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「無収入の40歳長男、43歳長女はW不良債権」年金生活の老親は3500万円貯蓄も吹き飛ぶ漆黒の未来【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月11日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleg Elkov

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年12月14日)
年金生活の70代夫婦には40代の子供が2人いる。長男はプロの音楽家を目指したが、26歳で挫折して以降、自室に閉じこもっている。長女は国際結婚したが、夫に浮気されて離婚。その精神的ダメージで帰国後、すぐには働けない。3500万円の貯蓄がある夫婦だが、FPの畠中雅子さんに家族4人が生涯食べていくための策を相談した――。

■プロ目指した長男は26歳で挫折…15年間も無気力状態

年金暮らしの江川たかしさん(仮名・73歳)の長男(40歳)は、高校卒業後、音楽系の専門学校に進学した。在学中に知り合った仲間と5人でバンドを結成。プロを目指して、バンド活動をおこなった。

長男は小さなライブハウスを中心に活動するほか、オーディションにも挑戦するなど、精力的に音楽活動をしてきたそうである。そんなバンド活動も、プロには届きそうにない現実が長く続くと、バンドの仲間が就職を考え始めた。

そして26歳の時に、バンドは解散。バンド活動が終わってからの長男は無気力になり、一日の大半を自室で過ごし、外出もほとんどしなくなった。それから15年以上の時が経ったが、働けない状態は継続している。そんな江川家には別の問題が発生し、筆者のところにお金の相談に訪れた。

[家族構成]
江川たかしさん(仮名・73歳)
妻(70歳)
長女(43歳)アメリカ在住・もうすぐ帰国
長男(40歳)

[収入と資産の状況]
たかしさんの年金額:年間約190万円
妻の年金額:年間76万円
世帯の貯蓄:3500万円程度
自宅(戸建て)は12年前に建て直した
長男の国民年金保険料は、親が支払い中

■アメリカ人男性と離婚した長女は帰国することに

江川家には、長男のほかにアメリカに住んでいる長女(43歳)がいる。長女は日本で8年ほど会社員をしたのち、友人を介して知り合ったアメリカ人と結婚。結婚後はアメリカ西部の都市で夫と暮らしていた。

コロナ禍の影響で3年ほど帰国していなかったため、長女の様子はたまに電話で聞くくらいだったが、最近の電話で「ダンナと離婚することになった」と言われた。江川夫婦は、「子供はいないが、夫婦で仲良く暮らしているもの」と思っていたために、ものすごく驚いたそうだ。離婚の原因は夫の浮気だそうで、裏切られたショックから、長女は精神的にかなり不安定な状態になっている。

慰謝料として数百万円程度のお金をもらう予定らしいが、離婚後は帰国するしかないと長女は考えている。長女が帰国すれば、当然、江川家の生活コストはアップする。そのことが気になって、江川さんは筆者にキャッシュフロー表の作成を依頼する流れになった。

■バンドでプロになる夢が破れてからは自室にこもる

長男はバンド活動をしていた時だけではなく、高校や専門学校時代にアルバイト経験はない。専門学校時代はひと月3万円の小遣いを渡していたが、小遣いはスタジオ代など、音楽関係の出費に消えていた。オーディションが近づいて、スタジオに籠(こ)もる時間が長くなったときは、親に小遣いの無心をすることも少なくなかった。

ライブのステージでギターを弾く人
写真=iStock.com/piola666
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piola666

江川さんの現役時代は、月に50万円以上の手取り収入があったことから、長男から要求されるままに小遣いを渡したそうである。現在もひと月2万5000円、年間で30万円ほど、小遣いを渡している。長男に渡す小遣いは、ゲームの課金やたばこ代に消えているそうだ。

もちろん江川さんとしても、長男にたびたび働くように促してはきたが、ハローワークに行くなど、就職活動をおこなった形跡はない。また13年前の定年退職時には、退職金を含めて貯蓄が6000万円以上あったが、その後、家の建て直しもあって、3500万円くらいまで減っている。

ここからが、キャッシュフロー表の出番である。

■2人の無収入の子供を抱えると30年後に生活破綻

【プラン1】働いていない長男ひとりを養う場合。親亡き後、長男が生活費を月に8万円(年間100万円)程度に収められれば、長男が90歳くらいまで江川家の貯蓄は持ちそうである。(長男が92歳時に家の貯蓄の残額は300万円)

※試算の支出は、日々の生活費(食費など年240万円、父親が88歳で他界後は年170万円、母親95歳で他界後は年100万円)のほかに、年50万円の車両費(2年後には車を手放す)と年10万円の固定資産税、年30万円の長男への小遣い、家電の買い替え費用や家の修繕費用などとして、年間20万円の特別支出も見込んだ(以下、プラン2、3も同)。収入は、両親健在時は年266万円、父親他界後は母親の年金が年165万円、母親他界時に長男の年金年65万円が開始。

【図表1】現在のままの収支
【図表1】現在のままの収支
【図表1】現在のままの収支
【図表1】現在のままの収支
【図表1】現在のままの収支
図表=筆者作成

【プラン2】長女が帰国して、離婚による精神的なダメージにより働けなかったとして計算したもの。無収入者が長男、長女となると収支はかなり悪化する。その結果、長男が70歳の時に、江川家の貯蓄が底を突き、生活が破綻することが予想された。

【図表2】長女が戻ってきたときの収支
【図表2】長女が戻ってきたときの収支
【図表2】長女が戻ってきたときの収支
【図表2】長女が戻ってきたときの収支
【図表2】長女が戻ってきたときの収支
図表=筆者作成

【プラン3】長女、長男が収入は多くなくてもいいので、それぞれが働いて一定の収入を得る場合。長女が年間100万円程度、長男が年間36万円程度の収入を得られれば、何とか貯蓄をキープさせられそうなメドが立つ。(長男が92歳時に家の貯蓄の残額は1085万円)

【図表3】長女が年に100万円、長男が年に36万円稼ぐ
【図表3】長女が年に100万円、長男が年に36万円稼ぐ
【図表3】長女が年に100万円、長男が年に36万円稼ぐ
【図表3】長女が年に100万円、長男が年に36万円稼ぐ
【図表3】長女が年に100万円、長男が年に36万円稼ぐ
図表=筆者作成

いずれにしろ、経済的にも時間的にも余裕がない状況のため、この切迫した現状についてキャッシュフロー表を用いて、まずは両親から長男に説明してもらうことにした。

■キャッシュフロー表を用いて資産状況の変化を可視化

江川さんは長男にこう切り出したそうだ。

「○○(長女)が離婚したことは、お前も知っているよな。来年の早い時点で、帰国して、この家で同居することになる。○○には働いてもらうつもりだけど、ダンナに裏切られて離婚することになったから、精神状態がかなり悪いらしい。しばらくは働けないかもしれない。○○が働けない状態が長く続くと、私たちが持っている貯蓄が底を突いてしまう可能性がある。貯蓄が底を突くのを回避するために、月に3万円から5万円くらいでいいので、お前も働いてくれないか」

話を聞いた長男は、しばらく無言だったが、「キャッシュフロー表を見せてほしい」と言うので、その日は長男に渡して、ゆっくり見てもらうことにした。

それから数日経って、江川さんは長男からキャッシュフロー表を返された。

「すぐに働くのは難しいけれど、このような表にしてくれたのでウチの状況がよくわかった。今までさんざん迷惑をかけてきたので、俺も働くための努力をしなくてはと思っている。どのような努力をすればいいのか、すぐにはわからない。でもこれから調べるので、少し時間が欲しい」

という内容の返事が返ってきた。長男なりに調べた結果、すぐにハローワークで求職活動をする勇気はないとのことで、就労支援をおこなっているNPO法人を頼ることになった。

長男が見つけたNPO法人では、あいさつの仕方や名刺の渡し方など、社会人として必要なマナーなども教えてくれる。15年以上、家族以外の人と食事を共にしていなかった長男にとって、当初は職場で昼ご飯を他人と食べることさえ苦痛だったらしいが、何とか挫折せずに通っているそうだ。春ごろには、就職活動を始めたいとのことである。

名刺を差し出すビジネスマン
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

肝心の職探しはこれからだが、私は江川さんにこうアドバイスした。

「息子さんには正社員にこだわらず、月に3万~5万円くらい稼いでもらえれば、数字的には成り立ちそうなんです。正社員を目指して運よく就職できたとしても、数カ月で辞めてしまったらやり直しになりますよね。私は実際に、正社員になったものの数日で仕事を辞めてしまい、前よりひきこもり状態がひどくなってしまった人を何人も見てきていますので、就職活動のハードルを上げすぎないように注意してくださいね」

実際のところ、親は子供が正社員を目指すと無条件に応援をするが、15年以上、ひきこもっていた現実を軽視してはいけない。正社員になることを目標とせず、1日でも長く働けそうな職場を見つけることに注力し、一方で収入ラインは低めに設定したほうが長続きしやすいのではないかと感じている。

■夫からの慰謝料で長女はしばらく治療に専念

長女が帰国することになり、お金の面で危機感を感じた江川さんが筆者に相談したことで、「キャッシュフロー表を作成する→長男に現状を伝える→長男が就業に向けて動き出す」という流れを作ることができた。長男がNPO法人に通い出したことは、江川さんも予想外のうれしい展開で、長男についてはしばらく見守っていくことになりそうだ。

心配なのは、帰国を控えている長女である。キャッシュフロー表(プラン3)は、「長女が年間100万円程度を、長女自身が年金をもらえるようになる64歳までは稼ぐ」という前提で作成している。長女は独身時代に会社員として働いていた経験があるので、派遣社員などになってもう少し多く稼げそうだが、精神状態を考慮して、週に4日くらい働く設定でキャッシュフロー表を作成した。

長女曰く、「帰国したらしばらくは心療内科で治療を受けたい」という希望を持つため、夫からもらう予定の慰謝料で治療に専念することになるかもしれない。キャッシュフロー表(プラン3)では、帰国して1年くらいは治療に専念し、その後、年間100万円程度の収入を得る設定にしているが、これが後ろにずれ込むと、貯蓄が減るスピードが速まってしまう。

また長女の年齢(43歳)のことを考えても、早めに働き出すべきだろう。長女の就労は重要の課題だが、1年くらい経っても働き出す気配がなければ、今回作成したキャッシュフロー表を長男同様、長女にも見せることも提案した。

江川家は長女の離婚によって健康不安が発生した一方、長女の帰国が、長男が社会に出るきっかけになった。現状を俯瞰(ふかん)してみると、働いていない2人の子供と同居することになった江川さんだが、まずは長男が社会復帰してくれることを心から願っているところである。

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畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。

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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)

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