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美味ければいくら高くてもいい…中国人富裕層が「1人4万円の日本料理コース」に殺到するワケ

プレジデントオンライン / 2023年5月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MelanieMaya

中国で日本料理店が急増している。中国のグルメサイト「大衆点評」によると、2018年に4万店だった日本料理店は、3年で8万店と倍増した。なぜこれほどまでに人気なのか。フリージャーナリストの中島恵さんがリポートする――。

※本稿は、中島恵『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

■上海なら2000円を超えてもおかしくない

2022年12月、東京駅の地下街。久々に来日した男性、王偉氏はランチタイムにたまたま入った和食店で好物の刺身定食を注文した。新鮮なマグロ、ハマチ、イカの盛り合わせに白飯と漬物、味噌汁で1180円。王氏はいう。

「上海でこのレベルなら100元(約1900円)か、それ以上します。しかも、これほど鮮度はよくない。最近は上海でも美味しい日本料理店が増えていますが、そういう店は高いので毎日は行けません。

上海の日系回転寿司チェーンでは1皿最低10元(約190円)です。日本で1皿100円でなくなったことがニュースになったそうですが、それでも上海よりずっと安くて美味しく、ネタの種類も多い。

日本国内の物価が海外ほど上がらず、円安の影響もあって“安いニッポン”問題が話題になっていることも承知していますが、海外から日本に来ると、食べ物は本当に安くて、美味しくて、とにかくコスパがいい。高級店を除き、私はどこに行っても3000円の食事で十分満足できますよ。

日本人は意識していないかもしれませんが、これだけ質が高くて美味しいランチが、平均的な所得の人でも手が届く。しかも大きなハズレがなく、お店の人から騙される心配もない。こんな国は世界中、どこにもない。日本人は本当に幸せです。コスパのよさは食べ物以外でも、日本のすべてに当てはまります」

■「空前の日本食ブームが巻き起こっているんです」

中国には安くて美味しい中華料理がいくらでもあるので、日本で食べる日本料理について中国と比較するのはおかしいという意見もあるだろう。

だが王氏は、「もちろん上海の中華は最高ですが、料理のジャンルを問わず当たりハズレが大きいし、農薬など食材の安全性も心配です。中国の場合、値段が高ければ安全性に問題がないかというと、必ずしもそうとはいえないので……。

そして日本は中華も安い上に以前より味も良くなっている。フランス料理だと、中国は日本の2倍以上のお金を出さないと、日本と同レベルの料理は食べられません。パンやケーキ、コンビニで売っているお菓子のクオリティも、めちゃくちゃ高い。

日本はまさに食の天国。とくに日本料理が恋しくて、中国ではいま空前の日本食ブームが巻き起こっているんです」という。

中国人が豊かになり、海外の料理もどんどん食べるようになったことも関係あるが、日本食ブームの背景にあるのはコロナ禍だ。日本旅行に行きたい、でも簡単に行けない。その結果、中国国内で日本料理店が急増しているのだという。日本風の居酒屋も全国各地で、猛烈な勢いで増えている。

■メニューは鶏のから揚げや揚げ出し豆腐、枝豆…

内陸部の湖北省武漢市。日本留学を経て、数年前からこの都市で働く30代の中国人女性がSNSに「ここは日本?」と思うような居酒屋の写真を載せていた。

店外には縄のれんと赤ちょうちん。店主が書いたメニューには、鶏のから揚げや揚げ出し豆腐、枝豆などが並ぶ。

数十年前から中国にも日本風の居酒屋はあり、珍しくなかったが、以前は日本人駐在員向けが中心だった。出店場所も日本人が居住する地区などが多く、味の面では日本とは比べ物にならなかった。

だが、この女性がいうには、「(最近は)味もかなりイケます。(中国でも人気の)日本のテレビ番組『深夜食堂』などの影響で、こだわりの居酒屋やラーメン店が増えている」そうだ。

中国のグルメサイト『大衆点評』によると、18年に4万店だった中国の日本料理店は、21年には8万店と倍増した。サイトを見ると、ラーメン店やお好み焼き店なども、広い範囲で日本料理とされる。

上海在住歴が長い日本人経営者にも話を聞いてみた。

■接待で使われる日本料理は「1人約6万円」

「確かに日本料理ブームといって差し支えありません。食材もかなりよくなっています。回転が速くなっていることが関係していると思います。

でも値段もとても高い。主観では、上海で少し贅沢な日本料理はコースで600~800元(約1万1400円~1万5200円)。もう少し高級だと1200~1500元(約2万2800~2万8500万円)。さらに高い店では2000元(約3万8000万円)以上ですが、高級店に日本人はほぼいません。高級店に足を運べるのは中国人富裕層だけです。中高年だけでなく富裕層の子息、いわゆる『富二代』など20~30代も行くそうです」

私自身も、在日中国人経営者から、「上海の富裕層の知り合いが接待で使う日本料理は1人3000元(約5万7000円)以上」と聞いたことがある。日本人経営の店もあるが、その多くは中国人経営の店だ。

中国ではメンツの関係から、値段が高いほどいいものなのだ、といった風潮がある。そのため、料理にエディブルフラワーを散りばめたり、ドライアイスを置いたりして見た目も華やかにし、値段を吊り上げることもある。

しかし、訪日体験のある中国人ならば、「日本なら外見をそんなに飾らなくても、質が高くて、コスパのよいものがたくさんある」と知っている。考えてみると、日本では多くの店が幅広い中間層をターゲットにしたリーズナブルな価格設定にしていて、クオリティも一定以上。むろん食材の安全性については心配することがない。

■「OMAKASE」と日本語でオーダーする人も

15年~19年頃の訪日旅行ブーム(爆買いブーム)などの影響で日本料理の味を覚えた人が増え、関連情報が増えたことも、「日本料理ファン」あるいは「日本ファン」を増やしている要因だ。

北京市内、大使館や日系企業などが立ち並ぶエリアで日本料理店『蔵善』を経営する小林金二氏も、数年前から中国人客の“ある変化”を感じるようになった。

「当店のすき焼きランチは98元(約1860円)ですが、ここ数年人気で、生卵をつけて食べる中国人が増えました。先日来店した6人組のお客さんは全員、刺身に卵の黄身をのせた158元(約3000円)の海鮮丼を注文したのですが、黄身はいらないといったお客さんは1人だけでした。

北京のスーパーで生食用の卵が販売されるようになったり、SNSの動画で日本の料理や食習慣を見たりした影響もあるでしょう」

小林氏は90年代から北京の日本料理店で総料理長などを務め、北京在住の日本人の間で有名な存在だが、同店の顧客の9割は中国人だという。

「最近は若年層が増えていますが、実業家や経営者が主な中高年層は、高くてもいいから、とにかくうまいものを食べさせてよ、と注文します。一人1000元~2000元(約1万9000円~約3万8000円)のおまかせコースが人気です。中国人もOMAKASE(おまかせ)と日本語でオーダーします。彼らは日本酒にも詳しくて、最近では『獺祭純米大吟醸 磨き二割三分』などを注文する人が増えています」

上海にある日本料理店
筆者の友人提供
上海にある日本料理店 - 筆者の友人提供

■北京にある二郎系ラーメン店は週末に行列が

その『蔵善』の近くに、二郎系ラーメン店『ラーメン荘 夢を語れ北京』がある。外観が日本の町中華のような店には、北京在住の中国人が多く来店し、週末には行列ができる。

二郎系ラーメンとは東京・三田にある『ラーメン二郎』の影響を受けたラーメンのことで、豚骨ベースのスープに極太の麺、大量の野菜、分厚いチャーシュー、ニンニクや豚の背脂などがのっているのが特徴だ。

中国には熊本の『味千ラーメン』や福岡の『一蘭』など日本のラーメン店が進出しており、中国人の間でラーメンは身近な存在となっている。

中国人と共同で同店を運営する小田島和久氏によると、16年にオープンした際、当初は日本人客が多かったが、次第に中国人が増えていった。

「日本人に連れられてきて、店を覚えてくれた」と小田島氏はいう。顧客は20~40代の男女が多い。

来店者の共通点は主に三つ。何らかの体験があって日本好きな人、留学や旅行で日本のラーメンを食べたことがある人、日本のアニメなどサブカルチャー好きな人たちだ。

■並(1100円)をシェアして食べられる

日本の二郎と同じ味で感激した、といって中国のショート動画に食べている様子を投稿する人もいて、それを見た人が来店するというサイクルで口コミが広がった。中には四川省など遠方から、わざわざ食べに来る顧客もいるという。

『大衆点評』に投稿された顧客コメントを見ると、味のよさだけでなく「日本のラーメン屋さんみたいでうれしい」と内装に対する書き込みも多い。

店内にはカウンター席とテーブル席があり、壁に無造作に貼られた昭和風のビールのポスター、赤いテーブル、丸椅子なども、日本の懐かしいラーメン店のような雰囲気を醸し出し、若者にとって“映えるポイント”になっている。

メニューを見ると、二郎系ラーメンの「並」は58元(約1100円)、「ミニ」は45元(約855円)。「並」は1キログラムくらいになるため、女性ならシェアして食べることもあるそうだ。

コロナ禍で日中間の往来は大幅に減った。コロナ前の19年の訪日中国人観光客は約959万人だったが、22年は約18万9000人にまで減少。一時は航空路線が大幅に減少し、航空券も高騰した。

お互いに現地に足を運べるのは、親族がいる人、企業派遣の駐在員などごく一部に限られるようになった。

報道やSNSの情報量は10年前よりはるかに増えているが、一方でコロナ禍以降、報道やSNSでしか、お互いの様子を知る術がなくなった。

■感心するのはやっぱり「国民の素質の高さ」

上海を中心に、教育家として中国と日本を頻繁に往復している男性に聞くと、彼が常々感じているのは、やはり日本人の素質の高さだという。

「日本人は法律をきちんと守りますよね。人が見ていなくても、大半の人は信号を守ります。それができるのは素質が高いからです。国民全体の素質が高くなると政府への不満も自然と減るのです。

中国の場合は逆。国民の素質が低く、ルールを守らない人が多いので、政府は強制的に対応するしかない。すると、さらに国民も反発するという悪循環が起こるのです。

もちろん、最近は中国人もルールを守るようになったといわれます。確かにそうですが、それは罰金や氏名公表などの罰則があるから。自ら進んでルールを守っているわけではありません。だから監視カメラも必要だし、罰則をやめられないわけで、すべては人々の素質に起因するものだと思います。

日本では、道端でのケンカはめったに見かけません。日本人の多くは政府に不満があっても文句をいわず、自分にできる範囲で解決したり、我慢したりして生きている。だから秩序が保たれて社会は安定している。すべては教育やしつけに由来していると思います」

■他人のマナーの悪さでけがをすることも…

孫氏の話を聞き、私は19年末、大連を訪れ、現地の大学で働く友人に会ったときのことを思い出した。彼は手の指に包帯を巻いていた。プールで泳いでいたときに突き指してしまったのだという。

中島恵『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)
中島恵『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)

プールでレーンに沿って泳いでいたところ、突然、レーンを横切って泳いできた人がいて、衝突したときに痛めたという。仕事の都合ですぐ病院に駆け込めずに治療が遅れ、しばらく経っても完治していないと話していた。友人はこういって嘆く。

「中国にはときどき、予想不可能なことをする人がいます。皆が真っすぐ泳いでいるのに、横切って泳げば、誰かとぶつかるのは当たり前です。

プールでどのように泳ぐかまで、係員は教えてくれません。一般常識だからです。でも、その一般常識がわからない人が、この国には信じられないほど大勢いる。つまり国民全体の素質がまだ低いということです」

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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