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「AO入試ならバカでも慶応に入れる」はウソである…慶応SFC合格の鈴木福が間違いなく優秀と言えるワケ

プレジデントオンライン / 2023年5月11日 11時15分

2020年1月2日、「J-CULTURE FEST/にっぽん・和心・初詣」で司会進行を務めた鈴木福さん(写真=YamatoHozumi/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

芸能人がAOや推薦入試で名門大学に合格するケースが相次いでいる。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「ネット上では『AO・推薦だから簡単』という批判が目立ったが、それは20年以上前の認識による誤ったものだ。過去の経験やイメージで判断しないほうがいい」という――。

■鈴木福は慶応、本田望結は早稲田に合格

芸能人の大学進学は今も昔も話題となります。良くも悪くも。今年、2023年入学だと、俳優の芦田愛菜さん、鈴木福さん、本田望結さんの3人の進学先が話題となりました。芦田さんは慶応義塾女子高校から内部進学で慶応義塾大学法学部に進学。鈴木さんは慶応義塾大学環境情報学部(SFC)にAO入試で合格。本田さんは早稲田大学社会科学部に自己推薦入試で合格しました。

芦田さんは慶応義塾大学医学部への進学も噂されたほどでした。しかも、慶応義塾女子高校は進級も成績が厳しく見られます。内部進学はなおさらであり、それだけ勉強をしてきた、との評価がもっぱらです。一方、鈴木さんはAO入試、本田さんは自己推薦入試での合格です。

しかも、鈴木さんの出身校である堀越高校、本田さんの出身校・青森山田高校は、芦田さんの出身校である慶応義塾女子高校のような難関高校ではありません。進学校とは言えない高校から早慶という私大トップにAO・推薦入試での合格。これがネットでは「不公平」「芸能人枠で入った」「AO・推薦だから簡単だった」などの批判が4月に入ってからも続いています。

大学入試を21年間、取材した私からすれば、「AO・推薦だから簡単」などの批判は20年以上前の古い認識によるもので誤ったもの、と言わざるを得ません。結論から申し上げますと、2020年代現在の「AO・推薦」(正確には総合型選抜・学校推薦型選抜)は、芸能人であろうとなかろうと、高い学力としっかりした事前対策が求められる、一筋縄ではいかない入試となっています。

■国がはじめて「推薦入学」を定義したのは1967年度

現状をご説明する前に、まずは「AO・推薦」入試の歴史を振り返ります。文部省(現・文部科学省)が「大学入学者選抜実施要項」(以下、「要項」と略)で「推薦入学」を定義したのは1967年度です。ただし、それ以前、1948年の新制大学開設以降も、学校長の推薦に基づく入試はあったようです。

1983年には「要項」で「多角的な検査のため」小論文や面接を課すことが明記されました。その後、大学入試競争が厳しくなり、一方では大学進学率が上がっていったこともあり、推薦入試も拡大していきます。

そんな中、1988年に始まったのが亜細亜大学の一芸一能入試です。推薦入試の一種で、校長の推薦の他に、「一芸一能」を証明する記録・免状の提出が条件となります。入試は自己推薦書を基にした面接だけ。

この入試で、けん玉日本一、鉄道ファン(全国制覇)、料理名人(魚の三枚おろし)など、ユニークな人材が合格します。芸能人だと、俳優の吉岡秀隆さん、石田ひかりさん、「光GENJI」赤坂晃さんなどが入学しました。

■批判の源流は「けん玉」合格の亜細亜大学

芸能人の大学進学は、1988年以前もありました(1965年・吉永小百合さんの早稲田大学第二文学部入学など)。ただ、亜細亜大学の一芸一能入試は、ユニークな人材や芸能人も入学したことで賛否両論となります。

導入した亜細亜大学の衛藤瀋吉学長は、

「受験技術がたけて入った学生は、必ずしも人柄がよくない。頭は悪くても、国際的に活躍できるたくましい神経と異文化に対する包容力、理解力がほしい」

その一環で一芸一能入試を導入した、と説明します。

料理名人(魚の三枚おろしを面接で実演)の入学バッシングに対しては、

「母親に鉛筆を削らせ、夜食を作らせて東大に入った者と、弟、妹の世話をして家事をやって、そのため成績が悪かった者と、どちらがいいか。私は家事をとる」

と、反論(1993年9月21日「読売新聞」東京夕刊)。

亜細亜大学の一芸一能入試は、2023年現在も存続しています。

■広末涼子の早稲田進学・中退で批判が強まる

芸能人の大学進学が批判的に見られるようになったのが、1998年、人気アイドルだった広末涼子さんの早稲田大学教育学部の自己推薦入試受験です。入試直前にメディアで報じられると、受験当日は野次馬200人が受験会場に集結(1998年11月23日「スポーツニッポン」)。合格発表日にはワイドショーが中継するなど、大きく注目されます。

早稲田大学に初登校し、学生らに取り囲まれる女優の広末涼子さん(=1999年6月26日、東京・新宿区の早大正門前で)
写真=時事通信フォト
早稲田大学に初登校し、学生らに取り囲まれる女優の広末涼子さん(=1999年6月26日、東京・新宿区の早大正門前で) - 写真=時事通信フォト

一方で、合否判定が曖昧であり、広告塔として簡単に入学させたのではないか、との批判も強くありました。付言しますと、出願資格として、評定平均値が4.0以上でしたので、決してザル入試だったわけではありません。広末さんは合格、1999年に入学しますが、入学式は欠席。初登校は出演ドラマの撮影などが落ち着いた6月でした。

その後も、授業の出席はほとんどできず、2003年に自主退学します。大きく注目された分、その反動から、強く批判されることになりました。この広末さんの早稲田大学進学・中退は芸能人の大学進学批判の源流となりました。

■「ザル入試」と化したAO・推薦が2010年代に激変

2000年代は、大学全入が進んでいき、相当数の大学でAO・推薦入試が簡単に学生を確保できる、ザル入試と化します。一方では、募集停止となる大学が注目されます。特に、2009年には5校が募集停止となりました。広末涼子さんの早稲田入学と中退、AO・推薦入試のザル入試批判などが合わさった結果、芸能人の大学進学の否定論が2010年代前半に完成し、現在に至っています。

ところが、この2010年代から大学入試が大きく変わりました。AO・推薦入試のバカ批判・ザル入試批判を受けてか、2011年、文部科学省は「要項」に「高等学校段階で育成される学力の重要な要素に留意」と記載します。さらに、2014年、中教審答申はAO・推薦入試について、「AO入試、推薦入試の多くが本来の趣旨・目的に沿ったものとなっておらず、単なる入学者数確保の手段となってしまっている」と批判。区分見直しを提言します。

この提言から、2021年以降、AO入試は総合型選抜、推薦入試は学校推薦型選抜と名称を変更。2023年現在、早稲田大学社会科学部・自己推薦入試や慶応義塾大学AO入試は大学の呼称であり、区分上は総合型選抜となります。2010年代はAO・推薦入試の内容や名称が変わっただけ、ではありません。2010年代半ばから首都圏の私立大では入試が激戦となりました。

■推薦入試による入学者は1.5万人、AOは2.9万人増加している

理由は、23区内の大学新設規制(2019年)、定員管理の厳格化(2016年)です。特に後者は、2016年以降、従来の1.3倍から1.1倍が上限となりました。超過した場合は私学助成金のカットという罰則付きです。

私立大では入学辞退者を見越して合格者を多めに出す手法が使えなくなりました。そうなると、私大は合格者を絞り込まざるを得ません。その結果、一般入試は激戦となり、現役志向の強い高校生は一般入試ではなく、AO・推薦入試を志望するようになります。

出典=入学者選抜実施状況(図表=筆者作成)
出典=入学者選抜実施状況(図表=筆者作成)

文部科学省が出している「入学者選抜実施状況」の各年度版について、私立大学を集計したものがこの図表1です。

2013年と2022年で比較すると、一般入試(2021年から正確には一般選抜)による入学者は2万8000人、減少しています。

これに対して、推薦入試(学校推薦型選抜)による入学者は1万5000人、AO入試(総合型選抜)による入学者は2万9000人、それぞれ増加しています。文部科学省「入学者選抜実施状況」からは、一般入試からAO・推薦(総合型・学校推薦型)入試にシフトしていることが明らかです。

■早稲田・社会科学の小論文は、入りやすいテーマの良問

では、入試の内容はどうでしょうか。本田望結さんが合格した早稲田大学社会科学部から見ていきます。早稲田大学サイトによると、全国自己推薦入試の出願要件はこちら。

・評定平均4.0以上
・欠席日数が45日以内
・次のいずれかに該当
学芸系またはスポーツ系クラブなどに所属し、都道府県以上の大会・コンクール・展覧会などにおいて優秀な成績を収めた者/生徒会活動において、めざましい活躍をした者/資格(語学検定や財務・会計資格など)を有する者/その他、学校外での諸活動(クラブ活動、ボランティア活動など)において、めざましい活躍をした者

入試は一次試験が書類審査、二次試験が面接と小論文です。小論文の2022年試験はこちら。

SNSの発達に伴って、個人が自由に意見を発信できるようになりました。他方で、ヘイトスピーチをはじめインターネット上での人権侵害が問題視されています。SNSの発達が社会に与えた良い影響と悪い影響について、あなたの考えを800字以内で述べてください。

※90分

入りやすいテーマですが、良い影響とヘイトスピーチや人権侵害などの悪い影響、両方を押さえたうえで自身の意見を述べる、良問です。

■慶応SFCは専願が条件で、「入学後の構想」が求められる

慶応義塾大学環境情報学部のAO入試は、評定平均は特に指定されていません。ただし、出願資格では次の2点が指定されています。

・総合政策学部・環境情報学部への志望理由や入学後の構想が明確であり、第1志望としていずれかの学部での勉学を希望する者
・総合政策学部・環境情報学部の学習・研究環境を積極的に活用し、入学後の目標や構想をより高いレベルで実現するに十分な意欲と能力を有する者

専願(第1志望)を条件とする大学は他にもありますが、「志望理由や入学後の構想が明確であり」と、わざわざ指定する大学はそうそうありません。しかも、「入学後の目標や構想をより高いレベルで実現」する学生が欲しい、とも明記しています。

1次試験は書類審査。ただし、この書類審査も提出書類が他大学以上に多くあります。

活動報告(200字)、志望理由・入学後の学習計画・自己アピール(2000字以内+自由記述2枚以内)、そして、任意提出書類として、「中学校卒業以降からAO入試出願に至る期間における、さまざまな分野での取り組みとその成果、および大学入学後の目標や構想実現に必要な意欲や能力等を示すものがあれば資料として10点まで」。

さらに、志望する受験生ではなく、その受験生を客観的に知る立場(大半は学校教員か)2人による志願者評価も必要です。

■AO入試の難化傾向は、親世代の想定よりもさらに進んでる

ここまで書類を準備したうえで、2次試験は面接。こちらも簡単ではありません。このプレジデントオンラインの2019年6月19日記事「慶應SFCが30分間の面接で必ず聞く質問 知力も人間力もわかるガチンコ面接」には、環境情報学部の村井純教授が、面接では3人の教員が30分間、志望理由などを掘り下げるとして、次のように答えています。

「時には学問的な論争になる真剣勝負の場です。学力テストなどしなくても、30分間、第一線で活躍している学者が、3人がかりで1人の受験生を見るわけですから、ごまかしようがないんです。しかも、それを30年続けてきた経験の蓄積があります」

早慶ともこの入試を簡単、とする人もいるでしょう。私は大学取材21年の経験からも、簡単とは到底、思えません。総合型選抜・学校推薦型選抜の難化傾向は、ネット上、あるいは受験生の親世代が想定しているものよりもさらに進んでいます。しかも、本稿では早慶のみを取り上げましたが、この難化傾向は実は中堅ないし中堅以下の私大でも相当進んでいます。

大学受験は、過去の経験にとらわれる人が多くいます。その経験はかけがえのないものですが、その一方では、現状とは乖離(かいり)したものも多くあります。AO入試(総合型選抜)も、過去の経験やイメージだけではなく、現状を把握したうえで対策を取ることが求められます。

※参考
大学入学者選抜実施要項における多面的・総合的評価、総合型選抜、学校推薦型選抜に係る記載の主な変遷について(文部科学省2021年資料)

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石渡 嶺司(いしわたり・れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。主な著書に『改訂版 大学の学科図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)など累計31冊。近著に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)がある。

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(大学ジャーナリスト 石渡 嶺司)

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