「低金利のいまこそ住宅ローン」は危険すぎる…不動産会社が説明しない「35年住宅ローン」の本当のリスク
プレジデントオンライン / 2023年5月15日 15時15分
※本稿は、髙橋洋一『円安好況を止めるな! 金利と為替の正しい考え方』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■「駆け込みローン」を煽る不動産会社
「低金利時代もあとわずか! 金利が急上昇する前に住宅ローンを組みましょう」
読者のなかには、念願のマイホームを建てたいという人もいるだろうが、その際にこうした不動産会社のセールストークを鵜呑みにして契約すると、大変なことになる。
そうならないためにも、ここでは住宅ローン金利について正しい知識を身につけよう。
住宅ローンには固定金利と変動金利の2種類があり、債務者はどちらの金利プランで返済するかを選ぶことができる。一般的に固定金利はそのときどきの長期金利になるが、変動金利は短期金利に連動するといわれている。
金利の動向は株式と同じで、将来の読みでだいたいが決まる。ただし、自分の読みが世の大勢と似ているかどうかは微妙なところだから、そのあたりを加味して考えたほうがいい。世間の標準的な読みを見抜くのがポイントになる。
■変動金利と固定金利、どちらがお得か
とはいえ、もし筆者が「これから35年ローンで住宅を買う際、変動金利と固定金利どちらがいい?」と質問を受けたとしても、確実にどちらが有利という話はできない。
現在の経済状況が続くと仮定したら、「どちらがより利払いが少なくなるか」ということくらいは言えるが、前提が崩れたらその話も崩れるからだ。
変動金利のデメリットとしては、将来景気がよくなったときに金利が上がることだ。そのときに自分の収入がそれに応じて上がれば、変動金利でも大丈夫だろう。
ただ、景気に応じて自分の収入が上がるかどうかはわからない。なぜなら世間は景気がいいが、自分の会社は業績が悪いということだってあるからだ。
■固定金利は2~3倍高くなる可能性がある
一方で、固定金利は一度その利率でローンを組むと約束したら、その後はずっと変わらない。そのため、一番低い固定金利の時期を見極めることができればお得だ。
その点でいえば、1年ほど前なら日本の固定金利は歴史的な低水準だった。そのときにローンを組んでいた人は、いいタイミングだったかもしれない。
しかし、22年12月の日銀による事実上の利上げによって、住宅ローンの固定金利は瞬く間に上がってしまった。
変動金利も早晩上がると予想される。23年中には変動金利の支払利息の金額が、いままでより2~3倍は高くなるかもしれない。
そうなってしまっては、固定金利と変動金利はどちらが得なのかよくわからない。
いまの時期はとくに不動産会社の甘い言葉に注意しよう。
■無理する持ち家より賃貸のほうが断然いい
住宅ローンのセールスにだまされないための基本を学んだところで、次に「そもそも家を買う必要が本当にあるのか」と自問することも大切だ。
一般的に日本人は持ち家志向が強いといわれている。もし筆者が「自分が住む家は持ち家と賃貸、どちらが賢い選択か」と質問されれば、「何も資産がない人は賃貸のほうがいい」と答えるだろう。
持ち家にはリスクがあることを考慮していない人が多い。筆者のように東京生まれで、昔から土地を持っているような人なら、都内に家があるのはわかるが、資産が何もないのになぜわざわざ持とうとするのか。
![購入か、賃貸かの分かれ目に立つ人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/3/1200wm/img_b3b5ce8dec63f526007c236c652f834a506831.jpg)
家を持つためにはお金が必要だ。もしお金を使わずにただ持っているだけでも、多少はお金の価値が下がるかもしれないが、そうはいってもたかが知れている。
しかし、土地の価値は下がるときは本当に下がる。仮に1000万円で土地を買ったとして、将来にわたってその額である確率はほとんどない。
値上がりする可能性もあるというのは、いままでがそうだっただけで、これからは値下がりする土地もたくさん出てくるだろう。
土地の価値が上がると思っている人は、根拠のない土地神話を信奉しているにすぎない。高度経済成長とともに地価が上がっていったから、今後もそれが続くと思い込んでしまったのだろう。
■土地の価格が下がると最悪な事態が起きる
土地を活用する企業がたくさん出てくれば、その分だけ土地の価格は上がる。経済活動が上向けば価格も上がる傾向にあるが、これからはそう簡単にはいかない。いまローンを抱えている人は最悪だ。
土地の価格が高かったときに買っているはずだから、たくさんの借り入れがある。そこで価格が下がったら大変だ。だいたいは自分の給料だけでローンを払いきれなくなり、最後は土地を安く売るというパターンに陥る。
こういうときは金融機関の取り立てが結構厳しいから、土地を手放さざるを得なくなるケースが多い。
仮に1億円の土地で1億円の融資を受けたとすると、土地が5000万円になった途端にお金を返せなくなる。
家を買う人はそういうリスクがあることを覚えておこう。
ただ住むだけなら借りているほうがラクだ。賃貸はローンよりも月々の支払額が多いという人もいるだろうが、家賃は土地の価格である程度は決まる。
もし大家が家賃をあこぎに取っている場合は、たしかに土地を買ったほうが少しは得かもしれない。だが、これだけ賃貸物件が多ければ価格競争も激しいし、大家ごとの取り分の差異などもたかが知れている。
そう考えると、持ち家はリスクが大きくなる。だから家は持たないというのが基本だ。
■「いまのうちに持ち家売却」が賢いかもしれない
地方からくる人に限って持ち家のほうがいいというが、わけがわからない。都心に土地を持っていなくても地元にすでにあるなら、なぜ、わざわざ2カ所も持つのかと疑問に思ってしまう。日本人なら土地は1カ所で十分だ。
![髙橋洋一『円安好況を止めるな! 金利と為替の正しい考え方』(扶桑社新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/2/1200wm/img_028a485f27baa20b38b0f9e688041a89275098.jpg)
いまのうちに持ち家を売却してローンを返済し、賃貸に住み替えるという手もある。ローンの借り換えを考えるくらいなら、家を売却して賃貸に住んだほうがラクになるだろう。不動産価格の変動リスクを抱えなくて済むからだ。
お金がありあまって使うことがないならいいが、生活がかつかつでローンを組まないといけないような人なら、そんな大きな買い物をしなくていい。
これがたとえば車のローンなら、数年で返済が終わるから大きな問題にはならない。しかし、住宅ローンは35年などと期間が長いから、それだけリスクも大きくなる。ただでさえ、いまは金利が上がっている時期だ。よくよく考えて決断したほうがいい。
不動産会社や金融機関などからの儲け話には、裏があると肝に銘じておくようにしよう。
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嘉悦大学教授
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員を経て、2006年から、内閣府参事官、内閣参事官等を歴任。小泉内閣・安倍内閣で経済政策の中心を担い、2008年で退官。金融庁顧問、株式会社政策工房代表取締役会長、2010年から嘉悦大学経営経済学部教授。主な著書に、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)などがある。
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(嘉悦大学教授 髙橋 洋一)
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