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「基礎を固めてから応用へ」は間違い…勉強の達人が推奨"数年上の学年の教科書"を読む驚きの効果

プレジデントオンライン / 2023年5月14日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Techa Tungateja

新学期に新しい単元に苦しむ学生、初めて接する業務に悩めるビジネスパーソンは多い。学習がはかどるいい方法はないか。近著『超「超」勉強法』が話題の野口悠紀雄さんは「なにごとも登山のように麓(基礎)から一歩一歩登れ、という考え方ではなかなか先に進めません。勉強は、8割分かったら先に進むというくらいがいいのです」という──。(第4回/全7回)

※本稿は、野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「基礎から積み上げよ」は正しいか?

「勉強は、基礎から徐々に積み上げよ。基礎が大事」といわれます。

基礎がしっかりしていないと、応用ができない。登山で、麓(ふもと)から一歩一歩登るように、基礎から順に進まなければならないというのです。基礎をしっかり理解してからでないと、先に進んではいけないということです。

しかし、基礎は難しいし、退屈です。「教科書の最初のページが完全に理解できてからでないと、つぎのページに進んではいけない」と考えると、なかなか進めません。

完全に理解することができないので、そこで立ち止まってしまう。これが一番良くないことです。真面目な学生ほどそうなります。

■数学ではことに基礎が難しい

基礎が難しいのは、数学において、とくに顕著です。

例えば、数の概念。3かける4はなぜ12なのか? これを説明するのは、そう簡単ではないでしょう。

平行、直線などの概念もそうです。平行とはどこまで行っても交わらないことだというけれど、どこまでも行くことはできない。それを、どうやって確かめるのか?(実は、これは定義なので、そのまま受け入れるしかないのですが)

直線は2点を最短距離で結んでいる。では、最短距離とはいったい何か? どうやって確かめられるのか?

物理学でも基礎概念は難しい。「光は直進する。最短距離を走る」というのですが、光は、どうやってその経路を見出しているのでしょう? 誰に聞いても分からないので、誰もがいい加減に理解しているのだと思います。

多くの人は、これらについて、曖昧(あいまい)に理解しただけです。あるいは、単に覚えたのです。しかし、それでよいのです。

■問題なのは「学ぶ際の順序」

微分積分法は、物理学の問題を解くために、重要な道具です。ところが、この基礎になっている数学の理論は、大変難しいものです。とくに連続性の概念が難しい。

しかし、それが理解できなくとも構いません。微分積分法の公式を覚えて、実際の問題に当てはめるだけでよいのです。

「そんなことをすると、間違ったところに微分法を使うことになる」という批判があると思います。確かにそうした危険はあります。しかしそれよりも、微分方程式を解くことのほうが、はるかに重要だと思います。

誤解のないように申し添えますが、私は基礎を無視してよいとか、やらなくてよいと言っているのではありません。学ぶ際の順序を問題にしているのです。

■難しい理論でも分かれば一挙に理解が広がる

解析学の基礎である「連続性」という概念は難しいけれども、分かれば一挙に理解が広がります。

私は、実数が連続していることを初めて理解したときの感激をいまでも忘れられません。高校生のときに、高木貞治『解析概論』(岩波書店)を読んで、「デデキント切断」の概念に出会い、実数の連続性の意味が理解できたのです。

ただ、これは、微分法を使えるようになってから後のことです(『解析概論』は、戦前の旧制高校での教科書、参考書です。新制高校の生徒がこれを読んでいたのは、級友の間で、背伸び競争、自慢競争があったからです)。

■8割分かったら先に進む

以上から分かるのは、「基礎が分からなくてもよいから、とにかく進んでしまうのがよい」ということです。これを、「数学は真ん中からやれ」と言った人もいます。

例えば、数学には公式がいくつもあります。その導出法を理解しなくてもよいから、使えばよいのです。使っているうちに、公式の意味がだんだん分かってきます。

基礎が難しく退屈なのは、何のためにこういうことをやっているのかがよく分からないからです。先に進んでみると、基礎の意味がよく分かります。微分方程式は物理の問題に応用すれば、その意味がよく分かります。ただし、2次関数も知らずに微分法は使えません。だから、「真ん中から」ということになります。

理由はよく分からなくとも、それは一時棚上げして、とにかく使い方を丸暗記し、そして先に進めばよいのです。どうしても分からなかったら、無理しなくてもよい。やがて分かります。

では、「棚上げ」をしてよい基準は何でしょうか? やや乱暴な言い方ですが、「8割分かったら先に進む」ということでよいと思います。10割分からなくてもよいのです。

■文法を学ぶより文章をたくさん読む

英語の勉強も、単語を覚えたり、文法を覚えたりするだけでは、少しも面白くありません。それよりは、シェイクスピアの作品を覚えるほうがずっとよいのです。

本のページをめくる人
写真=iStock.com/Cavan Images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cavan Images

国語で漢字の書き方だけ勉強していても面白くありません。パソコンを使って文章を書けるようになったので、漢字は、書けなくとも読めればよい時代になりました。最近では、音声認識機能が発達して、話すだけで文章が書けるようになりました。漢字を書く試験は、やめにしてほしいものです。

それより、質の高い文章をたくさん読むほうがよい。そうすれば自然に良い文章の書き方が身についてきます。漢文の素読は、意味も分からずに読んで、覚えています。それでよいのです。

■「分からなくても、先に進め」

以上の方法論をまとめると、「分からなくても、先に進め」ということです。基礎を完全に習得してから先に進むのではなく、とにかく進む。

これは、もっと実践的な場面でも成り立ちます。

例えば、「スマートフォンの使い方の基礎」などというのを習熟しようとしても、少しも面白くありません。それよりは、スマートフォンを実際に使って何かをやってみるほうがずっとよい。そうすれば、スマートフォンに興味が湧いてくるでしょう。

■高いところに行けば、下界がよく見える

なぜ先に進んだほうがよいのでしょうか? それは、先に進めば、前に分からなかったことが自動的に分かるようになるからです。

山登りのとき、麓の山道では、視界が開けません。だから、面白くありません。登っていって視界が開けると、楽しくなってきます。

そして、頂上に行けば、山の周囲がどうなっているかを一望することができます。大げさに言えば、世界の構造がどうなっているかが分かるのです。

勉強も、これと同じです。あるところまで来れば、最初は分からなかった基礎概念が、どういう意味だったかが分かります。

■論文も、全体が分かれば部分が分かる

論文や本を読む場合にも、全体を把握することが重要です。読んでいて分からないところがあった場合に、そこで引っかかってしまうのではなく、先に読んで、とにかく全体を把握するのがよいのです。

そして元に戻ってくれば、最初に読んだときに分からなかったところを理解することができるでしょう。部分を積み上げて全体を理解するのでなく、全体を把握することによって部分を理解するのです。

適切に書かれた論文であれば、結論を見れば、構造が分かります。難解だと思っていた論文が実はそうではなかったことが分かります(それでもよく分からないのなら、その論文が良くないのです)。

文学作品の理解でもそうです。全体を知らないと部分を理解できません。部分を積み上げて全体を理解するのではなく、全体から部分を理解するのです。

■ヘリコプター勉強法

できるだけ早く頂上まで行ったほうがよい。分からなくても進んだほうがよい、と述べました。

ただ、完全には分からないで先に進もうというのですから、手助けが必要です。そこで、「ヘリコプター」に助けてもらって、高いところに連れて行ってもらうことにします。歩いて登らなくてはいけないと考える必要はありません。

では、そのようなヘリコプターとして、実際にはどのようなものがあるでしょうか? それについて、以下に述べます。

ヘリコプターの内部
写真=iStock.com/Mumemories
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mumemories

第1の方法は、分からない概念が出てきたら、百科事典で調べることです。ウェブの記事でも構いません。ただし、ウェブの記事にどの程度の信頼がおけるかは分かりませんから、注意が必要です。

■数年上の学年の教科書を読む

第2の方法は、学校の勉強であれば、数年上の学年の教科書を読むことです。すると、いまやっていることの意味がよく分かります。兄姉がいるなら、その教科書を見せてもらいましょう。

小学校の低学年なら高学年の教科書を、高学年なら中学校の教科書を、中学生なら高校の教科書を見る。そして、高校生なら、大学教養課程の教科書を見るのです。

そういうことが友達同士の競争になるような環境であれば、とてもよいでしょう。これは、「数学ではことに基礎が難しい」の項で述べた数学の場合に限りません。自慢しあえる友人がいると、良い競争になります。「ローマ帝国の詳しい歴史を知っているか?」「この小説を読んだか?」などという競争です。

そうした競争に勝つために『三国志』を読めば、中国の歴史に興味を持つでしょう。『戦争と平和』を読めば、ナポレオン戦争の時代の世界に興味を持つでしょう。

先生を困らせるために難しい質問を教室でしようと、勉強するのもよいでしょう。

■勉強法の2つの原則

これまで述べたことは、常識的な勉強法とは大分違うので、これで大丈夫か、と思われるかもしれません。あるいは、学校での勉強のカリキュラムを無視していると思われるかもしれません。

しかし、勉強のインセンティブを失わないために大変重要なことです。勉強の最大のインセンティブは、「勉強は楽しい」と実感することです。

勉強は、楽しく面白いものだということが実感できなければ、進みません。勉強が苦しいと思ってしまっては、悪循環に陥(おちい)ります。

これまで述べたことによって、勉強法の2つの原則が浮かび上がってきました。それはつぎのようなものです。この方法の有効性は、算数・数学の場合にとくに顕著です。それだけでなく、他の科目についても有効です。

勉強の原則1
「自分の頭で解法を考えなくてはいけない」という思い込みから脱却する。解き方を覚えて、それに当てはめる。
勉強の原則2
ある程度分かったら、先に進む。知らない概念が出てきたら、百科事典の助けを借りる。

■「2つの呪縛」から逃れよ

これを、逆の面から表現することもできます。つまり時間をかけても成果が上がらないのは、つぎのような方法をとっているからです。

野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)
野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)

①「自分の頭で考えよ」という呪縛から逃れられない。
②完璧主義に陥っている。

基礎を完全にマスターしてからでないと先に進めない。いまのところが分からないのは、その前が分からないからだと考えて、足踏みする。あるいは逆行する。

だからいつになっても全体を把握できず、勉強する意欲がなくなる。そして時間切れになってしまう。このため、勉強は辛い義務だと思うようになり、勉強を嫌々やるようになる。

このような勉強法からはぜひ脱却することが必要です。それによって新しい可能性が開けます。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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