今年の五月病はいつもと少し違う…産業医が注意が必要と指摘する「メンタル不調」3つの兆候
プレジデントオンライン / 2023年5月15日 8時15分
■普段よりも「五月病」が増える
5月ごろに増える、体がだるい、夜眠れない、やる気が出ないなどの心身の不調を「五月病」といいます。正式な病名は「適応障害」で、新年度の環境変化に適応しようとして、過剰適応した結果、発症する疾患です。倦怠(けんたい)感や疲労感、不眠、不安、動悸(どうき)、頭痛、腹痛といった、さまざまな症状としてあらわれます。(五月病について詳しくは連休明けに会社に行こうとすると涙が止まらない…小さな不調をあなどると危ない「五月病」の真実を参照。)
ここ数年のコロナ禍で働き方が変わり、今年の五月病は、いつもと少し違う様相を呈しています。感染拡大予防対策が緩和されつつあり、特に4月に入ってからは、それまで在宅勤務が中心だった会社で出勤の日数が増えたり、出張や転勤、クライアントと対面で会うことも多くなったり、また、歓送迎会などの飲み会が開催されたりすることが増えているようです。
そうすると、人に会うのが苦手だった人や、職場の人間関係が疎ましいと思っていた人にとっては、対面で人と会うことが増えてストレスになるでしょう。また、これまでは在宅勤務を組み合わせることで育児や介護と仕事の両立が比較的スムーズにできていた人にとっては、また大変になるかもしれません。仕事の環境や生活パターンが変化することで、普段の5月よりも、五月病に至る可能性が高まっています。
■「見た目」「仕事の様子」「人との関わり方」でわかる兆候
五月病は悪化すると、うつ病につながる恐れがあります。早期発見し治療につなげられれば、回復も早まるので、上司など周りの人が早めに兆候をつかむことが大切です。
対面であれば、オンラインに比べて兆候に気付きやすくなります。ポイントは「見た目」「仕事の様子」「人との関わり方」の3つです。
1点目は表情や外見など「見た目の変化」です。今までと違って、ずっと浮かない表情をしていたり、疲れた様子や眠そうな様子が続いていたら要注意です。「最近、無気力で覇気がなくなった」など、表情の変化に気を付けるようにしてください。あいさつの声が小さくなったり、声に張りがなくなることもあります。さらに、髪型や服装など、身だしなみが行き届かなくなるなども、兆候の一つです。
■ミスが増えたり、一人で過ごすことが増えたりする
五月病の兆候は、「仕事の様子」にも表れます。集中力がなくなったりするので、今までなら納期をきちんと守っていた人が、締め切りギリギリになって提出するようになったり、納期を過ぎるようになるのは要注意です。また、メンタルヘルスの不調に陥ると、思考力や決断力が低下することも多いので、ミスも多くなります。
3点目は、「人との関わり方の変化」です。人と話すことはエネルギーがいるので、メンタルヘルスの不調のときは、人と関わるのを避けようとする傾向があります。人といると疲れてしまうので、一人で過ごす時間が増えるのです。これまでは休憩時間には同僚と雑談したり、昼食も誰かを誘っていたような人が、人と関わろうとしなくなったりしたら気を付けた方がいいでしょう。一人で過ごす時間が増えたり、仲間と昼食を食べていても口数が少ない、話題に入ってこない、といったことがないか、注意してください。
■メールやチャット、ウェブ会議の様子にも注意
こうした兆候は、オンラインだとなかなか気付きにくいかもしれません。ですからオンラインの場合は、「メールやチャットのやり取り」と「ウェブ会議の様子」に気を付けてみてください。
例えば、「メールやチャットのやり取り」では、返信が遅くなったり、チャットの書き込み頻度が少なくなった、などの変化がないか。また、表現や言葉遣いが攻撃的になったり、淡泊になったり、ネガティブになったりといった変化がないでしょうか。
「ウェブ会議の様子」では、これまでカメラをオンにしていたのにオフにすることが増えたり、発言の回数が極端に減ったりしていないか、といったあたりがポイントです。
![広げたノートパソコンと書類の前で苦しんでいる女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/5/1200wm/img_c5de50fdc46742264dbc67f46c2053ab420621.jpg)
■ただ声を掛ければいいというものではない
では、部下のこうした兆候に気付いたとき、上司はどうしたらよいのでしょうか。まず絶対にやってはいけないのは、兆候を軽視して放置することです。「多分気のせいだろう」「まさかメンタルヘルスの不調なわけがないだろう」「放っておけばそのうち元通りになるだろう」と、自分に都合よく受け止めてそのままにしてしまう人が非常に多いのですが、これはよくありません。
上司は少しでも兆候に気付いたら、ぜひ部下と話をしてください。
そのときも、「軽く声を掛ける」といった形にするのはやめましょう。たとえば打ち合わせが終わって、会議室から出る途中に、「ちょっと疲れてるみたいだけど大丈夫? 五月病なんじゃないの?」と、立ち話の形で声を掛けるなどです。
■時間と場所を確保し、1対1で話す
「できれば思い過ごしであってほしい」「深刻な状態であってほしくない」といった気持ちから、こうした軽い声掛けにとどめようとする上司は多いようですが、適切な対応とはいえません。
これでは、一応心配して声を掛けたことにはなるかもしれませんが、もし部下が本当につらい思いをしていても、周りにたくさん人がいるところで「調子が悪いんです」とはなかなか言えません。また、こうしたシチュエーションだと、部下の方は「上司は私に『何でもありません』と言ってほしいんだろうな」と感じてしまうでしょう。もしかすると「五月病」という言葉自体も、調子の悪い人にとっては、軽々しく響くものかもしれません。
ですから、メンタルヘルスの不調が気になる部下と話すときには、そのための「時間」と「場所」を確保し、必ず「1対1」で行ってください。
「最近の仕事の進捗(しんちょく)について聞きたいから、○時から30分ほど時間を取れないか? ミーティングルームを予約したから、そこでちょっと話そう」など、周りを気にせず1対1で話せる時間と場所を設定します。
■アドバイスや説教はせず、聞き役に徹する
話を切り出すときは、回りくどく聞かず、単刀直入に尋ねましょう。「最近、以前と違って一人でいることが多いし、打ち合わせ中も元気がなくて『あなたらしさ』がないようだ。ミスも目立つようだし、何か気になっていることはない? 体調は大丈夫?」というところから始めましょう。
そして、聞き役に徹してください。「気分転換をしたら?」などとアドバイスをしたり、「これくらいで調子を崩すようでは、これから忙しくなるのにやっていけないよ」などと説教をしたりしてはいけません。しっかりと話を聞いたうえで、一人で抱え込まず、社内のメンタルヘルスに対応している部署、たとえば総務部や人事部、産業医などにつなげましょう。
結果的に勘違いだったり、別の理由があったなら、それがわかるだけでも大きなプラスです。部下にとっても「それだけ自分のことを気にかけてくれているのだな」ということがわかって安心するはずです。もし今後、メンタルヘルスの不調に陥ったときにも、相談しやすくなるでしょう。
■キャパを見極めブレーキをかける
上司としては、もちろん部下のメンタルヘルス不調の兆候に気付くことも大切ですが、そもそも不調に陥らないよう配慮したいところです。予防のために大切なことは、部下の「キャパ(キャパシティー)」を見極め、ブレーキをかけることです。
キャパは人によって違うので、その見極めが難しいところです。ただ、特に責任感が強く真面目で几帳面な人、やる気満々の頑張り屋タイプの人は、自分で仕事を抱え込みやすく、キャパオーバーになりやすい傾向があります。特にこの時期は、4月にエンジンがかかりすぎて、キャパを超えやすいのです。「本人がやる気だから」とそのままにせず、「今はいいかもしれないけれど、これではいずれ息切れしてしまう。あまり根を詰めず、休みながら取り組もう」と、上司がブレーキをかける必要があるでしょう。
変化に気が付くためには、普段から部下の様子を知り、コミュニケーションを取っておく必要があります。あいさつや雑談、仕事のフィードバックなどでまめにコミュニケーションを取ることで、部下の方も悩み事や不調があったときに相談をしやすくなります。いつもあまりコミュニケーションを取らない上司に、いきなり「調子が悪いんじゃないの」と言われても、なかなか正直に話せません。
■上司も自分の不調に注意する
ここまで、部下のメンタルヘルス不調への上司の対応についてお話ししてきましたが、この時期は特に、上司自身の不調にも気を付けてほしいと思います。
新年度は、新しく迎えた部下のマネジメントも始まり、仕事量も増えます。上司だからといって、完璧な人間はいません。部下がいると弱音を吐けないという人は多いですが、産業医でもいいですし、家族や友人、知人など、時々弱音を吐いたり愚痴を言ったりできる相手を持っておいてほしいと思います。そして不調を感じたら、早めに精神科を頼ってください。
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産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)
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