「昼食後には歯ミガキ」が効果的とは限らない…「しつこい口臭」を防ぐ歯ブラシの正しい使い方&選び方
プレジデントオンライン / 2023年5月17日 13時15分
※本稿は、照山裕子『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「必ず3回」より「1日2回、しっかり磨く」
一生、自分の歯で食べたい――。
それを実現するために、最も必要なセルフケアは、歯ブラシやフロス、歯間ブラシなどを用いたオーラルケア、いわば歯みがきです。このケアが、歯を失う原因となる歯周病や虫歯を防げるかを左右します。それに、歯周病はいわゆる「しつこい口臭」の最大の原因です。
ですが、診療現場で患者さんと話していると、その知識は人によって差があると実感します。まず、歯みがきの頻度。「昼食後は必ず歯をみがかなければならない」と思っている方も多いようですが、必ずしもそうではありません。
歯みがきの目的は、歯に付着した食べかすを、キレイに除去すること。食べかすをそのままにすると、それをエサに虫歯菌や歯周病菌といった細菌が増えます。そして、細菌同士が結びつき、繭のような膜を形成し、バイオフィルムになります。
バイオフィルムは約4~12時間で形成され、時間の経過とともに厚みが増し、病原性が高まります。やがて唾液中の成分と反応し、歯石になると自分では除去できなくなりますが、ここまでには約2日ほどの猶予があります。
バイオフィルムが病原性を持たないうちに落とす習慣をつけるというのが、1日の歯みがき回数の考え方です。つまり、朝きちんとみがいていれば、昼食後に歯をみがかなくても、夜で挽回できます。
この考え方が一般的になってきました。そのため、1日3回漫然と歯みがきをするというよりも、重要度を理解したケアに変える発想を。寝る前にしっかり歯についた汚れを落とせば、細菌の増殖を最小限に抑えることもできます。
虫歯菌や歯周病菌の温床であるバイオフィルムを除去するには、毎日の歯ブラシだけでは不十分です。歯ブラシだけでは歯の汚れのうち6~7割しか落とせていないというデータがあります*。しっかり落とすには、デンタルフロスや歯間ブラシが必要です。併用すれば、8~9割落とすことができるはずです(※)。
※日歯保存誌48(2)272~277,2005
■フロスや歯間ブラシは、歯ブラシ“前”に
そのため、「寝る前」の歯みがきでは、フロスや歯間ブラシをぜひ併用してください。歯ブラシでのブラッシングのあとに使っている方が多いと思いますが、その順序を変えて、ブラッシングの“前”にフロスや歯間ブラシを使って、歯と歯の隙間の汚れを念入りに取り除くことをお勧めしています。
必ずしも“前”でなくてはならないというわけではありません。とにかくフロスや歯間ブラシを使うことが大切なのですが、使うならば“前”のほうが効率が良いというデータが出ているのです。
図表1のグラフの研究結果からわかるように、フロスを使ってから歯みがきをするほうが、歯みがきをしてからフロスを使うよりも、口の中の汚れが減少することがわかっています。さらに、このデータでは、虫歯予防に効果的なフッ化物が歯間に残りやすいという結果も出ています。
![フロスや歯間ブラシを使ってから歯ブラシを](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/1200wm/img_cfcf865522b8e2fab309154cdcdaa5a2473852.jpg)
とはいえ、フロスを先に使うと、あとに使うより汚れが手につきやすいため抵抗があるという方もいらっしゃいます。そういう方は、ブラッシング後でもいいので、ぜひフロスや歯間ブラシを併用してください。
■歯ぐきからの出血は「異物除去のサイン」
フロスも歯間ブラシも、通しさえすれば、汚れが取れるというメリットがあります。ただ、通し方にはほんの少し違いがあります。
フロスは、歯間に上から通して下まで入れると、歯のカーブに沿って前後に動かしながら上まで移動します。一方、歯間ブラシは、歯の根元の三角形の隙間に入れると、前後に2~3回動かすだけです。
![出所=『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/1200wm/img_729d9900cce0151db9369ad13b8e4965483487.jpg)
電動歯ブラシを使っていれば、フロスや歯間ブラシが不要だと思っている方もいますが、電動歯ブラシでも歯と歯の隙間はみがけないので、併用が必要です。また、インプラントが入っている人は、一般的なフロスや歯間ブラシに加えて、歯の状況に応じた専用のツールが必要です。
フロスや歯間ブラシを使っているときに、歯ぐきから出血することがありますが、この出血はなんらかの異物を除去しようとする体のサインです。日ごろからフロスや歯間ブラシを使っていれば、早い段階から歯周病などのトラブルに気づけます。
■歯ブラシは「ふつう」か「やわらかめ」に
みなさんは普段、どんな歯ブラシを使っていますか?
市販の歯ブラシには、さまざまな種類があります。毛の並びが3列や4列のものや、小さなコンパクトヘッドのものがあります。また、商品によって異なりますが、たいていは毛の硬さが「やわらかめ」「ふつう」「かため」の3つのタイプに分かれています。
選び方がわからず、適当に選んでいる方が多いかもしれませんが、歯ブラシは毎日使う私たちの歯のケアの“パートナー”。ぜひ、自分の歯に合ったものを選んでください。
男性はみがいたときの感触で「かため」の毛先を好む印象がありますが、「かため」の毛先で、みがく力が強過ぎると、歯ぐきを傷つけ、痛めてしまうことがあります。歯科医に勧められているものがなければ、毛先が3列のものかコンパクトヘッドで、毛先の硬さは「ふつう」を選びましょう。歯ぐきが腫れている場合には、「やわらかめ」がお勧めです。
■ヘッドが小さく、毛先が細いタイプを常備
私たち歯科医や歯科衛生士が患者さんにブラッシング指導をする際は、大きさが2cmほどのコンパクトなヘッドで、毛先が平らにそろえられている歯ブラシを最初に勧めます。そのうえで一定期間歯みがきのスキルを確認してから、みがき残しの程度などによって歯ブラシのタイプを変えることもあります。
歯ブラシは月に一度、決まった日に交換すると決めておくといいでしょう。月に一度の交換ですから、どんどん違う商品を試すのも手です。
なお、できるだけ短時間で汚れを取りたい場合には、ヘッドが大きく幅広、毛は太くて短いものが適しています。慌ただしい朝は、大まかにみがけるこうしたブラシを使ってもかまいません。
オーラルケアは、日々ストレスなく続けられることも重要です。しかし、ざっとみがいただけでは取れない歯と歯の隙間や歯周ポケットの中に潜むバイオフィルムを破壊するには、ブラシの毛先で細部へ到達することが必要になります。そのためには、ヘッドが小さく、毛先が細いタイプで隅々まで丁寧に届かせる必要があります。せめて夜だけはこういったタイプで頑張ってみがいてください。
![歯ブラシの正しい選び方](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/d/1200wm/img_9d30c0d8bc16a64c298793274342aad3574923.jpg)
バイオフィルムは時間が経てば経つほど病原性を発揮しますから1日1回は口内をリセットするイメージです。今日の汚れを明日に持ち越さない心がけが、10年後の「健口」をつくります。
■高速のぶくぶくうがいは老化予防にも効く
うがいには2種類あります。帰宅後にのどの洗浄を目的に行う「がらがらうがい」と、口をゆすぐ「ぶくぶくうがい」です。
みなさん、歯みがき後に「ぶくぶくうがい」を必ず行っていると思います。もっとも、漫然と行っている方が多いのではないでしょうか。ウオーキングが、ただゆっくり歩くよりも速歩きしてこそ健康効果が高いとされるように、うがいも「高速で行うこと」が大切です。
口腔がんの術後や、外傷などで口腔機能が低下した患者さんの治療やリハビリを大学病院で担当しているなかで特に重要性を感じたのが「うがい」です。
機能が衰え、ゆすぐ力が弱いと汚れはたまりやすくなります。口まわりの動きと衛生状態は密接だと実感し、もっとうがいに関心を持ってもらえるように「高速ぶくぶくうがい」で、うがいの啓発活動を行っています。
これは、少量の水を含み、高速で勢いよく行ううがいです。習慣化すれば、口の中をキレイに保ちやすくなるだけでなく、口まわりの老化予防にも効果が期待できます。このうがいの効果を、詳しく紹介しましょう。
■「バイオフィルム」のリスクを減らそう
一つは口の中に残った汚れを、このうがいによる強い水圧で落とすこと。口の中に食べかすがあると細菌が繁殖し、虫歯や歯周病の原因であるバイオフィルム(歯垢や歯石)がつくられます。一度形成されたバイオフィルムは歯ブラシなどを使って機械的にこそげ落とす必要がありますが、食べかすを残さないことでリスクを減らそうという狙いです。
![照山裕子『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』(日経BP)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/4/1200wm/img_f4b7ffc0b8ea30ba97b6bb555df37a5d277845.jpg)
また、間食時に糖質を含む甘い飲食物をとると口の中が一時的に酸性に傾き、虫歯リスクが高まります。すぐに歯ブラシができないときでも、うがいで口の中が中和されるメリットは知っておいて損はないでしょう。
もう一つは、素早いうがいの動作で口まわりの筋肉が強化されることです。
ぶくぶくの動きは口まわりの筋肉が疲れるぐらいが効果的。筋トレ効果で、ほうれい線やフェイスラインのたるみが改善したという声を多くの女性からいただきました。
高齢者にとってもうがいは重要です。歯ブラシで汚れを取っても、ゆすげなければ口内にとどまってしまいます。こうした汚れは誤嚥性肺炎を引き起こす要因になるので注意が必要です。
歯みがき後のうがいをぜひこの「高速ぶくぶくうがい」に変えてみてください。
■起床時や緊張時の「イヤな口臭」対策にもなる
この「うがい」のやり方のポイントは、水を口に含み、10回、口をぶくぶくと速く強く動かすことです。速ければ速いほどいいのですが、まずは7秒ほどで10回を目指してください。
姿勢は、水圧の効果を得やすいように、前かがみにならず、背すじを伸ばします。水の量は多すぎると口を動かしにくいので、30ml程度の少量が目安です。
![口の中をキレイにし、口の老化予防に役立つ「高速ぶくぶくうがい」の基本](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/1200wm/img_ec0a4886593d94d78906200f394fc0eb708340.jpg)
最大のメリットは、いつでもどこでも水さえあればできること。歯みがきの際はもちろん、飲食後すぐにゆすぐだけで口の中をキレイにし、口まわりを鍛えられます。起床時や、緊張などで口が乾く場面では生理的な口臭を招きやすいのですが、このタイミングでのうがいは口臭対策の面でも役立ちます。
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歯科医・歯学博士
厚生労働省歯科医師臨床研修指導医、東京医科歯科大学非常勤講師。日本大学歯学部卒業、同大学院歯学研究科にて博士号取得。世界でも専門家が少ない『顎顔面補綴』を専攻し、日本大学歯学部付属歯科病院、東京医科歯科大学病院で臨床経験を積む。口腔ケアに関心をもってもらいたいと刊行した著書『歯科医が考案 毒出しうがい』(アスコム)がベストセラーに。歯科クリニックにて診療を続ける傍ら、いわば口腔ケアの伝道師として、メディアにも多数出演している。著書に『「噛む力」が病気の9割を遠ざける』(宝島社)、『歯科医が考案 毒出し歯みがき』(アスコム)、『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』(日経BP)がある。
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(歯科医・歯学博士 照山 裕子)
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