「成功すればメルカリ以上のインパクト」日本人の消費を劇的に変えてくる"カウシェ"の正体
プレジデントオンライン / 2023年5月11日 10時15分
■消費者の「売り方」を大きく変化させた
売りたい人と買いたい人が出会う場を作り、売れた後のお金の使い方を広げていくメルカリは、さらなる成長を遂げている。2013年のサービス開始以来、10周年を迎えたが、累計の利用者数は2022年11月時点で約4800万人、出品数はじつに30億品を突破した。2022年には月間アクティブユーザー(MAU)、売上ともに過去最高を記録して絶好調だ。
消費者同士を出会わせる従来のサービスに加えて、個人も企業も手軽にネットショップを開ける「メルカリShops」、メルカリでモノを売って得たお金を利用する電子決済サービス「メルペイ」、メルカリ利用者にお得なクレジットカード「メルカード」、さらにはメルカリを通じたビットコイン取引サービスなど、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」という新ミッションを掲げてビジネスを拡大させている。
「いつでも、どこでも、すぐに売り買いできる」メルカリは、その登場の以前・以後で、消費者の「売り方」を大きく変化させた。メルカリ以前は、「売る」といったら中古品専門店に持ち込むのが当たり前だった。専門店に買い取ってもらう形で、格安で買い叩かれたとしても我慢するしかなかった。
■「試し買い」や「衝動買い」を加速させる
しかし、メルカリ以後では、一般の消費者が全国の同じ消費者に対して、自由に、簡単に売れるようになった。売る側が「この金額で売りたい」と思えば、その額で買いたい人を待って、納得した金額で売れるのが新しい当たり前になっている。「海外から安く仕入れて日本で高く売る」や「限定品を買って転売する」を副業感覚で行う人も増え、その度が過ぎて問題視される場面が頻出するほどに、「売る」の価値観が更新された。
じつはメルカリは「売り方」だけでなく、「買い方」にも大きな変化をもたらしている。メルカリが当たり前の社会では、「買ってみて、もし自分に合わなくても、すぐに飽きてしまっても、そのときは売ればいい」と割り切れるため、試し買いや衝動買いが加速するのだ。「いつでも売れる」という保険に安心して買う消費者や、「あとで売る」を前提にして買ってみる消費者が増加している。この変化は、新商品が出てきても慎重になりすぎてなかなか手を出さない、という「日本の消費者の買い方」の特徴を変えていく、大きなインパクトをもたらすものだ。
■匿名で「シェア買い」ができる
消費者の売り方・買い方に大きな変化を与えることで成長を続けるメルカリ。じつは、飛躍を遂げることができれば、そのメルカリ以上のインパクトをもたらす可能性を秘めた存在がいる。それは、「世界一楽しいショッピング体験をつくる」をビジョンに、「シェア買い」という新しい買い方を現在進行形で広めているベンチャー企業、カウシェだ。
2020年9月にサービスを開始したカウシェの「シェア買い」の大きな特徴は、「1人では買えない」ところにある。アプリで自分が買いたい商品を選んだら、「シェア買いグループ」を作成し、家族や友人、SNS上の誰かなどからシェア買いの参加者を集め、24時間以内に必要人数に達したら、安く、お得に商品が購入できる仕組みだ。2人以上で実現する「シェア買い」は、匿名で、個別に決済・配送されるため、SNS上の見ず知らずの誰かのグループにも安心して参加できる。
![ペパロニピザを複数人でシェア](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/1200wm/img_a697c70b7c811c5ce6fcfeb62944d3a0428870.jpg)
購入できる商品カテゴリーは、食品に始まり、日用品、家電、美容・コスメ、ベビー・キッズなど拡大しており、基本的には通常より10~20%安く商品を購入できる。また、「大人数シェア買い」や「超シェア買い祭り」では、購入必要人数が増える代わりに40~60%の大幅値引きで商品を買ったり、特別なタイムセールに参加したりすることも可能だ。
■ECでも「ワクワク感」がある消費体験
「買い方」において、リアルの店舗で買うときには「現地でしか味わえない」体験価値やワクワク感が重視される一方、オンラインのECで買うときには「安く、早く、便利に」合理性や効率性が重視される傾向が進んでいる。そうした潮流の中で「シェア買い」は、リアルのワクワク感をECでも感じられるように、オンラインでコミュニケーションを取りながら「楽しく、お得に買える」という、独自の「買い方」を提供するECサービスとなっている。
カウシェは、2021年9月からの1年間で84%を超える高い「シェア買い成功率」を実現しており、サービス開始から2年後の2022年9月にはアプリの100万ダウンロードを達成するなど、成長を続けている。
■「シェア買い」で急成長した中国ベンチャーがある
このカウシェが、大きな飛躍の可能性を秘めた「変革者」として注目される背景には、中国のベンチャー企業、拼多多(ピンドゥオドゥオ)の存在が大きい。拼多多は、2015年に上海で創業された中国ベンチャーで、「シェア買い」によって急成長を遂げ、アリババ・京東に次ぐ「中国ECトップ3」にまで昇りつめた先駆者だ。
拼多多は、商品を一緒に買いたいと思う仲間を集められるかどうか、という「シェア買い」のゲーム性と圧倒的な安さによってファンを増やし、数年で「シェア買い」を中国の新習慣に定着させた。消費者の買い方に革新的なインパクトをもたらし、企業としても爆発的な飛躍を遂げて、創業からわずか6年後の2021年には、ユーザー数8億人を突破、売上は約1兆8000億円、流通取引総額(GMV)は約45兆円という桁違いの成功を収めている。だから、「日本版・拼多多」のカウシェにも注目が集まるのだ。
![右肩上がりの矢印の先端を走る人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/3/1200wm/img_631455886407ad0bc2fe981a53ce5151232714.jpg)
■「まず安全」を消費者に伝えられるか
いまや中国は、「世界最先端の買い方」の発信源として注目を集める場になっている。中国でいち早く浸透していた「モバイルオーダー」や「デリバリー」、「D2C」は数年遅れで日本でも普及を広げている。一方、中国で大流行した「ライブ販売」は、日本では伸び悩みを見せている。共同購買やソーシャルECとも呼ばれ、中国で爆発的なヒットの「シェア買い」が、今後、日本でも中国同様の盛り上がりを実現できれば、メルカリを超えるインパクトが生まれるだろう。
その実現には、「シェア買いは怪しいサービスじゃない」と、ユーザーが「まず安全」と確信できるだけの、高い信頼性を確立することが極めて重要になる。日本の消費者は、斬新な商品・サービスであればあるほど、「まず安全、つぎに便利、そしてお得」の順で優先順位を付けやすいからだ。どんなに面白くても、お得でも、「まず安全」がないと日本での普及は難しくなる。広告におけるタレント起用やキャンペーンにおけるインフルエンサー活用などを通じて認知度をさらに向上し、お得な「シェア買い商品」の拡充によって顧客満足度とクチコミ拡散を高めて、「みんなが知っていて、安心して利用できる」という「市民権」を獲得することができれば、「シェア買い」の普及は加速していくだろう。
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高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。
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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)
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