1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「ご乗車できません」は間違っている…NHKも判断に悩む「誤用が当たり前」になっている敬語表現2つ

プレジデントオンライン / 2023年5月11日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mura

大勢の人にいちばん伝わりやすい日本語とはどんなものか。NHK放送文化研究所の「用語班」は、全国の放送局からのことばの問い合わせに答えている。その名回答をまとめた書籍『NHKが悩む日本語』(幻冬舎)より、一部を抜粋して紹介する――。(第2回)

■謙譲語は2つの種類に分けられる

【暑い日が続いております】
Q.「暑い日が続いております」という言い方をよく耳にします。自分や自分側の人物に関する動作でもないのに、謙譲語の「おります」を使っても問題はないですか?
A.問題ありません。「おります」は、「いる」の謙譲語「おる」に、丁寧語の「ます」が付いたものです。自分の行動をへりくだって言う場合に使いますが、聞き手に対して丁重さを示す目的で使うこともあります。

謙譲語は、敬語を「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」と3つに分類する場合の一つとして、学校教育などでは、「動作主を低く待遇するもの」と教えられてきました。ただし、この謙譲語は、使い方によって2つに分類されます。『敬語の指針』(平成19[2007]年文化審議会答申)では、謙譲語を、「謙譲語I」と「謙譲語II」という2種類に分けて説明しています。

まず「謙譲語I」は、「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの」で、「先生のところに伺いたいのですが……」「先生をご案内する」などと述べる場合の「伺う」「ご案内する」がこれに当たります。「行く」「案内する」の代わりに「伺う」「ご案内する」を使うことで、「先生」を立てる言い方になっています。

■「謙譲語II」は丁重さの方向性が違う

一方、「謙譲語II」は、「自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの」で、「明日から海外へ参ります」「きょうは家におります」の「参る」「おる」などがこれに当たります。「行く」「いる」の代わりに改まった言い方「参る」「おる」を使うことで、丁重さを示しています。「謙譲語I」が行為の向かう先を立てる言い方なのに対して、「謙譲語II」は丁重さを示す敬語であることが大きな違いです。

また、前出の「きょうは家におります」の「おります」は、自分の行為を表していますが、「謙譲語II」は自分の行為でなく「立てなくても失礼にあたらない第三者や事物」について使う場合もあります。「子どもが大勢帰って参りました」「バスが参ります」のような場合です。ご質問の「暑い日が続いております」もこれに当たります。

いずれも聞き手(文章であれば、それを読んでいる人)に対して丁重に言いたいときに使われます。ただ、天気予報やニュースなど、客観的に伝えるのがふさわしい場面では、敬語を使わず「~ています」とするほうがすっきりします。番組・ニュースの内容や目的によって、使い分けることも考えられます。(滝島雅子)

■「ご利用できます」は敬語の誤用

【ご利用できます】
Q.「ご利用できます」「ご参加できます」「ご乗車できません」は誤用でしょうか?
A.「ご(お)~できる」は、謙譲語「ご(お)~する」の可能を表す言い方ですが、ご質問にある言い方は尊敬語として使われているようです。このように、「ご(お)~できる」を尊敬語として使うのは、誤用とされています。尊敬語にするなら、「ご(お)~になる」の可能表現である「ご(お)~になれる」を使うのが正しい用法です。

「ご(お)~できる」を尊敬語として使うのは、一般的には誤用とされていますが、日常の場面では、以下のような言い方をよく耳にするのではないでしょうか。

「今なら、すぐにご利用できます」「ご乗車できませんので、ご注意ください」「こちらのメニューは、お持ち帰りできます」「どなたでもお気軽にご参加できます」「今なら、安値でお求めできます」

こうした言い方は、世の中で使われているうちに、耳慣れてしまっているかもしれません。

■助詞の「は」を加えれば正しい表現になる

平成16(2004)年度の文化庁の「国語に関する世論調査」でも、「御乗車できません」について「正しく使われていると思う」と答えた人は、59%でした。

NHK放送文化研究所『NHKが悩む日本語』(幻冬舎)
NHK放送文化研究所『NHKが悩む日本語』(幻冬舎)

「利用する」「参加する」「乗車する」などの動詞は、「ご(お)~する/できる」という謙譲語の形では、一般的には使われません。それに対して、「説明する」「案内する」などの動詞は、「(私が)ご説明する/できる」「(私が)ご案内する/できる」という謙譲語の形で使われます。

「説明する」「案内する」は、「だれに対して」という、その動作が及ぶ先の相手がいる動詞ですが、「利用する」「参加する」「乗車する」は、その動作が及ぶ先の相手がいないタイプの動詞だという違いがあります。こうした動詞の性質の違いが、用法の違いにもつながっています。

「ご利用する/できる」はそもそも謙譲語として使われないので、「ご利用できます」のように尊敬語として使ってしまっても、誤用とは感じられにくいのだと考えられます。今後、使われ続ける可能性もありますが、敬語の「誤用」であることには変わりないため、放送で使うことばとしては適切ではないでしょう。とはいえ、尊敬語の「ご乗車になれません」は、やや堅苦しいと感じる場合もあるかもしれません。

これにかわるほかの言い方として、まず、「乗車」を動詞ではなく名詞と捉え、助詞の「は」を加えて、「ご乗車はできません」とすれば問題ありません。また、場面によっては、相手の動作によって自分が恩恵を受けることを示す「いただく」の可能の形「いただける」を使って、「ご乗車いただけません」と言いかえることもできるでしょう。(滝島雅子)

[参考『敬語表現』蒲谷宏・川口義一・坂本惠(大修館書店)]

----------

NHK放送文化研究所(エヌ・エイチ・ケイほうそうぶんかけんきゅうじょ)
1946(昭和21)年、世界に類を見ない、放送局が運営する総合的な放送研究機関として設立。放送に関する調査研究や、デジタル時代のさまざまな分野の調査研究に取り組んでいる。略称は文研。

----------

(NHK放送文化研究所)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください