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「老後は地方でゆっくり暮らしたい」と思っている都会人が想定していない「年40万円の出費」とはなにか?

プレジデントオンライン / 2023年5月17日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/twinsterphoto

「終の棲家」はどう選べばいいのか。FP相談サービス執行役員の佐藤健太さんは「なによりも大事なことは老後破綻を回避すること。地方移住した場合は、1人1台の車が必要になるので、年20万~40万円の出費を想定しておく必要がある」という――。(第2回)

※本稿は、佐藤健太『何歳からでも間に合う初めての投資術』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

■「終の棲家」は持ち家か、賃貸か

就職して結婚し、子供が生まれてマイホームを持つ。結婚後、子供夫婦と同居し、マイホームは子供たちが相続する……。そんな「常識」もすっかり過去のものになっています。

こうした状況下で、皆さんは「終の棲家」をどのように考え、決めているでしょうか。持ち家か賃貸か、あるいは老人ホームやシェアハウスで暮らすのか。その判断は老後の生活に大きな影響を与えることになります。

安定した給与がある現役時代はいいかもしれませんが、収入が減少する60代以降はどこで暮らすのかという「次の一手」が大変な意味を持つことになるのです。退職金に手をつけたい気持ちも生じますが、まずは深呼吸して検討を重ねることも必要と言えます。

■老後の選択肢の利点と欠点

では、老後の選択肢としてはどのようなものがあるのでしょうか。「終の棲家」として考えられる主な費用、メリット・デメリットをまとめました。

【賃貸マンション】
単身向けマンション(30m2以下):大都市は月4万~9万円
夫婦向けマンション(50m2以下):大都市は月6万~13万円
メリット:自分の好きな物件を選べる。合わなければ引っ越しもできる。
デメリット:引っ越し費用の他、敷金・礼金で家賃の計2カ月分、仲介手数料1カ月分かかる場合も。火災保険料、カギの交換代、更新料も必要。

【UR賃貸物件】
首都圏の物件:50平方メートルで7万~15万円程度
メリット:広めの物件が多い。礼金、仲介手数料、更新料、保証人が不要。
デメリット:最寄り駅から遠く、築年数が古い物件もある。入居審査が厳しい。

【戸建て購入】
新築:3500万円程度
中古:2500万円程度
メリット:家賃が必要な賃貸生活から解放され、相続することもできる。
デメリット:購入時の税金、毎年の固定資産税が必要。大きな支出で老後資金が不足する可能性も。

【自宅建て替え】
建築費用:1500万~2000万円(延べ床面積100m2
メリット:老後も同じ場所に住むことができる。
デメリット:解体費用100万~150万円程度が必要。仮住まいや引っ越しの費用、税金などもかかる。

【二世帯住宅に建て替え】
建築費用:3500万~4500万円程度(延べ床面積約165m2
メリット:老後も同じ場所で、子供と一緒に住むこともできる。
デメリット:解体費用100万~150万円程度が必要。仮住まいや引っ越しの費用、税金などもかかる。

【リノベーション】
費用:築30~40年の戸建ては1000万~2000万円程度
メリット:住み慣れた場所で新鮮な家を満喫することができる。
デメリット:築年数や広さによっては、さらに高額に。

【分譲マンション購入】
新築:4500万円程度
中古:2900万円程度
メリット:毎月の家賃が不要になる。立地によっては資産価値が上昇し、相続もできる。
デメリット:各種の税金を支払う必要がある。立地によっては売却する時に価値が下がる。

【有料老人ホーム】
入居一時金:5万円程度~
月額利用料:8万円程度~
メリット:公的施設は月額8万円程度から利用でき、安心感もある。地方では安いところも。
デメリット:民間施設は利用料が高い。介護付き老人ホームは月額30万円超のケースも。

■適正住居費のボーダーライン

この他にも持ち家のダウンサイズや実家に戻る、地方に移住するといった選択肢はいろいろとあるでしょう。敷金・礼金がなく、家具なども設置されている高齢者向けシェアハウスに引っ越すといったことも考えられるかもしれません。

有料老人ホームなどの高齢者向け施設も入居一時金や利用料がピンキリです。目玉が飛び出るくらい高額な施設もあります。また、たとえ希望しても健康状態によっては入居できない物件もあるでしょう。

もちろん、好みは人それぞれです。「最後くらい自分の好き勝手に選びたい」という気持ちも理解できます。ただ、重要なことは後悔をしないことです。

退職金を投じて物件を購入したり、大規模なリフォームをしたり、高額な入居一時金を支払ったりして後に「あっ! 生活費が足りなくなってしまった」とならないのかどうか。「やっぱり、気に食わないから前の生活がいい」と言っても、年齢を考えれば元に戻る時間もお金もないかもしれません。

ひとつの目安にしてもらいたいのはやはり適正家賃です。一般的には手取り収入に対して「25~30%」が適正な家賃と言われています。月の年金額が10万円の人ならば、家賃は2万5000~3万円のところに住むといいでしょう。

■大事なのは老後破綻を防ぐこと

もし、今の場所がオーバーしていれば、より自分に合ったところへの引っ越しを検討すべきと言えます。物件の購入やリノベーションならば、適正家賃を元に自分はいつまで長く住むことができるのかを計算し、その年数と費用の採算性を確認してみてください。子供に相続するつもりならば、多少のズレも許容範囲です。

大事なことは「老後破綻」を回避すること。持ち家を保有している人は有利と言えますが、賃貸物件に住む人も家賃を抑え、貯蓄・投資に回せば老後資金の足しにもなります。

老後に過剰な「見栄」は必要ありません。立派な自宅を購入したり、建て替えをしたのに、その後すぐに要介護状態となってしまったケースを見たこともあります。何歳まで元気でいられるのか分からない以上、計画的かつ現実的に考える方が無難と言えます。

■地方移住は正解なのか

若いうちに上京した人などが、年を重ね、老後は地元に帰る。これも昭和や平成の時代にはある種の「常識」として、少なくない事例がありました。

しかし地方への移住の「常識」も、令和の時代には変わりつつあります。近年はのどかな環境で暮らしたいと地方移住を目指す人々が増えており、地方に「Uターン」するだけでなく「Iターン」、つまり地元に戻るのではなく、これまで接点や縁のなかった土地へ移住する人も少なくないようです。増加の背景には新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークする人が増加し、必ずしも「職住接近」が求められなくなったこともあります。

では、地方移住は正解なのでしょうか。

実際に判断する前には、まず地方移住のメリットとデメリットを総合的に検討することが重要です。大前提として知っておかなければならないのは、「住む場所」によって必要となるお金は違ってくるということです。例えば、大都市と地方では生活費が大きく変わってきます。

都会、地方と書かれたカードを持つ手
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■大都市での消費支出の平均額

総務省の「家計調査」(2021年)によると、単身世帯の1カ月の消費支出は平均で15万5046円となっています。しかし、これを大都市(政令指定都市および東京都区部)に限って見ると、消費支出は15万9473円と全国平均よりも4400円ほど1カ月にかかるお金が高いことが分かります。

地価や物価が高いので当然のように思われますが、大切な老後のお金を考えれば月に4400円、年間で5万2800円ほど平均より多くの生活費が必要になることは知っておかなければなりません。

子供や孫が大都市に住んでいるので近くに住みたい、あるいは同居している、ということであれば、やむを得ないという気持ちも理解できます。

ただ、大都市は商店街が充実しているところが多く、スーパーや百貨店などの近くであれば、買い物のついでに浪費してしまうケースも見られます。健康を考えれば「家に引きこもる」よりも外出したり、散歩したりすることは推奨されますが、買い物の機会が増えれば当然ながら支出も増えてしまうことは頭に入れておく必要があります。

■地方移住の意外な落とし穴

人口15万人未満の都市、地方の町や村に住む場合はどうなのでしょうか。1カ月当たりの消費支出は14万8395円で全国平均より月に6600円ほど、年間にすると7万9800円も低いことが分かります。一言で「地方」と言っても様々ではありますが、大都市と比べれば生活費が少なくなるのは明らかです。

持ち家がなく、子供や孫たちの近くに住まなくてもいい、仕事は住居の近くで選ぶなどの制約がなく、自由に住む場所を選べるのならば、比較的物価が安い地域を選択するのも一案です。

では、年金収入に多くを頼る老後は地方に移住すべきなのでしょうか。結論を先に記せば、私は必ずしもそうであると断言することはできません。

なぜならば、地方に移り住む場合には仕事や地域とのつながりも考えておくことが大切になり、単に「暮らす」だけと思っていたら思わぬ「落とし穴」にはまることがあるからです。

■年間20万~40万円もの出費

内閣府の調査によれば、地方圏出身者の20代、30代が地元に戻らない理由として、「コミュニティが狭すぎること」が挙がっています。隣近所との関係が希薄なものとなりがちな都会と比べ、地方では地元住民とのコミュニケーションが大切になります。

近くの職場に働きに出る、あるいは自宅でテレワークする人であっても、付近住民との交流が求められることが多い点は認識しておく必要があるでしょう。専業主婦(夫)がいる家庭は自宅に残る配偶者のことも考えておかなければなりません。

地方ゆえに増える支出もあります。都会での満員電車から解放されるのはうれしいかもしれませんが、地方では買い物に行くにも車が必要となることが多くなります。

1人に1台、ガソリン代や税金、車検費用などを含めれば電車通勤の時と比べて年間20万~40万円もの出費がかさむことになるでしょう。

佐藤健太『何歳からでも間に合う初めての投資術』(ワニブックスPLUS新書)
佐藤健太『何歳からでも間に合う初めての投資術』(ワニブックスPLUS新書)

また、病気のリスクが高まる老後になれば通院の機会も増加しますが、近くに病院がなければ車を運転して通うことになります。急病でなければまだしも、新型コロナやインフルエンザなどによる高熱、大きなけがをした場合には救急搬送に時間がかかることも考えられます。

たしかに老後は都会の喧騒から離れ、のんびりとした空間で時間を楽しむことに憧れる気持ちは分かります。しかし、退職金をもらって気持ちが大きくなり、「理想」だけを追い求めてしまうと結果的に「失敗だった」と感じることになりかねません。

老後の失敗は取り返しのつかないものとなります。時間に余裕が生まれる老後はしっかりと情報収集し、家族とも今後のライフプランを話し合いながら総合的に検討することが重要と言えます。

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佐藤 健太(さとう・けんた)
FP相談サービス執行役員・心理カウンセラー
ライフプランのFP相談サービス「マネーセージ」執行役員(CMO)。心理カウンセラー、教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。コラムニストとしても活躍。

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(FP相談サービス執行役員・心理カウンセラー 佐藤 健太)

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