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「馴染みのラーメンばかり食べる」和田秀樹が警鐘を鳴らす40代から始まる前頭葉委縮の初期兆候【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月8日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/haydenbird

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年10月7日)
脳の老化は40代から始まっている。頭蓋骨と脳の前頭葉にあたる部分に隙間ができる。医師の和田秀樹さんは「高齢化して前頭葉の委縮による脳機能の低下がすすむと、感情のコントロールができず暴動老人化したり、意欲低下や前例踏襲思考が目立ったりすることがある。行きつけの店にしか行かなくなる、同じ著者の本しか読まない、といった行動は前頭葉機能の低下の初期徴候の可能性が高い」という――。

■村田兆治氏は老化に伴う前頭葉の機能低下の可能性

新しく勤務することになった大学の公務でオーストラリアに行っていたのだが、現地で日本のネットニュースを読んで驚いた。

9月23日に「マサカリ投法」で知られる名球会投手の村田兆治氏(72歳)が逮捕されたというのだ。事件の概要を読むと、羽田空港で金属探知機に何度もひっかかったことをきっかけに職員と押し問答となり、相手の肩を押したという話だった。

大した事件でないようにも思えるが、かなり激しい暴行レベル(男が暴れているという通報で警察がきたとのことだ)のことだったから現行犯逮捕になったようにも思える。

北海道で開催される子供たちのための野球イベントに向かうために羽田にきたということだからお酒を飲んでいたわけでもないだろう。

診察したわけではないから断言はできないが、高齢者を数多く診てきた経験でいくと、今回の村田氏の行動は老化に伴う前頭葉の機能低下による可能性がある。高齢化することで感情のブレーキがかからなくなる人は珍しくない。

いわゆる「暴走老人」と言われるパターンだ。

ファミリーレストランで頼んだものがなかなか出てこないと激怒する。市役所の職員の対応が気に入らないと怒鳴りつけ、それが止まらない。駅の係員の対応が悪いと、傘で殴る。

このようなニュースをしばしば目にする。私はこれを前頭葉機能の低下が原因である可能性があると考えている。

この機能が低下すると意欲が低下したり、創造性が低下したり、新しいことへの対処が悪くなるとされているが、もう一つの重要な問題は感情のコントロール、とくに怒り感情のブレーキがかかりにくくなることだ。

■脳の老化は記憶障害よりずっと前に前頭葉で起こる

怒りなどの原始的感情は、大脳辺縁系と呼ばれる脳の中でも進化上古い時代からあったとされる部分で生起されるのだが、それにブレーキをかけるとされるのが新皮質、とくに前頭葉である。

「ここで怒ったら、社会的地位を失う」
「手を出したら、警察沙汰になる」
「今の時代は、いつどこでスマホ撮影されたり、録音されたりするかもしれない」

このような思考や記憶を通じて、怒り感情を言動に変えることにブレーキをかけるのだ。

ところが、その前頭葉のブレーキ機能が高齢になると衰えてくる。ふだんは温厚で柔和な性格だと思われている人が、何かに怒りを覚えるとそれが止められず、つい手が出てしまったり、声を荒げたりしてしまう。場合によっては、本当に警察沙汰になってしまうのだ。

脳の老化というと記憶障害などを問題にする人が多い。9月28日、米ジョー・バイデン大統領(79歳)があるイベント会場で演説中、今年8月に亡くなった下院議員を探す姿を見せた。その代議士が他界した際にそれを悼む声明を発表しているので、「物忘れが進んでいる」という臆測を呼んだ。

退任後5年目でアルツハイマー病を公表したロナルド・レーガン大統領は、二男の回顧録によると第一期目の終わりには、すでに異変を感じていたという。

現役の国のトップや会社のトップが実はアルツハイマー病を発症していたということは珍しくないと私は考えている。というのは、初期レベルでは、記憶障害はあっても、知能はそれほど衰えないからだ。ただ、アルツハイマーという病気は50代までは1000人に一人くらいしかいない。

脳の老化は、こうした記憶障害よりはるかに前に前頭葉で起こっている。実際、CTやMRIのような頭の写真をみても40代から頭蓋骨と脳の前頭葉にあたる部分に隙間が見えるようになる、つまり委縮が目で見えるようになるのだ。

MRI スキャンヒトヘッド断層撮影
写真=iStock.com/kool99
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kool99

前頭葉機能が衰えてくると、意欲低下や前例踏襲思考が目立つようになる。前頭葉というのは、予想していなかったことに対応する機能も担っているので、前頭葉が衰えてくると、想定外のことを避ける傾向が出てくる。

例えば、ハズレをおそれて行きつけの店にしか行かなくなるとか、同じ著者の本しか読まなくなるとかいうのは前頭葉機能の低下の初期徴候の可能性が高い。

そして前頭葉の機能が衰えてくると、意欲が低下して、たとえば外出しなくてもいいやとか、出世しなくてもいいやということになり、さらに老化が進んでしまう。

というのも、歳を重ねるほど「使わなかった」際の機能低下が激しくなるからだ。例えば、コロナ禍などでの自粛生活。50代くらいまでであればステイホームを強いられる期間が2年以上になっても、歩けなくなったり、頭がボケたようになったりすることはない。しかし、70代以降になると本当に歩けなくなってしまう。だから、歩き続ける、頭を使い続ける意欲は極めて重要なのだ。

記憶の低下より、意欲の低下のほうが先に起こる、それが老化を促進してしまうということを知っておいてほしい。

■日本は前頭葉が欧米先進国より劣ってしまう社会構造

私が見るところ、日本という国は、そうでなくても、前頭葉の機能が欧米先進国より劣ってしまう社会構造になっている。海外の高等教育では、これまで初等中等教育で学んできたことを疑ったり、教授の言うことを素直に聞かずに議論したりするようなことを行うが、日本では、教授の言ったことをノートに記し、その通りにテストで書くような学生が優やAをとる。そしてその数が就職に直結する。

和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)
和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)

このように習った通りのことを再現するようなことが高等教育まで続くと、前頭葉は鍛えづらい。社会に出ても、上司の与えた仕事を素直にこなし、言われたとおりのことをやる人間や、前例踏襲がうまくできる人間が出世する。これも前頭葉機能が成長しないパターンだ。

こうした状況を見た上での私の考えはこうだ。日本人の多くの前頭葉機能は、欧米の高等教育を受け欧米流の職場で働いてきた人たちより劣るだけでなく、40代以降は、脳の前頭葉の部分が委縮しやすいのではないか――。

日本人は、平均年齢も中位年齢も49歳近くになっている。すると人口の6割くらいが40代以降に前頭葉の委縮が目立ち始めるということになる。

こういう人たちの多くは、無自覚に前例踏襲思考に走る。

前例踏襲とは、例えば「自民党の政策は不愉快だが、ほかの政党に任せると余計悪くなりかねないから」と消去法的に自民党に投票するとか、これだけ高齢者が多いのに日本発の新産業が生まれないとか、あるいは30年もまったく経済成長がないのに、バカの一つ覚えのように金融緩和と財政出動しか行わない……。私には、これらすべて日本人全体の前頭葉機能の老化のなせるわざだと思えてしかたない。

前頭葉機能を維持できれば、高齢になってもクリエイティブで、意欲的で、新たな環境に適応しやすい。逆に前頭葉機能が衰えた人は、高学歴であったり、知的機能が高かった人でも、昔からの考え方が変えられなかったり、意欲が衰えたり、あるいは感情のコントロールが悪いために事件を起こしたりという形で、「バカ」になっていく。

だから、超高齢社会や長寿社会を乗り切るために、自分で前頭葉を鍛えていくしかないと私は考えている。私の仮説ではあるが、前頭葉を鍛える方法はなくはない。重要なのは意識して前頭葉を使うことだ。

■「行きつけではない店に週2~3回」で前頭葉活性化

前頭葉というのは、ルーティンでないことに反応する。

行きつけの店をやめて、行ったことのない店に行くことを週に2~3回はチャレンジする。帰り道を変えるだけでも、いろいろな風景が見えてくるだろう。料理するのであれば、使ったことのない食材にチャレンジしてみる。読んだことのない著者の本を読むのもいいだろう(ただ、難しい本を読んでも、思いのほか前頭葉は使われず側頭葉だけが活性化、また数独・ナンプレをやっても頭頂葉しか活性化しない、といった報告もある)。

とにかくルーティンを避けるのだ。

結果が読めないものも前頭葉を刺激する。だから投資や恋愛やギャンブルなどもいいのだが、身の破滅につながらない程度にしたい。そして、もう一つは「失敗を恐れず、何事も実験なのだ」という心持ちを忘れないことだ。

初めて入った店のラーメンがまずくても「実験が失敗だった。次の実験を組もう」と思うことだ。そうすれば人の知らない知識が持てるし、定年後も生活に飽きることがなくなる。

ラーメンの湯気
写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong

ほかの人が前頭葉を使っていないのだから、自分が使うことで、かなり高齢になっても賢い人でいられる。そう思って、あれこれと「実験」を重ねてほしい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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