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「36歳夫が突然のひきこもり」退職で年収400万円が0円に…パート妻が見つけた家族野垂れ死にを防ぐ唯一の方法【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月8日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年8月20日)
一家の大黒柱が突然ひきこもり状態になるケースがある。そうした場合、家族はどのような対策を打てばいいのか。社会保険労務士でFPの浜田裕也さんが、妻子のいる家電メーカー勤務の36歳男性が仕事のストレスなどで一歩も家の外へ出ることができなくなり、退職を余儀なくされた事例を紹介する――。

■バリバリ働いていた夫が家から一歩も出られなくなった

「ひきこもり」と聞くと「子供がひきこもっている高齢の家族」をイメージしがちですが、必ずしもそのようなケースばかりではありません。中には、配偶者がひきこもるケースもあるのです。

「夫(36)がひきこもりのような状態にあり、将来のお金の見通しが立たない」。今回、そのような悩みを持つ妻(37)から筆者は相談を受けることになりました。現状を把握するため、まずは家族構成や家計収支をお聞きすることにしました。

家族構成
夫 36歳 無職
妻 37歳 パート主婦
長男 6歳 小学生
収入(月額) 合計 31万円
夫 傷病手当金 25万円
妻 パート収入 5万円
児童手当 1万円
基本生活費(月額) 合計 26万500円
食費 6万円
水道光熱費 1万6000円
通信費 1万5000円
家賃 9万円
日用品・雑費 1万円
理美容費 8000円
衣服 8000円
医療費 5000円
交通費 5000円
学校教育費 1万円
民間の保険(夫婦の医療保険および学資保険) 1万9000円
夫婦のお小遣い 1万円
国民年金保険料 0円(夫婦ともに全額免除)
国民健康保険料 4500円
貯蓄額
現金預金 600万円

月の家計は現状約5万円の黒字ですが、妻によると、支出は月26万5000円の基本生活費の他にも、学校行事費用や家電の買い替え費用なども発生しているので、年間の家計収支はやや赤字状態にあるとのことでした。

妻は「少しでも家計の足しになれば」と思いパートをしていますが、子供(6)は小さく、療養中の夫を家に残して長時間働くこともできません。仕事、家事、育児、夫のケアに奔走している妻の顔には疲労が色濃く浮かんでいました。

筆者は、夫が毎月得ている傷病手当金25万円について妻に確認しました。

■月給の3分の2の傷病手当金は1年6カ月しかもらえない

夫は1年ほど前まで家電メーカーの営業職として働いていました。職場の内外で人間関係によるストレスを感じることが多く、さらに仕事の拘束時間が長いということもあり、次第に体調を崩しがちになっていきました。

夫は「自分が働いて家族を支えなければならない」という強い責任感を持ち、体調が優れない中、無理をして仕事を続けていたそうです。しかし、そのような状況は長くは続きませんでした。

ある朝、会社に向かおうとした夫は自宅の玄関から一歩も動くことができなくなってしまったのです。そして「このまま消えてなくなりたい」といった思いが湧きおこりました。その瞬間、全身からサーッと血の気が引くような感覚に襲われ、体に力が入らなくなり、その場にしゃがみこんでしまいました。その日は会社を休んで様子を見ましたが、翌日もその次の日もやはり玄関から一歩も外に出ることができませんでした。

孤独と強い不安を感じている人のイラスト
写真=iStock.com/Elena Medvedeva
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena Medvedeva

会社に行けなくなったため、有給休暇を利用してしばらく療養をしていました。しかし一向に良くなる気配はありません。夫は一日中思いつめたような暗い表情をしていたので、心配した妻は夫を心療内科に連れていきました。医師からは適応障害と診断され、仕事をしばらく休むようアドバイスを受けました。夫は医師の指示に従い、引き続き自宅で療養することに。有給休暇をすべて消化しても状況が改善しなかったため、傷病手当金を受給することにしました。

傷病手当金とは、病気やけがのために会社を休み、会社から十分な報酬(給与など)が受けられない場合に支給されるものです。傷病手当金の額はおよそ月給の3分の2になります(支給期間は、令和4年1月より支給開始日から通算して1年6カ月)。

傷病手当金を受給して1年ほど休職をしていましたが、職場復帰のめどが立たず、会社にも迷惑がかかってしまうという思いもあり、自ら会社に退職を申し出ました。

夫は退職後も一日中家の中で過ごしています。担当医からは、少しでも社会とつながるようにとデイケア(精神障害のある方が、日常生活の改善や社会復帰を目的とした通所型リハビリテーション)に参加するようアドバイスを受けています。

しかし、夫は気持ちが上向かないようで、デイケアには一度も参加していません。3週間に1度の通院以外、外出もしておらず、社会から遠ざかった生活を続けています。夫は社会との接点も持たず、まるでひきこもりのような状況に陥ってしまったようなのです。

1年以上休職をしても症状は改善せずにいる。そのようなこともあり、最近になって適応障害からうつ病に診断名が変更になりました。

■「フルタイムで働く」と考えただけで体が震え動悸が

夫も何とかしたい気持ちはあるようです。妻に「このままではいけない。家族のためにも働かなくては」といったことを焦りの感情とともに伝えてきました。その一方で「家族を支えるためにはフルタイムで働く必要がある」といった考えにとわられていました。そして「フルタイムで働く」ということを考えただけで、体が震えてしまう、動悸(どうき)が激しくなる、夜よく眠れなくなってしまうといった症状が現れてしまうのだそうです。

ある日、夫は涙を流しながら妻に訴えかけてきました。

「今の自分の状態ではとてもフルタイムで働くことはできない。短時間の仕事なら何とかなるかもしれないけど、それでは収入が月に10万円に届くかどうか……。そんなんじゃとても家族で生活できない。もうダメだ、おしまいだ」

強いストレスに参ってしまっている男性
写真=iStock.com/sqback
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sqback

預貯金は退職金を含め600万円ありますが、将来を絶望視している夫は就労に対して前向きになることもできず、身動きがとれない状態に陥ってしまったそうです。

そこまで語った妻は、ハァ~ッと深いため息をつきました。それはまるで胸の内にある不安を吐き出しているかのようでした。

「もし夫がこのまま就労できずに無収入となってしまったら、今のような生活はできないと思っています。しかし生活費を見直すと言っても限界があります。何かこの状況を変えるような方法はありませんか?」

夫の状況がある程度把握できた筆者は、次のような提案をしてみました。

「ご主人がフルタイムで働くことが難しいようであれば、障害年金と短時間就労の組み合わせで生活費を確保する方法も検討してみてはいかがでしょうか。ご主人はそのご病気で初めて病院を受診した日が厚生年金に加入中(会社員の時)とのことなので、障害厚生年金を請求することになります」

「仮に障害厚生年金がもらえたとすると、いくらぐらいになるのでしょうか?」

「障害厚生年金の金額は、ざっくりいうと今までの給料やボーナスの金額を基に計算されます。ご主人の今までの平均年収(初任給から現在までの平均年収)が分かれば、大まかですが試算することは可能です。それでもよろしいでしょうか?」

「はい。だいたいでけっこうです」

■「2級」なら月約15万2200円の支給を受けられる

夫の今までの平均年収はおよそ400万円とのことなので、筆者はそれぞれの年金額を紙に書き出していきました。

障害年金の3級に該当した場合
障害厚生年金 月額 約4万8600円

※障害基礎年金には3級がないので障害厚生年金のみ

障害年金の2級に該当した場合
障害厚生年金 月額 約4万5200円
配偶者の加給年金 月額 約1万8600万円
障害基礎年金 月額 約6万4800円
子の加算 月額 約1万8600円
障害年金生活者支援給付金 月額 約5000円
合計 月額 約15万2200円

※今回のケースで障害厚生年金の2級に該当した場合、配偶者加給年金、障害基礎年金2級、子の加算、障害年金生活者支援給付金も併せて受給できる。

※厚生労働省の「障害年金ガイド」より

障害年金ガイド 令和4年度版
障害年金ガイド 令和4年度版

障害の程度2級

必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当します。

障害の程度3級

労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方が3級に相当します。

試算を終えた筆者は、障害年金2級の合計金額のところを指さしました。受け取れる合計額が月15万円余りです。

「仮に障害厚生年金の2級に該当すれば、奥様のパートとご主人の短時間就労で月々の生活費は何とかカバーできそうです」

すると妻は疑問を口にしました。

■「働けるようになったら障害年金はもらえませんか」

「夫が働くようになったら、障害年金はもらえなくなってしまいませんか?」

「確かにそう不安になる方は多くいます。しかし、精神疾患をお持ちの方が働けるようになったからといって、必ずしも障害年金が停止されてしまうわけではありません。厚生労働省の『国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドライン』では、就労状況に関しては次のように説明されています」

<安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する>

<就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。就労移行支援についても同様とする>
※厚生労働省 国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドラインより一部抜粋

このガイドラインを踏まえ、筆者は次のように述べました。

「障害年金と就労の関係をざっくり言うと、ご主人がフルタイムで働けるようになった場合、障害年金が停止されてしまう可能性があります。一方、短時間就労などで働くのが精いっぱいといった場合は、障害年金が停止されない可能性が高いです。実際に障害年金を受けながら就労されている方は多くいます」

「それを聞いて安心しました。私の希望としては障害年金の2級になってほしいところですが、実際のところどうなのでしょうか?」

「障害年金の何級に該当するかは、医師の作成する診断書によるところが大きいです。もちろん診断書だけではなくその他の書類も考慮されますが、やはり診断書の影響は大きいと言えます。そのため、医師にはご主人の日常生活の状況がしっかりと伝わっている必要があります。すべての場合でそうだとは言いませんが『毎回の問診が数分で終わってしまう』『ご本人が口頭で日常生活の状況をうまく説明できていない』といったことを耳にすることがあります。そのような場合、医師に診断書の記載をお願いしたとしても、ご本人の状況をしっかりと反映していない内容になってしまう可能性もあるからです」

筆者がそこまで説明したところ、妻は困った表情を見せました。

「では一体、何をどのようにすればよいのでしょうか?」

「例えばご主人の日常生活の様子を文書にまとめ、診断書と一緒に医師に渡すといった方法があります。障害年金の精神疾患用の診断書には、その障害で日常生活がどの程度制限されているのかを判定する項目があります。その項目を参考に、ご主人が日常生活でどのくらい困難さを抱えているのかをまとめてみるとよいでしょう。実際にこの場で少しやってみましょうか?」

筆者の提案に妻は同意を示したので、夫の日常生活の状況についていくつか質問をしてみることにしました。

まずは食事について。夫は病気のため食欲があまりなく、自分で食事を作る気力もないそうです。そのため食事は妻が用意したものをとっています。食事の量は成人男性の半分程度。おかゆを茶碗に少量だけ食べるのが精いっぱいの時もあるとのことでした。

次は身辺の生活保持について。入浴は1週間に1回から2回程度、下着の着替えも1週間に2回程度とのことでした。妻から「毎日入浴をするように」「下着は毎日着替えるように」と言われているのですが、どうしてもできません。妻から何度も何度も言われて何とか入浴や着替えをしている状態とのことでした。

そこまで聞き取った筆者は、妻に「今お話いただいたようなことを文書にまとめていけば大丈夫です。その他の評価項目も同様にまとめていきます。(社労士の)私のほうで文書作成や請求をすることもできます」とアドバイスをしました。

先の見通しが立ったようで、やっと妻にも少しだけ笑顔が戻りました。

面談後、妻は夫に障害年金と短時間就労の組み合わせで生活費を確保する方法もあることを伝えました。「フルタイムで働けなくても何とか生活が成り立ちそう」。そのような見通しが立ったとことで、夫も安心感を得たようです。その後、夫は就労移行支援について調べるなど、就労に向けて少しずつ行動をおこすようになりました。

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浜田 裕也(はまだ・ゆうや)
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
平成23年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本『第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え』を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことからひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりのお子さんをもつご家族のご相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりのお子さんに限らず、障がいをお持ちのお子さん、ニートやフリータのお子さんをもつご家庭の生活設計のご相談を受ける『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。

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(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)

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