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相場より3割安いのにはワケがある…消費者問題の専門家が「定期借地権付きマンション」を勧めない理由

プレジデントオンライン / 2023年5月13日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

好立地でも相場価格より安く買える「定期借地権付きマンション」が注目を集めている。普通のマンションとどこが違うのか。日本女子大学の細川幸一教授は「借地の上に立ったマンションで、50年や70年といった契約期間が終われば、解体して更地にしなければならない。潜在的リスクを見極める必要がある」という――。

■増え続ける「定期借地権付きマンション」

都心のマンション価格が上昇を続けている。不動産経済研究所の調査では、首都圏の新築分譲マンションの平均販売価格は、2021年に6260万円となりバブル期を超え、2022年は6288万円で2年連続の過去最高を更新した。東京23区の平均価格は8236万円となった。

庶民にとってはやはり高い。一般的に住宅価格の目安としては年収の5~7倍と言われているが、東京カンテイの調査では、2020年の新築マンションの年収倍率は東京都で13.40倍である。マンションは高嶺の花と化している。

そこで注目を集めているのが、相場価格から2~3割程度安いとされる「定期借地権付きマンション」だ。

2022年2月21日付の住宅新報が東京カンテイの調べとして報じている。記事によると、三大都市圏での供給戸数(竣工(しゅんこう)ベース)が2017年に1001戸と7年ぶりに1000戸を超えて以降、19年1283戸、20年1932戸、21年は減少したものの、22年は再び1464戸となった。売り出しベースでは22年まで4年連続の増加だという。

土地の安い郊外に移り住む動きも出ているが、都内の便利な立地を最優先にしたい消費者も多い。不動産に掘り出しものはないとされる中で、比較的安価なこのマンションが増えているのだ。

しかし注意が必要だ。安いのには必ず理由がある。

■定期借地権付きマンションはなぜ安いのか

定期借地権付きマンションとは、「借りられる期間があらかじめ定められた借地権」の付いたマンションだ。普通借地権と異なり更新がなく、契約期間が終わった土地は地主に返すことになる。更地返還が原則であり、建物は取り壊さなければならない。

普通借地権では借地人(借りる側)の権利に重きがおかれている。借地期間終了後には、借地人が希望すれば契約を更新できるため、地主はいったん土地を貸してしまうと、簡単には返してもらえない。

これでは新たに借地権を設定して土地を貸そうとする地主が極端に減ってしまい、土地の供給が減ってしまう。そこで地主に有利な「定期借地権」が1992年に設けられた(借地借家法)。定期借地権には事業用もあるが、マンションに適用されるのは一般定期借地権で、契約期間は50年以上。最近では70年とする物件も見られる。

一般的に以下のメリットが挙げられることが多い。

①購入価格が2~3割安い
土地の購入費用がないため価格が抑えられる(一般に毎月の地代に加えて初めに借地権の権利金等を払うがこのほうが安い)。同一エリアのマンションに比べて2~3割ほど販売価格が安いケースが多い。よって、同じ予算でより便利なエリアや、一回り広い間取りのマンションを購入できると強調されることが多い。

②好立地に建てられることが多い
地主からすれば、一定期間後には確実に土地が戻ってくるので、先祖代々引き継いできた土地を手放さずに、地代を得ることができる。売却に比べて決断しやすく、好立地のマンションが出やすい。

③土地に対する固定資産税などがかからない
普通のマンション所有者は土地・建物にかかる固定資産税・都市計画税を支払う。定期借地権付きマンションの場合、購入者が納税するのは建物分だけで済む。税金負担が軽くなる。

不動産関連サイトを見てみると、こういったメリットを強調しているものがほとんどだが、もちろん「安いのには理由がある」のだ。比較的新しい制度であることは先に述べたが、年数が経過すれば負の側面が露呈し、消費者問題に発展しかねないと思う。

■定期借地権付きマンションの落とし穴

定期借地権付きマンションは、普通のマンションと比べてどのような短所や留意点があるのだろうか。まずはオーソドックスな3つを指摘したい。

①資産価値が低く、売るに売れない事態になり得る
借地期間終了後、建物を取り壊し、土地を更地にして返還しなければならない。そのため中古市場での資産価値は低くなる。定期借地の残存期間が少なくなるにつれて、買い手は少なくなるので価値が下がっていく。都心の好立地であっても購入者が売りたいと思っても売れない「負動産」になる可能性がある。

②住宅ローンの融資額が少なくなる場合がある
住宅ローン審査の対象は不動産の資産価値と借入者の返済能力だが、定期借地権付きマンションの場合、マンションの資産価値が低く評価される場合がある。その場合、担保価値が低く評価され、年収が高くても受けられる住宅ローン融資額が少なくなる恐れがある。

③住宅ローン控除のメリットを受けにくい
定期借地権付きマンションを購入する場合の土地に対する支払いが、賃料前払い方式にあたる場合、その分は住宅ローン控除の対象外となる。また、保証金方式であっても、全額、住宅ローン控除の対象となるわけではなく、一定の計算式に基づいて算出された金額が、土地の取得の対価とみなされる。

■普通のマンションにはない支出がある

さらに定期借地権付きマンションには、普通のマンションにはない出費がある。①地代と②解体費用だ。

地代は毎月支払わなければならない。マンション購入価格には借地権を得るための権利金や保証金が含まれている場合はあるが、地代は毎月支払う(購入時に地代を全額前払いするケースを除く)。

地代は一定とは限らない。土地にかかる税金や地価の変動などによって将来増減する場合がある。なお、保証金は契約終了後に土地の借主に返還されるが、権利金は返還されない。

次に②解体費用だ。これは解体費用積立金、原状回復積立金などと呼ばれることがある。定期借地権付きマンションは、将来、更地にして地主に土地を返す必要があるため、住民が費用を負担し建物を解体しなければならない。

そのため毎月支払う解体積立金がある。新築時にまとまった解体費用を支払うケースもある。最近の人手不足、賃金上昇などで物価が上がり、建築費の高騰も指摘されている。解体費用が足りず、毎月の支払額が上がる可能性がある。

定期借地権付きマンションのデメリットとされる地代や解体費用はどのくらいなのだろうか。現在販売中の都内の2つのマンションを見てみよう。

○江東区の361戸のマンション(60年の借地権付き)
専有面積:40.47m2~82.50m2
販売価格:3998万円~7238万円
管理費(月額):6920円~1万4100円(引渡時の管理準備金あり)
修繕積立金(月額):3640円~7420円(引渡時の修繕積立一時金あり)
借地権賃料(地代)(月額):3780円~7710円
原状回復積立金(月額):2140円~4370円
(上記は2023年4月5日現在の先着順販売18戸のもの)

○千代田区の50戸のマンション(70年の借地権付き)
専有面積:45.03m2~135.67m2
販売価格:6380万円~2億7790万円
管理費(月額):7250円~2万1850円(引渡時の管理準備金あり)
修繕積立金(月額):6750円~2万350円(引渡時の修繕積立基金あり)
地代(月額):8332円~2万5098円
解体費用積立金(月額):8770円~2万6420円(引渡時の積立基金あり)
(上記は2023年4月5日現在の最終期先着順販売5戸のもの)

2つのマンションとも専有面積が一番小さい住戸が40平米台なので、それを比較すると、地代、解体(原状回復)積立金とも千代田区の物件が高く、2倍以上の開きがある。総戸数の違い等により定期借地権マンション特有の毎月支出金額は物件による差が大きいということだろう。

■定借マンションが直面する想定外の結末

定借マンションと普通のマンションで違いが鮮明になる問題がある。

筆者が最も懸念するのは、マンションのコミュニティ崩壊による住民負担の増大だ。

「借地期間の期限」が近づくと、マンションや住民はどうなるだろうか。比較的新しい制度であるため未知数ではあるが、容易に想像ができる。

当然、通常のマンションと同様に老朽化した建物の修繕が行われるが、次第に所有者の修繕をしようという総意が薄れていく恐れがある。場合によってはスラム化する危険性もある。

マンションの大規模修繕工事
写真=iStock.com/Orthosie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Orthosie

借地期間の期限は厄介だ。期限があらかじめ設定されているため、期限が近づくにつれ、マンション購入希望者は物件を忌避することになるだろう。そうなれば、だれでも買ってくれる人に格安で販売することになり、居住環境に不安が生じる。

あるいは、売るに売れない所有者の中には、空き家にして放置する人も現れるかもしれない。法律上所有権は放棄できないので、そうした所有者にも解体費用などの負担義務があるが、支払ってくれるか疑問だ。「逃げるが勝ち」というような状況になれば、住み続けること自体が重大なリスクになりかねない。修繕費用の積立は管理組合の決定によって行うが、合意形成もますます難しくなるだろう。

■所有権付きマンションも同じ問題を抱えている

もちろん、一般的なマンションでも同様の問題がある。

土地と同様に建物の所有権も永久だが、建物は永久には住めない。一般的には12年程度で大規模修繕を行い、寿命を延ばす対策がなされているが、いつかは建て替えの必要が出てくるだろう。その時に管理組合で建て替えに必要な法的な合意を得るのはたやすいことではない。

タワーマンションの高額な修繕費用が話題になっているし、立体駐車場の老朽化は管理組合が時限爆弾をかかえているようなものだという指摘もある。建て替えにはマンション区分所有者の5分の4以上の同意が必要だが、なかなか同意が得られず、建て替えが難しいという現実もある。

そういった煩わしさが面倒だと思う立場からすれば、期限が決まっていて解体してしまう定期借地権付きマンションのほうが良いという考え方も当然ある。この点をPRする販売会社もあるが、借地権の期限が迫ってくればいろいろ問題が生じる可能性がある。

高層ビルと川がある都市の風景
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■「地主の承諾」がなければ売却できないケースも

見逃されがちなのが「地主との関係」だ。

マンション購入者は地主と50年~70年の長期借地契約をすることになるが、その地主は、不変ではない。個人だったら相続などで所有者が代わることもあるし、法人でも売却により所有権が移転する場合も考えられる。

もちろん借地期間中、借地権は法的には保証されているが、定期借地権付きマンションを売却する場合は「地主の承諾」を必要とし、承諾料を取られる場合がある。

「地主の承諾」は他のシーンでも必要になる。新たな購入者が住宅ローンを組む場合、金融機関がマンションに抵当権を付けるが、この時に金融機関が「地主の承諾」を求めることがある。地主の態度は未知数だ。特に地主が代替わりしている場合、新たな地主の意向は不明だし、もし相続で揉めているような場合にスムーズに承諾を得られるのだろうか。

マンション販売会社は、販売したあとの地主と購入者間の契約には無関係の立場になる。50年以上、地主との法的関係が円滑にいく保証はない。また地主側にとっても、もし200戸のマンションだったら200人を相手にすることとなる。面倒がる地主だったらなおさら問題が生じるかもしれない。

こうした不安もあって、販売会社が地主から一括で借り上げ、定期借地権を購入者に「転貸」する転借地権方式をとる定期借地権付きマンションがある。購入者にとって貸主は地主ではなく販売会社となり、販売会社がこれをPR材料にしているところもある。

■住み続けることがリスクになる

借地期間終了までに建物を解体し、更地にして地主に返す義務は厄介だ。

借地期間終了間際になって居住者が減ってくるような事態になったら、修繕費用の積立が予定通りいかなくなる恐れがある。面倒だからといって退去してしまう住民が相次いだらどうなるのか、まだ誰にもわからない。法的には管理組合に請求権があるが、最終的に司法的手段が必要な状況にまでなったら未払い金の回収は容易ではない。

また、借地権が50年だったとしてもその時点で更地にして土地を返還するのだから、管理組合がそれに間に合うように住民の退去時期を決めなければならないし、建物を取り壊すための決定やスケジュール管理をしなければならない。

借地期間終了時には管理組合の相当の手間が予想される。その時に組合理事のなり手がいるかも不透明だ。

そこで、建物を地主に無償譲渡する形で土地を返す「建物付き敷地返還」スキームをアピールする物件がある。建物を解体せず、そのままで返せばよいというものだ。

通常の定期借地権付きマンションだと、「解体準備期の積立」、「借地契約終了の2~3年前までに建物解体を合意、退去」、「建物の解体」を組合主導で行う必要があるが、この方式だと、「居住者(管理組合)主導での解体実務が不要」、「借地期間終了ぎりぎりまで居住が可能」等の利点が示されている(ドレッセタワー南町田グランベリーパークの例)。

ただし、その分はマンションの販売価格や地代にコストが上乗せされているだろうから、価格とメリットを見極める必要があるだろう。

■「相場より2~3割安い」は本当にメリットなのか

老夫婦で「終の棲家」として便利な場所に、予算を抑えて住宅を購入しようとしている人には定期借地権付きマンションは向いている。50年の借地権付きマンションでも、生きているうちに退去しなければならない事態にはならないだろう。

一方で若い世代にとっては疑問だ。確かに購入時の価格が抑えられるのは魅力だ。しかし、家族構成の変化、勤務先の変更、収入の急減などで住み替えをしなければならない状況になることもあるだろう。

転居を前提にすればいいのか、と言えばそうでもない。そうした若い人たちにとって、マンション価値が下がりやすく、また新規購入者の住宅ローン利用により厳しい条件が付きやすい定期借地権付きマンションは通常に比べてリスクが高いと言える。

また、土地は長く借り続けなければならないから地主側の将来の状況もリスク要因になる。地主との感情のもつれなどが起き、うまく売却ができない事態になる恐れも十分にある。

以上述べてきたように、同じ定期借地権付きマンションでも借地期間の相違、地代の支払い方法や金額の違い、建物解体義務の有無、地主との法的関係等に違いがある。

土地を購入しない分安いとされるが、毎月の地代の支払いのほか、マンション購入時に建物代金に加えて権利金(定期借地権の権利の設定対価)などを支払うのが一般的で、それゆえに通常のマンションより安いといっても2~3割程度だ。これを安いと感じられるかどうかはもちろん本人次第ということになる。

購入を検討している物件の、メリットとデメリット、潜在的なリスクをじっくり見極めて後悔のない選択をしてほしい。

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細川 幸一(ほそかわ・こういち)
日本女子大学家政学部 教授
独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て、現職。一橋大学法学博士。消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。立教大学法学部講師、お茶の水女子大学生活科学部講師を兼務。専門:消費者政策・消費者法・消費者教育。著書に『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』『大学生が知っておきたい消費生活と法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)などがある。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線を嗜む。

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(日本女子大学家政学部 教授 細川 幸一)

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