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「ロボットの謝罪」は1台より複数のほうが効果的…同志社大准教授が調べた「ヒトと機械」の面白い関係性

プレジデントオンライン / 2023年5月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VTT Studio

人間は働くロボットとどのように付き合っていくのか。同志社大学ソーシャルロボティクス研究室の飯尾尊優准教授は「ロボットの行動と人間心理の関係を調べたところ、ロボットからの謝罪は1体より複数のほうが効果的であることがわかった。人間はロボットに対しても『コスト』を見ているようだ」という――。

■ロボットの行動で人の心理や行動は変わる?

高齢化社会や労働力不足などの社会的課題が増える中で、ソーシャルロボットが介護や医療、教育、接客などの分野で人間のサポートを行うことが期待されています。ソーシャルロボットとは、人間との社会的なやりとりをすることを目的としたロボットのことです。近年のChatGPTに代表される人工知能技術やハードウェア性能の向上により、人間とロボットのコミュニケーションはより現実的で実用的になり、その影響を研究する意義が増しています。

ソーシャルロボットの研究の主な目的は、ロボットを社会的に受け入れられるものにすることですが、そのためにはロボットそのものの性能を上げるだけではなく、そのロボットと関わる私たち「人間」の心理や行動を理解する必要があります。例えば、教育の場面では、ロボットの発言が正しく論理的だったとしても、指導される側の人間のやる気や成果を引き出せなければ、そのロボットを利用したいとは思わないですよね。

筆者は、ロボットがどのように振る舞えば、人間の心理や行動を望ましい方向に変容させられるのか、ということを研究しています。こうしたロボットと人間の相互作用の理解は、人工知能技術の発展だけではなく、人文・社会科学の知見に基づいた地道な実験を通じて達成されていきます。

この記事では、筆者が国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の塩見昌裕室長と共同で実施したロボットと人間の相互作用に関する研究の中で、次の3つの面白い成果を紹介します。

■1.謝罪するロボットの台数が多いと人は受け入れやすい

読者の皆さんは仕事で失敗したことはありますか? 「ない」という人はほとんどいないと思います。ロボットもまた失敗をせずに完璧に動き続けることは困難です。ロボットとはいえ、社会的なやりとりをする存在という意味では、失敗をしてお客さまに損害を与えた場合は速やかに謝罪を行うことが重要です。

ロボットによる謝罪に関する研究はこれまでにも行われていましたが、それらは主に対話内容の違いがもたらす謝罪の効果に着目していました。

私たちはロボットの謝罪をより受け入れてもらうための方法として、複数のロボットを活用できるのではないかと考えました。これまでの私たちの研究で、対話に参加するロボットの数が増えると、ロボットとの対話の印象が良くなるということが分かっていたためです。

また、経済やビジネスの分野では、謝罪の「コスト」がその謝罪を受け入れるための重要な要因の一つであると言われており、コストのかかる謝罪はコストのかからない謝罪よりも誠実であると思われる傾向があるとされています。複数のロボットで謝罪をすることは、この「コスト」をかけることに相当します。将来のお店では複数のロボットが働いていることが想定できるので、別のロボットが少し作業を止めて謝罪に参加することはそれほど不自然なことではありません。

■商品を落としたロボットにもう1体が加わると…

私たちは、ロボットが店員として働いている際に、注文された商品を落としてしまうというミスをした状況で、失敗したロボットが1体のみで謝る様子と、別のロボットが現れて一緒に2体で謝る様子を動画で作成し、インターネット上でアンケートを集める実験を実施しました。

その結果、ミスをしたロボットが謝る際に、2体で謝るほうが1体で謝るよりも謝罪が受け入れられやすいことが明らかになりました。さらに、ロボットへの信頼感も向上し、商品を提供する店に対する不満も減少しました。以上のことから、複数のロボットが謝罪に参加することで、謝罪がより受け入れられることが確認されました。

ロボットの台数が謝罪の受け入れ度合いに影響するのであれば、人間の店員が失敗した場合にロボット店員が一緒になって謝罪したり、ロボット店員が失敗した際に人間の店員が一緒になって謝罪したりするといった行動をとることで、より謝罪を受け入れてもらえる可能性があります。将来のお店ではそのような連携をする人間の店員とロボット店員の姿が見られるようになるかもしれません。

■2.ロボットやCGから褒められても運動技能は伸びる

「私は褒められると伸びるタイプ!」とよく言われますが、人間は他人から褒められると、脳内で金銭的報酬を得た時と同様の活動が起こり、運動技能習得も促進されることが知られています。

この知見に着想を得て、私たちは、人工的なエージェント(ソーシャルロボットやCGキャラクター)から褒められても人間の運動技能習得が促進されるかを確認するために実験を行いました。エージェントからの褒めでも、運動技能がより効率的に習得できるようになるとすれば、その知見は、教育やリハビリテーションの効果を向上させるエージェントの設計に役立つためです。

実験では、過去に行われた研究と同じように、参加者にパソコンのキーを画面の指示に従ってできるだけ素早くタイプするという課題を与えました。

ここで、参加者は6つのグループに分けられていました。まず、1体のロボットが練習の残り時間などを発話するグループ、次に1体のロボットが「頑張っていて偉いね」や「正確にタイピングできるようになってきたね」といった褒める発話をするグループ、2体のロボットが同じように褒める発話をするグループ(褒めの総量は1体の場合と同じに調整しています)、そして残りの3グループはロボットをCGキャラクターに変更したものでした。

■質や量よりも、多くの他者に認められたい

2体で褒めるグループを用意した理由は、人とエージェントに関するこれまでの研究で、コミュニケーションに参加するエージェントの数が増えると、エージェントとの会話の印象が良くなるということが分かっていたため、褒めの文脈でもそのような効果があるかを検証したかったためです。私たちは、参加者に練習した次の日に再度同じ課題を行ってもらい、どれだけ早く正確にキーを叩けたかを測定しました。

実験の結果、ロボットかCGキャラクターにかかわらずエージェントから褒められた場合、次の日のタイピング成績が有意に向上しました。また、エージェントが2体の場合、パフォーマンスが1体の場合よりも有意に向上しました。このことから、エージェントからの褒めが運動技能習得に効果があることが明らかになりました。

褒めの効果が1体よりも2体のエージェントで強かった点は、質や量よりも多くの他者に認められることが重要である可能性を示唆しており、人間の社会性の強さを物語っているようで大変興味深いです。将来的には、教育や職場などで活動するロボットが、ちょっとしたことを褒めてくれるようになり、それによって私たちのパフォーマンスが向上するようになるかもしれません。

ロボットのペッパー
写真=iStock.com/VTT Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VTT Studio

■3.ロボットに褒められた人は他人をより褒めるようになる

ところで、人間の謝罪や褒めるといった社会的な態度は他者に伝播することが知られています。周囲の人間が良い態度であれば、自分もそうしやすいということは経験的にも理解しやすいでしょう。それでは、ロボットの社会的な態度もまた人間に伝播するということはあるのでしょうか。この疑問に答えるために、ロボットの態度が人に伝わり、ロボットに褒められた人はより他者を褒めるようになる、という仮説を立て、実験を行いました。

実験では、参加者にPCで単純な課題を与えます。ここで、参加者は、①ロボットが褒める場合、②中立的な情報のみを伝える場合、③煽る場合のいずれかを体験しました。さらに、同じ参加者に他の参加者の課題を評価するという追加課題を与えました。

実際には他の参加者は存在せず、課題の実行状況はあらかじめ本人の課題を記録し再生したものでした。すると参加者は、自分と同じパフォーマンスでタスクを実行する仮想参加者に対して、自分がロボットから受けたように褒めたり、煽ったりしていたのです。

実験の結果、ロボットから褒められていた参加者たちは他の参加者をより褒め、ロボットから煽られていた人たちは、他の参加者を褒めなくなることがわかりました。この結果は、ロボットという人工物の社会的な態度、褒めた相手の社会的な態度に伝播することを示しています。

■ロボットを起点に優しさの循環が生まれるかもしれない

さて、ここまで紹介してきたソーシャルロボットが人間の認知や行動に与える影響の研究が示唆することは何でしょうか。それはソーシャルロボットの振る舞いが人間の社会を大きく変えていく可能性があるということです。

将来、ロボットは幼稚園や小学校のような子どもの教育施設から、病院や高齢者施設のような医療福祉施設、駅や役所などの公共施設、レストランやショッピングモールのような商業施設まで、さまざまな場面で導入され、人々と関わるようになります。そのような生活の中で人々は複数のロボットから何気ない行為を褒められたり、活動をサポートしてもらったりすることになります。

それだけでも素晴らしいことですが、われわれの研究は、そうしたロボットからの好意的な態度は人々に伝わり、他の人々にも広がる可能性を示唆しています。つまり、ロボットを起点として好意の伝播と循環を生み出すことで、社会全体のパフォーマンスや安心感の向上に寄与できる可能性があるのです。

この記事では、ソーシャルロボットが人間の心理や行動に与える影響についての私たちの研究を紹介しました。ソーシャルロボットがもたらす社会変革の可能性について興味を持っていただければ幸いです。

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飯尾 尊優(いいお・たかまさ)
同志社大学文化情報学部准教授
2012年同志社大学大学院工学研究科博士課程情報工学専攻修了。博士(工学)。株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)知能ロボティクス研究所研究員、大阪大学大学院基礎工学研究科助教、筑波大学システム情報系助教などを経て、2021年から現職。これまで、ロボットによる「褒め」が人間の技能向上に寄与することや、ロボットとの英会話練習によりスピーキング能力が向上することを明らかにしてきた。

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(同志社大学文化情報学部准教授 飯尾 尊優)

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