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「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月9日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Portra

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年11月7日)
トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」は、工場で常態化していた「7つのムダ」をなくすことから生まれた。その考え方は生産現場だけでなく、会議や資料作りが多い事務職の現場でも徹底されている。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第1回は「事務職にひそむ7つのムダ」――。

■「トヨタの会議は30分で終わる」は本当か

ある幹部に「トヨタの会議は30分なのですか?」と聞いたら、次の答えが返ってきました。

「30分とはわれわれはまったく意識してなくて、15分で終わるものもあれば2時間かけるものもあります。

【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら
【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら

大切なのは『この会議は何のための会議か』を明確にすること、会議の準備を綿密にすることです。参加者全員にテーマを徹底してから会議を設定します。例えば、情報開示、情報シェアのための会議なら長時間は要りません。ビジネスの今後を決定する重要な会議であれば、1時間みっちりやることもあります。

トヨタの会議では、こんな成果が上がったと長々と話す人は見たことありません。逆に、こんなに困っていると話をすると、活性化しますね」

■「ペットボトルの水を出すか」まで考える

トヨタでは会議の準備は確かに入念です。参加者は何人なのか。どこの会議室でやるのか。席順はどうするのか。出席予定者にテーマはどうやって伝えるのか。伝える場合はメールでいいのか。ペットボトルの水を出すのか、出さないのか。

定例会議であれば参加者は決まっています。ゲストがあればその人には事務局が連絡します。定例であれば会議室も1年先までは予約しておきます。席順は決まっていません。部屋にやってきた順番です。会議のテーマは、出席者はあらかじめ、クラウドにアップロードされたものを読んでおくことになっています。読んでいなければ居心地が悪いだけです。

「会議のテーマは? オレは聞いてないぞ。オレは知らないぞ」という人はいないのです。ペットボトルの水は出しません。ただし、時間が長くかかるような会議だと出す場合もあります。「自分で持ってきてください」と伝えておくこともあります。

■30分に短縮するのではなく、カイゼンするから短くなる

特徴的なのは、トヨタでは会議の準備から内容、用意された資料まで、すべてにカイゼンの目が入ることでしょう。

トヨタ生産方式を指導、伝道する部署として生産調査部があります。全体の人数は約100人。教育研修の部署とはまた別にカイゼンを教えるセクションがあるのもおそらくトヨタだけでしょう。

生産調査部は工場などの生産現場をカイゼン指導するのですが、事技系、つまり事務技術系の部署のカイゼンも数年前から始まっています。

例えば、自動車開発の部署には「デザインレビュー」という会議があります。数時間の会議で使われる資料は200ページで、時間も6時間はかかるものでした。

デザインレビューの目的は成果の伝達と困りごとの共有でした。つまり、いいデザインについては説明を聞くだけで、困っているところについて出席者から知見を聞く会議だったのです。

生産調査部の担当が会議の事務局に訊(たず)ねました。

「200ページ以上の資料のうち、困りごとは何ページですか?」
「はい、27ページ分です」
「わかりました。では、今後、デザインレビューは27ページ分だけを議題とする会議にカイゼンしましょう」

そうして、会議の時間は30分になりました。デザインの成果はそれぞれが資料を読んで理解すればいい。会議では話し合うことだけをやろう。トヨタの会議は短いのではなく、カイゼンしていくうちに短くなっていくのです。

「今日の会議は30分で終えるぞ」とあてにならない断定をしてから会議を始める人はトヨタにはいません。

■ムダを排除するには「会議の構造」を知る

ここで会議というものの構造を考えてみます。

一般に対策会議、企画会議など、会議とは内容によって参加する人数、想定される時間は変わってくるものではないでしょうか。

ですが、いずれにせよ大半の会議は3つの目的のために行います。

1 情報の共有
2 意見を述べる。他人の意見を聞く。
3 合意の形成

例えば3カ月後に発売が決まった新商品の販促会議だとしましょう。1番目の「情報の共有」では新商品のスペック、発売時期などを担当者が参加者に話します。そして、情報とは、報告者の主観を排した客観的な内容のものです。情報は客観的なものですが、立場によって、情報の受け取り方は異なります。

「色は赤です」と聞いた人が「若者向けのデザインだな」と思うかもしれません。一方で「赤では売りにくいな」と感じる営業担当がいるかもしれません。

情報の共有段階で大切なことは「首都圏で多く売れるデザインです」といった主観を付け加えないこと。受け手の考えが変わってしまうからです。報告者は淡々と情報を的確に詳細に語らないといけません。

■意見を述べ、他人の意見を聞いて、とりまとめるが…

2番目では、新商品の内容を聞いた参加者がどういったターゲットに向けて販促するかといったアイデアを出し合います。

ひとりが「若者向けにSNSを主に使おう」と言い、他の参加者が「いや、若者向けではあるけれど趣味性が強い商品だからイベントと口コミだ」と反論することだってあるでしょう。

受け手が営業担当なのか、また宣伝のエキスパートなのかによって意見は変わってきます。活性化した会議というのは、意見がたくさん飛び交うそれのことではないでしょうか。

3番目は「合意の形成」です。意見が出尽くした頃を見計らって、議長役が意見をまとめ、合意する。時には合意に至らず、もう一度、会議を開くことも必要かもしれません。また、多数決で合意を形成することもあります。

さて、こうして整理してみると、会議のどの部分にムダがひそんでいるかがわかってきます。

■いちばんムダがあるのは3つのうちどれ?

もっともムダがありそうなのは「情報の共有」パートです。実は、この部分は会議を開く前にメールで共有しておけば、最初から意見の表明に進むことができます。ただし、すべてをゼロにしなくともいいでしょう。この部分は短くなります。

2番目の「意見の表明」は、できるだけ参加者全員がしゃべるといいと思います。そして、この部分からムダを排除するとすれば次のようなことが考えられます。

ひとつは長々と同じことをしゃべる癖がある人には自覚してもらう。また、意見を述べたことがないにもかかわらず、「参加したい」と言ってきた人に、「出席しなくていいですよ」と伝えること。

ただ、どちらの場合も相手が上位職にいる人だとなかなか言いにくいかもしれません。ですが、会議を短くする、活性化させるためにはこうしたヒューマンファクターをチェックして、たとえ言いにくいことであっても伝えることが必要です。

■「駆け足で」「端的に話せ」はNG

一方で、意見を述べ合う場では、違う視点から見た「変わった意見」を言う人がいます。その人は重要です。そういう意見はみんなでちゃんと考えてみる価値があります。

ただし、「変わった意見」とは違う視点から見たそれのことで、突拍子もない意見の開陳であってはならないと思います。

「ああ、こういう考え方もあるのだな」という意味で必要なのです。ただし、変わった意見は「合意の形成」の段階ではなかなか採用されることはないケースが多いともいえます。

また、会議のムダは中身よりも準備や進行のところにひそんでいると思ってください。肝心の中身である「意見の表明」に対して、参加者に「駆け足で」「端的に話せ」と指摘するのは間違いです。それは時間の節約にはなりません。ゆっくりしゃべってもらったほうが相手には伝わるのですから。

オフィスでミーティング中、立って発言する男性
写真=iStock.com/mokuden-photos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mokuden-photos

会議の時間を短縮するコツは事前の準備、そして、会議の進行をチェックすることなのです。

■トヨタが許さないふたつの「7つのムダ」

会議だけでなく、トヨタにはムダを排除するための指針がふたつあります。

それが「7つのムダ」です。

「同じタイトルの指針がふたつもあるのはムダじゃないか。どちらかのタイトルを変えるべきだ」と茶化す声が聞こえてきそうです。

しかし、「7つのムダ」は生産部門と事務技術系のふたつなのです。元々あったのは生産部門のものでした。

1. 作りすぎのムダ
2. 手待ちのムダ
3. 運搬のムダ
4. 加工そのもののムダ
5. 在庫のムダ
6. 動作のムダ
7. 不良を作るムダ

言葉通り、トヨタの生産現場ではこうしたムダを排除することを長年、やってきています。

もうひとつの7つのムダは、事務技術系の職場にあるムダを注意喚起したものです。一つひとつを考えながら、会議をやろう、資料を作ろうというのが主旨です。

トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)に掲げられている「事技系職場の7つのムダ」
撮影=プレジデントオンライン編集部
トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)に掲げられている「事技系職場の7つのムダ」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■ムダな根回し、ムダな資料、ムダに高い上司のプライド…

1 会議のムダ
「決まらない会議」、「決めない人も出る会議」を開催していませんか?

2 根回しのムダ
自分の安心のために、“全員”に事前回りをしていませんか?

3 資料のムダ
報告のためだけに資料を作っていませんか? A4/A3一枚以上の資料を準備していませんか?

4 調整のムダ
実務で調整していても進まない案件を、「頑張って」調整しようとしていませんか?
そういった案件は、すぐに上位に相談しましょう。

5 上司のプライドのムダ
自分に報告がなかったという理由だけで、「私は聞いていない」と言っていませんか?
上司がこう言うと、②根回し③資料のムダが発生します。情報は上司自ら取りに行きましょう。

6 マンネリのムダ
「今までやっているから」という理由だけで、続けている業務はありませんか?

7 「ごっこ」のムダ
事前に練ったシナリオどおりの“シャンシャン”会議をしていませんか? 決めようとせず、その周辺ばかりをつつくことで議論した気になっていませんか?

どれも痛烈な言葉です。そして、本質だけをつかみとった言葉です。

大企業でこれほど痛烈な言葉を標語にできるのはトヨタだからでしょう。官僚的な企業であれば毒にも薬にもならないおとなしい言葉を選ぶでしょう。しかし、それでは注意喚起にはなりませんし、誰の心にも響かないのです。

■トヨタ生産方式は事務職の現場にも使える

筆頭が会議のムダです。逆に言えば、トヨタであっても、まだまだムダな会議は多く、さらに会議のなかにムダがたくさんあるんですね。

幹部はこう言います。

「事技系職場のおける7つのムダについてはわれわれも気をつけています。調べてみれば事務の仕事もいくつかの工程に分かれています。工程にたまっている書類や情報もできる限りリードタイムを短くしていこうという目的で始めたのが事技系のカイゼン。トヨタ生産方式を利用したものです。

まさしくジャスト・イン・タイムなんです。かつ、工程ごとにきちんと後工程に送っていい品質基準を決めて作り込んでいく。そうして、手戻りをなくそうというのはまさに自働化で不良品の追放です。

われわれはそういうことを、事務部門にも他の部門にもきちんと入れていこうとして始めました」

オフィスに積み上げられた文書
写真=iStock.com/nirat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nirat

■「俺は聞いていない」と怒る上司もいなくなった

「例えば、僕のところに根回しのために一度見た資料が何度も来たりします。でも何度出してきてもダメなものはダメ。ムダです。また、会議で自分の上司の顔に泥を塗らないために、何を聞かれても困らないように分厚い想定問答とかを作ることもあったのですが、そんなものはほとんど使わない。

今までこうやってきたから、資料を作りましたというのも『マンネリ』のムダです。やっているフリをする、あるいはやっているつもりになる『ごっこ』のムダとか、そういうのは全部なくさないと。資料を書いたことで仕事を終えた気になる人がいますけれど、それもまさに『ごっこ』のムダ。

トヨタの役員会では資料はなしにして、全員が自分の頭のなかにあることだけで話します。しかし、そもそも会議とはそういうものではないでしょうか」

トヨタにもかつては担当者が一生懸命がんばっているにもかかわらず、俺は聞いてないからそんなことは認めないぞっていう上司が大勢、いたそうです。

しかし、不思議なもので、7つのムダを社内に貼り出して、徹底させたら、そんなことは言えなくなるわけです。

この7つのムダはどこの会社でも採用するといいのではないでしょうか。

■時間を縮めるのはあくまで「動作」の結果

トヨタには「時間は動作の影である」という言葉があります。

会議の時間を短くすることだけに頭を使うのは本末転倒です。時間を短くすることよりも、中身をカイゼンして、結果として時間が短縮されることが重要なのです。

つまり、会議でも、書類作成でも、時間を縮めるのはあくまで動作の結果だということ。

作業の時間を構成している動きや仕事の中身をカイゼンすれば時間は自然と短縮されていくのです。時間短縮だけを目的にしてカイゼンを始めると、人は無理な仕事をしなければならない。それはやめようよというのがトヨタの考え方です。

例えば会議の時間を短くしようとします。時間よりもまず「何を話すか」「どんな会議なのか」を明確にして、そこからカイゼンを考えていく。そして、前述したように会議の準備や段取りをくふうする。

会議でも事務の仕事でも時間の節約になるのが「外段取り」を取り入れることです。外段取りとは工場での用語なのですが、事技系の職場でも応用できます。

■「やる」のと「徹底する」のではぜんぜん違う

外段取りとは製造ラインのなかだけの段取りをカイゼンするのではなく、ラインの外側での準備を整えることを言います。

例えば、プレス工程、鍛造(たんぞう)工程で型を交換する際、F1レースのタイヤ交換のように、交換部品を用意しておいて素早く取り換える。そうした外段取りをしておけば作業全体の時間は短くなります。

トヨタでは会議や打ち合わせでも外段取りを駆使しています。参加者全員に事前に資料を送って、ちゃんと読んでおいてもらう、意見があるなら用意しておいてもらう。

「そんなことどこの会社でもやっているじゃないか」

そういう反論が聞こえてきそうですが、トヨタはただ「やる」のではありません。「徹底する」のです。参加者全員が必ず事前に資料をちゃんと読んでいるのです。頭で「わかった」と言うことと、実際に「徹底する」ことでは雲泥の差があります。決めたら徹底するのがトヨタです。

時間は動作の影です。時間短縮の号令をかけるよりも、外段取りをいかに取り入れるかを考えるのです。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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