みんなに会うと、たちまち昔に返ります。卒業して50年も経っているのに、「えー、変わらないねぇ」などと言い合って。現実問題、変わらないなんてありえないのですが、顔を合わせると1分と経たないうちに、少年少女時代の顔に見えてくるのです。

また私の場合、中学校のころの先生と、いまも手紙のやりとりをしたり、電話で話したりしています。近況報告がてらの他愛ないおしゃべりですが、師弟関係と言いますか、先生とずっとつながっている感じはとても良いものです。

といったことを考えますと、年をとって孤独になるんじゃないかと、あまり思い過ぎないほうがいい。子どもが巣立ったり、連れ合いを亡くしたり、家庭を持たないままだったり、いろいろな事情はあるでしょうけど、たまに旧交を温めるだけのつき合いでも、心は癒されます。

■「こうはなりたくない老後」としての『リア王』

「老年の孤独」の悪い例を、シェイクスピアの戯曲から読み解いてみましょう。作品は『リア王』。「こうはなりたくない老後」が見えてきます。

悲劇は、リア王が国事から引退し、3人の娘たちに領土を委譲する場面から始まります。彼女たちに父を思う気持ちを語らせ、一番父思いの娘にたくさん遺産をやろうと、試すようなことをするのです。

このとき三女のコーディーリアは、父を想うあまりに煮え切らない答えだったために、リア王の怒りを買ってしまいます。「お前には何もやらない」と。

家督を譲った後、リア王は50人の従者を連れて2人の娘を訪ねるのですが、「従者の面倒までは見られない」とつれなくされてしまいます。リア王は娘に裏切られたとキレて怒りまくり、さらに絶望してひとり、嵐のなかを彷徨います。孤独のどん底に落ちた老人、リア王の咆吼が延々続くこのシーンが、一番盛り上がるところです。

風よ、吹け! うぬが頰を吹き破れ! 幾らでも猛り狂うがいい!(中略)恩知らずの人間共を造出す種を一粒残らず打砕いてしまうのだ!

リア王はやがてコーディーリアに出会い、気持ちが通じ合います。

そして最後は「どいつもこいつも人殺しだ、謀反人だ!」と叫んで、自分も息絶える。何の救いもない物語です。

■「老年の孤独」に陥らないための3つの心構え

良きにつけ悪しきにつけ、リア王は最後まで元気です。けれども怒りに支えられての元気ではしょうがない。演劇として「キレまくるリア王」を見るのはおもしろいのですが、こんな老人が身近にいたら大変です。誰からも相手にされず、自ら孤独を抱え込むことになるだけです。この悲劇から学ぶべき「老年の孤独に陥らないための心構え」は3つ。

齋藤孝『孤独を生きる』(PHP新書)
齋藤孝『孤独を生きる』(PHP新書)

1つ目は、財産の生前贈与をあまり急がないこと。薄情者の相続人は、もらうだけもらったら、あとは知らんぷりする危険があります。

2つ目は、ちょっとしたことでキレないこと。年をとるとガンコで気が短くなるせいか、自分の思い通りにならないとすぐにキレてしまう傾向があります。私はこれを「老人性キレキレ症候群」と呼んでいます。確実に周囲の総スカンを受けるので、要注意です。

3つ目は、自分の老後は自分で何とかできるよう、手立てをしておくこと。ちゃんと「子離れ」をしておかないと、子どものお荷物になってしまいます。

劇中で、道化がリア王を諫める場面なども参考にして、老後のプランを練るといいでしょう。

----------

齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。

----------

(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください