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行儀の悪さには「見えない原因」がある…黙って座っていられない子を叱らず変えるプロ教員の奥義

プレジデントオンライン / 2023年5月5日 13時15分

写真=iStock.com/Favor_of_God

子どもの問題行動に親はどう対応すればいいのか。特別支援学校の教員である平熱さんは、「目に見える“困った行動”を叱っても意味はない。なぜその行動を起こすのか、“見えない原因”にアプローチする必要がある」という――。

※本稿は、平熱『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■「見えないところ」を考えてみる

見えるところって、気になるんです。

見えるところって、そこを直せば解決すると思っちゃうんです。

花を咲かせるには、花じゃない部分の手入れが必要です。肥料をやり、水をやり、日光にあて、風を通し、湿度や温度を気にかけないといけません。

子どもの「よくない」行動は、目につきます。「できない」ことが目につきます。反射的に怒りたくなる気持ちもわかります。でも、一度立ち止まってみてください。

イラッとしちゃうその行動は、ただ「見えているところ」であって、その原因となる「見えないところ」については、考えられていないかもしれません。

たとえば、「授業中にウロウロしてしまう」子どもに「ウロウロしないで座ってなさい!」と怒るのは簡単です。怒られた子どもだって、先生がこわいし、怒られるのは嫌だから、その場では座るかもしれません。でも、きっと長くは続きません。

明日には立ってるかもしれないし、つぎの授業で立ってるかもしれない。先生がこわくて座り続けていられても、ストレスが小さいわけがありません。あたりまえですよね。

だって「ウロウロする」=「見えてるところ」に対してのアプローチは行ったものの、「どうして」ウロウロするのか=「見えないところ」にはまったく触れてないんだもん。

花びらがよく見えるように花の向きを変えただけじゃ、花はきれいに咲きません。この子が「どうして」ウロウロしちゃうのかを考えないと、原因は突き止められません。

子ども自身がその理由を伝えてくれればいっしょに解決していけますが、発達につまずきのある子どもたちには、それが苦手なことも多いです。自分自身が「どうして」ウロウロしちゃうのかわかってないことだってあります。

だから、わたしたちは考えないといけません。「どうして」そうしちゃうのかを。

■うまくいった場面と比較して原因を探ろう

・授業がわからないからかな?
・苦手な音や感触があるのかな?
・イスの高さが合ってないのかな?
・正しい授業の受け方がわかってないのかも
・ウロウロして、みんなの気を引きたいのかも

どれが当たってるかなんてわかりませんし、どれでもないかもしれない。それでもなるべくたくさん考えていかないといけません。

ひとりで見つけられなくてもいいんです。そのときは、だれかといっしょに探しましょう。ほかの授業やうまくいった場面と比較して、原因を探っていきましょう。

あの授業では比較的落ち着いてるかも。
火曜日の国語だけはウロウロしないな。
そういえば給食は絶対に座ってるな。

こんなふうに、いろいろ考えてみてください。

もし、4時間目になると必ず「ウロウロする」んだったら、もしかしたら「お腹が空いている」だけかもしれません。だったらいくらわかりやすい授業をしても、原因が解決されません。「座りなさい!」なんて怒っても、お腹は空いたままです。

「ウロウロする」原因を考えるイラスト
イラスト=©まる

ハッキリした原因がわからないこともありますし、わかったところで対策がむずかしいことも多いですが、ここでは「見えるところ」だけじゃなく、「見えないところ」に目を向けて、その原因を解決していくことが大切だということを、知ってくれたらうれしいです

■ほかの子との比較はやめよう

それでは、実際に寄せられた具体的なお悩みに沿って、この観点から考えていきましょう。

お悩み:『靴を脱ぐべきところで脱ぐ、最後まで食べ終わってから外に出てあそぶといった、集団のルールを守ることができません。』

守ることができていないのは「集団のルール」ではあるけれど、これが「個人のルール」だったとしても結局守ることはできません。

なので「みんなが守っていることを、守れていない」という、「“みんな”と比較して守れていない」ことがいちばんの問題ではありません。

まずはここを押さえておきましょう。その子には、その子の課題があります。

つまり「みんなができていることが、できていない」ことではなく「その子ができるはずのことで、できていない」ことがいちばんの問題です。

■困った行動はスモールステップで改善する

●靴を所定の場所に置くことができない場合

この問題に限らず、課題の解決にはいろんなアプローチがあります。今回は「スモールステップで理想の形に近づけていく」方法について説明します。

この子にとって靴を脱いで片づけるべき「所定の位置」がわかりにくいか、わかっていても置きづらいと仮定します。

反対の見方をすると、これが「わかりやすく、置きやすい位置」だったら「所定の位置」に靴を置くことのできる確率がグッと上がります。

たとえば、無機質な靴箱に名前シールだけ貼ってあるものが「所定の位置」だとします。数ある靴箱から自分の名前を探すのが大変だし、それなりに狭い空間に靴をそろえて置かなければなりません。

じゃあ「大きな真っ赤な箱」が「所定の位置」だったらどうでしょう。靴箱から自分の名前を探さなくてもいいし、靴をそろえなくても構いません。

ポイッと靴を目立つ箱に入れれば「所定の位置」に靴を入れることができます。このように「確実にできること」から少しずつ、スモールステップで目標(たとえば「靴箱に靴をそろえて入れる」)に近づけていきましょう。

こうすることで、子どもはたくさんの「できた」の連続で、こっちが望む「できた」に近づいてきてくれます。

靴を脱いで片付ける方法イラスト
イラスト=©まる

■スモールステップの組み立て方

「スモールステップで理想の形に近づけていく」というのは、大人も「できてない!」と目くじらを立てることがみるみる減っていく、ノーベル賞を受賞するべき画期的なシステムです。

この場合におけるスモールステップの具体例も紹介しておきます。

箱のサイズを小さくしていくのもいいし、赤からもっと目立たない色にしていくのもいいです。

箱の位置を、わかりにくい位置に少しずつ動かしていくのもいいですね。こんなのはゲーム感覚でたのしいかも。

靴箱の数が多すぎて探せないなら、3段のカラーボックスのひとつを靴箱にするなど、少ない選択肢から探すのもいいかもしれません。

名前シールが探せないなら、顔写真や色シールなど、その子が見つけやすい提示方法もいいでしょう。

こんなふうに、子ども一人ひとりに応じたサポートの方法や手順で「できるはずのことで、できてない」を少しでも減らしていけるといいですね。

■そもそもルールを理解できていないことがある

●食事を食べ終わるまえに外に行こうとしてしまうとき

まず、この課題に向き合うために考えていくことを整理しましょう。

①「食べ終わる→外に出てあそべる」のルールを理解できているか
②「食べ終わる」が理解できているか
③「食べ終わる≒完食する」ことができるのか

大きく分けてこの3つの視点があるとします。

①「食べ終わる→外に出てあそべる」のルールを理解できているか

はじめに、「ルールが理解できているか」をしっかり確認しましょう。「わかっていて、できない」と「わかっていなくて、できない」は近いようで全然ちがいます。もしわかっていないようだったら、イラストにする、動画で見せるなど、その子に伝わる方法を探してみてください。

②「食べ終わる」が理解できているか

ここで大人が求めている「食べ終わる」が「完食」だったとします。

大人は「完食しないと(食べ終わらないと)、外に行ってあそべない」ルールだと解釈していても、子どもは「ある程度、お腹が満たされたら、食べ終わり」と理解しているかもしれません。

この食いちがいを埋めないと、いくらやってもこの課題は解決しません。

大人の柔軟な対応も必要です。「ある程度満たされた終わり」でよしとするのか、しないのか。

よしとするなら、それをどうやって判断し、示してもらうのかを考えましょう。

③「食べ終わる≒完食する」ことができるのか

ここでまさかの展開です。

そもそも「(最後まで)食べ終わる≒完食する」ことができるのか? という、初心に帰ってみたいと思います。

テーブルの上のスクラップ。食べ残しの空のプレート
写真=iStock.com/Savusia Konstantin

■ルールが守れるように前提条件を整える

①も②も理解できているけれど、そもそも「食べ終わる≒完食する」がその子にとって、とても苦しいことかもしれません。よくあるのは「食べられないし、食べたくないけど、外ではあそびたいから、食事の途中で離席して出て行こうとする」みたいなパターンです。

子どもが「食べられないし、食べたくない」をうまく伝えられず、大人が「食べられるし、食べなきゃいけない」と思っていると、笑えないすれちがいコントがはじまります。

だから、本来は大人が「(ほとんど確実に)食べられるものを、食べられる量」で提示することから、この課題にアプローチしていかなければなりません。

あたりまえのようですが、この課題はそうやって提示された食事を「食べ終わる」ことができるという「前提」の条件をしっかり満たすことが重要です。

■前提条件がクリアできない時は何度でも調整を

こっちが量やメニューを調整し、それに納得したはずの子どもが「食べられると思ったけど、無理だった」と主張してくるのはありふれた日常です。

書影
平熱『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)

これはそもそも「見通しをもつ力」であり、子どもの少ない経験値で常にうまくやろうとすることに無理があります。この「やっぱり無理だった問題」が続く子には、「調整した量やメニュー」を「さらに小分け」しておくことがおすすめです。

90gの白米を30gずつ提供していくイメージで す。

30g食べて、まだ食べられるか。60g食べて、まだ食べられるか。

これを重ねていくうちに「ぼくはいつもお茶碗2杯(60g)は食べられる」とわかってきます。もちろん、まわりもです。

そうすると「60gと30g」に小分けできるので、サポートの手もひとつ減ります。こんなふうに子ども(と大人)の「見通しをもつ力」を育てていきましょう。

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平熱(へいねつ)
特別支援学校教諭
おもに知的障害をもつ子が通う特別支援学校で10年くらい働く現役の先生。やさしくてちょっと笑える特別支援教育のつぶやきが人気を集め、Twitterのフォロワー数は6.9万人(2023年2月現在)。 小学部、中学部、高等部のすべての学部を担任し、幅広い年齢やニーズの子どもたち、保護者と関わる。著書に『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)。

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(特別支援学校教諭 平熱)

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