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ユーミンの『恋人がサンタクロース』はなぜ恋人「は」ではなく、恋人「が」が正しいのか…一言で説明できるか

プレジデントオンライン / 2023年5月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Viorika

■なぜ恋人「は」ではなく、恋人「が」が正しいのか

※本稿は、『プレジデントFamily2023春号』の一部を再編集したものです。

「恋人がサンタクロース」は、クリスマスに、よく耳にするスタンダード・ナンバーだが、私はその題名が、ずっと気になっていた。

なぜ、恋人「は」ではなく、恋人「が」なのか? 歌詞の中身をかいつまんで紹介しよう。

前田安正『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)
前田安正『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)

主人公の少女は、サンタの存在をおとぎ話だとわかっていた。でも、隣のお姉さんは少女に言う。サンタは実際にやって来るのだと。少女が大人になれば、クリスマスには、恋人がサンタとなってやって来るよ、と教えてくれる……。

確かにこの内容だと、恋人「が」のほうが適切で、恋人「は」だと、しっくりこない。しかし、なぜ? と問われると、すぐに答えられない。

ところが、たったひと言でその答えを説明する本に出合った。文章術を教える『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)だ。

■「が」という助詞を使うのが正しい理由

同書によると、「が」の前には知らないこと=未知情報が置かれるという。反対に「は」の前には、知っていること=既知情報が入るのだ。少女にとって、将来の恋人は未知情報だから、この歌では「が」という助詞を使うのが正しい、ということになる。思わず膝を打った。何という明解さだ!

著者の前田安正さんは、朝日新聞で長年にわたり校閲を担当してきた言葉のプロフェッショナルだ。

前田安正さん
前田安正さん(撮影=萩原美寛、『プレジデントFamily2023春号』より)

校閲の仕事は間違った言葉や文字に赤字を入れるだけではない。記者や作家、ひいては読者に対して、訂正の根拠をきちんと説明できなければならない。

こうした厳しい姿勢で一字一句、丹念に検討を重ねていくうちに培われた作者の文章術が、この本にはいっぱいつまっている。「就活のエントリーシートの作成に悩む学生や、ビジネス文章に不慣れな社会人1年生を念頭に、相手に伝わる文章術を書いた」というが、実際には30代のビジネスパーソンにも多く読まれて、ロングセラーとなっている。

会社の書類づくりで鍛えられているはずの30代も、文章力には不安を感じているのだろうか。

「転職、起業しようというとき、自分のプロフィールをうまく書けないという人が、ことのほか多かったのです。つまりビジネス上の決まりきった定型文ではなく、自分の言葉で、自分を表現する文章を書くことができないのです」

書く力が問われるのは、受験や学校の授業だけではない。ことに最近は就活、転職、起業と、あらゆる場面で、自分のことを自分の言葉でアピールするための文章力が、求められている。

前田さんによれば、社会人も「次のステップに移るときの道具として、文章力が必要不可欠になっている」時代だという。

■「思うがままに書きなさい」という作文指導がいけない

だからこそ小学生のころから、文章力の基礎をかためる作文を、しっかりやる必要があるのだ。そう考えた前田さんは、子供向けのワークショップを開いた。

会場にやってきたのは、幼稚園児から小学校低学年までの子供たちだ。最初、野生動物の生態を紹介するビデオを見せた。それが終わると、一番気に入った動物や場面を絵に描かせる。たいていの子が好きで、取り組みやすいお絵描きから、まずは作文へ導こうというのだ。

次に「どんな色だった?」と聞いて、もう一度ビデオを見せる。今度は答えを文章で書かせる。次に「動物たちはどんな風に遊んでいた」などと質問して、再びビデオに戻る。子供たちは質問に答えようと、それまで以上に熱心にビデオを見るようになる。

「漫然と見るのではなく、観察させることが大切。具体的な質問で観察への意識づけをするのです」

4回ビデオを見せた。ワークシートに書かれた言葉が十分になったところで、それらをもとに文章を仕上げる。これで作文の完成。

学校の授業では、教師が原稿用紙を与えて、後は子供が書き上げるのを待つだけ、という場合が多い。いきなり完成原稿を書かせようとするハードルの高い方法だ。これだと子供は萎縮してなかなか書けないだろうし、作文嫌いな子も出てくるだろう。

藤原智美さん
藤原智美さん(撮影=萩原美寛、『プレジデントFamily2023春号』より)

「『思うがままに書きなさい』という作文指導が、逆に書けなくしているのではないか」と、前田さんも授業の進め方を疑問視する。

むしろ先を急がず、計算された手順を踏むことで、多くの子供は、うまく書けるようになっていくのだという。

その手順の基礎となるのは、新聞記事の基本形である5W1Hだ。これを子供向けに少し改良して、「いつだろう、どこだろう、だれだろう、何を、どうして、どうなった」という質問を、教える側が用意する。

ビデオなどの観察する素材を見せた後、「それはなんでだろう」と質問を繰り返して、答えを書かせる方法だ。質問と答えのキャッチボール。これなら、子供も書きやすいはずだ。

■3歳娘の観察力の鋭さを知って驚いた

前田さんが著した『クレオとパトラのなんでナンデさくぶん』(大和書房)は、その良い参考書となるだろう。

『プレジデントFamily2023年春号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023年春号』(プレジデント社)

ワークショップでは、わが子がこんなに立派な作文を書けると初めて知って、思わず涙ぐんだ保護者もいたという。親も教師も、子供たちの隠れた能力を、案外、知らずにいるのかもしれない。

前田さん自身も、わが子の観察力の鋭さを知って驚いたことがあった。

「娘が3歳のとき、いっしょにテレビを見ていたら、ドラマの主人公が泣きだした。『どうして泣いたと思う?』と聞いたら、娘が『うれしかったからだよ』と答えたので、びっくりしました」

3歳でも、うれしくて泣くという感情表現が理解できているのだ。こんな子供のすぐれた感性を文章化していく方法の探求を、これからも前田さんには期待したい。

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藤原 智美(ふじわら・ともみ)
作家
芥川賞作家。1955年、福岡県生まれ。フリーランスのライターを経て、『王を撃て』でデビュー。『運転士』で第107回芥川賞受賞。『日本の隠れた優秀校』など教育に関するルポも多い。近刊に『スマホ断食 コロナ禍のネットの功罪』。

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前田 安正(まえだ・やすまさ)
未來交創代表
未來交創代表。文筆家・文章コンサルタント。早稲田大学卒業後、朝日新聞社に入社して校閲センター長、用語幹事などを歴任。2019年に独立、文章表現の研修、コンサルティングなどを展開。著書に『マジ文章書けないんだけど』『クレオとパトラのなんでナンデさくぶん』など。

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(作家 藤原 智美、未來交創代表 前田 安正 撮影=萩原美寛)

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