いくら注意してもYouTubeを見続けてしまう…そんな子が率先して宿題に向き合うようになるプロの声かけ
プレジデントオンライン / 2023年5月6日 14時15分
※本稿は、平熱『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「やりやすい環境」を考える
発達につまずきのある子どもたちには「適切な環境を整える」ことが大切です。
こう書くと、なんだかとってもむずかしいように聞こえますが
「やるべきことが、やりやすい環境を整える」
だと理解してくれればオッケーです。
たとえば、バランスボールに座り、暗い手元で裁縫をする人なんていませんよね。やれなくはないけど、やりにくいったらありゃしません。
裁縫は、適切な高さで安定したイスに座り、手元を明るく照らして行います。
例は、ずいぶん極端にわかりやすく書きましたが、実際に子どものまわりの環境を考えるときもこのように、とにかく「やるべきことが、(少しでも)やりやすい環境を整える」を意識してみてください。
「やるべきことが、やりやすい環境を整える」なんてのは、障害があろうがなかろうが、子どもだろうが大人だろうが関係ありません。
クリーンなデスクのほうが作業はしやすいし、なくし物も少ない。日光があたり、緑が多く、清潔なオフィスのほうが、仕事ははかどります。キッチンは広いほうがいいし、長距離を歩くなら革靴よりもランニングシューズです。
ちなみにわたしはオープンなスペースより、ちょっときゅうくつな場所でデスクワークをするほうが得意です。
目のまえや両脇が壁で囲われているともう最高です。視界がさえぎられて作業がはかどります。
できればノイズキャンセリングのイヤフォンもほしいです。
みなさんにもあるでしょう? こんなふうに「やるべきことが、やりやすい」環境が。
なので、その子の「やるべきこと」に対して、どうすれば「やりやすい」かを考えて試して、修正していってみてください。
■やりやすい環境は一人ひとり違う
また、「やるべきことを、やりやすい環境」は、あたりまえですが子どもによってちがいます。だから、その子の様子をよく見ないといけません。
・なにが得意で、なにが苦手か
・集中していられるのはどのくらいの時間か
・我慢強いかどうか
・天気や気圧で調子を崩さないか
・助けを求めるスキルがあるか、ないか
こんなことを考えながら「適切な環境」を整えていかなければなりません。
特別支援学校で子どもたちに行うサポートや教育は「オーダーメイド」です。一人ひとりちがいます。
障害の程度や種類、家庭環境、住居の状況などで、できるサポートも異なります。
だから、すぐにはうまくいきません。絶対の正解もありません。
環境を整えるわたしたちも肩肘を張らず、「少しでも、やりやすい」環境をまずは目指していきましょう。
「どうやったらうまくいくかな?」を、その子の能力や努力の外側から助けられないか考えていけたらいいですね。
![勉強するアジア人の親と娘](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/c/1200wm/img_7c15777db7cfe4e45f23e2cad94ff584316265.jpg)
■「たのしいこと」「うれしいこと」ならまたやりたくなる
あなたが「またやりたくなる」のはどんなことでしょうか。
風呂上がりにビールを飲み干すこと?
キャンプに行くこと?
映画を観ること?
どんなことにせよ「たのしいこと」「うれしいこと」「おいしいこと」「心地よいこと」などポジティブな理由が並びます。
反対に、「しんどいこと」「つらいこと」「悲しいこと」しかないのに「またやりたくなる」なんてことはないですよね。あたりまえです。特別支援学校に通う子どもたちも、みなさんとおなじように「たのしいこと」「うれしいこと」なんかは永遠にやってくれます。YouTubeなんて8000時間見てくれます。
この「またやりたくなる」をうまく導くことができれば、子どもの「できること」が増える確率がグッと上がります。
まずは、「たのしいこと」「うれしいこと」をベースにしながら「またやりたくなる」の中身を、もう少し考えてみましょう。
■うれしいことでも「コストが大きい」としんどくなる
「またやりたくなる」の「また」の部分は、「コスト<うれしい気持ち」がないとしんどいです。
家族のために「“また”料理をつくりたい」と思うのはどんなときか。
食材が集めやすく、調理が簡単で短時間、家族から「おいしい!」と言われる、こんなサイクルです。
「あの店にしか売ってない食材」「手間も時間もかかる料理」「食べ終わった家族からなにも言われない」がそろった環境で「また」やりたくなる人なんて、採用面接に向かう途中で助けたおじいちゃんが面接先の会長だったくらいのレア度です。
発達につまずきのある子どもたちに、なにかに取り組んでもらうときもおなじような考え方で接します。
彼らにとって「コスト<うれしい気持ち」になっているかどうか。ここを考えながら課題をつくったり、声かけをしたりしていきます。
![退屈な勉強にうんざりした疲れた生徒と学校の宿題が山積みに](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/2/1200wm/img_d27c9beaa9d6b14b71a65ce56516dd66188111.jpg)
■やりたくなるサイクルづくりのための「2つの工夫」
そのためには、つぎの2つの工夫をしていかなければなりません。
①コストを減らす工夫
子どもたちにとってちょうどいい負荷になるように、活動の「手間」や「時間」を減らし、なるべく効果の高い課題を考えます。
ただ、その子の特性や性格、環境によって「ねらい」や「目標」は変わるので、それぞれでトライ&エラーを繰り返しながら調整が必要です。
②うれしい気持ちを大きくする工夫
がんばって取り組んだ先、または取り組んでいる最中に「うれしい気持ち」や「達成感」を得られるようにしていきます。
たとえば「なみ縫い」を練習する場合。
このときに
「この授業の終わりまで、2ミリ幅のなみ縫いをして三角形をつくりましょう」
では、子どもにとってむずかしいし、たのしくありません。
では、こうだったらどうでしょう?
「大好きなキャラクターのコースターを、5ミリ幅のなみ縫いでつくりましょう。完成したら持って帰っていいですよ。20分作業したら、5分休憩しましょう」
これなら、作業のしんどさがずいぶん減り、たのしく取り組めます。
■うれしくなる声かけのコツ
①と②について、もう少し詳しく解説します。
2ミリ幅ではなく5ミリ幅になると、針を刺す回数がもう全然ちがいます。
![緑の葉と赤いテントウムシのフェルトの柔らかいおもちゃを作る子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/3/1200wm/img_53279f36b11efbdce1e77db6322fe964415178.jpg)
時間を細かく区切り、かつ休憩も提示されているので、長く集中することや体力がない子どもたちも取り組みやすくなります(これが①コストを減らす工夫)。
そして、やみくもになみ縫いをするのではなく「大好きなキャラクター」が完成していくほうが、当然モチベーションが上がります。縫って終わりではなく、持ち帰ってコースターとして使えるほうがたのしく作業に取り組めます。
また、作業の途中に、
「縫うところをよく見て、丁寧に縫えてるね」
「足の部分が完成したんだ!」
など、子どもがうれしくなるような声かけをしていくと、なおグッドです(これが②うれしい気持ちを大きくする工夫)。
これらの工夫で「コスト<うれしい気持ち」として活動に取り組めた子どもたちは「またやりたい」と感じてくれるのではないでしょうか。
もちろん、サポートの方法や課題設定、もしくは休憩時間のサイクルやごほうびまで、子ども一人ひとりの「ちょうどいい」を探すのは簡単ではありません。
簡単すぎず、むずかしすぎず。楽すぎず、しんどすぎない課題。
子どもの様子をよく見ながら、「ちょうどいい」を目指して少しずつ修正を重ね、「またやりたい」をゆっくりつくっていきましょう。
■「宿題」をやりたくするには…
それでは、実際に寄せられた具体的なお悩みに沿って、この観点から考えていきましょう。
お悩み:『学校から帰宅後、ボーッと動画を見るだけで宿題をやりたがらず、声をかけてもなかなか動こうとしません。』
歯みがきがめんどくさいのは、歯ブラシを口に入れるまで。
人間は、やりはじめないとやる気が出ません。
このお悩みでは、はじめに取り組めそうなアプローチを考えていきましょう。
たとえば、宿題が「30問の計算問題を解く」だった場合。
まず「はじめの5問」を解くことにフォーカスしてみます。
ではなく、
を繰り返します。
ポイントは「30問の問題を小さく分解して、取り組めるところから取り組むこと」です。極端な話、ひとつ問題を解いたら動画を見るのでもいいでしょう。その子に合わせた取り組み方や、ごほうびとのバランスを探ります。
とにかく「手を止め続ける」時間を短くしていくイメージです。
■必要なら宿題の量を減らす相談をしよう
大事なのは走り続けることではなく、走りはじめ続けられることです。止まることが問題ではなく、止まったまま動き出せない(動き出すまでが長すぎる)ことが問題です。
![書影](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/2/1200wm/img_0274cc9e757e14b220917cb03f387496157035.jpg)
また、見方を変えると「宿題の量や難易度」に問題を抱えている可能性も考えられます。
この場合は「そもそも宿題の問題数を20問に減らしてもらう(もしくは30問のうち20問解けたらオッケーにする)」や、「はじめの10問はすぐにできる簡単な問題にする」、などの工夫が必要かもしれません。
こちらの方法は判断がむずかしいので慎重に取り組みましょう(先生たちに相談してみてくださいね)。
本人にとってキャパオーバーの無理難題を押しつけて、怒り、怒られる関係が持続されてしまうことは、だれが得するんだよって話です。
問題を小分けにしたり、難易度や量を調整したりして、手を動かしはじめ続けられるように練習をしていきましょう。
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特別支援学校教諭
おもに知的障害をもつ子が通う特別支援学校で10年くらい働く現役の先生。やさしくてちょっと笑える特別支援教育のつぶやきが人気を集め、Twitterのフォロワー数は6.9万人(2023年2月現在)。 小学部、中学部、高等部のすべての学部を担任し、幅広い年齢やニーズの子どもたち、保護者と関わる。著書に『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)。
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(特別支援学校教諭 平熱)
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