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「ChatGPT仕事術」が広がれば公務員は不要になるのか…「導入は民主主義の自殺」との声があがる理由

プレジデントオンライン / 2023年5月3日 12時15分

自民党デジタル社会推進本部のプロジェクトチームの会合に出席した対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の開発企業オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)(中央)=2023年4月10日午後、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト

■データの処理能力は人間の脳を超えている

対話型人工知能(AI)「チャットGPT」を開発した新興企業「オープンAI」のサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が来日し、岸田文雄首相と4月10日に面会した。その後記者団の取材に応じたアルトマン氏は「チャットGPTにとって日本市場が有望だ」とした上で、「日本の素晴らしい才能と連携し、日本の人々や文化、言語に適したモデルを構築していきたい」と、日本への進出を考えていることを明らかにした。

「チャットGPT」は、インターネット上の膨大なデータを学習し、利用者が質問をすると、わずか数秒でまるで人間が書いたかのような自然な文章で回答する対話式のAIだ。

対話型AIをめぐっては、「チャットGPT」の開始以降、マイクロソフトやグーグル、アマゾンもサービスの提供に乗り出すなど、開発競争が激化している。その技術水準はハイスピードで伸びており、仕事を代替するという声もある。

■スタンフォード大を中退し、20代でCEOに

「岸田首相とアルトマン氏の面談をセットしたのは自民党広報副本部長でネットメディア局長・情報調査局長の平将明衆院議員です。平氏は自民党が新たに立ち上げた『AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム』の座長を務めています。岸田首相との面談後、プロジェクトチームはアルトマン氏を招き、講演を行っており、今後、政府への政策提言に反映される見通しです」と全国紙記者は語る。

4月29、30日に群馬県高崎市で開催した先進7カ国(G7)デジタル・技術相会合でも「チャットGPT」への対応は重要なテーマとして一致した。「生成系AIの利用増加を念頭に、AIの普及に向けた国際的なルール作りで議論を牽引する」(松本剛明総務相)考えだ。

ところで岸田首相と面談したサム・アルトマン氏とは何者か。アルトマン氏は1985年にユダヤ人の家系に生まれ、ミズーリ州セントルイス市で育った。スタンフォード大学在学中の2005年に位置情報SNSを運営する「Loopt」を起業。大学を中退した。

その後、2011年に投資会社「Yコンビネータ」に参加し、14年に同社創業者のひとりポール・グレアムから代表の座を受け継いだ。28歳の若さだった。そして翌15年には新たに設立されたAI研究機関「オープンAI」のCEOに就任した。

■特許や研究結果を独り占めしない

Yコンビネータは「創業したばかりの段階の起業家やスタートアップ企業に資金を提供し、人脈の紹介や経営のアドバイスを行うシードアクセラレーターと称される投資会社です」(大手証券幹部)。いわゆる伴走型エンジェルファンドで、企業から株式の一部提供を受け、投資先の企業の価値が上がれば大きな利益を得る。

アルトマン氏率いるYコンビネータは、多くのスタートアップ企業に投資し、成功を収めた。その中には「Airbnb」「Dropbox」「Stripe」「Door Dash」など、世界的な企業が名前を連ねている。

アルトマン氏は19年にYコンビネータを退職するが、それまでの投資活動の中で、AIに大きな価値を感じるようになり、「オープンAI」に専念するという決断に至ったとされる。私生活ではベジタリアンで、10代の頃からゲイであることを公にしている。18年には住宅・医療政策に焦点を当てた政治運動「The United Slete」を立ち上げたほか、20年の大統領選ではバイデン氏の支援団体に25万ドルを寄付している。

そして「オープンAI」は15年に、アルトマン氏やイーロン・マスク氏をはじめとする著名な実業家・投資家によって設立されたAI研究機関で、特許や研究成果を一般に公開することで、人類の発展に貢献することを目標に掲げている。また、長期的にはAGI(汎用人工知能)の開発を目指すとしており、米マイクロソフトが出資している。

■「チャットGPTを導入したい」閣僚が相次ぎ発言

岸田首相とアルトマン氏の面談を契機に、政府内では「チャットGPT」を行政分野で活用してはどうかとの議論が高まっている。国会答弁作成など事務作業が効率化され、国家公務員の業務負担の軽減が期待できるというのが理由だ。

松野博一官房長官は4月10日午前の会見で、「チャットGPT」の懸念点が解消された場合は「国家公務員の業務負担を軽減するための活用などの可能性を検討していく」と述べた。また、西村康稔経済産業相は4月11日の記者会見で「国家公務員の業務負担を軽減するための活用の可能性をぜひ追求したい」と語り、活用例として国会答弁の作成を挙げた。

河野太郎デジタル相も4月7日の記者会見で、「チャットGPT」に読み込んだデータの取り扱いや、事実と異なる文章が作成されるといった課題があるものの、懸念が解消されれば活用を考えていく意向を示した。いずれも「チャットGPT」の懸念が解消されることが前提となるが、導入に前向きであることに変わりはない。

では、実際に「チャットGPT」が導入された場合、霞が関の業務はどのくらい減るのだろうか。

■議員への説明、根回し、国会と議員事務所の往復…

官僚の仕事は多岐にわたるが、最大の仕事は法案の策定にほかならない。各省庁に蓄積された法律に関する膨大なデータベースと法案策定の経緯、プロセスなどを官僚は独占している。「ご説明」と称する政治家への根回しや国会答弁、質問主意書の作成も官僚の独壇場だ。「国会会期中は現場待機が多く、永田町の国会議員事務所を訪ね、事前に質問取りもしなければならない」(某中央官庁キャリア)。

国会の各委員会に所属する議員、とくに理事に対しては、国会に設置された各省庁の出先事務所からエリート官僚が議員事務所に日参してサポートを欠かさない。また、同じ部署が長く実務に精通したノンキャリは、行政の「生き字引」で膨大な経験則とデータが頭に蓄積されている。まさに日本最大の「シンクタンク」といわれるゆえんだ。

法案には議員立法もあるが、それとて「官僚のサポートなしには策定は不可能」(野党幹部)とされる。いずれも対面のコミュニケーションが欠かせないのはもちろん、与野党それぞれの思惑をくみ取りつつ、しっかりとした法案を策定するには針に糸を通すような緻密な作業が求められる。

国会議事堂
写真=iStock.com/Mari05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mari05

今の段階で「チャットGPT」を導入しても、法案策定には直接関わらない、例えば議員との打ち合わせなどの資料集めには役立つかもしれないが、永田町政治がモノを言う国家公務員の世界で、長時間労働の削減につながる可能性は低いと思われる。

■「公の機関が使うレベルに達していない」

対話型AIについては、こんな懸念もある。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は時事通信の取材に「国会答弁の文章を作る手間を省くなどメリットもあるが、作成の際に読み込んだ行政情報が外部に出てしまうリスクもある」と指摘している。

実際、「チャットGPT」をめぐっては、欧州を中心に逆風が強まっている。G7メンバーのイタリアは3月31日、チャットGPTへのアクセスを一時停止し、個人情報保護法に違反する可能性があるとして調査を開始した(28日、オープンAIは当局の要請に応えた結果、利用を再開すると発表)。ドイツやフランス、アイルランドも禁止を検討している。

こうした懸念する声は政界でも上がっている。日本維新の会の馬場伸幸代表は4月20日の記者会見で、「チャットGPT」に関し「官公庁で使うにはまだまだ検討する事項がある。慎重な判断を求めていきたい」と述べた。馬場氏は「発展途中でセキュリティーの部分での懸念がある。公の機関が使うレベルに達していない」と指摘し、「運営会社の責任等のルールを作った上で使っていかなければならない」と語った。

■「民主主義の自殺だ」平井鳥取県知事も

「チャットGPT」への危惧は地方自治体でも表面化している。鳥取県の平井伸治知事も同じ日の記者会見で、県職員が政策策定と予算編成、議会答弁資料作成の業務に「チャットGPT」を使用することを禁止すると発表した。

平井知事は「自治体の意思は地域の話し合いの中で決定されるべきものだ」とし、「県庁は現場の苦労を見て特性を把握するためにある。チャットGPTで地域に適した答えが出てくると思わない。意思決定に関わる部分に使用するのは民主主義の自殺だ」と強調した。鳥取県では2月以降、職員が業務で使用するパソコンに制限をかけているという。

こうした世界的に高まるネガティブコールに対して「チャットGPT」開発元である「オープンAI」は、安全対策を公表するなど懸念の解消に躍起となっている。岸田首相と面会した際、アルトマン氏は、「技術的な長所に加え、短所をどう改善していくかについて説明した」と語り、「懸念されるリスクについても考え、人々にとって良いものであることを確認していく」と記者団に語った。

■ゆくゆくは「官僚減らし」につながる?

その後、自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」に出席したアルトマン氏は、「日本がAIの利活用を通じて世界で大きな存在感とリーダーシップを発揮してほしい」として、①日本関連の学習データのウエートの引き上げ、②政府の公開データなどの分析提供など、7つの提案を行っている。

規制に乗り出す欧州を尻目に、日本はどういう姿勢で臨むのか。中央省庁の官僚は「この業務効率化が結局、長期的には官僚の人減らしにつながるのではないか」と危機感を強める。今はAIにできることは限られても、これまで官僚が独占してきた膨大なデータベースと法案策定作業の一部が「チャットGPT」などに置き換わる可能性は捨てきれない。AI技術の進歩とともにその領域は広がる可能性がある。

はたして「チャットGPT」に官僚の仕事が奪われる日は来るのか、それとも杞憂(きゆう)に終わるのか、官僚は身構えている。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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