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「成績が悪い学生は、頭が悪いのではない」まじめで長時間努力する人ほど成績が伸びない決定的理由

プレジデントオンライン / 2023年5月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

まじめにコツコツ勉強しても、成績が思うように上がらないのはなぜなのか。近著『超「超」勉強法』が話題の野口悠紀雄さんは「学校の成績が悪い学生は、頭が悪いのではなく、やり方を間違えていることが多いのです。実はこれは、社会人になってからの仕事にも通じることでもあります」という──。(第5回/全7回)

※本稿は、野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■なぜ成績が上がらないのか?

学校の成績が悪い学生は、頭が悪いのではありません。やり方を間違えているのです。人間の能力にそれほど差があるわけではありません。成績に差が生じるのは、方法に違いがあるからです。

成績は勉強時間に比例しません。それどころか、勉強の努力にも比例しません。同じ勉強時間、同じ努力であっても、努力の配分の仕方によって、結果には大きな差が生じてしまうのです。すべての努力が同じように報われるわけではありません。

だから、まじめで勉強時間の多い学生が成績が良いとは限りません。まじめなために、かえって成績が悪くなってしまうこともあります。

学校での勉強に関する限り、正しい方法で勉強すれば、必ず良い成績を上げられます。なぜなら、学校教育では、人並み外れた創造力を要求しているわけではないからです。

それどころか、そもそも創造力を要求しているのですらありません。できあがっている学問の体系を、定型通りに習得することを要求しているだけです。

■できる学生は「重要なこと」に集中する

まじめな学生は、取り落としがあってはいけないと思って、すべてを同じようにカバーしようとします。

しかし、これでは努力に見合った成果を上げられません。それどころか、成績が上がりません。この学生は、まじめなのだけれども、やり方を間違えているのです。

取り落としがないようにまんべんなく勉強すれば、安心感を持てるかもしれません。しかし、その安心感は偽物なのです。こうして、まじめな学生ほど成績が悪くなるという結果になってしまいます。

それに対して、できる学生は、「何が重要か」を把握しています。そして、そこに努力を集中しています。

■平板に勉強してはいけない

のんべんだらりとやっているのでなく、メリハリがあります。これは、「急所」「ツボ」「押さえどころ」「勘所」「コツ」などと呼ぶこともできます。「幹と枝葉の区別」といってもよいでしょう。

勉強ができる学生は、幹を押さえるのが上手な学生です。まず重要なことを勉強し、時間が余ったら、残りに手をつけていきます。

勉強が苦手な学生は、何が要点か分からず、膨大な情報の中で途方に暮れています。勉強のコツは「集中すること」なのです。すべてを平板に勉強する学生と、重要なところに努力を集中する学生とでは、勉強の成果に大きな違いが出てきます。

これは、社会人になってからの仕事についてもいえます。重要でないことにエネルギーを使っているために、成果が上がらない人が多いのです。

■「ヤマをかける」のとは違う

コツコツとまじめに勉強するのは、もちろん重要です。しかし、それで成功するとは限りません。「どこに努力を集中するか」が重要なのです。

能力のある人がまじめに勉強しても、方法を間違えれば成績は上がりません。要領よくスマートに勉強する学生が成功するのです。

入学試験であれば、100点を取れなくとも合格できます。そして、毎年必ず一定数の合格者がいます。合格者の中に入ることが目的なのであって、すべての問題に完璧な答えを書くことが目的ではありません。

目的をこのように限定すれば、それをクリアするのは、あまり難しいことではありません。

逆に言うと、時間をかけてまじめに勉強しているにもかかわらず、いっこうに成果が上がらない学生は、努力する対象を間違えているのです。成績の悪い学生は、怠(なま)け者とは限りません。

■学校の勉強は「何が重要か」が決まっている

これは、「重要でないことをやらなくてよい」ということではありません。時間があれば、やるほうがよい。ただし、それは重要なことを済ませてから後のことです。要は、「平板に勉強してはいけない」「重要度にあった努力の分配をせよ」ということです。

学校の勉強において、集中の有効性がとくに顕著です。なぜなら、「何が重要か?」が決まっているからです。

時がたっても、重要性にあまり大きな変化がありません。さらに、何が重要かを比較的簡単に見出せます。これは大変重要なことです。

社会に出てからの仕事では違います。何が重要かは、見出しにくいだけでなく、変化します。だから、固定的な方法を続けていれば失敗します。

マーケティングセグメンテーションの概念
写真=iStock.com/Jirsak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirsak

■2割を制する者は天下を制する

多くの場合において、重要なことは全体の2割の部分に含まれています。それが8割の重要性を占めています。だから、(やや大げさに言えば)「2割を制すれば8割を制し、8割を制すれば天下を制する」ことになります。

これを「2:8の法則」と呼ぶことにしましょう(このような性質を持つ確率分布を定式化した統計学者の名をとって、「パレートの法則」と呼ばれることもあります)。

よくできる学生は、さまざまな事項を平板に勉強しているのでなく、重要である「2割」を重点的に勉強しています。本質的な部分を見出し、そこに集中しているのです。幹と枝を区別しています。

実は、勉強は「2:8の法則」を応用できる典型的な対象なのです。したがって、「重要である2割を見出し、それに努力を集中せよ」という方法論は、応用範囲が広く、かつ強力なものなのです。

ただし、すべての場合について、文字通り厳密に「2割で8割」ということではありません。「1割で9割」の場合もあるでしょうし、「3割で7割」の場合もあるでしょう。

具体的な数字は、場合によって異なります。「重要なことは、全体から見れば一部でしかないところに固まっている。だから、その部分を最優先に扱え」ということです。

■成果は努力に比例しない

重要なもの、成果を左右するもの、全体の動向を決めるものは、全体の一部です。したがって、投入、原因、努力のわずかな部分が、産出、結果、報酬の大部分をもたらすのです。

重要なものを重点的に扱えば、効率は飛躍的に向上します。ポイントをつかむ、大事なことを先にする、コツをつかむ、要点を押さえる、枝葉末節にこだわらない、ということです。

方向を正しくすることによって、少ない努力で大きな結果を生み出すことができます。選択して集中することが必要なのです。

日本人には、「長い時間、まじめに働くことこそ重要」と考えている人が多いように見受けられます。しかし、長い時間働くことではなく、価値のある重要な仕事に絞って、短い時間で大きな結果を生み出すことが重要です。

こうした観点から、日常生活や仕事の習慣を見直す必要があります。

■2割の部品の故障が8割

2:8の法則は古くから知られ、実際の仕事において応用されてきました。その具体的な例として、自動車部品の故障対策があります。

自動車は多数の部品からできていますが、すべての部品が同じような頻度で故障するのではありません。頻繁に故障するのは一部の部品であり、それらが故障件数の大半を占めているのです。

実際には、2割程度の部品の故障が総故障件数の8割程度になる場合が多いといわれます。つまり、文字通り、2:8の法則が成立するのです。

このため、修理工場は、すべての部品を同数ずつ準備するのでなく、重要な部品を重点的に備えています。そうすることによって、ほとんどの事故に対応することができます。

数の上では2割のものが重要度では8割を占めるという2:8の法則は、品質管理の分野で重要な法則として意識され、積極的に活用されるようになりました。

2:8の法則は、日常生活にも適用できます。今日やるべきことを10件書き出してみましょう。このうち、優先順位の高い2件をまず処理します。すると、今日の仕事の8割は片づくことになる場合が多いのです。また、一日のうち約2割の時間が、8割程度の価値を生み出しているともいわれます。

多くの作業において、重要な仕事時間は、その仕事に使っている総時間の2割くらいなのです。

■本の2割に8割の情報

2:8の法則は、読書の場合にも有効です。

10章からなる書籍を考えましょう。各章の長さはそれぞれ1であるとします。各章に含まれている重要な情報は、第1章と第10章ではそれぞれ4あり、他の章では、1章あたり0.25であるとします。

野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)
野口悠紀雄『超「超」勉強法』(プレジデント社)

この場合、第1章と第10章は、分量からいえば全体の2割ですが、重要度からいえば全体の8割を占めていることになります。

ここで、各章を読むのに要する時間は1時間であり、読書に当てられる総時間は5時間しかないとしましょう。

第1章から順に読んでいった場合には、得られる重要な情報は、第1章から4、第2、3、4、5章から1ですから、全部で5になります。

他方、まず第1章と第10章を読み、次に2、3、4章を読む場合には、重要な情報は第1章と第10章から8得られ、2、3、4章から0.75得られます。したがって、全体としては8.75の重要な情報が得られることになります。

つまり平板に読むのではなく、重点的に読めば、得られる8.75÷5=1.75倍に増えることになります。

■重要な2割に集中せよ

私の場合、仕事の参考のため、大量の本や文献に目を通す必要があります。しかし、関連する文献の最初から最後までを丹念に読んでいるわけではありません。そうしたいのはやまやまですが、とてもそれだけの時間が取れません。

そこで、つぎのようにしています。ある事柄を調べたいときに、それに関する参考文献が10冊あるとします。それらをすべて読む必要はありません。その中で優れたものを2冊読めばよいのです。それによって、問題の8割程度は理解できます。参考文献には大体同じ内容のことが書いてあるので、これは当然ともいえるでしょう。

新聞の場合には、「2割程度読めばよい」という法則は、確実に成立します。あらゆる面を隅から隅まで読むのは、非効率です。

「購読料を払ったのだから全部読まないと損だ」などと考えてはいけません。役に立たない記事を読む時間のコストのほうが、購読料より高いでしょう。一般紙にさまざまな記事が出ているのは、読者の範囲を広げ、コストを下げるためなのです。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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